闇の気配
そして新たな季節が巡り、オリーブも6歳になりました。
今日はカインと城の中庭で土いじりをしています。
「私、エルフに変装出来るようになったんだよ!」
「えっ?エルフ?」
オリーブはエルフに変装出来るようになった事、エルフの里で訓練をしている事などをカインに説明しました。
カインはまたオリーブの予期せぬ発言に驚きましたが、オリーブが嘘をついたり見栄を張るような人間ではないと分かっていたので、戸惑いながらも受け入れました。
そして土いじりに飽きた2人は汚れた手を洗い、アイリが用意してくれた椅子に腰掛けお菓子を食べていた時、1羽のハトがオリーブの膝の上へやってきたのです。
オリーブはとても嬉しくなりハトに話しかけました。
「ハトだわ。こんにちわ」
カインは側へやってきた鳩が珍しいようで、ジロジロと見つめながら言いました。
「お城でハト飼ってたの?」
「いいえ、聞いたことがないわ」
「じゃあ、どこから来たんだろう?」
「そうね不思議ね。お菓子食べる?」
オリーブがクッキーを差し出すと、ハトは美味しそうに食べはじめました。
ハトはその後もオリーブの肩に乗ったりと、オリーブのそばを離れません。
「気に入られたみたいだね」
「そうね。アイリのお菓子を気に入ったのかしら」
「いいや、きっとオリーブを気に入ったんだよ」
「そうなの?だと嬉しいけれど」
すると突然ハトは何処かへと飛んでいってしまいました。
それと同時に見たこともない禍々しいオーラを放った不気味な何かが中庭に現れ、オリーブ達の方へと近付いてきました。
「あれは、いったい何?!」
「…分からないよ。僕、怖い…(悲)」
「カインは私の後ろへ下がって!」
オリーブは怯えるカインを自身の後へ隠しました。
猫になってオリーブの側にいた雷樺は大きくなり、こちらへ近付いてきた不気味な何かを見ながら唸っています。
すると少し遠くに待機していたアイリが現れオリーブ達の前に短剣を構えながら立ちはだかりましたが、何と不気味な何かに一撃ですぐに倒されてしまいました。
「アイリ!フォーレどうしたらいいの?!」
目の前で倒されたアイリを見ながら、オリーブはフォーレに話し掛けました。
「オリーブの魔法で倒すのよ」
「倒す?」
「オリーブなら出来るわ。練習を思い出して」
「分かった、やってみる」
オリーブはフォーレが言った通りに練習した事を思い出しながら、魔法を発動させました。
すると無数の木の葉が現れ不気味な何かを取り囲み、すぐにそれを消し去りました。
「出来た…、倒せた…」
「やったじゃない!オリーブ」
「うん、フォーレありがとう」
するとオリーブの後にいたカインは、よほど怖かったのかヘナヘナとその場に座り込んでしまいました。
「怖かった…」
「カイン大丈夫よ。安心して。もういないわ」
オリーブは後ろを振り返り屈むと、カインを抱き寄せ頭を優しく撫でました。
倒れたアイリは立ち上がるとオリーブにの側へ近付き話かけました。
「オリーブ様、お怪我は?」
「なんともないわ。アイリこそ大丈夫なの?」
「避けきれなかっただけですので、問題ありません」
「そう、ならよかった」
「何も出来ずに、申し訳ございません」
「それはいいのよ」
すると騒ぎを聞きつけた他の城の者達が次々に中庭へ現れ、荒れた中庭を見ては何が起きたんだと騒ぎ始めました。
それを見たアイリはカインに話しかけました。
「カイン様、今日は帰られた方がよろしいかと」
「えぇそうね、立てる?」
「うん…」
オリーブはアイリと一緒にカインの乗ってきた馬車へと向かい、カインを馬車に乗せそのまま見送りました。
その後オリーブはまたすぐに中庭へと戻り、既に騒ぎを聞き付け仕事で城へ別に来ていたカインの父ヒューストン宰相と、父カーティスがいたため先程の出来事の状況を説明しました。
「そうか分かった。オリーブも疲れただろう?部屋へ戻っていなさい。アイリ頼んだぞ」
「かしこまりました」
カーティスはオリーブを気遣い部屋で休むようにと言いました。
オリーブはアイリと共に自室へと戻りました。
「アイリ、本当に大丈夫なの?」
「えぇ、何ともありません」
「でも倒れたわ」
「かすり傷程度ですから、ご心配なく」
「そう、ならいいんだけど…」
「怪我をしていたら今オリーブ様の側にいませんわ。手当をしますから」
「そっか、やっぱりエルフは強いのね」
「少しお休みになられては?」
「えぇそうね、安心したら何だか眠くなってきたわ」
オリーブはアイリが倒された事がよほど心配だったのか、何度もアイリに大丈夫なのかと確認しました。
話し終わるとオリーブはベッドへ入り、すぐに眠ってしまったオリーブを見るとアイリはそっと部屋を出ていきました。
少し仮眠をしたオリーブは目が覚め起き上がると食堂へ行き夕食をすませ、部屋へと戻ると窓から見える庭のオリーブの木を見ながらフォーレに話しかけました。
「フォーレ、昼間のあれは何だったの?」
「あれは魔物よ」
「魔物?」
「そう、この世界を狙っているものよ」
「世界を狙ってる?」
「オリーブ、あなたがこの世界を守るのよ」
「えっ、私がこの世界を守るの?」
オリーブは驚いてフォーレに話し掛けました。
「そうよ。さっきみたいな魔物がこれからたくさん現れるわ。オリーブは魔物からこの世界を守るの」
「よく分からないけど、それで皆んなが幸せになれるの?」
「なるわ。今日のようにアイリやカインみたいな人を守るの」
「私にそんなこと出来るの?」
「出来るわ。これはオリーブにしか出来ないことよ」
「私にしか出来ない?」
「魔法であっという間に消したでしょ?それが出来るのはオリーブだけよ」
「私だけ…」
「えぇ、オリーブだけよ」
「うん分かった。やってみる」
「今日はもう寝なさい。いろいろあって疲れたでしょ?」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ、オリーブ」
オリーブはフォーレに促されベッドへと入り、深い眠りへとついていきました。
オリーブが眠った後フォーレと雷樺は小声で話をしていました。
「あの魔物、オリーブを狙っていたんじゃないか?」
「そうね。最初から狙っていたようだったわ」
「何故オリーブを?」
「魔物の気持ちは分からないけれど、オリーブを倒せば世界を狙いやすくなるから?かしら」
「魔物に知能があるのか?」
「ないと思うわ。ただ強い力を持つ者に反応したのかもしれない」
「なら守らなきゃな」
「えぇ、私達でオリーブを守るわよ」
次の日、オリーブは朝早くからエルフの里へ行こうと出掛ける準備をしていました。
そんなオリーブにフォーレが話しかけました。
「今日はずいぶん早くから行くのね?」
「フォーレ私決めた。もっと強くなる。そのためにはもっと訓練しないと」
「そう、私もオリーブに力を貸すわ」
「ありがとう、フォーレ」
オリーブは大きな雷樺にまたがると、さっそく出発しました。
するとまたあのハトが現れオリーブの肩に乗ってきたのです。
オリーブはハトに話しかけました。
「ハトさんも、一緒に行くの?」
「ぽっぽっ」
「このハト、気持ちが読めないわ」
「フォーレが気持ちを読めないなんて珍しいわね」
「この子、凄い子なんじゃない?」
「あなた凄い子なの?」
「ぽっぽっ」
「会話は分かるみたいだけど…、不思議だわ」
「森の精霊女王にも分からないことってあるのね」
「うるさいわよ、オリーブ」
そんな会話をしながらエルフの里の中へと入り、すぐに訓練を始めたオリーブにフォーレはある事に気付きました。
『オリーブは賢いから気付いていたんだわ。あの魔物が自分を狙っていた事に』
そうオリーブは気付いていました。そして一層強くなろうと決心していました。
『いつもフォーレや雷樺に頼ってばかりじゃダメだわ。ちゃんと自分自身で倒せる力を身に付けなきゃ。魔法を塞がれ使えない事もあるかもしれない』
そしてカインも、自分を守りかばってくれたオリーブに何か出来ることはないかと考えはじめていました。
この時から魔物は世界に少しずつ姿を現すようになったのです。