転変
「そうだ兄様、なぜこんな凄い怪我をしたのです?兄様そんなに弱くないですよね?」
「それが実は…」
「団長!しっかりして下さい!団長!」
「くっ…、はぁ…」
モルガが兄と話していた時、ヘマタイトの団長コルディエが大聖堂へ運ばれてきました。
彼はかなりの重傷を負っていました。
「誰かすぐに手当てを!このままでは団長が…!」
ヘマタイトの団員が血相を変え、皆に聞こえるよう叫びました。
「こちらへ寝かせてください、すぐに治します」
「あぁ、頼むお嬢さん…」
オリビアはコルディエの側に駆け寄り、彼をベッドへ寝せると肩に触れながら話しかけました。
「分かりますか?ヘマタイトの団長さん」
「あぁ…、君は女神かい?俺は天国に来てしまったんだな…」
オリビアに話しかけられたコルディエは、うつろな目でオリビアの顔を見ながら答えました。
「違いますよ。意識がもうろうとしてるんですね」
「団長、なにを言ってるんですか!お嬢さん、早くお願いします!」
するとそれを側で聞いていたヘマタイトの団員が、オリビアに早く治すよう急かしました。
「分かりました。『貴方に女神の祝福を』」
『女神の暖かい光だ…、俺は本当に死んだんだな…、んっ?』
コルディエはオリビアの祝福を薄目で見ながら、そう思っていました。
「身体が痛くない!俺生きているぞ!怪我が全くない!」
コルディエは突然起き上がると、自分の身体をあちこち見ながら言いました。
そんなコルディエにオリビアが話しかけました。
「まだ起き上がってはダメです。体力を回復しないと」
「俺は死んでないのか?女神よ」
オリビアはコルディエをその場に寝せながら、話を続けました。
「何を言ってるのですか?あなたは生きていますよ。それに私は女神ではありません」
「そうですよ団長!この方は聖女様です。今、団長の怪我を治してくれたんですよ」
「聖女様…、何て綺麗なんだ…」
「うふふっ、ありがとうございます。極限状態だったのでそう見えたのですね。このまま横になって体力を回復してくださいね」
「はい!ありがとうございます。あなたのお名前を教えて下さい、聖女様」
「私はオリビア・ロートサンと申します」
「オリビア…、いい名です。俺はコルディエ・メラノワールと申します。惚れました、あなたを必ず幸せにします、結婚してください」
「えぇっと…」
コルディエは美しい聖女オリビアに一目惚れし、さっそく求婚しました。
オリビアは返事に困り、ヘマタイトの団員は団長の反応に戸惑いました。
「団長、まだ意識がはっきりしてないんですね…」
「俺は正常だ。変なことを言うな」
「申し訳ございませんが、私は聖職者なのでそのようことは出来ないのです」
「分かりました、すぐに答えるのは無理ですよね。親の許可も必要でしょう。大丈夫です、俺は待ちます」
「…………忙しいので、これで失礼します…」
「あっ…」
オリビア少し面倒に感じ何を言ってもダメだと思い、その場を立ち去りました。
「聖女オリビア…」
「いつもは硬派は団長が、大怪我で頭がおかしくなってしまった…(泣)」
オリビアが離れたあとヘマタイトの団員は、団長がおかしくなってしまったと嘆いていました。
「おかしくはない、ならお前はあの美しい聖女様を見て何とも思わないのか?」
「いや、まぁ、それを言われれば分からなくはないですけどって、何を言わせるんですか!こんな時に…!」
「ほら見ろ。だがあれは俺の嫁だ。お前には近付けさせん」
「振られてましたけどね…、ボソッ」
「あぁ?何か言ったか?(怒)」
この一部始終を近くで見ていたモルガと兄ロドニーは、ため息を付いていました。
「どうやらオリビア様を狙う方がまた増えましたね…、はぁ…」
「ヘマタイトの団長まで…、俺にはもう叶わないのか…、はぁ…」
「兄様には強敵ですね。よしっ、こうなれば、私は兄様に味方します。兄様とオリビア様がくっつけばその間に私が入れる。フフフッ(笑)」
「不気味な笑い方をするな、モルガ…」
「ところで、さっきの話の続きです。兄様、なぜこんなに大怪我を?」
「それはな…」
「ブライアン王子!一大事です!すぐに宮殿へお戻りください!」
するとそこへ宮殿に仕える者たちが、数人大聖堂の中へとわらわらと入って来ました。
「何事だ、今は騎士の皆の治療をしている、宮殿へ行っている暇などないのだが」
それに気付いたブライアンがすぐに対応しました。
しかしその中の1人がブライアンに近付き耳元で何かを囁くと、ブライアンの表情が一気に曇りました。
それを近くで見ていたオリビアが、ブライアンの側へと寄り話しかけました。
「…ブライアン、どうしたの?何かあったの?」
「オリビア…、少し宮殿へ行ってくるよ」
「そう。でも1人で大丈夫?私も付いて行こうか?」
「大丈夫だ心配ない、ありがとう。きっとすぐに戻ってくるから」
「分かったわ、気を付けてね」
「ブライアン王子、ここはお急ぎください!」
「分かっている、すぐに行こう」
ブライアンはあっという間に大聖堂を出ていってしまいました。
「オリビア様…、いったい何が…?」
「分からないわモルガ。いったい何が起きたのかしら…」
心配そうな表情をしているオリビアに、モルガが近寄り話しかけました。
するとそれを見ていた騎士達が、ブツブツと何かを話し始めした。
「きっとあれが関係しているな…」
「だな、そうとしか思えないな…」
「兄様!何か知っているのですか?」
「それはだな…、モルガ…」
モルガが騎士達が何か事情を知っているのだと思い、ロドニーに詰め寄りました。
「傷を治してもらったお礼に話そう。別に隠すことでもないだろうからな。いずれは耳に入る話だ」
コルディエがそう話を切り出しました。
騎士達の話によれば、キュルス王太子が亡くなった後、第2王子の『デヴァン王子』が王太子へとなりました。
デヴァン王太子はとても強気な性格で、王太子になるやいなや騎士達を連れ戦場へと出向きました。
その持ち前の勝ち気な戦術で、何度かアダマス軍を勝利へと導き貢献しました。
サルテ王はそれはそれはとても大喜びし、デヴァン王太子も自分には『戦の神』がついていると自ら言い、騎士の皆を毎回奮い立たせていたそうです。
そして今回も攻撃的な戦略をデヴァン王太子は考え前線であるサピロスへ、ヘマタイトとアンバーの騎士団を率いて向かわれました。
デヴァン王太子は今回、二手に別れ挟み撃ちにする作戦を立てました。
軍をヘマタイトの騎士団と、アンバーの騎士団率いるデヴァン王太子の軍2つに別け、王太子自ら先頭に立ちました。
回りの騎士達は前は危ないので下がらせようとしましたが、そんな制止を振り切り、自ら最前線に立ち戦に赴きました。
サピロスはアダマス王国の中でも最も重要な拠点の1つで、ここを落とすわけには行かなかったのです。
デヴァン王太子はここで勝って、さらに武運を上げようと考えました。
そしてアンバー率いるデヴァン王太子軍は敵の軍へと向かって行く途中、敵の砲弾をモロに食らってしまいました。
いつも正面突破の戦法を用いるデヴァン王太子の作戦は、相手のイグナシオ軍に全て見抜かれていたのです。
もちろん作戦は失敗に終わり、サピロスは陥落しました。
砲弾を浴びた両軍の騎士達はその中で、命からがら逃げてきたのです。
一方で、肝心のデヴァン王太子は行方不明になっていました。
もしかしたら敵に捕まってしまったのではないのかと、アダマス王国中に噂は広まりました。
そうして広まった噂は、不運にも現実のものとなってしまいました。
数日後、敵に落ちたサピロスにデヴァン王太子の首だけが晒されたのです。
この衝撃は国中にまたたく間に広まり、国民に動揺が走りました。
「サピロスが落ちた」
「王太子が死んだ」
「この国はこれから一体どうなるんだ」
国民の不安はなお一層、募るばかりでした。
「ブライアン様、あれから帰ってきませんね…」
「そうね…、すぐに戻ると言っていたけれど…」
「もしかして、このまま帰って来ないんじゃないですか?」
「どうなのかしら…、私には分からないわ」
オリビアとモルガは宮殿へ行ったきり、いまだ音沙汰のないブライアンの安否を心配していました。
そしてさらに数週間後、ブライアンが王太子になったと宮殿からの発表がありました。
「ブライアン様が王太子に?!」
「確か弟が2人いたわよね?」
「えぇ、いたはずです。でも確か隣国との縁談話がまだ幼いのにきてたって、昔父様が言っていました」
「なら弟2人は、既に縁談が決まっているのかもしれないわね」
「そしたら残るのはブライアン様だけですね…」
「えぇ…、これからきっと大変ね、ブライアンは…」




