騎士
「ブライアン、お願いがあるんだけど」
キュルス王太子の死から約1年が絶ったある日、オリビアはブライアンに話しかけていました。
「あのね、今後のために騎士団を見てみたいの」
「騎士団を?なぜ?」
「教徒の皆んなも少しずつ強くなってきてるし、1度本物の騎士団がどんなものなのか見てみたいなって」
「私がそんな事いいって言うと思う?」
「ですよね…」
「なら、レオナルドに頼んだら?アイツならジェイドの団長だし、オリビアになら喜んで見せてくれるよ」
「まぁ普通はそうなんだろうけど…、最近のレオ団長になったからなのか、忙しいみたいで全然来ないのよね…」
「まぁ、確かに来なくなったね」
「分かったわ、いつ来るか分かんないけどレオが来るまで待ってみるわ」
「それが1番いいと思うよ、オリビア」
そして翌日の朝、オリビアの部屋のドアを誰かがノックしました。
「はい、どうぞ」
「オリビア様、起きてましたか?」
「えぇ起きてたわ、モルガ」
オリビアがドアを開け確認すると、部屋を訪ねてきたのはモルガでした。
「どうしたの?モルガ」
「このあと礼拝のあとに、何か用事ありますか?」
「いいえ、今日は特に用事も何もないわ」
「なら、外に行きませんか?」
「えっ、外に?」
「はい!」
「出る前に、いちおう手紙書いておくわ」
「はい、待ってます」
『ブライアンへ。モルガと一緒に街に行ってきます。心配はいりません。夕方までには戻ります。オリビア』
オリビアはブライアンへ向け手紙を書き、部屋のテーブルの中央に置きました。
「これでよしっと…」
「行きましょう!オリビア様」
「えぇ!」
オリビアとモルガは庶民の服に着替えると、大聖堂を抜け出し街へと繰り出しました。
「少し歩きますが大丈夫ですか?オリビア様」
「大丈夫よ、私は元々庶民なんだから。モルガこそ大丈夫なの?」
「最近体力ついてきたんで平気です」
「そう、モルガ私に見せたい物って何?」
オリビアはなぜ私を大聖堂から街へ連れ出したのかと、隣を歩くモルガに聞きました。
「昨日ブライアン様と話してましたよね?騎士団が見たいって」
「えぇ」
「私、騎士団知ってるんです」
「えっ!どう言う事なの?」
「誰にも話してないので言わないで下さいね?」
「もちろんよ」
どうやらモルガは昨日オリビアがブライアンと話していた内容を、近くで聞いていたようです。
「私の兄様、実は騎士団にいるんです」
「えっ、本当?どこの?」
「アンバーです」
「アンバー…、上位の方じゃない、凄いわ!」
「はい!よく兄様の姿を見たくて見学に行っていたので、結構場所とかいろいろ詳しいんです」
「そうなのね」
「それにこうやってオリビア様と、2人で出掛けられて何だか嬉しいですし…」
「私も嬉しわ。ここらへんの道とか私よく分からないし、モルガがいてくれてとても助かるわ」
「オリビア様はどうしてそんなに優しいんですか?」
「私、優しいかしら?」
「はい、とっても。まるでモルガナイトのようです」
「んっ?モルガナイト?」
モルガはオリビアと2人きりで出掛けられたことが嬉しかったのか、自身の名前の由来について話し始めました。
「宝石です。私の名前の由来だと昔、母様が教えてくれました」
「宝石…、どんな宝石なの?」
「淡いピンク色のとても綺麗な宝石らしいです」
「まぁそうなのね、いつかぜひ見てみたいわ」
オリビアはモルガナイトが綺麗なピンク色の宝石だと聞き、見てみたいと目を輝かせてモルガに話しかけました。
「その宝石は、未来を切り開く力があるそうです」
「それはとっても素敵ね」
「それから深い愛で包み込んで、人を導いてくれるって母様が言ってました」
「モルガのお母様は、きっとモルガにそんな人になってほしかったのね」
「はい…、確かにそんな人になってねと言われました…」
「とても素敵なお母様ね」
「でも私は、オリビア様の方が相応しいと思います」
「それはモルガのお母様に失礼よ。それにモルガはとても優しいわ」
「いえいえ、オリビア様こそ深い愛で包み込んで人々を導く人だと私は思っています」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ。そうなれるように頑張るわね、モルガ」
「ですから、オリビア様はもうなってますよ」
「ふふっ、モルガ褒めすぎよ」
「そんな事ないです!って、あれっ…」
「どうしたの?」
するとモルガは突然立ち止まり、辺りをキョロキョロと見渡しました。
「道間違えました…」
「えっ?大丈夫?少し戻る?」
「はい…、すみません…、話に夢中になりました」
「いいわ、気にしないで」
「あっ、こっちです。もうすぐです」
楽しそうに歩きながら2人がたどり着いた先には、横へとどこまでも続く高い塀の壁がありました。
「ここです」
「こんな高い壁の中にあるの?」
「はい、そうです」
「でも、いきなり行って見せてくれるのかしら…」
「たぶん私がいるので大丈夫です」
「そう…」
「行きましょう」
「えぇ…」
2人は騎士団の入り口の門の方へと向かっていきました。
入り口の両端には騎士が立っていて、モルガは片方の騎士に話しかけました。
「すみません」
「んっ?何だ?子供は危ないから向こうに行きなさい」
「あの、ロドニーって人を呼んでもらえますか?」
「ロドニーだと?」
「はい」
「君はロドニーさんとどう言う関係だ?」
「妹です、兄様に会いに来ました」
「まさか君、モルガちゃん?」
するとモルガに話しかけられた騎士は、驚いたように答えました。
「はい、そうです!」
「いやぁ、久しぶりだね。大きくなったね。中で待ってな、すぐに呼ぶから」
「はい、ありがとうございます」
「行きましょう」
「えぇ」
オリビアとモルガが門の中へと入ると先程の騎士が、中にいた騎士に声をかけました。
「おいロドニーさん呼んでこい、至急だ」
「はいっ!」
「ここで待ってれば来るよ」
「分かりました、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「モルガちゃんずいぶん可愛い子連れてるね、お友達かい?」
「えぇ、まぁ」
「じゃあ俺は門に戻るからね」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
騎士が離れて行くのを確認するとモルガは、オリビアに話しかけました。
「簡単に入れたでしょ?オリビア様」
「凄いわ、モルガ!」
「へへっ」
「本当によく来てたのね。皆んなモルガの事を知ってるみたい」
「そうですね」
「モルガ!」
すると1人の騎士が慌ててこちらへと走って近付いてきました。
「兄様!」
「モルガ…、元気そうで良かった…」
「兄様も元気そうで良かったです…」
「モルガ、こちらの子は?」
「こちらの方は…」
モルガの兄は隣にいたオリビアに気付くと、誰なのかと聞いてきました。
すると自分を紹介しようとしているモルガに、オリビアは心の中で考えました。
『待って!本名言ったら聖女ってバレて少し面倒なとこになるかもしれないわね…、でもなんて名乗る?う〜ん…、そう言えば前にブライアンが私の顔を描いていたわ。結局恥ずかしいからって完成したの見せてくれなかったけれど、あの顔の横に花が描かれてたはず。あの花は確か…』(※この間約0.5秒)
「リリーです!」
「えっ?」
「リリーと言います、モルガにはとても仲良くしてもらっています。よろしくお願いします」
オリビアはモルガの兄に、自分はリリーと言う名前だと名乗りました。
「そうですか。私はモルガの兄ロドニーと言います、よろしくねリリーちゃん」
「はい!モルガとっても格好いいお兄さんだね?」
「格好いいとは嬉しいな、ありがとうリリーちゃん。モルガ?ボーッとしてどうした?」
「えっ、あっ、いや、その…」
「モルガはお兄さんに久しぶりに会ったから、緊張しちゃったのかも」
「そうなのか?ところでここへは何しに?」
「モルガ」
オリビアの言葉に驚き何も言えなくなってしまったモルガに、オリビアはここへ来た理由を説明するように声をかけました。
「あっ、ごめんなさい。オっ…、リリー。兄様あのね、騎士団を見学したいの」
「見学?あぁ、まあ、それは別に構わないが…」
「久しぶりに兄様の格好いい姿が見たくなったの。それを友達にも見せたくて」
「そうか、分かったよモルガ。少しここで待っててくれ、団長に許可得てくるから」
「分かったわ兄様」
ロドニーは許可を得るため2人の側から離れていきました。
ロドニー姿が見えなくなると、モルガがオリビアに話しかけました。
「オリビア様、急に名前変えるからビックリしました」
「ごめんね、本名言ったら聖女だとバレるかと思って」
「あぁ、確かに厄介な事になりかねないですね、さすがです」
しばらくするとまたロドニーが2人の所へ現れ、騎士団の訓練している所を色々と案内してくれました。
「今日は楽しかったわ、モルガありがとう」
数時間後アンバーの騎士団を見学し終わったオリビアは、大聖堂へ戻る道すがら隣にいたモルガにお礼を言いました。
「いいえ、こちらこそ楽しかったです。たくさん歩きましたし疲れましたよね?」
「少しね、でも騎士団を見れて本当に良かったわ。あれが本物なんだわ」
「そうですね、私達がやっていた事と気迫が違いましたね」
「えぇ、やっぱり私達のは、お遊び程度だったと思い知らされた気分だわ」
真剣な表情でそんな事を話すオリビアに、モルガはオリビアの顔を覗きながら言いました。
「オリビア様、私達は騎士ではないです。そこまで深く考える必要はないのでは?」
「それもそうなんだけどね。ついやるからには強くしたいなって思っちゃって」
「オリビア様らしいです」
「そうかしら?」
「はい!」
「モルガ…」
すると突然オリビアが先程とは打って変わり、不安な表情を浮かべました。
「どうしました?オリビア様」
「大聖堂の入り口にブライアンがいるわ」
「本当ですね、私達を心配してくれてたんでしょうか?」
「それもだけど、たぶんそれだけじゃないわ…」
「えっ?どう言う事ですか?」
「物凄く怒っている気がするわ…」
「そうですか?」
「全身から何か出ているわ…」
「考えすぎですよ、ブライアン様!ただいま戻りました。私達を待っていてくれたんですか?」
モルガはオリビアのこわばった様子に考えすぎだと思い、少し遠くにいたブライアンに聞こえるよう、大きな声で言いました。
「あぁ、モルガ、オリビアお帰り。どこに行っていたのかな?」
ブライアンは近付いてきた2人にすぐに声をかけました。
モルガはブライアンの問を誤魔化そうしました。
「あ〜、ちょっと街の方へ」
「モルガ、君のお兄さん確かアンバーの騎士だったよね?」
「えっ、なぜそれを…?」
「君がここに来る前に、事前に全て君の事は調べているんだよ」
「そうですか…、隠してるつもりもなかったですし、別にいいじゃないですか」
「そうだね、君の家族の事は私には関係ない。だが」
「はい?何ですか?」
「まさかオリビアを騎士団に連れて行ったわけじゃないよね?」
「えっと…」
「勝手に聖女様を連れ出して、いったいどう言うつもりだモルガ!」
「ヒィ〜!オリビア様助けて!」
モルガはブライアンに怒られ、慌ててオリビアの背中に隠れました。
「2人共そこに座りなさい!」
「はい!!」(※2人そろって)
その後ブライアンの説教が、永遠と続いた事は言うまでもないでしょう。




