祝福
オリビアとブライアンは宮殿へと着くとすぐに中へと入り、案内された広い部屋には王と王妃、医師や付き人たくさんの人がいました。
そして部屋の中央のベッドには、今にも途切れそうなほどにか弱い息をしているキュルス王太子が、横になっていました。
ブライアンは部屋へ入ると、さっそく王と王妃に挨拶をしました。
「父様、母様お久しぶりでございます」
「あぁ来たかブライアン」
「来てくれましたか、ブライアン」
「早速ですが、キュルス兄様の容態は?」
「医者の見立てでは、朝まで持たないだろうと言うことだ」
「そんなに酷かったのですか?」
「ここまで悪くなっているとは思わなかった。どうやら本人は隠していたようだ…」
「そうですか…、オリビアこちらへ」
「はい」
オリビアは少し離れた場所から皆の様子を伺っていましたが、振り返ったブライアンに呼ばれ側へ行きました。
「こんな時に女を連れてきたのか?ブライアン」
「いえ、この方は聖女様です。父様」
「初めましてサルテ陛下、イザベラ妃殿下。私はオリビア・ロートサンと申します」
「聖女だと?確かに噂は聞いているが…」
「父様この方は本物です。信じてください」
「まぁ、いいだろう。こんな状況だ。何をしても変わらんだろうからな」
「オリビアお願いだ、兄様を見てやってくれ」
「はい、分かりました」
オリビアとブライアンは中央の壁際にあるベッドへと行き、キュルス王太子の寝ている側へと行きました。
「どうだい?オリビア、治せそうかい?」
オリビアはすぐに目の前に横たわる、キュルス王太子の容態を確認しました。
「えぇっと…、では申し上げます」
「あぁ」
オリビアは皆の視線を浴びながら、意を決し話し始めました。
「先程、医師の見立では『朝まで持たないだろう』と言うお話でしたが、このままではそうなるでしょう」
「うん、それで?」
「私の力ならば病気事態は治せます」
「本当かい?!」
「ですが…」
「何だい?」
「病気は治せても、キュルス王太子様には体力がございません。私が出来るのは病気を取り除き、このままの状態で3日ほど命を持たせる事だけです…」
「3日…」
すると近くで聞いていた貴族と思わしき1人の男性が、声を荒げオリビアに話しかけました。
「嘘を言うな!何が3日だ!最初から治せなかったんだろう?聖女だか何だか知らないが、インチキを言って我々を馬鹿にするな!」
この一言でブライアンも何も言えなくなってしまい、部屋にいた皆が静まり返り重い空気が流れてしまいました。
『はぁ…、このままじゃ私を連れてきたブライアンの面子が潰れるわ。ここは私が何とかしなきゃね』
オリビアはそう思い、先程自分に話しかけてきた貴族に尋ねました。
「失礼ですが、申し上げます」
「あ?何だよ」
「オリビア…」
急に近くにいた貴族に話しかけたオリビアを、ブライアンが不安気に見つめました。
「アナタの病気、私なら治せますよ?」
「何だと…」
「医師はあなたですか?」
するとオリビアは近くにいた医者らしき男に話しかけました。
「…えっと、はい、そうですが…」
「では聞きます。あの方の病気は、何だと思いますか?」
「へっ?」
「肝硬変ではないですか?」
「えっ、えぇっと…」
医師の男性はオリビアに突然聞かれ驚きましたが、素直に貴族の元へ行き身体をジロジロと見始めました。
「白目が黄色くなり頬に赤い斑点、肌も黄色に変色し、わずかにお酒の臭い、そして手の震え、断定は出来ませんが可能性はあると思います」
医師はオリビアにそう答えました。
「では治せますか?」
「ここまで症状が進んでると、かなり厳しいですね。お酒を控えてもらえれば少しは良いのですが…」
「だそうです、このままお酒を飲み続ければ危ないようですよ」
オリビアは貴族の男性に近付きながら、話しかけました。
「んなこと知ってんだよ!」
「なら私が治してあげます」
「はっ?」
オリビアは貴族の男性の目の前に立ち、聖女らしく優しく穏やかに話しかけました。
「本当はかなり体力的にもキツイんじゃないですか?相当無理してますよね?」
至近距離で聖女のオリビアに、優しい目で見つめられ言葉をかけられた貴族の男は、落ち着いた口調で言いました。
「それは…、その…、本当か?治せるのか?」
「はい、安心してください。また好きなだけお酒が飲めますよ」
「本当に治るのか?」
「もちろんです」
「本当にアンタは聖女様なのか?」
「はい、私は聖女です。信じて下さい」
「ならやってくれ」
「おい、いいのかよ」
すぐ側で見聞きしいていた別の貴族が、話しかけてきました。
「いいんだ、どうせ俺はもう長くないんだ。最後の望みをアンタに託すよ。聖女様」
「分かりました。それでは…」
オリビアはすぐに目を閉じながら、その貴族の男性へ『貴方に女神の祝福を』唱えました。
すると次の瞬間オリビアから光が放たれ、目の前の貴族の男性に降りかかりました。
「身体が軽い!本当に治ったみたいだ!」
オリビアに祝福をされた貴族の男性は、すぐに身体が軽いと喜んで言いました。
「またお酒を飲み続ければ同じことになりますよ、気を付けて下さいね」
「あぁ!分かったよ!ありがとう!」
次にオリビアは、振り返ると今度は王妃に話を振りました。
「では次に王妃様、足を見せてください」
「えっ?」
「ヒールの履きすぎで足の指、変形してますね?」
オリビアは王妃の側に歩み寄りながら言いました。
「何故それを…」
「痛かったですね、血豆も出きていますね」
「えぇ、そうなのよ…」
「足を出して見せて下さい」
「えっ、ここで?」
オリビアは王妃に近づき、耳元に顔を寄せて話しかけました。
「皆さんの前で治さなければ、このままでは私を連れてきたブライアン王子の面子が潰れてしまいます。それでもいいのですか?」
「確かにそうね、分かったわ。あなたの言う通りにするわ」
王妃はオリビアに従い椅子に座り、靴を脱ぎました。
「本当だ!変形している!」
「血豆も出来ている!」
素足になった王妃の足を、その場にいた皆が注目して見ました。
「貴方に女神の祝福を」
オリビアはその場に屈み王妃の足に魔法をかけると、足はあっという間にとても綺麗な状態になりました。
「凄いわ!ありがとう!」
「いえ」
「凄い本物だ!」
「間違いない本物の聖女様だ!」
それを見た部屋にいた人々は、オリビアが聖女だと次々に言い出しました。
『こんなもんかしらね、って私ここでこんな事やっちゃって良かったのかしら(汗)死にそうな人が目の前にいるのに、これまずかったかしら…?』
オリビアが顔色を変えながらそんな事を考えていると、それに気付いた王妃がオリビアの耳元で話しかけました。
「そんな顔しないで、あなたのおかげで息子が傷付かずにすんだわ。ここは私が何とかしてあげる」
「…すみません」
そう言うと王妃は、皆の目の前で身振り手振りを使い話し出しました。
「私の足を治してくれたこの子は本物よ。ねぇ、あなた。あなたもそう思うでしょ?」
「あぁ、そうだな、だが…」
「そうね、キュルスの事はとても悲しいわ。聖女様も人間よ、万能じゃないわ。それは皆も分かってるでしょ?」
「そうだな…」
「そうですね…」
「それこそ神にしか出来ない事もあるわよ」
「そうだな、イザベラ…」
「キュルスは頑張った、私達に心配をかけまいと我慢して…(泣)ブライアンありがとう…、聖女様を連れてきてくれて…、女神の祝福をここで見れて私は幸せよ…、きっとキュルスがいなかったら一生見れなかったわ…」
「母様…」
すると突然ここでオリビアに、エルリアが話しかけてきました。
『いやぁ、王妃様名演技だわ!あっぱれ!』
『エルリアここで変な事言わないで!それに演技だけじゃないわ。本当の気持ちが入っているわ』
『まぁ、そうね』
『でも、王妃様はブライアンをちゃんと愛してるみたいで安心したわ』
『そうね、大聖堂にやったのは、こっちの王だろうね』
『えぇ、きっと王妃様は反対したわね』
『だって今のこの国の状況作ったのこの王じゃん』
『あっ、そっかそうよねエルリア』
その後しばらく経ち、まだどうなるか分からない状況という事で一旦この場は解散となり、のちにそれぞれへ連絡をすると言う事になりました。
オルビアは帰りの馬車の中、疲れ果て壁に寄りかかりながら言いました。
「良かった、ブライアンの面子が崩れなくて…」
「やっぱりそうか、君が急にいろいろやり出すからヒヤヒヤしたよ。まったく無茶をする」
「だって私を連れてきた事で、ブライアンを傷付けるわけにはいかないわ」
「ありがとうオリビア、助かったよ君のお陰だ」
「でも王妃様にはバレちゃったわ。やっぱり親子ね。勘が鋭い」
「そうか、母様もか…」
「ブライアン、王妃様はあなたを愛しているわ。これは間違いないわ」
「そう…」
「でも、キュルス王太子の事はごめんなさい…、何も出来なくて…」
「それはいいんだ…、悲しいのは山々だけど君も万能じゃない、それは母様も言っていただろう?」
「えぇ、私も本当はただの人間だもの…、聖女とか今は言われてても、これもいつまで続く力なのか…」
「そうだね」
オリビアは座席に座り直すと、目の前に座っているブライアンに話しかけました。
「ところで、ブライアンまで帰ってきちゃって良かったの?」
「あぁ、僕はもう宮殿より大聖堂の方が居心地がいいんだ。それに兄様と言ってもほとんど遊んだ記憶もないし。急に親子だとか兄弟だとか言われてもね…」
「そう…、ブライアンがいいならいいんだけど…」
そして翌日、キュルス王太子が亡くなったとの連絡が入り、葬儀は国を挙げ数日間に渡り盛大に執り行われました。




