モルガナイト
「モルガ!こっちに来るんだ!」
「嫌!飛び降りてやる!」
「いい加減にしろ!そんな挑発のらないぞ!」
「何で!どうして!なんで私じゃダメなのよ?!」
モルガは窓枠に乗り、今にも落ちそうで危ない状況でした。
そんな状態で言い合いをする2人にオリビアが、恐る恐る声をかけました。
「モルガ…、どういう事ブライアン?」
「いや…、何か私と付き合ってて言われて断ったら、椅子で窓ガラス割って…」
「てめーのせいだオリビア!いい気になりやがって!天使がいるだけの何も出来ない女が、聖女だなんだチヤホヤされやがって!」
「それは違うぞモルガ!」
「何が違うんだ!皆なんでこんなのがいいんだ!ちょっと可愛いくらいで私と何も変わらないのに!」
「まぁ…、普通はそうよね…、私も思うわ」
「はぁ?いい気になんな!このや…」
するとモルガは窓のフチを掴んでいた手を滑らせ、下へと落ちていきました。
「あっ!」
オリビアは慌てて何も考えずモルガの後を追い、自分も窓から飛び降りモルガを掴まえながら一緒に落ち、地面へと叩きつけられました。
「モルガ…、大丈夫…?」
「何であんたまで落ちるのよ…」
「ごめん怪我させちゃった…、守れなかった…」
「この状況で何いってんだお前…」
「エルリア…、お願い…」
『もう!私はオリビアに命令されなきゃ何も出来ないのよ!落ちる前に頼みなさいよ!』
「そっか…、そうすればよかったんだ…」
『オリビアは本当にいい子すぎるのよ!』
「ごめん…、エルリアなら怪我くらい治せるだろうと思って…」
『治せるわよ!これくらい!もう!』
エルリアによる光の魔法で、オリビアとモルガはすぐに完全回復しました。
『オリビア、この子部屋まで運んであげて。少し寝かせておいた方がいいわ。どうやらここに来てからあまり寝てないみたいよ』
『分かった。ありがとうエルリア』
オリビアは優しく、今にも瞼を閉じそうなモルガに話しかけました。
「モルガ、このまま少し寝てて。私が部屋まで運んであげる」
それを聞いたモルガは意識を失い、オリビアはモルガをお姫様抱っこしました。
「オリビア!」
「あっ、ブライアン。モルガの部屋どこ?」
モルガを抱いたオリビアが振り返ると、慌てて駆け付けた様子のブライアンがいました。
ブライアンは落ちた2人を窓から見るなり、慌てて部屋を出て階段を駆け下り2人の所へと、血相を変えて来ました。
「いやいや、大丈夫なのかよ…。てかこの状況の説明をしてくれよ」
「ふっ、ブライアンって焦るとタメ口になるのね(笑)」
「あっ…、って、まず部屋だな…、こっちだ。私が運ぼうか?」
「大丈夫。エルリアに軽くしてもらってるから」
「君は何でもありだな…」
オリビアはブライアンに案内されながらモルガの部屋へと行きました。
「モルガ、おやすみ」
オリビアはモルガを部屋へと運び、ベッドへ寝せ布団をかけると部屋を出ました。
「説明してくれオリビア」
「はいはいブライアン」
ブライアンの部屋は窓の修理とガラスの破片の掃除のため、他の教徒達がいたのでオリビアの部屋で状況を説明する事になりました。
「怪我、何ですぐ治ってるの?オリビア」
テーブルをはさみ向い合せで座り、オリビアはブライアンに言いました。
「あのね私、昔から小さな怪我なら治せたんだ。それでこの力をもっと強くさせたくてここに来たの。だからエルリアが現れたとき、これで皆んなを救えるって思った。怪我もエルリアの力なら簡単に治せるって何故か分かってたから」
「だからって自分も飛び降りることないだろ」
「うん、それは反省してる。エルリアにも怒られた」
「もう無茶はするなオリビア、分かったか?」
「はい、ごめんなさいブライアン」
ブライアンはオリビアの側へ行くと隣に座りながら抱きしめました。
「よかった…、本当に…」
「そんなに心配してくれたの?」
「あぁ、そうだ心配した。あの高さから落ちたんだ。心配するに決まってるだろ。もうこんな思いはコリゴリだ」
「ごめんなさい」
「君はお人好しだな。この事あの騎士の男に言ったら、きっと怒るだろうな」
「えっ、まさか言わないよね?」
「さぁ、どうだろ」
ブライアンはオリビアを抱き締めていた手を離し隣に座り直しました。
「えっ、ダメ!レオだけには言わないで!」
「何でそこまで焦るの?」
「だって絶対怒るに決まってる!ブライアンみたいに優しくないんだから!」
「へぇ〜、私なら優しいから許されるとでも?」
「えっ…?」
「そうか…、私なら何をしても許してくれると思っているのか、そうか…」
「あの…、ブライアンさん?もしかして怒りました?」
* * *
その頃モルガは夢を見ていました。
『モルガ』
『母様!』
モルガはお母さんに呼ばれ、側に寄り仲良くお喋りしていました。
『あのね、モルガ』
『なあに母様?』
『モルガの名前はね、モルガナイトっていう宝石からつけたのよ』
『モルガナイト?』
『そうよ、淡いピンク色のとても綺麗な宝石なの』
『へぇ〜』
『モルガナイトはね、未来を切り開くって意味があるの』
『未来を切り開く?』
『そう、深い愛で包み込んで人を導く力があるのよ』
『すご〜い!』
『モルガ、あなたもそんな人になってね』
『うん!』
『これは小さい頃の記憶…。そんなの無理よ母様、私に出来っこない。ここでは誰も私を見てくれない。でも1人だけ子供がいた。その子は私に優しくしてくれた。皆んながあの子は王子様だって教えてくれた。もっと側に近づきたいと思った。でも恥しくて近寄れなかった。だから少しだけ離れた所から見てた。なのに私が来てから3ヶ月後、あの女が来た。私の王子様に馴れ馴れしく近寄って、皆んなも庶民だとか言ってたくせに聖女様とか態度を急変させやがって。聖女がなんだ天使がいる?ふざけるな!そんなんで私の王子様に近づくな!』
* * *
「はっ!」
モルガは目を覚まし、今日の事を思い出していました。
『そうだ私の王子様はブライアン様…。だけど今日、私と一緒に飛び降りて庇おうとしてくれたのは、あの女だ…。それに私の怪我を治してくれたのも、抱きしめてここに運んでくれたのも…』
モルガは気付くとまた眠りの中へと入っていきました。
「レオ!」
「オリビア!」
『んっ?何か音がする…、何?』
モルガは目を覚ましベッドから起き上がりました。
その頃オリビアとレオナルドは大聖堂の近くの広場で剣の稽古をしていました。
ブライアンはその様子を近くで絵を描きながら見ていました。
「レオ、ずいぶん強くなったじゃない」
「オリビアこそ、何でそんなに強い?」
「精霊さんが、身体強化してくれてるの」
「そんなの、ずるいぞ!」
「あっ!」
「俺の勝ちだな」
「また負けちゃった」
「オリビア様…、いったい何を?」
「んっ?モルガ!目が覚めたのね!全然起きないから心配したのよ」
目を覚ましたモルガはオリビア達の所に向かい話かけました。
モルガは丸2日、眠ったままでした。
オリビアはすぐにモルガのところへ駆け寄り、あとからブライアンとレオナルドも側に寄ってきました。
「こいつを庇って落ちたのか?オリビア」
「うん、そうなのレオ」
「モルガ身体は大丈夫かい?」
「ブライアン様、ご心配おかけしました。この通り大丈夫です」
「なら良かった」
「私の魔法で治したんだから、大丈夫に決まってるじゃない」
「お前が言うな」
「ひどいレオ」
そんなオリビア達を見ながらモルガは思いました。
『あぁ…、そうか。この女が本当の王子様なんだ。だから皆んなこの女に魅せられる。心が引き寄せられて惹きつけられる。母様見つけました、私のモルガナイトを』
モルガはそう思ったあとオリビアとブライアンに話しかけました。
「オリビア様、ブライアン様申し訳ございませんでした。そして助けていただき本当にありがとうございました。オリビア様この恩、決して忘れません」
「恩とか別にいいの。モルガが元気ならそれだけで充分よ」
「はい、それからブライアン様。申し訳ありませんが、交際の申込みは取り消します」
「えっ?あぁ、別に構わないよ」
「なら良かったです」
「ブライアンが女を振ってるぞ」
「人聞きの悪い事を言うなレオナルド」
「騎士の方、この方はこの国の王子です。言葉には気を付けた方がよろしいのでは?」
「いいんだモルガ、レオナルドは友達だ」
「そうだ、ブライアンが王子とか何か信じらんねーし」
「それに、ここにいる私は王子ではない」
「分かりましたブライアン様」
「モルガもその敬語やめたら?何か調子狂うわ」
「そうだぞ、何で急に敬語になった。いつもはもっとグイグイ来るじゃないか」
「そうなのか?」
「グスン(泣)」
「えっ?モルガどうしたの?」
「おい、どうした!」
「モルガ?大丈夫か?」
モルガは何故か急に、その場で泣き出してしまいました。
「こんなに楽しく皆んなで話したの久しぶり…」
「モルガ…、辛かったのね」
「大きかった家が急に小さくなって、家がどんどん苦しくなっていって、だから1人でここに来た。でも本当は来たくなかった。だけど今更帰れないしどうしたらいいか分からなくて、ずっと泣きたくても泣けるほど心が落ち着かなくて…(泣)」
「そう…」
「でもやっとオリビア様のおかげで、楽しくやっていけそうです…」
そんなモルガをオリビアが抱きしめました。
こうしてモルガの心は、この日から少しずつ穏やかになっていきました。
そんな中、1人の男性がこちらへ近づいて来ようとしていました。
「見つけたぞ!レオナルド!!」
レオナルドはその男性を見るなり、焦った様子になりました。
「げっ、やべぇ…っ」
「あの格好は騎士だな」
「レオまさか、また抜けてきたの?」
「オリビアまたな!」
「えっ?」
「待て!何処へ行く!」
レオナルドは男性を見るやいなや逃げようとしましたが、すぐに捕まってしまいました。
「痛い!離せ!グレン兄ちゃん!」
「何で逃げるんだ!最近ジェイドの奴が大聖堂にいるって話がギベオンの方から回って来たんだ!まさかと思って来てみたらやっぱりお前か!レオナルド!私に恥をかかせるな!」
「分かった、悪かったよグレン兄ちゃん!帰るから!」
「訓練さぼってこんな所で何してた!それから私のことは団長と呼べといつも言っているだろうが!」
「分かったから離せよ!逃げねーから!」
「グレン、まさかとは思っていたがお前だったか、息災のようだな」
それを見たブライアンがグレンに声をかけました。
「これはブライアン王子、お久しぶりでございます。王子こそ息災のご様子、何よりでございます」
「あぁ、レオナルドの事よろしく頼む、私の初めての男友達だ」
「はっ!かしこまりました」
「グレンさん、お久しぶりです。キズアからここまで馬車を出していただき、ありがとうございました」
次にオリビアがグレに声をかけました。
「これはオリビア様、お噂は聞いております」
「噂ですか?」
「聖女として治療魔法を確立されたとか、喜ばしい限りです」
「そんな噂が既に…」
「それでは急ぎますので、今日の所はこれで失礼します。行くぞレオナルド!手間かけさせやがって!」
「痛い!痛い!離せ!グレン兄ちゃん!」
レオナルドはグレンの乗ってきた馬に乗せられ帰っていきました。
オリビアはグレンと話していたブライアンに、知り合いだったのかと聞きました。
「グレンさんの事、知ってたの?ブライアン」
「まぁね。グレンは私が1人で絵を描いていると、よく声をかけてくれたから、それから話をするようになったんだ」
「そうだったのね」
「それより君の事、噂になって広まっちゃったみたいだね」
「そうね…、これからますます聖女様って言われるのかしら…」
「オリビア様はオリビア様です」
「ありがとう、モルガ」
こうしてオリビアは聖女として、名を馳せて行くのでした。




