予言
「アダマス王国はいったいこれからどうなるの?」
「分からない。戦争もいつ終わるのか…」
「ねぇ、まさかアナタにまで兵への要請来ないわよね?」
「さぁな」
「さぁなって…」
「来たら行くしかないだろ」
「そんな…」
「この国に生まれた以上、俺は何があっても忠義を誓うと決めている」
「俺もだ、父さん」
「よく言ったマルクス。よしっ、稽古つけてやる、外に出ろ」
両親の話を側で聞いていたオリビアの兄マルクスは、父と共に家の外へと出ると剣の稽古を始めました。
オリビアの父スティーヴは街1番の強さを誇り、自警団の団長を努めていました。
マルクスはそんな強い父に憧れを抱き、少しでも追い付こうといつも鍛錬をしていました。
「母さん、戦争は嫌だよ。父さんがいなくなるのも嫌だ…」
「そうね、ミスティ…」
オリビアの姉ミスティと母カイラは抱き合いながら、窓の外で稽古をする父と兄の姿を複雑な表情で見ていました。
「私も稽古やる。それで強くなって皆んなを守る」
「えっ?オリビア…」
オリビアはそんな複雑な心境の家族を見るなり、自分も稽古をしようと家の外へと出ると父スティーヴに話しかけましした。
「父さん、私にもこれから稽古つけて」
「オリビア、お前は女の子だ。そんな事しなくてもいいんじゃないか?」
「ううん、違うの」
「何が違う?」
「私が強くなったら父さんと兄さんがいない時、私が家族を守れるでしょ?」
「そうだな。そこまで言うなら教えてやる」
「ありがとう父さん」
オリビアはその日から毎日欠かさず鍛錬を続け、メキメキと腕を上げていきました。
「オリビア、お前やりすぎじゃね?」
「レオ、私に負けるのがそんなに悔しいの?」
「うっせぇ、女のお前にだけは負けない」
隣の家に住むレオナルドとオリビアは幼馴染みで、オリビアが剣の稽古を父から習い始めたと聞くや否や、レオナルドは自分も真似をするように鍛錬を始めました。
「レオ強いね。負けちゃった」
ある日、レオナルドとオリビアの家の近くにある少し小高い丘の上で、2人は仲良く鍛錬をしていました。
2人は区切りのいい所で止めると、その場に座り込み一休みしながら話していました。
「まぁな。だけどお前も強いよオリビア」
「ありがとう」
「だけどそんなに強くなってどうするんだ?オリビア」
「戦争いつ終わるか分かんないし、強くなったら母さんや姉さん弟に妹、皆んなを守れるかなって思って」
「ふ〜ん、俺にはよく分かんねーや」
「レオは何で鍛錬はじめたの?」
「それは…、その…」
「んっ?」
「お前が怪我したら危ねーからだ。だから俺がいつも見張っててやる」
「私が怪我すると思ってるの?」
「そうだ、お前は危なっかしいから俺が守ってやる」
「なら私が強くなって、私がレオを守ってあげるのに」
「はっ?男が女に守られるなんて、ぜってぇ嫌だ」
「ふ〜ん、そっか。あっ、でも擦り傷くらいなら私治せるよ?」
「また精霊がどうとかか?」
「うん。でもこれはレオにしか教えてないから誰にも言わないでね?父さんも母さんも、この話すると何か嫌がるんだ」
「分かってるよ。だからその話は俺以外の誰にもするなよ?きっと言っちゃいけない事だ」
「うんそうだね、ありがとうレオ」
「なぁ、お前この街からどこにも行かないよな?」
「えっ?何で?行かないよ?」
「ならいい。あのさオリビア」
「なにレオ?」
「…大きくなったら、その…、あれだ」
「あれ?」
オリビアは急に照れた様子で話すレオナルドの話しを、首を傾げながら聞いていました。
「お前んちの農園、俺が継いでやってもいいぞ」
「何それ?どういう意味?」
「だから…、あれだって」
「あれって?」
「俺がずっと側で見守っててやる」
「うちの農園を?オリーブそんなに好きなの?」
「あーー!何で分かんねんだよ!」
「何で怒るの?レオ」
「もういい!帰る!」
レオナルドの帰っていく背中を見ながら、オリビアは側にいる精霊に聞きました。
「んっ?何でレオ怒ったの?精霊さん分かる?」
『ふふっ』『ふふ』『ふふふ』
「何で皆んな笑ってるの?」
『オリビアは鈍感だね』『そうね鈍感ね』『そうねそうね』
オリビアはレオナルドの怒った理由を精霊達に聞いてみましたが、精霊達は教えてくれず何の事だかさっぱり分かりませんでした。
オリビアは不思議に思いながら自分も家へと帰りました。
それから時は過ぎ、オリビアとレオナルドは8歳となり『ジェファン』をする歳となりました。
ジェファンというのはこの国では皆が行なう行事で、子供の成長を祝い教会に行き感謝と祈願をする、日本でいうところの『七五三』になります。
この歳の秋、オリビアとレオナルドは街の教会へと両親と共に向かいました。
「外で待ってるからねオリビア」
「分かった。行ってくるね、母さん、父さん」
「行くぞオリビア、置いてくぞ」
「あっ、待ってレオ!」
ジェファンを行う時は子供しか教会に入れないので、親達は教会の前で待っていました。
オリビアとレオナルドの2人は教会の中へと入り、その綺麗で繊細な美しいステンドグラスにとても興奮していました。
「教会の中がこんなに綺麗だったなんて、私知らなかった」
「あぁ綺麗だな、ビックリだ。あの…、あれだオリビア」
「んっ?なにレオ」
「…その服よく似合ってる」
「えっ?あ〜、ありがとう。レオもそのスーツよく似合ってるよ、カッコいい」
「おう(照)」
「この髪飾は姉さんが作ってくれたの、可愛いでしょ?」
オリビアは髪につけた髪飾りを触りながら、レオナルドに自慢するように言いました。
「うん、凄く…、可愛い(照)」
「レオが何だかいつもより素直だわ」
「俺はいつも素直だ」
「そうかしら?」
「そうだ、お前が鈍いからいつも気付かないんだよ」
「鈍くないもん」
「鈍いね、だって…」
「だって?」
「いや、何でもない」
「そう?」
このジェファンの日には皆おめかしをします。
基本的に男の子はスーツ姿、女の子はワンピースで色やデザインにこれといった決まりはなく、それぞれの家庭で用意します。
この日は特別な日ということで、首都メヒエにある大聖堂から司祭様が教会に来ていました。
「では皆さん、こちらに集まってください。今から皆さん1人1人に司祭様から聖水を渡しますので、受け取りその場で飲み干してください。空のコップは私に渡してください」
神父様がそう言うと司祭様が空のグラスのコップに聖水を注ぎ、そのコップをすでにたくさん回りに集まっていた子供1人1人に渡しはじめました。
「聖水って何?レオ」
「さぁ?ただの水じゃね?」
オリビアとレオナルドも司祭様から聖水の入ったグラスのコップを受け取り、それぞれ飲み干し神父様に空のコップを渡しました。
聖水を飲んだあとは皆で椅子に座り、神への感謝のお祈りを捧げました。
「オリビア、お祈りも終わったしさっさと出ようぜ」
「うん、でも…」
「どうかしたか?」
「何も見えなかったよね?」
「はっ?何が?」
「ううん何でもない、行こうレオ」
『お祈りをしてる時、精霊じゃない何かが現れてずっと飛んでた何て言えない。きっとこれは私にしか見えてない』
オリビアは不思議な何かが自分にしか見えていないと気付き、この事を誰にも言わず教会を後にしました。
そんなオリビアの様子を司祭様が不思議そうに見つめていました。
「あの子は何故ずっと上を見ていた?何かが見えるのか?」
「司祭様?何かありましたか?」
「神父、あの女の子が誰か分かりますか?」
「えっ?あの子は確か…」
教会を後にするオリビアの姿を見ながら、司祭様と神父様は話していました。
「知っているのですか?」
「えぇ、確か街外れの農園の娘かと。あの娘が何か?」
「分かりません」
「はっ?」
「これから何かあるかもしないし、ないかもしれない」
「はぁ…」
「私は王妃の予言の子を見つけたいのです」
「予言ですか?」
「はい、予言です。亡き先々代の王妃は、この国を混沌から救う救世主が現れると言ったそうです」
「救世主?それはいつの話ですか?」
「それを言った王妃が生きていたのは、この国が栄えていたまさに黄金時代。まだまだとどまるところを知らない頃。当時は何を言っているんだとずいぶん馬鹿にされたようです。ですが王妃は続けて言ったそうです。今は良くても全てに終わりはいつか来ると」
「凄い方ですね」
「えぇそして今、王妃の言った通りの国になってしまいました」
「確かにそうですね」
「だからこそ私はその予言の子を探しているのです、あの子なのかは分かりませんがね」
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『現在わが国は世界屈指の国力となった。今やこのアダマス王国を見下し、嘲笑する者など何処にもいない。しかしいつの日かこの輝かしい栄華は夢となり色あせ国は衰退し、波乱の渦の中へと巻き込まれる。だが女神のお導きにより、この国を救ける救世主が現われ、その者の手によって我が国は救われるだろう。そしてその者が我々の前に姿を現す時は、力もまだない幼い子供の頃であろう』




