悪魔日記
これは魔王ハディシス様の日常について、私の視点から書いたものであります。
まずは皆様にこの日記を書いている私の事から、紹介からしたいと思います。
私は魔王ハディシス様に仕える悪魔、『ジレース』と申します。
そう何を隠そう、私がハディシス様を魔王へと導いた張本人でございます。
ですが私は当たり前の事ですが、最初からそうしようと思っていた訳ではございませんでした。
この世には『光と闇』この2つが存在します。
人間が地上を生きる光ならば、我々魔物は地下に生きる闇。
光が強く輝けば輝くほどに、闇も深くなってゆくのです。
『光がある所には必ず闇がある』これはどの世界であっても、絶対に変わることのない真実です。
私はハディシス様を初めて見た時、その事実を分かっていらっしゃる、肌で感じられたんだと思いました。
そして彼は狂ったように魂を喰うという行為で、必死に現実から抗おうとしていました。
それはとても美しい光景でした。私には到底足元にも及ばない、彼こそ魔王と呼ぶべきお方だと確信いたしました。
そして私は彼を魔王と崇め、配下に加わりました。
思った通りハディシス様は魔王としてとても相応しく、人間共を屈服させひれ伏せようとしていました。
私もそれに従い、ハディシス様が人間共を征服するという思いを成し遂げられるよう、精一杯お仕えし務めてまいりました。
ですがハディシス様はここの所、ある人間の女を熱心に見ておられます。
あのような人間を気にするなど、私には分かりかねます。
いったいどうしたと言うのでしょうか。
ハディシス様、どうか目を覚ましてくださいませ。
人間など所詮は皆同じ、下賤な生き物でしかありません。
ハディシス様だけが選ばれた、特別なお方だっただけでございます。
どうやらその人間の女は、何かを失い替わりに真実に辿り着いたご様子。
さすがハディシス様です。それを最初から見抜いていらっしゃったのですね。
それならば此処へ連れて来ても構いませぬ。貴方様の下女にでも加えましょう。
しかし女を魔王の妃、ハディシス様と同等に扱えと申されるとは驚きました。
ハディシス様、いくら貴方様が凄い方であってもそれだけは断じて認められません。
あのような魔力も僅かしかない半魔な女、魔物にもなれぬ出来損ないが恐れ多くも魔王と同列などと、私だけではなく貴方様の配下皆が不服でございます。
良いでしょう、女にはここで実力を見せて頂きましょう。
まぁ、ハディシス様に相応しいお方であるはずもありませぬが、無様に恥をかくだけかいてもらいましょうか。
いい暇つぶしの見世物になりそうです。
話にもならないほどにその女は弱く、全く我々は一体何を見せられているのか、呆れてしまいます。
ですが、突如人魚が姿を現しその女を庇ったかと思ったら、今度は『水の結界』を張りました。
ハディシス様もこのまま様子を見ると仰っしゃられ、私はしばらくどうする事も出来ずにただ目の前の光景を見ておりました。
どうやら結界の中で人魚は絶命した模様。その後どういう訳か知りませぬが、人魚の魔力がその女へと注がれています。
まさかの予想外の事態に私は動揺を隠せませんでした。
見事な『光の矢』を放ち気を失った女を、ハディシス様は抱き上げ部屋へとお運びになられました。
私は女を魔王の妃と認めざるを得ませんでした。
名を『アルテミア様』。ハディシス様はたいそう気に入ったご様子。
まっまぁ、良いでしょう…、妃を許しましょう…、時には魔王にも花が必要でしょう…
ですがアルテミア様は、私の想像の遥か上を行くお方でございました。
なんとお1人で世界を滅ぼしてしまわれたのです。
一瞬にしてハディシス様よりもアルテミア様の方が、立場が上へとなってしまいました。何ということなのでしょうか…
私はお仕えする方が1人増え、お陰さまで嬉しい日々を過ごしております。
アルテミア様は配下の私達の前では、権威のある大魔王様を見事に演じられております。
そしてハディシス様とお2人だけになられると、ただの人間の少女のように明るく立ち振る舞い、そんなお2人のご関係を知っている配下の者は私ジレースだけでございます。
大魔王のアルテミア様、ただの少女のアルテミア様。
このギャップにハディシス様はどうやら高揚しているようです。
男と言うのは単純な生き物だと、私も含め思い知らされました。
そんな仲の良いお2人がある日地上へ出てみたいとおっしゃられ、私は腕を組みながら歩く2人の後ろをついて歩いておりました。
「もう本当に廃虚ね」
「そうだな。何が落ちているか分からない、気を付けて進もうアルテミア」
「えぇそうね、ハディシス」
お2人はかつてアルテミア様が、暮らしていたというお城へと向かわれました。
「ここかい?昔アルテミアが住んでいたのは」
「場所は合ってるからそうだと思うけれど、もうだいぶ変わってしまっててよく分からないわ」
「建て直しているのかもしれないな」
「そうね。あっ!」
「アルテミア?」
アルテミア様は何かを見つけたのか急に走り出し、お城の庭へとやってきました。
「アナタは変わらず、ずっとここにあったのね…」
「アルテミア、これは?」
「これはオリーブの木よ。私の昔の名前はこの木を見て、つけられたの」
「そうか、アルテミアの思い出の木か」
「えぇ…、枯れてしまったけど」
枯れたオリーブの木を切なそうに見つめるアルテミア様に、ハディシス様が話しかけられました。
「後悔してるのかい?世界を滅ぼして」
「いいえ、後悔はしてないわ。それに…」
「ん?」
「新たな命はもう巡ってるみたいだわ」
アルテミア様は枯れた木の根元から、新しい芽が出でいるのを見つけていました。
その後、街を散策していたお2人は酒屋だった店を発見し中を探索した所、残っていたお酒を見つけ出し、店先にあったイスとテーブルでお2人は飲み始めました。
「お酒なんて初めて飲んだわ」
「そうなのかい?アルテミア」
「えぇ、私は修道女だったから、お酒に縁なんてなかったの」
「そうだな。どうだ?美味しいか?」
「とても美味しくてビックリしているわ」
「そうか、ならたくさん飲め」
しばらく経つとお2人は、だいぶ出来上がっておりました。
「アルテミア、あまり飲みすぎるなよ。もうだいぶ酔ってるぞ」
「酔ってるのは、ハディシスの方でしょ」
「あっ、そうだアルテミア」
「なぁに?ハディシス」
するとハディシス様がアルテミア様に昔の事を質問しました。
「1度聞きたかったんだが、あの悪魔とは、どうやって知り合った?」
「悪魔?カインの事?」
「そうだ、ルビーのネックレスの男だ」
「カインとは、オリーブの頃に出会ったわ」
「そんなに前からだと…」
「そうなの幼なじみだったの。カインがどうかしたの?ハディシス」
「いや、別に…」
「あっ、ハディシス。カインに妬いてるんでしょ?(笑)」
「そんなことはない」
ハディシス様は少し機嫌を悪くされ、アルテミア様はそれを笑いながらからかいました。
「絶対妬いてる間違いない。だって機嫌悪いもん」
「妬いてないと言ってるだろ」
「はいはい。でもハディシスだって人間の頃はいろいろあったって前に言ってたじゃない」
「私の場合はアルテミアとは違う」
「どう違うのよ?」
「私のは気持ちも何もない。生きるためだった」
「生きるため?そんなんで納得出来ないわ」
「アルテミアに納得してもらう必要はない」
「何ですって?」
そしてお2人の言い合いはますます激しさを増していき、剣の決闘へと発展していきました。
「ハディシスのわからず屋!ハディシスだって女の子いっぱいいたくせに!」
「アルテミアこそ、カインとやらの他にも男がいたはずだ!」
「いないわよ!」
「嘘を付け!告白されたと言っていたろ!」
「それは断ったって言ったじゃない!」
「想像出来る!もっと沢山アルテミアを慕っていた奴がいたはずだ!」
「そんな事いわれたって私は知らないわよ!」
「昔から可愛かったに違いない!」
お2人は剣に魔力を込めながら激しい攻防戦を繰り広げられ、それを私が止められるはずもなく、ますます戦いは過激に膨れ上がっていきました。
私はお2人のこの壮絶な争いだけで、世界は滅んだのではないかと本気で思いました。
そして決着は突然やってきました。
アルテミア様がとうとうブチ切れられ抑えていた力のタガを外し、全身から怪しげなオーラを放ちながら目を輝かせ、持っていた剣を地面に振り下ろされると、大地には巨大な亀裂が数千キロに渡り入りました。(※およそ星の半球)
「アンタに合わせて今まで戦ってやってたけど、このヒビ次はお前に入れてやろうか?」
「あっ…、えっと…(汗)、すみませんでしたーー!!」
やはり大魔王アルテミア様のお力の方が、魔王ハディシス様よりも勝っているようです。(※いろんな意味で)
そしてそれ以降、お2人がお酒を飲む事はなくなりました。
私はいつまでも仲睦まじいこのお2人の魔王に、これからも忠誠を尽くしていきたいと思っております。
ジレース




