覚醒
私とハディシスは地下にあった城から転送魔法で移動し、2人で並びながら上空に浮かんでいた。
「ここで何をするの?ハディシス」
「この世界に生きている者は、量に個人差はあるが皆魔力を持っている。アルテミア、とりあえず人間を数千人くらい殺せ。これが1番手っ取り早い」
「そう、それで魔力を得るのね?」
「あぁそうだ。お前には酷かもしれないが…」
バディシスは何処か心配するような表情をしながら言った。
「気遣ってくれるの?ハディシスは会ったばかりの私に優しいのね」
「もちろんだ。お前は私の妃だ、優しくして当然だ」
「まだ妃じゃないわ」
「まだ?と言うことは、少しはなる気になったようだな」
「あっ…、いや、今後もならないわ妃なんて」
「そうかそうか、なる気になったか(笑)」
「ならないってば(怒)」
「分かった分かった、ムキになるな(笑)怒っても私の妃は可愛いな。ほらっ、そろそろ初めたらどうだ?」
「もう、分かってるわよ。それに妃じゃないわ」
私はハディシスと話しを終えると、足を一歩前へと踏み出し深呼吸をした。
『修道女だったこの私が、まさか人間を殺す日が来るなんてね…。カインのいない世界なんて、今の私には何の価値もない。どうなろうと関係ないわ』
私はそう思いながら自分の足元に大きな魔法陣を出し『光の稲妻』を地上に落とした。
「あははっ、凄いわ!」
「アルテミア、どうした?!」
側で見ていたハディシスが、急に様子のおかしくなった私に声をかけてきた。
「たくさんの悲鳴が聞こえる!」
「悲鳴?人間のか?」
「そう!死の恐怖が混ざった魂が、たくさん私の中に入ってくる!凄い!」
「そうか」
「あははっ、気持ちいい!このまま全て皆殺しにしてやる!」
私は自分へ集まってきた魂のおかげで魔力が増え、魔法陣をますます巨大にし、それを何個も作り『光の稲妻』を地上へ落としまくった。
しばらくしてから私は記憶を取り戻した事と、魔力が急激に膨れ上がった事で気分が悪くなり、魔法陣の上に倒れた。
「うぅっ…」
「アルテミア!」
「気持ち良すぎて張り切りすぎた…、何か気持ち悪い…」
バディシスは私を支えながら優しく声をかけてきた。
「全く少しでいいのに、人間を全滅してしまうとは驚いたよ」
「ごめんなさい…」
「いいさ、君が無事なら」
世界は私のおかげで無惨にも廃虚と化し朽ち果てた。
私はあまりの身体のダルさに、そのまま意識を失った。
その後気付くと私はまたベッドの上に寝ていた。
『きっとまたハディシスが運んでくれたんだわ。身体も半魔じゃなく完全に魔物になったようね』
私はベッドから出ると窓辺に行き、生き物がいなくなった海の中を見ながら思った。
『どうやら私がオリーブという少女だったようね。それからあの庇ってくれた人魚は水の精霊女王ウンディーネ、私をずっとどこからか見守ってくれてたんだわ。そして、…カイン。アナタは私がオリーブだと知らずに、また見つけてくれたのね…』
すると一粒の涙が頬を伝い、胸元にずっと付けていたルビーのネックレスへと落ちた。
「泣いてるのか?アルテミア」
私は頬の涙を拭き、部屋に入り側に寄ってきたハディシスに話しかけた。
「泣いてないわ」
「そうか、何か嫌なことでも思い出したか?」
「いいえ、逆よ」
「逆?」
「私は前のヘイデン王国の王女オリーブだった。皆からとても愛されていたわ」
「そうか、アルテミアが記憶の中の姫だったか。だからお前の目は綺麗なんだな」
「そうかしら?自分ではよく分からないわ。それにハディシスの目だってとても綺麗よ」
「そう…、なのか?」
私に目が綺麗だと言われバディシスは少しだけ戸惑った表情をした。
「とても純粋な目だわ。私が前に飼っていた精霊獣と同じ目よ」
「そんな事を言われたのは初めてだ。それよりもこれからどうする気だ?何かしたい顔をしている」
「ハディシスには隠し事が出来ないみたいね」
「あぁそうだ、だから何でも話せ」
「少し1人にしてくれる?」
「それは構わないが、なぜ急に?」
「女神に会ってくるわ」
「女神に会う?」
「会ってこの世界の全てを終わらせる。今の私なら女神と同等、いえ恐らくそれ以上の力があるわ」
「まぁ、そうだろうな。だが気を付けろ。いくら力があっても相手は神だ」
「分かってるわ」
ハディシスが部屋を出てから、私は目を閉じ空へと意識を集中させた。
『恐らく何処かに女神のいる神殿があるはず…、あった!あの雲の中だわ』
私は心の目で女神のいる神殿を探し、見つけると分身を作り自分自身の意識をその中に送り込み、神殿の中に立った。
『ここが神殿…、綺麗なところね』
しばらく辺りを見回しながら白を基調としたその神殿を歩いていると、奥にいた女神らしき人物が声をかけてきた。
『とうとうここまで来てしまいましたか…、オリーブ』
『アナタが女神エイレーネ?』
『えぇ、そうです』
私は女神の近くまで寄ると無表情で話しかけた。
『私を作ったのはアナタね?女神』
『…その通りです、オリーブ…』
『こうなると最初から分かっていたの?女神』
『ある程度は…、ですが最初からではありません。オリーブ』
『そう。今から自分の作ったものに殺される気分はどう?女神』
『…そこまでの感情になってしまったのですね…、オリーブ…』
『アナタがしたのよ女神』
『ですがオリーブ、私は神。アナタを作った責任があります。決してアナタには殺させません』
『えっ?何を言っているの?まさか…!』
すると女神は私に微笑んだ後、そのまま背を下にし宇宙へと自ら身を投げた。そして同時に神殿も崩れ去った。
私は元の身体へと意識を強制的に戻され、窓辺に立っていた私は後ろへと尻もちをついた。
「いった〜」
「アルテミア!良かった…、戻ってきた…」
するとすぐにハディシスが私の両肩を触りながら声をかけてきた。
「ハディシス、やっぱり側にいたのね。そうだろうと思ってたわ」
「当たり前だろ。で、女神は?」
「部屋を出るふりだけしたのね。女神は自ら宇宙へ身を投げて消えたわ」
「そうか本当に良かった…。改めて言おう、アルテミア」
「何を?」
私達はその場に立ち上がりながら目を合わせた。
「君は私を超える真の魔王へとなった。これからはそういう振る舞いをしなくてはならない」
「私が真の魔王に?」
「あぁそうだ。世界をいや、星を1つ滅ぼしたんだ。そういう事になるだろう」
「そう…、魔王ね…、私が…」
「君には驚かされてばかりだよ。人間の上に立つのではなく全てを滅ぼしてしまうんだから…」
「あぁ…、もしかしてハディシスより偉いってこと?」
「その通りだ、そうなるに決まってるだろ。これからは皆の前でも私に気安く話しかけては駄目だ」
「えっ、ヤバっ…、何か面倒くさいことになっちゃったかも…(汗)」
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「大魔王様、次は何処を滅ぼしましょうか?」
「そうね、なら次はいつも耳障りなお前にするわ」
「またまた、大魔王様はお戯れがお上手なようで」
「私が戯言を言ったことが、今までにあったかしら?」
「いえ…、でっでは本当に…、私を…?(汗)」
「ふん、お前など殺す価値もないわ。話すのも鬱陶しい邪魔、目障りよ。今すぐ私の視界から消えてちょうだい」
「…はい、申し訳ございません。大魔王様…」
私は威圧的で我が儘な大魔王を、配下の悪魔達の前で演じていた。
私には良く分からないが、これはハディシスが考える大魔王像らしい。
実はハディシスが自分の好みを演出しているんじゃないかと、私は密かに思っている。
もちろん私に罵られているのはいつもハディシスだ。
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「ハディシス、これいつまで続くの?」
「ずっとに決まってるだろ」
「はぁ…、そう…、よね…」
私は自身の部屋へと戻り、後ろから一緒に部屋の中へと入ってきたハディシスに話しかけた。
「でっ、次は本当にどうします?大魔王様」
「やめて大魔王とか、2人の時に言わないで」
「はいはい、アルテミア」
「あっ、そうだ」
「どうした?アルテミア」
私は昔サンドラが言っていたことを思い出して、側にいたハディシスに話しかけた。
「私の名前の由来を、昔サンドラが教えてくれたの」
「サンドラとは男か?」
「違うわ女性よ、育ての親なの」
「ならいい。でっ、由来がどうした?」
「ハディシスはすぐ妬くんだから。この宇宙の彼方に、地球と言う星があって、そこにはたくさんの人が住んでいるらしいわ」
「ほう、それで?」
「その地球が夜になると、一際綺麗な星が夜空に輝いて見えるんですって。その星が月というらしいわ」
「月?」
「でっ、その月の女神の名前がアルテミスって言うらしくって、そこから私の名前をつけたんですって」
「ならその月の女神を滅ぼし、アルテミアがその月というのを、支配してしまえばいいんじゃないか?」
「それいいわね!ハディシス」
「そしてその地球という星も滅ぼして、またあの『魂の快感』をお前に味わわせてやる、アルテミア」
「なら次は2人で味わいましょ?ハディシス」
「2人で?私はお前に味わって欲しいんだが…」
私は部屋にある机の所まで歩いていき、引き出しを開けた。
そして…、胸元に付けていたルビーのネックレスを外し、腰の短剣を外し引き出しの中に入れた。
今度は手の平を前に出し、私を守ってくれていた『水の防御』を少しずつ手の平へと集め、ボールくらいの大きさの水の球体になった物を引き出しへと入れ、そして閉じた。
「過去はもういらない、私はアナタと生きていくわ。だからこれからは私の側にいて?ハディシス」
「アルテミア…、あぁ、お前を決して1人にはしない」
それを聞いたハディシスは私を強く抱き締めてきた。
私は過去を振り返らない事にした。
星も魔物になったからなのか、女神がいなくなったからなのかは分からないが、私に全く反応しなくなった。
そして後に、ハディシスが魔物を世界に出現させていたと聞いた。
だけどそんな小さなことは気にしないことにした。
どちらにしろこの星の人間に、未来はなかっただろう。
過去はどう足掻いても変えられない。
今私がハディシスを恨んだところで、何もかもが元に戻る訳でも誰かが帰って来るわけでもない。
本当の悲しみを知ってしまった今、その先には何もないという事を私は分かっている。
それに直接この世界に手を下していないハディシスに比べ、この手で星も女神も全てを滅ぼした私の方が何倍も罪は重いだろう。
それからもう1つ、どうやら最初に魔物で支配し滅ぼしたのは、この城の上にあった『小さな島』だそうだ。
島は城の真上にありとても邪魔だったそう。
私は最初からこの男と、こうなる運命だったのかもしれない。
かつての敵だった男は、今私を溺愛している。もうそれだけで十分だと思った。
どうやら隣の部屋だったらしいハディシスの部屋は、何故なのか私の部屋との間の壁がいつの間にかなくなっていた。
そしてハディシスは私の部屋の方に入り浸り、側から離れようとしなかった。
「ねぇ?ハディシス。私の側にいてとは言ったけど、ずっとじゃなくてもいいのよ?」
「何を言う、お前を決して1人にはしないと言ったろう?」
「そうだけど…、世の中には限度ってものがあるのよ?ハディシス」
「私が嫌なのか?アルテミア」
「嫌なわけではないけど…」
「なら別に、このまま側にいてもいいだろ」
そう言うとハディシスは側にいた私をさらに抱き寄せ、おでこにキスをした。
「水の防御、外さないほうが良かったかしら…」
「それはダメだ。絶対にだ。ならあそこの引き出しには今後いっさい開けられないよう、鍵をかけておく」
「もう冗談よ…、そんなに怒らないで。ハディシス」
「ならいい。アルテミアが可愛いから離れたくないんだよ。それに私は初めて愛する事と愛される事を知った。今後もし君が私を嫌だと言っても、何処にもやるつもりはない」
「それは私も同じよハディシス。アナタが嫌だと言っても私は離れないわ」
「…まさかそんな事を言われる日が来るとは思わなかった…、いつまでも一緒にいようアルテミア」
ハディシスはこちらが照れるほどに、私に真っ直ぐな愛をしめしてくれる。
だから私も、その愛に応えていこうと思う。
昔はあんなに皆んなを守るため必死に訓練したと言うのに、人生?いや魔生?とは不思議なものだ。
私は大魔王アルテミアとして、ハディシスは魔王として、共にこの宇宙の全てを手に入れようと決めた。
何もかも全てを破滅させるために。
これが運命だと言うのならば、私は1つの仮説を思いついた。
女神エイレーネは、私が最後こうなると分かっていたのかと聞いた時『ある程度は、ですが最初からではありません』と答えた。
とすると女神エイレーネをさらに凌駕する存在が、何処かにあるのではないかと考えた。
そしてそれが本当に存在するのならば、それは恐らく『地球』と言う星にではないかと…
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
当初の予定ではアルテミアを無慈悲な魔王一直線にしようと考えていましたが、それだとありきたりだなと思い切り替えました。
どうだったでしょうか?やはり変えない方が良かったでしょうか?
感想で教えていただければ今後の参考になります(^^)
読んでくださる皆様の期待を、いい意味で裏切れていれれば幸いです。
(※ちなみに明日さっそく番外編を出します)




