記憶
目を覚ますと、見知らぬ部屋の見覚えのないベッドに私は寝ていた。
そのまま身体を起こし部屋の中を見渡すと、大きな窓があった。
私はベッドから立ち上がり、大きな窓まで歩いて行き外を見てみた。
「ここは何処だろう、って、…えっ…、魚…?」
どうやらここは海の中のようだった。
しばらく『ぼ〜』っと窓の外を優雅に泳ぐ魚を見ながら今までの事を思い出していた。
『カインに、サンドラに、ウンディーネ。みんな私を愛してると言ってくれた。だけど、もういない…。それにオリーブという少女とエルフの少女、この2つの記憶。これはなぜ私の中にあるの?』
「目が覚めたようだな」
窓の外を見なら考え事をしていると、魔王と名乗った男が部屋へと入り声をかけてきた。
私は振り返り男に話しかけた。
「アナタが私をここへ運んだの?」
「あぁそうだ、倒れたお前を私が運んでやった。ありがたく思え」
「あっ…、そう。それはどうも…」
男は話しながら私の側へと近付いてきた。
「ずいぶんと魔力が増えたようだな。原因はあの人魚か?」
「えぇ、そうみたい。私を庇って消えたわ…」
「見事な『光の矢』だった。あれならば誰も文句を言わないだろう」
「誰もって?」
「魔物を全て倒したら、私の妃にしてやると言っただろう」
「あぁ…、そういえば…」
「忘れたとは言わせぬぞ」
男は少し声を荒げて言ってきた。だから私も負けずに話しかけた。
「妃なんてならないわよ。と言うかここどこ?海の中なの?元の場所に戻して!」
「…ふっ(笑)」
「何で、笑ってるの…?」
「ずいぶんと急に威勢がよくなったと思ってな」
「えっ?」
「男なくして死にそうな顔してたお前が、急に魔王の私にそこまで言うのかと思っただけだ」
「なっ…」
「何だ?違うのか?」
「その…、通りです…」
言い返してきた私を男は面白がっているようだった。
「お前は顔がコロコロ変わる。面白い。そのような奴は初めてだ。お前は目だけではないようだ」
「だから私はアナタの妃にはならないし、ここから出して!」
「ハディシスだ。ハディシスと呼べ」
「ハディ…、シス…?」
「そうだ。出て行きたければ出ていって構わない」
「えっ?どういう意味?」
「そのままだ。元の場所に戻りたければ戻ればいい。だがお前は人間に未練はないんじゃないのか?」
「…確かに…、戻った所で行く場所も…」
「ならここに居ればいい」
「いてもいいの?」
「あぁ、だから私の妃になれ」
「それは嫌」
「なぜ?私の妃だぞ?何が不服だ」
「えっ…、全部…」
「悪魔の中の王だぞ!」
「そうだね…、だって急に魔王の妃とか言われても…」
「なら力ずくで奪うまで」
ハディシスは私に触れようと手を伸ばした。
だけど『水の防御』に弾かれ、私に触れられなかった。
「それは?何だ?」
「水の防御?かな…」
「もしや、あの人魚か…?」
「うん、恐らく…」
「だがさっき運んだ時は何もなかったぞ」
「今は、やましい気持ちがあったからとか?」
「あの人魚、私からお前を遠ざける気か…」
ハディシスは私に妃にならないと断られた事と、ウンディーネの水の防御で触れられない事のダブルショックで、部屋を出ていった。
『あの魔王、そこまで悪い人ではなさそう。それに私の目を覗くなんてまるでカインと同じだわ。行く所もないし、このままここに居ていいなら居ようかな…。
このウンディーネにもらった『水の防御』がある限り、どうやら安心みたいだし』
真夜中、私は頭の痛みで目が覚め、窓の外の暗闇を泳ぐ魚を頭を抱えながら見ていた。
『…頭が痛い。たぶんこの2つの記憶が全てを思い出せないから。オリーブと言う少女はお城に住んでいた?お姫様なのかな…。
エルフの少女はいつも誰かと剣の鍛錬をしている。でも相手の顔は思い出せない…』
「どうした、頭でも痛いのか?」
「ハディシス…」
ハディシスはまた部屋へと入り私に声をかけてきた。
「私のこと何処からか見てるの?」
「あぁ見ている、常に」
「怖いんですけど…」
「私は魔王だ。出来ないことはない。怖くて当たり前だ」
「そうだったわね、魔王さん」
「なぜ頭が痛い?」
私はこの男を信用し話してもいいのか迷ったが、他に相談できる人もいないため話した。
「何故かは自分でも分からないんだけれど、私の中に誰かの2人の記憶があるの」
「2人の記憶?」
「1つはオリーブと言うお姫様の記憶、もう1つはエルフの少女の記憶。でも2つはとても曖昧で全てが思い出せない」
「そうか。それは本当に2人なのか?」
「それはどういうこと?」
「オリーブという姫と、エルフの女は同一人物じゃないかと言う事だ」
「えっ?同じ人って事?」
「そうだ、だから曖昧なんじゃないか?」
「…言われてみれば、2人は背丈も顔も似ている…」
「世の中は案外、単純だ。複雑そうに見えてもな。ところで聞き忘れていたがお前の名は何だ?」
「えっ…、あぁ、言ってなかったけ?私はアルテミアよ」
「アルテミア、あまり考え込むな。今日はもう寝るといい」
「そうね、そうするわ。何だか話してたら頭の痛みも落ち着いてきたわ」
「それならお前が眠るまで、私が側にいてやろう」
「1人で寝れるから出てって」
「遠慮するな」
「してません」
翌日、私は星に聞いてみようと思いハディシスに頼みグラスに水を用意してもらった。
出会ったばかりの私を常に気にかけてくれるこのハディシスという男を、私は信用し始めていた。
「そんなに喉が乾いたのか?」
「いいえ、星に聞いてみようと思って」
「星に聞く?」
「えぇ、見てて」
私はテーブルに置いたグラスに手をかざし、光の魔法を僅かに注いだ。
するといつも通りにグラスの中に数個の星が現れた。
「ほう、それは何だ?」
「星占いよ、今この中に現れたのが普段空に輝いてる星よ。これで占うの」
「お前は本当に不思議な奴だ。ますます欲しくなった」
私はグラスを持ち上げ見ながら言った。
「やっぱり、ハディシスの言った通りのようね」
「何がだ?」
「昨日の話よ。オリーブと言うお姫様と、エルフの少女はどうやら同一人物のようだわ」
「それで分かるのか?」
「えぇ、何故か私の光の魔法に反応するの。外れたことはないわ」
「ふ〜ん」
「オリーブと言うお姫様はずいぶんとやんちゃだったようね。エルフの里へ行き訓練をしていたようだわ。その時に正体がバレないようにとエルフの格好をしていたみたい」
「そうか、だが何故そのオリーブと言う姫の記憶がお前の中にあるんだ?」
「そこまでは分からないわ…」
「その記憶は昔からあるのか?」
「いいえ、ウンディーネに魔力をもらってから何故か思い出したの」
「と言うことは、もう少し魔力があれば全てを思い出すという事か…」
バディシスは顎に手を添え考える様な仕草をした。
「そうかもしれないけれど、さすがにこれ以上の魔力を手に入れるのは無理よ」
「無理じゃないとしたら?」
「えっ?出来るの?」
「私は魔王だ、出来ないことはない。だが」
「んっ?」
「人間を殺せと言われたら、お前にそれが出来るか?」




