試練
森の入り口で、カインを失った苦しみに打ちひしがれていたその時、私の周りに突然暗いオーラを放った『闇の魔法』が現れた。
「えっ…、何なの…、これ…」
闇の魔法は私を取り囲むように渦を巻きながら現れ、そして気付いた時には何処かへと飛ばされていた。
「ここは…、どこ…?」
飛ばされた先は城のような造りだったが、それにしてはどこか違う怖い不気味な雰囲気が漂っていた。
そして何故か無数の視線を私は感じた。
「よく来た半魔の女。ここは私の城だ」
ここは何処なのかと戸惑っていると、誰かに話しかけられた。
声のする方へ振り向くと、1人の長身の男が私の方へと歩いて近付いてきた。
「あなたは誰…?人間じゃないようだけど…、なぜ…、私をここへ…?」
恐る恐る男へ話しかけると、意味の分からない理解不能な言葉が返ってきた。
「私は魔王ハディシス。喜べ女、お前を私の妃にしてやる」
「…魔王…、の妃…、私が…?…えっ…?はっ??」
私はその言葉を聞き余計に頭が混乱してしまった。
だけど魔王と名乗った男は、さらに理解出来ないようなことを言ってきた。
「だが急に現れた今のお前では、私の配下達が納得しない。そこでだ、今から魔物を倒してもらう。ここでお前の実力を皆の前で見せろ」
「えっと…、仰ってる意味が…、全く分からないんですけど…」
「とりあえず今からここに魔物を出す。全て倒せば私の妃にしてやる。それだけだ、覚えたか?」
そう男は早口で話すと、急な事に混乱する私の顎を掴み目を覗いてきた。
「その目だ。私はその目が気に入った。人間に興味はないが、お前の目は何故かずっと見ていたくなる。だがら死ぬな。死んだ奴の目などに興奮はしない」
そういうと魔王は踵を返し私から離れると、玉座のような椅子に座った。
「初めろ」
「御意」
魔王の側に仕えていた悪魔が指を『パチン』と鳴らすと、私の回りに複数の魔物が現れた。
私は急な展開にとてつもなく戸惑っていた。
『もう、何なのよこれ!何が起こったって言うの!私は森の入口にただいただけなのに!と言うかここは何処?!まさか本当に魔王の城なの?いきなり連れて来られて、魔物を倒せとか私無理なんですけど!魔王の妃とかさっぱり意味分かんないし!
そんな事よりこの状況をどうにかしないと…、私絶対ヤバい気がする!こんな所で死にたくな〜い!!(泣)とりあえず短剣でも出してみる?』
私は腰にあるサンドラの形見の短剣を取り出した。
『待って!これで魔物倒すとか私やったことないよ〜!(汗)でも絶対やらないとやられる、確実に…、それだけは私にも分かる…』
私は意を決し短剣を構えてみた。
『やっぱり怖い!無理ったら無理!どうしたらいいの!何で私がこんな事に…(悲)』
そんな事を考えていた時、1匹の魔物が私を狙い襲ってきた。
とっさに短剣を前に出すと魔物は斬られ消えていた。
『えっ?消えた?私が切ったの?これで本当に倒せるんだ…』
だが次の魔物がすぐに襲ってきて、私は避けきれずに床に倒れた。
『いった〜、やられたかと思った…』
私は腕に出来た切り傷を光の魔法で癒し、回復して立ち上がった。
そんな私を椅子に座りながら見ていた魔王は、次で終わりだと思っていた。
『ありゃ全然ダメだな。わざわざチャンスを与える事もなかったか…。あの目は惜しいが、もう次で終わりだろう。だが光の魔法が使えるとは珍しいな。んっ…、蝶だと?どこから現れた?』
そして私が立ち上がると同時に魔物が後ろから襲ってきた。
『あっ、これ、ダメなやつかも…』
私は後ろから魔物に襲われ、短剣を構えるのが遅れ死を覚悟したその時、目の前に1匹の『青い蝶』が現れたかと思ったら、蝶は人魚へと姿を変え私を庇い深手を負い倒れた。
「何とか…、間に合ったみたいね…」
「えっ、人魚?どうして私を?それより傷を回復するわ!」
突然現れ私を庇い傷を負った人魚を、回復させようとすると人魚がそれを止めた。
「いいの、このままで…」
「でも!」
「今のアナタの魔力量じゃ、この傷の深さは治せないわ…」
「だけど、それじゃあアナタが!」
「ふふっ、相変わらず優しいのね…」
「私を知ってるの?」
「ずっと前から知ってるわ…、と…その前に…」
人魚は自分と私を大きな『水の球体』の中に閉じ込めた。
「えっ?水の中?」
「これは『水の結界』よ…、これで誰も私達の邪魔は出来ないわ…」
「凄い!結界を張れるなんて!」
「私は攻撃よりも…、防御の方が得意なの…。って…、それよりも…、助けるのが遅れてごめんなさい…、ここを見つけるのに苦労したわ…」
「アナタはいったい…?それになぜ私を助けてくれたの?」
「私がそうしたかったからよ…」
「ありがとう、人魚さん」
「私の名前はウンディーネ…、あまり時間も残されてなさそうだから手短に話すわ…。私の魔力の全てをアナタに捧げ、そして私は『水の防御』となってアナタをずっと守ってあげる…」
「えっ?守る?」
「そうよ…、私は消えてしまうけれど、これでアナタの側にずっといられるわ…」
「消えちゃうの?それに会ったばかりの私を守る?」
ウンディーネは私の頬に自身の手を伸ばし、触れながら話しかけた。
「アナタの魂には、記憶があるはずよ…、それを思い出して…。今までもこれからもずっと私はアナタを愛してるわ…。
最後に会えて本当に、よ…、かっ…、た…」
ウンディーネは薄れ行く意識の中で思っていた。
『オリーブ…、どうか昔のアナタに戻って…。…魔王、お前にオリーブをそう簡単には渡さない…!』
ウンディーネは水の泡となり消えると、泡は私の中にどんどん入ってきた。
『なっ、なに…、これ…、頭の中に何がって…、これって…、前の短剣の時と同じ…』
すると私の頭の中にはオリーブという人間の少女、そしてエルフの少女の記憶が断片的に入ってきた。
『人間の少女と、エルフの少女の2人の記憶がなぜ私の中に?それに途切れ途切れで全てではないわ』
私は側に落ちていた短剣を拾い見つめながら思った。
『どうやらこの記憶の中のエルフの少女は、短剣で魔物を倒していたようね』
私を包んでいた『水の結界』に触れると、結界は触れた手から私の中へと全て入ってきた。
私は目を閉じエルフの少女の記憶を思い出していた。
『何だかここに連れて来られてから、全部が突然すぎてよく分かんない事だらけ…。だけど何でだろう、この記憶の中のあのエルフの動き、私にも出来そうな気がする。もう一か八かどっちにしろやるしか、ここから抜け出せる道はなさそうね』
私は目を開き覚悟を決め、近くにいた魔物を持っていた短剣で斬ってみた。
『出来る!動ける!次の魔物の動きまで分かる!』
動きの変わった私を魔王は見ながら思っていた。
『さっきの人魚、あの女に何かしたようだな。光の魔法といいさっきの人魚といい、どうやらあの女には他にも何かありそうだ。ますます興味が湧いてきた。それになかなかいい動きをしている。
だが、剣1つで魔物は倒せないぞ。さぁ、どうする女…』
そして私もこのままでは埒が明かないと思っていた。
『魔物の数が多い。1匹ずつやってたら、これじゃあキリがない。さっきの人魚、ウンディーネだったかな?確か魔力あげるって言ってたよね。だったら…』
私は魔物を短剣で切るのをやめ、『光の矢』を無数に出し残っていた魔物を全て蹴散らした。
『前は魔力が少なくて光の矢1本しか出せなかったけど、こんなに出せるようになったんだ。と言うか魔力…、急に…、使い…、すぎ…、た…』
私はそのまま意識を失ってしまった。




