短剣
「短剣だわ。それにこの素敵な装飾。これは本当にお姫様がくれた物なのかもしれない」
短剣の鞘には見事な装飾が施してあり、中央には橙色の宝石が埋め込まれていた。
「宝石かしら?とても綺麗な色」
私は思わず中央の橙色の宝石に触れてみた。
すると宝石が急に光りだし私の頭の中に何かが入ってきた。
「なっ、なに…、これ…、何かが頭の中に入ってくる…」
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どこかお城のような場所に可愛らしいまるでお姫様の様な人と、もう1人少し年上の女性が2人で何か話をしていた。
「キャシー、アナタがこの島からいなくなるなんて、とても寂しいわ…」
「マーリン様…、決して貴方様のことを忘れません…」
「いつか会いに行ってもいいかしら?キャシー」
「もちろんですわ、マーリン様。ぜひお越しください」
「必ず行くわ!あっ、そうだった。結婚のお祝いにこれをアナタにあげるわ」
「これは短剣ですか?」
「えぇ、前に父さまがくれた物なの」
「その様な高価な物を、私頂けません!」
「いいのよ、アナタに持っていて欲しいの」
「でっ、ですが…」
「この中央の橙色の宝石があるでしょ?これはオレンジガーネットって言う宝石でね、私の誕生石なんですって。ガーネットの宝石には魔除けって意味があるらしいの。だからこれをキャシーに持っていてほしいの」
「ですが…、このような物を私が本当に頂いてよろしいのでしょうか…」
「いいの!受け取って!」
「分かりました…、家宝に致します」
「そんなに大袈裟にしなくていいのよ」
「ありがとうございますマーリン様。大切に致します」
そして場面は変わり、次のシーンへ…
「サンドラ…、これはマーリン様から私の母が頂いた大切な剣です…。大事にするのですよ…」
「はいっ!お婆ちゃん!大事にする!」
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『今のは…、この短剣に込められていた思い…?でも何で急に私に?あれっ、何か私の体が光ってる。もしかして私の光の魔法に反応した?だとしたら、最初に出てきた可愛らしい女の子がお姫様?で、キャシーって人がサンドラの曾祖母さん?
それで次のが、サンドラとサンドラのお婆さん?…えっ…、何か怖っ!いったい何なのこの剣!!
たぶんこの真ん中のオレンジガーネットって言ってたかな?それに触れたからだよね…、うん、もう触らないように気をつけよう…』
私の頭の中には、短剣の宝石の中にあった記憶が一気に入ってきた。
私はこの短剣を少し怖いと思いながらも、大好きなサンドラから受け継いだ大切な形見、常に体に身に付けたいと思い腰のあたりに隠し持つことにした。
『そういえば前にサンドラが、お姫様は星占いをしてたって言ってたよね。私にも同じようなことが出来るかしら?』
そう思った私はある夜、部屋の窓を開け夜空に輝く星を見上げてみた。
しかし当り前だが、何も感じる事はなかった。
『やっぱりダメか…。全然分からない…。あっ、そうだ!確かサンドラの短剣は私の光の魔法に反応したよね。だったら星も同じように反応しないかな?…って、いやいや流石に無理よね…、こんな広い夜空すべてには…』
ふと部屋の中にあるテーブルの上の水の張ったコップに目が行った。
『全てが無理ならこの水の中に、星を写して見るっていうのはどうかしら?』
私は早速水の張ったコップの上に手をかざし、少しだけ光の魔法を注いだ。
『って、そんな簡単にうまくいくわけないか…、って、えっ!何か出てきた!』
すると星が数個、水の中に浮かび上がってきたのです。
『やった!出来たわ!やっぱり私の光の魔法に反応するんだわ!んっ?「光の魔法で人々の傷を癒やし救え…」?えっ、どういう事なの?』
それから私は教会へ来た人々の怪我の治療を光の魔法で施したり、水の中に星を浮かべ星占いをしたりと、お金のない貧しい人々のため無料または僅かな金銭で奉仕をした。
私はそれなりに忙しく日々を過ごし、この街の人々から慕われ手応えのようなやりがいをそこそこ感じ始め、サンドラを亡くした悲しみも思い出に変わろうとしていた頃、カインに出会った。
そして私はサンドラへとはまた違う何かとても大きな愛を知った。
だけどそれは、胸が張り裂けそうなほどに痛い悲しみへの始まりにすぎなかった。
私はカインを自らの手で殺し、失うという重さを知った。
こんなにも悲しい痛みがあるんだということを、初めて思い知らされた。
なのに修道女という呪縛からか自害することも出来ず、ただ1人胸の痛みに耐えながら街を抜け森の入口に立ち尽くしていた。
今思えばそんな心情に浸れたのは、この時だけだった。
私はこの後、冥界(地獄)へといざなわれて行く…




