狭間
「大魔王様、次は何処を滅ぼしましょうか?」
「そうね、なら次はいつも耳障りなお前にするわ」
「またまた、大魔王様はお戯れがお上手なようで」
「私が戯言を言ったことが、今までにあったかしら?」
「いえ…、でっでは本当に…、私を…?(汗)」
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この世界は理不尽で出来ている。
そしてその理不尽を生み出しているのは人間達だ。
私の愛した人は悪魔だった。だけど私の愛を理解してくれる人は誰1人いなかった。
悪魔の彼を皆は排除しようとした。でも彼は人を傷付けた事など1度もなかった。
なのに、ただ悪魔だというだけで彼は人間の敵だと言われた。
人々は悪魔の彼を倒そうとしたが、彼にかなうはずもなく私を差し向けた。
私は生まれながらに『光の魔法』を持っていたから、私なら悪魔に対抗できると思われたようだ。
私は人間、修道女だった。人々の敵である悪魔の彼を私は『光の矢』で刺し、彼は倒れた。
だけど私は本当にこれで良かったのか、あの時どうする事が正解だったのか、それはいまだに分からないまま。
答えが出ないからなのか、私の身体は半分だけ魔物になってしまった。
何て中途半端なんだろう。私はいったいこれから何処へ向かうのか。
愛する彼もいないこんな世界に、存在する意味なんてあるのだろうか。
光と闇、その狭間で今日も私は1人揺れ動いている。
どうしてこうなってしまったんだろう…。
こんなに胸が苦しいのは、きっと私がずっと『光の中』で生きてきたから…
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「ねぇ皆んな、サンドラの話ってとっても面白いよね!」
「えっ、あれってただの伝説でしょ?」
「そうそう、作り話だって姉様達が言ってたわ」
「そんなことないもん!」
「はいはい、アルテミアはお子ちゃまだからね」
「そうね子供だからね」
「ひどい!もういい!」
「あっ、アルテミア急に走ったら危ないわよ!」
「あ〜あ、行っちゃった…」
「どうせまたサンドラの所よ」
「えぇそうね。アルテミア、サンドラのこと大好きだから」
私は産まれてすぐ教会の前に捨てられていた。
そしてそのまま教会で育てられ、修道女になった。
私を育ててくれたのは、サンドラという修道女の中でも1番歳上の女性だった。(※年齢は60代後半くらい、歳のわりには見た目も中身も若い印象)
サンドラはとても優しく、いつも私の側にいてくれた。
「サンドラ!」
「あら、アルテミア。どうしたの?」
「あのお話また聞かせて?」
「いいわよ、アルテミア」
「やったぁ〜!」
「まぁまぁ、そんなに面白い?私のお話?」
「うん!凄く面白い!でも皆んな、サンドラの話は嘘だって、そんなのないって言うの…」
「そう、でもそれは仕方がないわ。私の話は証明する事がもう出来ないから…」
「証明?どうして?」
「既にこの世にはない世界の話だからよ」
「そっか、でも私はサンドラの話信じるよ!」
「ありがとうアルテミア」
サンドラはとても不思議な話をいつもしてくれた。
それはかつて存在したと言う、伝説の島に住むお姫様のお話だった。
「これは今から200年以上前のお話。昔バレーヌ島というとても綺麗な、小さな島が海にはありました。そこにはとても可愛らしいお姫様が住んでいたそうよ」
「お姫様!お姫様はなんて名前?」
「もうアルテミア、焦らないの。お姫様の名前はマーリンよ」
「マーリン!可愛い名前!」
「お姫様は子供の頃少しお転婆で、よく土団子を作って遊んでいたそうよ」
「へぇ〜、それとっても面白そう!」
「アルテミアにそっくりね」
「えっ?そうかな。土いじりは好きだけど」
「ふふっ、いつも爪が泥だらけって神父様に怒られてるじゃない」
「これはたくさん遊んだ勲章だからいいの!」
「はいはい、お話を続けるわよアルテミア」
「うんっ!」
「お姫様は大きくなるにつれ、占星術が得意になっていきました」
「占星術って?」
「星占いよ。星空を見て占うの」
「すご~い!星占いか〜、とってもロマンチックね!」
「でも今はその島は沈没してしまって、もう何処にもないの」
「えっ、じゃあマーリンはどうなっちゃったの?」
「一緒に沈んだと言われているわ」
「そっか…、マーリン可哀想…」
「そうね、だけどマーリンは確かにいたのよ。私の曾祖母さんがお姫様に仕えていたの」
「マーリンの側にいたの?」
「そうよ、いつも側でお世話をしていたそうよ」
「えっじゃあ、そのひいおばあさんも一緒に沈んじゃったってこと?」
「いいえ、ここの国の子爵様の所へ嫁いだの」
「とついだ?」
「お嫁にきたの。前のヘイデン王国の時の子爵様の所へね。その頃のヘイデンはとても豊かで今よりも裕福な人が多かったそうよ」
「そうなんだね」
「曾祖母さんはお姫様にとても気に入られていて、それでいい縁談をしてもらったの」
「じゃあサンドラは、曾祖母さんからマーリンの話を聞いたの?」
「違うわ、さすがにそんなに生きていないわよ。その人の娘、私のお婆さんから聞いたの」
「そうだったんだ!」
「私はお婆ちゃん子でいつも、そうアルテミアみたいにいつもくっついてお姫様の話を聞いていたの」
「そっか!」
「そうだアルテミア。まだアナタに話していなかったわね」
「何を?」
「アナタの名前の由来よ」
「由来?うん!聞いてない」
「そのマーリンってお姫様が言うには、どこかこの宇宙の果てに地球と言う星があるそうよ」
「地球?」
「地球にはこの星と同じように、たくさんの人が住んでいるらしいわ」
「そうなんだ!」
「その地球という星が夜になると、星空の中に一際輝く月という星が見えるらしいわ」
「月?」
「その月という星の女神様の名前がアルテミスというそうよ。そこからアナタの名前を付けたの」
「ステキ!女神様と同じ名前!」
「そうよ、一字違いだけれど」
私は物心ついた頃から、いつもサンドラの側にくっついてお姫様の話を何度も繰り返し聞いていた。
サンドラはそんな私に嫌な顔一つせず、毎回お姫様のお話を聞かせてくれた。
私はそんなサンドラが大好きだった。寝る時もご飯を食べる時もいつもサンドラの側にいた。
私にとってサンドラは、母であり祖母であり友でありかけがえのない存在だった。
サンドラも自分に懐いてくれる私を可愛がってくれていたと思う。
だけどそれから数年後、サンドラは病に倒れた。
私はサンドラの側で付きっきりで看病をした。(※アルテミアの年齢は10才くらい)
「アルテミア…、アナタにだけ伝えなきゃいけない事があるの…」
「えっ、なにサンドラ?」
サンドラは日に日に見るからに弱々しくなっていった。
そんな中ベッドに横になりながら、懸命に私に何かを伝えようとしてきた。
「アナタがこの教会へ来た時に私は夢を見たの…、あれは恐らく女神様…」
「女神様?」
「私達が信仰している女神エイレーネ…、彼女が夢でこの子をよろしくって言ったの…」
「どういうこと?」
「分からないわ…、だけどアナタには光の魔法があった…、だからきっと何か意味があると思ったわ…」
「意味がある?」
「そう…、だからその魔法を何か今後使う時が来るのかもしれないわ…」
「うん、分かった。覚えておく」
「それからね、アルテミア…、そこの引出しに布に包まれた細長いものが入っているわ…」
「細長い布?」
サンドラは近くの棚を指差しながら私に言ってきた。
「えぇ…、それをアナタにあげるわ…」
「えっ?私に?」
「私には子供がいないし…、アナタにそれを受け継いでほしいの…」
「受け継ぐ?それって大事な物って事?」
「お姫様の話…、覚えてる…?」
「もちろん、覚えてるわ」
「その方に頂いた大切な物なの…、アルテミア…、アナタにそれを持っていてほしいの…」
「そんな大切な物を私に?ダメよ!」
「いいの…、アルテミアに持っていてほしいのお願い…」
「…でも」
「私はアナタ以外に持っていてほしくないの…、だから…」
「分かった…、サンドラは1度言ったら聞かないんだから」
「それはアルテミアもでしょ…」
「じゃあ、私はサンドラに似たのね」
「愛してるわ…、アルテミア…」
その後サンドラは、数日後に息を引き取った。
葬儀の後、私は布の事を思い出し、サンドラの部屋の棚の引き出しを開けてみた。
「あった、きっとこれだ。意外とずっしりしていて重いわ。いったいこれは何かしら?」
私はそのまま布に包まれた物を自身の部屋へと持ち帰り、ベッドに腰掛けながら膝の上に置き布を広げてみた。
すると布に包まれ中から出てきたのは1つの『短剣』だった。




