もしもの世界 ―風Ver.2―
オリーブは5歳となり、今日はカインと2人で城の中庭で本を読んでいます。
本を読むのに飽きていたオリーブを気遣い、カインが声をかけました。
「剣の稽古うまくいってるの?」
「もちろん!カインも一緒にどう?」
「僕はいいかな、オリーブほど運動神経良くないし」
「そっか、カインも魔法『風』だったよね?」
「うんそうだよ、オリーブもでしょ?」
「そう私も風なの!でも父様は火なんだって」
「へぇ〜、それは珍しいね。じゃあ、お母様が風なの?」
「え〜っと、んっ?何だったかな?忘れちゃった。よし、聞きに行こう!」
2人は本を閉じオリーブの母ナディアの部屋へ行きました。
白地にチューリップの柄の入った生地で、ナディアはオリーブに着せるためのエプロンを作っている最中でした。
そして土いじりで爪の中が真っ黒なオリーブの手を取り、器用に裁縫針でナディアは泥を取り除いてあげました。
「母様凄い、痛くない!」
「これくらい誰でも出来るわ。所で何か用があった?」
「あのね、母様の魔法が何か聞きたくて来たの」
「私の魔法ね。私は地よ」
ナディアは祖先がエルフだということ、エルフは地の属性魔法だと話してくれました。
しかしエルフを見たものは誰もおらず、いるかどうかは分からないと言われてしまいました。
カインが帰った後オリーブは部屋に戻り精霊王のシルフに話しかけました。
「シルフ!エルフはいるかしら?」
「どうだろうね、ニール森林にいたとは思うけれど」
「ニール森林ね!雷樺、明日お出かけしよっ!」
「うん!オリーブ」
翌日オリーブは雷樺の背に乗りエルフの里を目指しました。
エルフの里はヘイデン王都から南西に行き、ニール森林の奥深くにありました。
オリーブは風の精霊に頼みエルフの里まで案内してもらいました。
「あっという間に着いちゃった。精霊さん、ありがとう。雷樺は小さくなっててね」
「は〜い」
オリーブは閉じていた門の前に立ち叫びました。
「すいませ〜ん!誰か〜!開けて〜!」
その頃エルフの里の中では、精霊獣を連れた魔力量が凄い人間の子供が来たと大騒ぎ、すぐに首長のヘデラの所へオリーブは通されました。
連れてこられたオリーブを見てヘデラはビックリ仰天、しかし首長として毅然とした態度で振る舞いました。
「私はオリーブ!今日はお願いがあってきたの!」
「ワシはこの里の首長ヘデラじゃ。皆からは長老と呼ばれとる。お願いとは?」
「ここで戦い方を教えてほしいの!」
オリーブは母の祖先がエルフだということ、エルフはとても強いと聞きここへ訪ねてきた事を話しました。
そしてオリーブはヘデラの孫ロニセラと一戦することになりました。
オリーブは剣を、ロニセラは短剣を構えヘデラの合図で開始になりました。
ヘデラはオリーブを見つめながら考えていました。
『あの膨大な魔力はなんなのじゃ。そして魔法属性は地と風じゃな。エルフは地属性じゃが人間にも地の者はおる。エルフとは限らん。もう1つは風、ということはヘイデンじゃな。あの剣の型は確かヘイデン王家に伝わるものじゃ。そういえば城に潜入している者から、女の子供が1人おるとあったな』
2人の戦いは引き分けになりました。
ロニセラとの一戦を交えたオリーブにヘデラが話しかけました。
「オリーブは精霊に好かれておるの」
「分かるの?長老さん」
「あぁ分かる。エルフは精霊術を使うからの。お主の周りには数え切れぬほどの無数の精霊がおるようじゃ」
「そうなんだ!ならそれはきっとシルフのおかげだね!」
「シルフ?シルフとは?まさか…」
「うん、風の精霊王シルフだよ!」
すると隣で話を聞いていたロニセラが怒り出しました。
「なに言ってる!お前みたいなチビに精霊王がつくわけねーだろ!」
「嘘じゃないもん!」
「じゃあ見せてみろよ!」
「分かった!」
ムキになったオリーブは目を閉じ「精霊よ…」と唱えました。
するとオリーブから目の前にいた2人に向け、突風が吹きました。
「これは…」
ヘデラはオリーブの風の魔法を直接受け、昔父に言われた事を思い出していました。
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この森は昔は砂漠で、1人の最初に住んだエルフが緑の魔法で木を生やし今の森になった。
そしてこの森のどこかに森の精霊女王フォーレがいて、我々を見守っているという話をヘデラの父は聞かせてしてくれました。
そしてこの話には続きがありました。
「この里は、ヘイデン王国の一部なんだ」
「ヘイデン王国?」
「とても大きく豊かな国だよ」
「そうなんだ!」
「そしてこの国には、風の精霊王がいると言われている」
「風の精霊王?」
「あぁシルフ様だ。この国に風が吹いている限り、シルフ様がどこかにいらっしゃるんだ」
「へぇ~、じゃあきっとシルフ様は、優しい人だと思う」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって僕の横をそよぐ風は、いつも気持ち良くて心地良いもん!」
「そうだな、きっとそうだな」
「うん!」
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「オリーブ、お主の話を信じよう」
「待て爺ちゃん!風魔法なんて別に珍しくねーだろ!」
「確かにな。じゃがオリーブには無数の精霊がいる。我々エルフにではなく人間にじゃ。それはおそらく精霊王がいるからじゃ」
「だけど!」
するとヘデラの家の前で寝転がっていた雷樺が元の大きな姿に戻り、オリーブの側に寄りました。
「精霊獣もオリーブを好いておる。それだけでも凄いと思わぬか?ロニセラよ」
「ちっ」
そしてオリーブは雷樺の背に乗り城へと帰っていきました。
城へ着くなりオリーブは、黙ってエルフの里へ行ってしまった事を父に怒られ、もう行っては駄目だと言われてしまいましたが、何とか母の協力もあり父を説得し、翌日さっそくエルフの里へオリーブは出掛けて行きました。
そこでエルフの長老ヘデラに変装の仕方を教えてもらい、オリーブはエルフへ雷樺は灰色の狼へと変装しました。
すると遠くで様子を見ていた双子のエルフの少女、ネリネ、リコリと一緒にロニセラから短剣と弓の使い方を教えてもらえる事になりました。
オリーブはあっという間にエルフ達に溶け込み、すぐに皆と仲良くなりました。
そして何とオリーブに仕えていた従者のアイリは、ロニセラの姉である事が判明し決して誰にも言うなと口止めされました。
城へ帰ったオリーブはエルフ、雷樺は狼の姿のままだった事から騒ぎになった事は言うまでもないでしょう。
そんな少しなお転婆なオリーブも6歳になり、カインと一緒に中庭で土いじりをしたり、アイリの作ってくれたクッキーを食べながら過ごしていた穏やかな日、1羽のハトがオリーブの側へやってきました。
「あらハトだわ、こんにちわ」
「城でハト飼ってたの?」
「いいえ、聞いたことないわ」
オリーブはハトにクッキーを差し出し、ハトは美味しそうにクッキーを食べました。
すると突然ハトは何処かへと飛んでいってしまい、同時に見たこともない禍々しいオーラを放った不気味な何かが、中庭に出現しました。
オリーブはすぐに怯えるカインを自分の後へ隠し、雷樺も大きくなりオリーブの横で唸っています。
少し遠くで待機していたアイリが、オリーブ達の前に短剣を構え立ちはだかりましたが、すぐに倒されてしまいました。
「アイリ!シルフ、どうしたらいいの?」
「オリーブの魔法で消すんだ」
「消す?私が?」
「オリーブなら出来るさ。風の流れを感じてごらん」
オリーブはシルフに言われた通りに目を閉じ、風の流れを思い出しながら魔法を発動しました。
するとオリーブから風が巻き起こり、不気味な何かを消し飛ばしました。
その夜オリーブはシルフに昼間の事を聞きました。
「シルフ、あれは何だったの?」
「あれは魔物だよ。この世界を狙っているんだ」
「世界を狙ってるの?」
「あぁ、だからオリーブがこの世界を守るんだ」
「えっ、私がこの世界を守るの?」
次の日オリーブは朝早くからエルフの里へ向かいました。
昨日シルフに世界を魔物から守れるのはオリーブだけだと言われ、もっと強くなろうと心に決めたのです。




