母様の魔法
あれから月日が経ちオリーブは5歳になりました。
今日はカインと2人で城にある中庭にテーブルと椅子を用意してもらい、そこで本を読んでいます。
オリーブはカインに心を許し、身の回りで起こった事を何でも話していました。具体的にはフォーレの事や雷樺の事などです。
カインもオリーブの話す話に最初は驚きますが、オリーブの真っ直ぐな瞳を信じ嘘だとは思っていません。
そんな2人は寄り添いながら本を読み、時々メイドのアイリが作ってくれたクッキーをかじりながら穏やかに過ごしていました。
しかし本を読むのが苦手なオリーブは、本を開きながら時々カインの方をチラチラと見ていました。
幼いながらに感の鋭いカインはそれに気付き、読んでいた本を閉じるとオリーブに話かけました。
「剣の練習うまくいってるの?」
「えぇ、とっても。カインはやらないの?」
「僕はいいかな…」
「そっか。カインは魔法なんだっけ?」
「風だよ」
「風か〜、確か兄様も風だって言ってたわ」
「ウィリアム王子?」
「そうそう、私も緑じゃなかったら風だったのかな」
「そうかもね、ヘイデンは風が多いから。オリーブの両親も風?」
「ううん、父様は火で母様は、…あれ?なんだったっけ…」
「風じゃないの?」
「忘れちゃった。よしっ!本はやめて母様のところへ聞きに行こう!」
それを聞いたカインは『最初からあまり読んでなかったじゃないか』と思いましたが、口には出しませんでした。
そうして2人でオリーブの母ナディアの部屋を訪ねると、オリーブは部屋へ入るなりすぐにナディアの所へ駆け寄りました。
「母様〜!あのね聞きたいことが、って何を作ってたの?」
オリーブはナディアの側へ行くと、椅子に座っていたナディアの膝に手を付きました。
「あら、オリーブにカイン。これはエプロンよ、オリーブお菓子好きでしょ?」
「うん、好き!」
「これを着て一緒に作ろうかと思って」
「チューリップ?可愛い!」
「オリーブはチューリップの花が好きなようだったから、選んだのよ」
白地にチューリップの柄が入った生地で、ナディアはオリーブに着せるためのエプロンをちょうど手作りしていました。
「あらっ、オリーブまた土いじりしたのね?」
「えっ?手洗ったよ?」
「爪の中が真っ黒じゃない」
そうオリーブは本を読むといいながら実は土いじりをしていて、ほとんど本など読んでいなかったのです。
ナディアはオリーブの爪を見ながらすぐにそれを見抜きました。
「手を出して。取ってあげるわ」
そう言いながらナディアは使っていた裁縫針を取り出し、オリーブの手を取ると爪の中の泥を器用に取りました。
「母様凄い!全然、痛くない!」
「これくらい誰でも出来るわ。ところで何か用があった?とりあえずそこに2人とも座りなさい」
オリーブとカインはナディアの近くのイスに座り、ナディアはお裁縫をやめ2人の方へ向き直りました。
「あのね、母様の魔法が何か聞きたくってきたの」
「そう、私の魔法ね。私は地よ」
「地?」
「もしかしたらオリーブの土いじり好きは、私から来ているのかもしれないわ」
「母様も土いじり好きなの?」
「えぇ、昔はね。でもオリーブほどじゃないわよ」
「そっか!母様も好きなんだ!」
どうやらナディアも昔はオリーブと同じように土いじりが好きで、よくやっていたようです。
すると少し改まった感じでナディアが話し出しました。
「オリーブ聞いて。私の家ブレット家は女系多く、そして皆地の属性魔法なの」
「ずっと?」
「そう。私の母様のその前の母様のずっとずっと前の母様が、エルフだったのよ」
「エルフ?」
「エルフは地の属性魔法なの」
「だから母様も地なの?」
「そうよ。エルフは博学で頭がよく長寿で、そして何よりとても強いの」
「そんな凄い人が、ず〜と前の母様?」
「えぇ、だからオリーブにもその血が流れているわ」
「凄い!エルフはどこに住んでるの?」
「確かニール森林にエルフの里があるって聞いた事があるけれど、いるかどうかは分からないわ。もうずっと誰も見たことがないの」
「そっか。分からないんだ」
カインは側でずっと黙りながら、2人の会話を微笑ましく聞いていました。
ですがそろそろ日が暮れる頃だとナディアは気付き、カインをお家へ帰しました。
カインの乗った馬車を城の入口で見送ると、オリーブはすぐに自分の部屋へ戻りフォーレに話しかけました。
「フォーレ!エルフの里ってどこにあるの?」
「さっきお母様が言ってたでしょ。ニール森林だって」
「それってどこ?遠い?」
「う~ん、馬車なら数日かかるんじない?」
「エルフはいる?」
「いると思うわよ」
オリーブは次に身を潜めながら常に側にいる雷樺に話しかけました。
「雷樺、明日お出かけしよう!」
「うん、オリーブ!」
オリーブは明日、誰にも言わず1人でお出掛けしようと目を輝かせながらある決意を胸に抱き、その日は眠りにつきました。