近づいてきた闇
現在のヘイデン王カーティスの父、つまり先代の王はなかなか子が出来ずにいました。
そして先代の王は自身の子宝に恵まれていた姉に頼み、子を1人産まれてすぐ養子にもらいました。名は『リアムコット』。
ですがその子を養子にもらった翌年にポールが産まれ、さらに2年後カーティスが産まれました。
しかし先代の王は1番上の子供、リアムコットに王の座を譲ろうと考えていました。
姉の子とはいえ我が子同然に思っていましたし、何より兄弟間で揉める事を避けようとしたのです。
リアムコットは見た目こそ良いのですが、親の思いとは反対にとてもひねくれた子供に成長してしまいました。
特に1番下の弟カーティスには、ヘイデンでは珍しい火属性の魔法と言うこともありいつも小馬鹿にしていました。
「お前その魔法なに?しかも、よえーし泣き虫だし何も出来ねーじゃん」
「兄さん…」
「お前みたいなグズ、大した大人になんねーだろうな、ハハハ」
自信家で傲慢、横暴で我儘それは大人になっても変わることはなく、むしろどんどん性格は歪んでいきました。
そして先代の王はリアムコットを王族から外し、貴族に下げました。
「お前は人を見下す。そのような者に王の座などやれん。民に慕われる王にお前では到底なれぬ。よって、ゼラファーガ家から外し姉の姓である『ドーム』を名乗り公爵家として王都に住むがよい。今すぐ城から出るがいい」
先代の王はとても寛大な処置をしました。
しかしリアムコットは納得しませんでした…
『なぜポールが亡くなった後、私ではなくあのカーティスが王になるのだ!あいつなど何も出来ぬではないか!大した男ではない!火などよく分からぬ魔法、気味が悪いわ!この国にふさわしいのは私だ!私こそ正当な王である!私の方があんな奴よりも全てにおいて勝っていると言うのに!娘のオリーブも綺麗に育ったな、何故オリーブのような娘が私の娘でないのだ!まっ、どうせあの男の子供だ、ろくな娘ではないだろうが側室くらいにならしてやってもいい。ちくしょう私に力があればカーティスなどカーティスなど…
んっ?これは何だ?力が湧いてくる!』
その頃、この日は学校が休みで城の部屋にいたオリーブは不穏な空気を感じ取り、フォーレと話していました。
「結界を張ったはずなのに何か感じるわ…、フォーレこれは一体…?」
「もしかしたら結界を張る前から誰かが魔物を取り込んでいたのかもしれない、そしてそれが大きくなったのかも」
「何だか、だんだん近づいてない?」
「こっちへ向かってるみたいね」
「すぐに向かわなきゃ!」
オリーブは雷樺に乗りすぐに部屋を出ました。
すると城の門へと向かって来る禍々しいオーラを放った者を見つけ、側にいたフォーレに話かけました。
「凄い空気だわ、怒りに飲み飲まれてる。もうだいぶ近いし、フォーレどうしたらあの人を救えるかしら?」
「あれくらいなら、オリーブの癒しですぐに救えると思うわ」
「分かったわフォーレ。やってみる」
オリーブは雷樺から降りると、目を閉じ「精霊よ、あの者に癒やしを」と呟きました。
すると辺り一面に草が生え野花が広がりました。
そしてどこからともなく風が吹き小さな花びら舞っています。
魔物はオリーブの癒しの力で一瞬で消え去り、魔物から解き放たれたその者は倒れました。
オリーブは気を失っているその者を精霊に預け、雷樺の背に乗ると王の間へ急いで行きました。
「父様!この方を知っていますか?」
オリーブは王の間へ入ると精霊に預けていた先程の者を床に出し、カーティスに見せました。
いちおう蔦で拘束し身動きがとれないようにしています。
その者を見たカーティスは、一瞬で険しい顔つきになりながら言いました。
「これは、私の兄だ」
「えっ、兄?」
「また兄は何かやらかしたのか?オリーブ」
「えっえぇ、怒りに飲み込まれ魔物になっていました」
それを聞いたカーティスは頭を抱えながら言いました。
「…また凄いことを。ありがとうオリーブ救ってくれて、我が娘ながら感謝する」
「あなた兄って、リアムコットって方の事?」
「あぁそうだ。すぐ何か問題を起こすんだ。だから父は城から追い出した。だがまた問題を起こした。ヒューストン」
「はっ」
カーティスは少し遠くに仕えていたヒューストンを近くへ呼びました。
「後の事は任せる、とりあえず牢にでも入れておけ」
「承知いたしました」
「オリーブ、城にいる友達とカインをここへ連れて来なさい。大事な話がある」
「分かったわ、父様」
オリーブはカーティスと話した後、午前中で学校が休みと言うこともあり部屋でのんびり過ごしていた皆に声をかけ、カインを城へ呼び王の間へ連れていきました。
向かう途中、魔物に飲み込まれた人を救いカーティスの前に持っていったという所まではオリーブは皆に話しました。
「父様、皆んなを連れてきたわ」
「休みだと言うのに呼び出して悪かった」
「父様、さっきの方は?」
「私の兄リアムコットさ、問題ばかり起こすため父が城から追放したのだ」
「そうだったのね、知らなかったわ」
「集まってもらったのは皆知っているとは思うが魔物の件、なぜ出るようになったのかなど分からない事が多すぎる。そこで皆に『ケツァール皇国』へ行って来てもらいたい」
「ケツァール皇国ですか、父様?」
「あぁ、そこには火の精霊王がいる。その方に会い世界で何が起きているのか聞いてきて欲しい」
「火の精霊王ですか?父様」
「火というのは原始の魔法だ。その火を司る精霊王ならば何か知っているかもしれない。行ってきてくれないか?オリーブ。お前の他に適任が見つからん。普通なら会うことも出来ないだろうが、オリーブならば会えるかもしれない」
「もちろんですわ、父様!」
「そして君達4人にはオリーブの御守りをして欲しい。我が娘ながら何をしでかすか分からん」
カーティスはオリーブ以外の皆にそう言いました。
「分かりました陛下!私がちゃんと見張ってます!」
「分かりました」(男性陣3人揃って)
「シンシアにとっても魔物は一大事、火の精霊王に会う事でお互いがに何か得られればと思う」
「そこまで考えて下さり、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ウォルターとアイザックがお礼を言うと、オリーブがさっそくカーティスに言いました。
「父様!皆んなが私の御守りってどういう事?」
「そのままだ、オリーブ」
「酷いわ!」
「勝手にエルフの里へ行きエルフに剣を習うといい、次はエルフの里の野営訓練に出たいといい。留学まで行きこれ以上何かされては困る」
「もう、父様なんて知らない!」
オリーブはそう言い放つと振り返り、さっさと王の間を出ていきました。
「オっ、オリーブどこへ行く!言い過ぎた!詫びる!すまぬ、オリーブ…」
カーティスの声はオリーブには届きませんでした。
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そうしてケツァール皇国へ行くことになったオリーブ達は、あっという間に出発の日となりさっそく向かいました。
ケツァール皇国はヘイデン王国の南に位置し、広大な『セト砂漠』を抜けて行かなくてはならず以前案内をされ行ったことがあるという者がヘイデンの兵の中にいたため、その者に砂漠の道案内をさせ行くことになりました。
オリーブ達は馬車に乗り込み、長い行列を作りながら一行は砂漠へ突入しました。
しかし砂漠へ入った途端『酷い砂嵐』にあい、全く身動きが取れなくなってしまいました。
「砂嵐って凄いのね」
「えぇ、そうねオリーブ」
「いつ止むんだろうね」
「そうね、カイン」
「明日には止むといいですね」
「あぁ、兄さん」
しかし次の日になっても砂嵐は止みませんでした。
オリーブ達は砂漠の中に大きなテントを何個も張り、その中に待機していました。
「今日もここで過ごすのね」
「そうね、オリーブ」
「まっ、これはこれで楽しいわねアリシア」
「オリーブは楽観的ね」
「そこがいい所だろオリーブの」
「いちいちウルさいのよカイン、話に入ってこないで」
「アリシアは子供だな」
「何ですって、カイン」
「それにしてもいつ止むんだ砂嵐は」
「そうだな、兄さん」
ちなみにオリーブ以外の4人は呼び捨てで呼びあうほどの仲になっていました。
* * *
その夜アリシアと2人同じテントで寝ていたオリーブは夢を見ていました。
オリーブは日焼けした肌の似合う妖艶な男性と親しげに話しています。
『オリーブ』
『サラマンダー』
『まだ来ないのかい?待っているのに』
『砂嵐が凄くて先に進めないの』
『カーティスはどうした?一緒じゃないのか?』
『父様は王だから国を離れられないわ』
『そうか、兄が死んだか』
『えぇ』
『オリーブも大変だったね、私が慰めてやろう』
そう言って妖艶な男はオリーブに近付き肩を抱こうとしましたが、オリーブは上手く避けました。
『大丈夫よサラマンダー、ありがとう』
そう言いながらオリーブは少し距離を取りました。
『オリーブは冷たいな。全く砂漠の抜け方かも分からずヘイデンの者は来ようとしているのか』
『えっ?抜け方があるの?でも以前行ったことがある人がいて、その人に道案内をしてもらってるんだけど?』
『その者はきっと火の魔法ではないだろう?』
『火の魔法?ヘイデンの兵士だもの火ではないわ』
『火の魔法の者がいないと砂漠は抜けられないんだ、そこはもうケツァールの領域だからね。そういう結界がしてあるんだよ』
『そうなんだ。でも誰も火の魔法の者はいないわ』
『そうか分かった。君に私の魔法を少しやろう』
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その頃、窓辺に立っていた男は切なげに砂漠の方を見つめながら、呟いていました。
「待っているオリーブ、早く来い」




