湖の底
急にいなくなったオリーブを捜索していたアイリは日が沈んだ頃、岸でびしょ濡れの状態で倒れているオリーブを発見し抱きかかえるとアリシアの別荘へと運びました。
濡れた服を脱がせ丁寧に身体を拭き、着替えさせベッドへと寝せました。
全てが終わった所でアイリが廊下で待っていた皆に声をかけると、すぐに部屋の中へウォルターとアイザック、そしてアリシアが入ってきました。
アリシアはベッドの側へ行くとオリーブがなぜ目を開けないのかと、興奮した様子で言いました。
「オリーブはどうして眠ったままなの?!」
「少しは落ち着け、アリシア!」
「落ち着いて何ていられないわ!」
ウォルターはアリシアの側で落ち着かせようとし、アイザックはベッドに眠ったままの状態のオリーブを驚きながら見ていました。
「あの…、皆様…」
「どうした?アイリ」
「オリーブ様なのですが…」
「何?アイリ!早く言って!」
すると何かに気付いた様子のアイリが話し出しました。
「オリーブ様の魔力を感じられません…」
「魔力を感じないだと?!」
「どういうことですか、アイリ?!」
「私にも何故かは分かりません。ですが眠ったままなのは、それが原因ではないかと…」
「オリーブは魔力を沢山もってたはずよ!他の誰よりも!なのに何故消えるの?!」
「湖に落ちたことが関係あるのか?」
「それは私にも分かりません…」
雷樺は猫の姿になりオリーブの顔の近くで、寝転がりながら寄り添いました。
そしてフォーレは眠ったままのオリーブに話しかけました。
『オリーブ、聞こえる?オリーブ』
『誰?私を呼ぶのは、誰?』
『フォーレよ』
『フォーレ…、やっとフォーレの声が聞こえた』
『オリーブ今あなたは魔力を失い、抜け殻の様になっているわ』
『抜け殻?だから目が開かないのかな。凄く瞼が重いわ…』
『えぇそうだと思うわ。今は眠りなさいオリーブ。少しでも体力を回復するのよ』
『分かったわフォーレ。おやすみなさい』
『おやすみ、オリーブ』
アリシアはオリーブの右手を両手で繋ぎながら、ベッドの側で一晩中泣いていました。
『オリーブ、私はアナタと出会って初めて人の温もりを知ったわ。父様や母様がいない寂しく冷たくなっていた私の心を、アナタが温めてくれたの。だからオリーブがいない世界なんて私には考えられない。どうか目を覚ましてオリーブ…』
しかし次の日になってもオリーブは目を覚ましません。
アリシアはその日、夕方頃までオリーブの側に付き添いましたが、流石に泣き疲れたのか眠ってしまいました。
するとアリシアも誰もいなくなったオリーブの部屋に、今度はウォルターが1人でやって来ました。
『オリーブ、君は最初に会った時からとても可愛らしく私は初めて誰かを守りたいと思ったんだ。だけど君はとても芯の強い女性だった。いつか言ったふさわしい男に私はまだなっていない。これからも君にふさわしい男を、私に目指させてくれ。どうか目を覚ましておくれ、オリーブ…』
そう心で眠っているオリーブに語りかけながら、ウォルターはオリーブの髪を優しく何度か撫でたあと部屋を後にしました。
ウォルターが去ってから数時間後アイザックが誰もいないオリーブの部屋を訪れ、アイザックも心の中でオリーブに話しかけました。
『オリーブ、俺は兄さんと違って不器用だからゴチャゴチャお前に語りかけたり何てしない。だが俺はまだお前に言っていない事がある、だから早く目を覚ませ』
そしてアイザックはオリーブの頬に触れキスをしようと顔を近付けましたが、奥の枕元にいた雷樺に睨まれながら唸られ自分が今しようとしていた事に気付き、我に返ると部屋を出ていきました。
『何だが皆んなの心の声が、たくさん聞こえて来るような気がする…、あれ?』
「魔力、少しだけ戻ってる?」
真夜中オリーブは目を覚まし、ベッドに起き上がると手の平を見ました。
「んっ?違う、これ私のじゃない。雷樺なの?」
「ほんの少しずつしか渡せなくてごめん、オリーブ」
雷樺はオリーブの側から離れず、ずっと自分の魔力を少しずつ分けて与えていました。
そのおかげでオリーブは目を覚ますことが出来たのです。
「雷樺ありがとう。もう十分よ。雷樺もう1つだけお願い」
オリーブは雷樺の背に乗り、湖へとやって来ました。
「雷樺ありがとう、ここで待ってて」
「分かった、待ってる」
岸に着くとオリーブは雷樺の顔を撫でながら、待っててと言いました。
「オリーブ、私は湖に入れない。私の力もここでは及ばない。それでも行く?」
そんなオリーブにフォーレが話しかけました。
「えぇフォーレ、もう1度会って話さなきゃ」
「オリーブの魔力を奪ったのは、水の精霊女王ウンディーネよ」
「あの可愛い子がウンディーネ?教えてくれてありがとうフォーレ、行ってくるわ」
オリーブは意を決し、冷たい夜の湖に入りました。
『水の精霊さん、ウンディーネの所へまた連れて行って』
オリーブはまたウンディーネの所へ行こうとしました。ですが…
「どうしてまた来たの?!こっちへ来るな!」
すぐに湖の下から『水の泡』がオリーブ目掛けて飛んできました。
しかしオリーブはすぐにそれを避けました。
「どうして当たらないのよ!」
その後、何度も何度も水の泡は飛んできましたが、オリーブは全て上手くかわしました。
「どうして?!魔力なんてほとんどないのに!水の中で何故そんなに動けるのよ!」
オリーブはウンディーネの攻撃をかわしながら動き、何と目の前にたどり着いていました。
「私は魔法以外を、家族やエルフの皆んなとたくさん鍛錬してきたの」
「あんなに膨大な魔力がありながら、鍛錬までしたというの?!」
「えぇ、魔力に頼らないようにね、ウンディーネ」
「なぜ、私の名前を?」
「フォーレが教えてくれたの」
「フォーレか…、おしゃべりな実体化も出来ない新米女王だわ」
「ウンディーネ、あなたはずっと1人でここにいるの?」
「そうよ。ずっといるわ」
「ずっと皆んなを1人で見守ってきたのね。凄いわウンディーネ」
「凄い?」
「だって私には出来ないわ、ずっと1人でいるなんて、耐えられない」
するとウンディーネはどこか寂しそうに、目の前のオリーブに話しかけてきました。
「オリーブ、私はお前達の楽しそうな笑い声に羨ましくなった。魔力があり、顔も整い皆から好かれ、何もかも自分と違う気がしてしまった。だけどお前は自身の魔力に自惚れず鍛錬をしてきたのですね…。あの動きを見ればどれだけの事を今までしてきたか想像出来ます。なぜ皆が、お前を取り合っていたのか分かった気がします。私もお前なら依り代になってもいい。オリーブ、お前に魔力を返します」
「本当に?」
「けど何年かしたら、またここへ来て地上の話をしてくれないかしら?」
「いいわ、ウンディーネまた来るわ!」
「楽しみに待っています」
「その時はアイリのお菓子持ってくるわ。とっても美味しいのよ!」
「ふふっ、ならお茶の用意をしておきます。さっ、行きなさい。皆がお前を呼んでいます」
そう言われたオリーブはあっという間に押し戻され、気付くと岸の上に立っていました。
「オリーブ、無事に戻ってきたのね」
「えぇフォーレ戻ってきたわ。今度は濡れてない、というかもう朝ね。雷樺帰りましょ」
オリーブは雷樺の背に乗り朝日を背に別荘へと帰ると、まさにオリーブが消えたと中では大騒ぎになっている最中でした。
ですがオリーブは気にせず玄関の扉を開け中へと入りました。
「皆んな、ただいま!」
「オリーブ様よくご無事で…」
するとアイリが1番に駆け付け、声をかけてきました。
「アイリ、心配かけてごめんなさい。私をここへ運んでくれたんでしょ?アイリの温もりを分かっていたわ。ありがとう」
「オリーブ様、何というお言葉を…魔力も戻られたのですね…」
「あっ、そうだった。精霊さん魔力見えない様にしておいてね」
オリーブが精霊に話しかけていると、ウォルターとアイザックも近付いてきました。
「オリーブ!帰ったんだね」
「ウォルターただいま」
「オリーブ!どこ行ってた?」
「ちょっと湖に行ってたの」
「湖?なぜ?」
「それは話すと長くなるから後で話すわ」
「ところでアリシアは?」
「アリシアならオリーブを心配し、付きっきりで側にいたせいか疲れて寝てしまっているよ」
ウォルターにそう言われたオリーブは、アリシアの寝ている部屋へと入り寝ているベッドの側へ行き、そして優しく声をかけました。
「アリシア、ただいま」
「んっ?朝?って、オリーブ!目が覚めたのね!」
「えぇ、アリシア心配かけてごめん」
「そんなのいいの!オリーブがいれば!」
抱き合いながら喜ぶ2人を、部屋の入口で王子2人は微笑みながら見ていました。
そしてシンシアの王都への帰りの馬車の中、オリーブは皆に経緯を話していました。
「湖の底で人魚の女の子に会って魔力を奪われたの。それで抜け殻になって眠ってしまったみたい」
「湖の底に人魚がいたの?」
「えぇいたわ、まだ子供だったけれど」
「何だ子供か…」
「それは残念だ…」
「いやらしい王子達はほっときましょ。それでどうなったの?オリーブ」
「雷樺が魔力を少し私に分けてくれてそれで目が覚めたの。その後すぐに湖に行ったわ」
「それで湖に入ったのね?」
「そう、そしたらその子アリシアの言った通り、水の精霊女王ウンディーネだったの」
「ウンディーネ!」
「ウンディーネが本当にいたのですか?」
「マジかよ、オリーブ」
話を聞いていた3人は驚いてオリーブに聞きました。
「1人でずっと湖の底にいて寂しかったみたい。だから何年か過ぎたらまた来て地上の話をしてって言われたわ」
「そうだったの、ウンディーネは孤独だったのね。分かったわ、今度は一緒に湖の底へ行きましょう!」
「アリシアも?」
「たくさんいた方が話も弾むわ!ウンディーネもきっと喜ぶわよ」
「そうね今度は2人で行きましょう、アリシア」
「私達は?」
「いいのかよ」
「女同士の会話に、男はいらないわ」
「確かにそうかも」
「オリーブまで断るなんて」
「傷つくぞ」
そんな4人で過ごす、楽しかった旅行はあっという間に過ぎて行きました。




