白い子猫
この日オリーブは、お城の大好きな広い中庭で土いじりをしていました。
するとどこからか小さな鳴き声が聞こえ、オリーブはフォーレに話し掛けました。
「フォーレ、何か聞こえない?」
「えぇ、聞こえるわ」
「鳴き声?赤ちゃん?」
「向こうの方じゃないかしら」
フォーレの言った方向にオリーブが行くと、そこには可愛らしい『白い子猫』がいました。
「可愛い!あなたどこから来たの?」
子猫はとても怯えた様子で身体も汚れていました。
オリーブは撫でようと手を出しましたが、子猫はすぐに離れて行きました。
どうやらあまり人に慣れていないようです。
ですが寂しいのか、少し離れた所からオリーブの様子を伺っています。
「あの子怯えてた。でも近づいて来ない。だからこのまま離れない距離で土いじりするわ」
「ほっといていいの?」
「母様が猫は気まぐれだって言ってた。でも寂しがり屋だから、ほっとけば向こうから近付いてくるって」
「そう、でもあの子…」
「何か言った?」
「いいえ、後で分かると思うわ」
「んっ?」
「気にせず続きをしなさい」
「は~い」
フォーレは子猫の事を何か言いかけましたがやめました。
そうしてオリーブがまた土いじりを始めると、いつの間にか子猫はオリーブの側に来ていました。
オリーブは声を出さずにそ~っと手を出し子猫の顔を撫でると、子猫は安心したのかその場でゴロンと横になり撫でさせてくれたのです。
その後、子猫は少しずつオリーブに慣れていき抱っこ出来るまでになりました。
「フォーレ、この子凄く可愛いわ!」
「そうね、でもどうするの?」
「親もいないみたいだし、飼いたいって言ってみる」
「許してくれる?」
「父様は優しいから大丈夫だとは思うけれど、問題は母様ね…」
オリーブの母ナディアはお嬢様育ちで世間知らずな所があり、新しい物を受け入れるまでに少し時間がかかるのです。
オリーブの思った通り子猫を抱きながら母ナディアの部屋を訪ねると、「汚いから部屋に入れないで」と言われてしまいました。
「もう母様ったら、追い出すなんて!」
ですがオリーブには考えがありました。
ナディアは部屋には入れるなと言いましたが、飼ってはダメとは言わなかったのです。
「どうするの?」
「大丈夫、母様は絶対に猫嫌いじゃない。だって前に飼ってたって言ってたもの」
そう言うとオリーブはすぐに自身の部屋の浴室に行き子猫を洗い、ついでに自分も土いじりで汚れた身体を洗い、濡れた子猫と自分を乾かして綺麗にしました。
「これでよし!」
「本当にこれで大丈夫なの?」
「きっと大丈夫。これで母様も気に入るわ」
そしてまた母ナディアの部屋を訪ねると、今度は部屋へ入れてくれ子猫も飼っていいと言ってくれたのです。
「まぁ見違えたわね、目もお空の色のように青く澄んでいてとても綺麗だわ」
「毛並みも真っ白で綺麗なんだよ」
オリーブの言った通りナディアは猫が好きだったようで、ただ汚れていたから部屋に入れたくなかっただけのようです。
「でも、この子に私は触れないわ」
「どうして?やっぱり猫嫌い?」
「違うわオリーブ、とても可愛いわ。だけど…、よく見て」
「えっ?何を?」
「この子から電気が出てるでしょ?このピリピリって静電気の様なもの。見える?」
そうナディアに言われたオリーブは、抱いていた子猫の身体をよく見てみました。
「あっ、本当だ!何か出てる!」
「この子は猫ではなくて、精霊獣じゃないかしら」
「精霊獣?」
「聞いたことがあるの、精霊獣は幼い時うまく自分を隠すことが出来ないって。大人になれば自分の力をコントロールして身を隠すことが出来るらしいわ。猫はこんなに静電気を発生させないもの。この子どこで見つけたの?」
「お城の中庭だよ」
「何でそんな所に居たのかしら?不思議ね…」
「精霊獣って凄いの?」
「凄いってもんじゃないわ!一生見る事も出来ないくらい珍しいわ!」
「ふ〜ん」
「この子から出ている静電気が痛くて私が触れないのが悔しいわ」
「痛いの?」
「オリーブは平気なの?」
「うん、平気!」
「何故か分からないけれど、オリーブを守っている不思議な力がその子の静電気を吸収しているのね。前に森の精霊女王フォーレが側にいるって言ってたから、その精霊のおかげだと思うわ」
「そうなんだ、フォーレありがとう」
「私からもフォーレ様ありがとうございます、どうかこれからも娘を何卒よろしくお願い申し上げます」
「ずっと側にいるから安心してって言ってる」
「なんて勿体ないお言葉を…」
この後ナディアが号泣してしまったため、オリーブは自分の部屋へと戻りフォーレに話しかけました。
「フォーレ、この子は本当に精霊獣なの?」
「そうよ精霊獣よ、白獅子の精霊獣」
「白獅子?」
「えぇ、精霊獣の中でもあまりいないわ。かなり大きくなるんじゃないかしら」
「大きくなるの?楽しみ!」
「ところで名前は付けないの?」
「名前?」
「オリーブが親になるんだもの。名前つけてあげなきゃ」
フォーレにそう言われたオリーブは、頭を悩ませて考え始めました。
「そっか、今考える。う〜ん…、お城の中庭で…、花の中で見つけた…、静電気…、よし!ライカ、あなたは雷樺よ」
「雷樺?」
「そうよ、ってあなた話せるのね?」
「うん、だってずっと飼ってくれるか心配だったから」
「大丈夫、安心して。ずっとここにいていいわ。あっでもまだ父様に言ってないけど大丈夫だと思うからいいわ。どうせ後で母様が話すだろうし」
そんなこんなでオリーブは白獅子の精霊獣雷樺を飼うことになったのです。
雷樺はオリーブを母の様に慕いとても懐きあっという間に大きく成長し、それはまるでホワイトライオンのようになりました。
そして自在に猫のように小さくなったり身を隠したり出来るようになり、どんどん力をつけていきました。
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雷樺が暮らしていたのは王都から遠く離れた森の奥深く、そこには精霊獣の父と母そして兄弟達がいました。
雷樺は1番下の末っ子として産まれ、雷樺だけ毛の色が真っ白でした。(※親や兄弟は皆んな灰色)
そして雷の力を持っていたのも雷樺だけでした。
「何でお前だけ毛の色が灰色じゃないんだよ。それに何か痛いから近づくな!」
他の兄弟からそう言われた雷樺は、あまり一緒に遊んでもらえずにいました。
しかし母は雷樺を痛がりながらも側に寄り添い子育てをしたので、母の愛はちゃんと知っていました。
父は家族を一歩離れた距離から見守り、雷樺はそれなりに幸せに暮らしていました。
ですがそんな雷樺の家族を、遠く離れた場所から見ている人間のハンターがいました。
そのハンターは視力がとてもよく、僅かですが精霊の気配を感知することが出来ました。
もちろん雷樺の父も人間に気付いてはいましたが、まさか人間が精霊の気配を分かるとは思わず特に警戒もしていませんでした。
しかしハンターはそのことも知っていて、とてもゆっくり雷樺の家族に近付いてきたのです。
『あそこに精霊獣の子供が何匹かいるな、全部は無理だろうが1匹くらいならいけるか…』
精霊獣は幼い子供の頃、あまり力をうまくコントロール出来ません。
なので子供が大人になるまで家族皆で過ごすのです。
大人になり力をつければ身を隠す術も覚えるのですが、まだ幼い子供だった雷樺は身を隠せず身体も兄弟の中で1番小さかった為、ハンターに襲われてすぐに捕まってしまいました。
『こいつ静電気持ってんのか、痛て〜!これは高く売れるかもしれないな(笑)』
あっという間に家族はバラバラになってしまい、雷樺は1人だけ袋に入れられ連れ去られました。
ハンターはその後森を出ると、何日もかけヘイデンの王都へとやってきました。
『ここなら金持ちも沢山いるし、お前を高値で買う奴もいるだろうよ。そうだな飯もやってねぇし1度様子見るか』
そう思いハンターが袋を開け雷樺を取り出しましたが、静電気を持っている雷樺に触れ手に電流の衝撃がビリビリ走り、思わずハンターは雷樺を離してしまいました。
そして雷樺は何が起こったのか訳が分からずに一目散に逃げ、お城の中庭に隠れていたのです。
こうしてオリーブと出会い逞しく育った雷樺(※性別は♂)はオリーブを側で守ると心に決め、今日も猫になりオリーブにたっぷり甘えていました。