表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

〈声が届くからこそ願うこと〉花丘蔵小編


 長い時を経てもまだ形になっている物には心が宿る。人はそれをつくも神と呼ぶ。

 少なくとも、白蛇はそういうものだと教えられた。他でもない、人間に。


「おーい、にょろ、お前達は物を食べられるのか?」

『にょろじゃなくて白蛇だよ。白蛇は食べなくても大丈夫』

「あー、そうじゃなくて、さ」


 白蛇にこっそり話しかけてくるのは商人だという胡散臭い男。彼は斜め上を見上げながら頬を掻いた。商人にしては身嗜みが雑で物に対する扱いもちょっと雑。しかも、たまに白蛇の根付を落としたりもする。

 よりによって、こんな人間に教わってしまったことは一生の不覚。つくも神は半永久的に存在するのだから未来永劫ついて回るのだろう。この悔しさというか、残念な気持ちが。


「おーい、にょろ、聞いているのか?」

『なに? にょろじゃなくて白蛇だよ』

「そうか。それよりホレ、これは食べられるのかって聞いているんだ」


 差し出されたのは団子の串。白蛇はそれを見て少し考えた。食べられるか、食べられないか。それは白蛇にも分からなかった。


『分からない』

「じゃあ、食べてみろ」


 むに、と差し出されて白蛇は少しだけかじった。ちょっと串の先が刺さって痛かったけど、団子はほんのり甘い。つくも神は食べ物を食べられる。食べ物は神の理。これ真理。


「美味かったみたいだな。花飛んでいるぜ」

『はっ、一多呂(いちたろ)ごときに見られるとは不覚っ』

「お前、たまに俺に失礼だよな」


 そんなこんなでそれなりに楽しく過ごしていた江戸の初め頃。白蛇はとうとう、今まで目を逸らしてきたものに向き合わなくてはならなくなってしまった。

 すなわち、白蛇を質に出した武家の家族がいないひとりぼっちであるという事実と。


「にょろ、最近元気ないな」

『放っておいてよ。一多呂』

「いつもの反論がこないとは……にょろ、病気か何かなのかっ!? 何かしてやれること、あるか?」

『うるさいよ、一多呂。白蛇は別に病気じゃない。ただ、ちょっと、さみしいだけ』


 ぽつりと本音を漏らしてみれば、商人の男はあ~ともう~ともつかない声を出して頭を掻く。


「にょろが前の持ち主のことを大切に思っているのは俺だって分かっているさ。大切にされてもいたんだろう」

『うん……屏風さんに刀さん、鎧さんもいたの。だけど、白蛇が話せるようになる前に別れちゃったから。それに、次の持ち主を大切にしなきゃ』

「屏風に刀、鎧ねぇ。ま、にょろはつくも神ってやつなんだからこれからいくらでも時間があるわけだ。いつかはまたにょろの家族と会えるんじゃねぇの」

『会えるかな?』

「会えるだろ。そもそも、会いたいと願うことが罪ってわけでもねぇし。願っていればいつか叶うだろ。ってか、にょろの次の持ち主ってつまりは俺のこと。俺を大切にしてくれるんなら俺もにょろを大切にするぜ? 新しい家族となろうや」


 その言葉に白蛇は思わず目が潤んでしまったのは一多呂にも秘密のこと。

 その後、一多呂はしれっと白蛇の家族を集めてくれたりしたけど、その頃には一番の家族は彼だった。でも、それは彼自身には伝えていない。

 白蛇はこれからも花丘一多呂の家族であり、彼の子孫を見守っていく所存である。これが白蛇の根付の重い愛なのだ。



          Fin.



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本編はこちら↓
 『蓮華原市のあやかし奇譚』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ