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21 主人公消滅

「嘘っ!? 葵姉ちゃん!?」



 ペルセウスのブリッジにて美歌がモニターに映る葵が消えて行く様を見て叫んだ。

 この世界に来てから知り合ったとは言え歳も近く数か月ずっと一緒に旅した友達であり仲間だった。

 美歌にとって本当に頼りになって親しい姉とも言える存在だった。

 それが今、消えた。葵はもう戻って来ない。

 あまりのショックに彼女は腰が抜けたかのようにその場にへたり込んだ。



「くそっ! くそっ! くそっ! 失態だ!! 最初から僕も行っていればこんなことには……!!」



 景保は自分の頭にあった烏帽子を握り潰しブリッジの壁を何度も手で叩く。

 彼は葵と入れ替わりにブリッジに転送されていたのだが自分の不甲斐なさや見通しの甘さにやり場のない気持ちをぶつけるしかなかった。

 景保にとっても葵という存在は自分に無いものを持っていたし、年下で目を離すと何をしでかすか分からないびっくり箱のような少女だった。

 しかしその前向きさと正義感は決して間違っておらずいつも中心にいて見習うべきところもいっぱいあった。

 彼女をフォローしようとしてついつい背伸びをしようとしたことだってあった。

 この場にいるプレイヤー全員がかけがえのない存在ではあるが、その中でも一番欠けてはいけない人物だと認識していた。

 なのに脱落させてしまった。



「こんなんもう無理やん……」


『美歌ちゃん……』



 座り込む美歌を心配してテンが自分の頬を彼女の頬にぴったりと付ける。

 美歌の喪失感を考えると寄りそうことが精一杯のテンなりのフォローで彼ですら掛ける言葉が見つけられないでいた。

 葵とは口喧嘩をよくしていて反りはあまり合わなかったが本気で嫌っていた訳ではないし、美歌にとって成長を促してくれる大事な役割だった。


 ブリッジ内は重い沈黙で支配されていた。

 誰も泣いていないのはあまりのショックやモニター超しというどこか絵空事を見ているかのようで現実として受け止め切れていないせいだ。

 頭では葵が死んで退場してしまったのは分かっても、まだ生きているんじゃないかという希望的観測が多分に存在していた。



「おい! さっき出した雷みたいなのであのデカブツ攻撃しろよ!」


『許可出来ません。なぜならそれをすれば攻撃対象がこちらになる確率が大だからです。私の最優先目的はマスター権限を持つ船長、ならびに登録された乗員を守ることにあります。よって攻撃は致しかねます』


「クソ船が!」



 怪我や自分のルーツで衝撃を受けていたことから回復したツォンがガイドAIに当たり散らす。

 彼の提案自体はまともだった。現在の最高火力はこのペルセウスのみ。

 それでもゴーレムたちのように氷の盾で防がれれば元々は隕石の破壊用や原生生物の駆除程度を目的として造られた攻撃ユニットなので通用しないのは目に見えていた。



「だったら私も外に出るからぁ攻撃してくれるかしらぁ?」


『それなら可能ですが先ほどと違い動く物体相手への攻撃となるとオートだけでは不十分です。全兵装を使うのであれば砲手として乗員の補充を求めます』


「それってつまり……」


『高確率で沈むこととなるこの船と共に残る方が必要です』



 ペルセウスの砲撃は当たれば有効打になりそうではあるものの氷の盾で無効化されるばかりではなく、反撃された時には全くの無防備になってしまう。

 リムが使ったまさに天災クラスの術を放たれれば撃沈は免れない。

 そんな船に残るということは死と同義だ。さすがに名乗り出る者はいなかった。

 


「……船は逃げた方がいいでしょう。僕が外に行きます。葵さんの代わりになんてなれないかもしれないけど彼女の抜けた穴は僕しか埋められない」


「景保兄ちゃん!?」


 

 この景保の意思はまさに死に自ら挑むようなものだ。

 いつも冷静であり続けようとする景保の言葉とは思えず美歌が過敏に反応する。



「馬鹿野郎! お前がリィム様を見つけ出すんじゃなかったのかよ? 今更お前が行ってなんになるんだ!」


「……分かりません。でもここでブリッツさんたちを見捨てることも出来やしないでしょう。それにこの時点でリィム様が自ら姿を現さないのであればもはやそれを見つけるのは不可能だと思います」


 

 アレンのなじるような引き留めにも景保の気持ちは変わらいらしい。

 景保はガイドAIに視線を向ける。



「来たばかりで申し訳ないですが僕を再び下へ転送することは可能ですか?」


『可能です』


「景保兄ちゃん!」



 二人のやりとりに泣きそうな顔をして美歌が割って入る。

 景保は少し悲しそうな顔をして美歌に優しく微笑みかけた。



「君はこの船でアレン君たちと可能な限り離れるんだ。巻き込まれるかもしれないからね」


「なんでや! なんでみんなうちを一人で置いていこうとすんの!? そんなこと言って欲しいんとちゃう! うちは無理でも一緒に行こうって言って欲しいんや!!」



 美歌の言っているのは霙大夫戦で逆転の何かを探すためとしてジロウに体のいいように遠ざけさせられたことだ。

 あの時点では美歌は気付いていなかったが、後でそれがジロウなりの気遣いだったと知って美歌は仲間外れにされたようだし子供扱いされたようでもあって憤慨した。

 怖いものは怖い。でも一緒に行こうって誘ってくれるのなら守られる存在ではなく、みんなと横に立って一人前だと認められた気にもなる。そうすればきっと震える足だって踏み出せるはずだ。

 美歌はそう言いたかった。



「それは……」


 。

 なんとか誤魔化そうと思ったがそれでは意味が無さそうだと思い景保は言葉を途中で切った。

 所在なさげに視線を振ると美歌の手が軽く震えているようでそれを見て景保は彼女の目をもう一度交わした。



「――君が足手まといだからだ」


「そんなん……」


「カゲヤス!」



 言われて美歌は悲しそうに眉を八の字にして絶句し、代わりにそれを見ていたミーシャが声を上げる。



「訂正はしません。現実は非情です。ここで見ているだけなのに震えている子供になにが出来るんですか? 足を引っ張らないようにしてもらうのが最善ではありませんか?」


「だからってそんな言い方ないでしょう!」



 死なないというのも結局、リムが言っているだけなので本当のところどうなのか分からない。

 仮にそうであったとしても痛みはある。誰も好き好んで死にに行こうなんて思うはずがない。

 だからこそ300メートルを超える絶対的強者を前に恐怖するのは当たり前だ。

 戦隊もののヒーローがロボット無しに巨大化した敵に挑むシーンなんてあるはずがない。なぜなら勝てないからだ。

 今は怒りに感情をわざと塗り潰しているが本当は景保も逃げ出したいぐらいの気持ちである。


 だからこそ。だからこそあえて景保は美歌に強く言った。

 巻き込ませないようにと。



「ミーシャもういい。やめとけ。戦いに赴く戦士を侮辱するな」


「アレン!?」



 意外にもアレンに止められミーシャは余計に混乱した。

 


「カゲヤス、自暴自棄になった訳じゃないんだな?」


「もちろんです。とにかくまずは僕が加勢してあのコピー彼方を倒す。そうしないとジリ貧になるから行くんです」


「ならいい。不甲斐ないが俺たちじゃあマジであんなもん相手にどうすることも出来やしねぇ。それに俺らは冒険者だ。依頼主と依頼を守ることが仕事だ。悪いが……」


「分かっています。みんなを頼みます」


「約束は出来ねぇが俺に出来る限りのことはさせてもらう」



 アレンには分かっていた。景保がわざと強く美歌に当たったことの意味を。

 彼もまたカッシーラでそうして大切な仲間たちを守ろうとしたのだから。



「では後のことはお任せしました」



  そうして短い会話の間に転送の準備が整い景保は絶望的な戦場へと身を投じた。



□ ■ □


 心地良い。私は今、海の上をゆっくりと凪に身を任せたゆたっている。

 ぬるま湯のような朝の二度寝の瞬間のような半分覚醒して半分寝ているみたいにとてもリラックスしていた。

 重力からも解き放たれて肉体や人間関係という枷やしがらみすらもない。

 そんな無の極致にいる。


 ここが天国というやつだろうか? 天国……? あれ? 私って死んだんだっけ?

 思い出せ。なんで私はこんなところにいるんだ? 何をしてなぜ? ……そうだ、私は!



「あれ? ここどこ?」



 気付いたら白い空間にいた。

 さっきまで海の上を漂ってたのにワープさせられたかのように二本足でしっかりと真っ白な地面を踏み締めている。



「やっと起きたー! 頑張ったねぇー葵ちゃん!」


「え?」



 この空間を頭を振って眺めていると上から小さな妖精みたいなのが降りてきた。

 大きさはバスケットボールぐらいだろうか、薄い羽で羽ばたいてホバリングしている。

 その奇妙な生物が日本語で話しかけてきたのだ。



「お疲れのようねー? 無理もないかー。あーんな大きな相手と戦って最後は刺されちゃったもんね!」


「大きな相手……刺されて……あっ!」



 思い出した。

 そうだ、私はリムと戦って最後は彼方さんのコピーに倒されたんだった。

 


「戻らなきゃ!」


 

 そう、戻らないといけない。みんなが待ってる。

 例えどれだけ勝ちの目が小さくったってみんながまだ頑張ってるはずなんだもん。私だけ退場って訳にはいかないよ。



「戻るー? どうやってー?」


「それは……分かんないけど……。っていうかあなた誰? ティンカーベル?」


「違うよぉ! まぁ覚えてないのは無理ないけどねー」


「覚えてない? どっかで会ったっけ?」



 くるくると回ったりしてせわしない目の前の妖精を観察しながら記憶を探ってみるも全然覚えがない。

 私にこんな不思議生物の知り合いがいたら絶対に忘れないはずだ。

 赤ちゃんの頃とかは無しだよ。そんなの絶対覚えてらんないし。

 でも妖精なんてなぁ。あっちの世界のどっかでニアミスしてたりしたのかしら?


 

「あららー、これは当たりそうにないわねー。仕方ない教えてあげる。私の名前は『リィム』よ」


「はい? え? ええ?」


 

 私が考え込んでいるとすぐに痺れを切らして名乗り出した。

 けれどまさか握れば潰れそうな小さな妖精が自分のことをリィムとか言うなんて……。

 ギャグ? ドッキリ? まさか本当に?



「本当よー、失礼しちゃうわねぇ。私があなたたちをあの世界へ送ったの。実はその時に一回会ってるのよ? まぁ記憶は消させてもらったけどねー」



 記憶を消したとか物騒なことを軽い感じて言ってくれる。


 

「えぇ……そんなこと急に言われても信じられないわよ」


「じゃあちょっとだけその時のこと思い出させてあげる!」



 リィムと名乗る妖精が指を回転させるとそれが何か魔法のポーズだったのか私の頭の中の何かが晴れていく感覚が生じた。

 なぞなぞの問題の答えが分かった時みたいな脳細胞が活性化して冴えていくかのよう。

 


「なにこれ? あ……え……ホントだ……」


「でしょー? 無理やりはよくないからね、ちゃあんと面接して希望者だけを送り込みたかったのよ」



 私の記憶の中に確かにこの子と会話した覚えがあった。

 そうだ、あの大和伝のクエスト中に押し入れの中から落ちてそしてこの白い部屋に辿り着きここで出会ったんだ。

 


「『そこのあなたー、異世界転移してみないー?』って声を掛けられたんだっけ?」


「そうそう。今なら無料でしかも大和伝のキャラで行けるから絶賛お得だよーって言ったね」



 ノリが軽過ぎて信用しきれなかったけど出来るものならどうぞって感じで承諾したんだった。

 


「なんで記憶を消したの?」


「私の目的はあっちの世界の様子を見てきてもらいたかったの。でもね、『リィムちゃんにお願いされて来ました』なんて覚えてたらつまらないでしょ? 真っ白な状態で冒険を自由に楽しんでもらいたかったのよー! 私って人間が好きだからー!」


「人間が好き、ねぇ?」



 よく分からない説明だ。

 それに確かにこの子とのやり取りは記憶にあるけどそれと信用していいかは別の話。



「そうよー。1000年以上前にあっちであの子たちに会うまで私は一人だったの」


「ん? どういうこと?」


「私はね、あなたたちよりは万能ではあるけれど全知じゃないのよ」


「いや余計に訳分かんないって」



 会話が噛み合ってない。

 いや途中の説明を省かれてるって感じかな?



「私はある日ふと一人で生まれたの。あなたたちと違って親や兄弟なんてものはいない存在なのよ。この姿だってあっちの世界にいた時だって全て仮初めよ。本当はこのアカシャの海にいるアストラル体なの」


「へ?」



 リィムがしゃべっている途中で白い空間が突然さっきいた穏やかな大海原に変わる。

 不思議なことに波の上に立っていても沈まない。リィムのおかげだろうか。



「ここはね、宇宙の全てが集まる場所なの。魂が宿った生物が死ぬとここに来て蓄えた記憶や経験を洗い流されそしてまた別の生物へと生まれ変わっていく。どの宇宙でもどこの世界でも例外はなく全員がここにやって来るけど何人(なんびと)もここでのことは覚えていない。ここはそういう次元なの。魂の終着上であり発着場。そして全ての経験と知識が貯まる場所でもある」


「はぁ」



 生返事を一つ零す。

 いやだって理解が難しいんだもの。



「ここで魂の行き来を眺めている間にね、私の仲間っているのかな? って思ったの。そして三次元世界へと降りて同胞を探したのよ。ずーっとずーっと長い気の遠くなるほどの時間をね。さすがに私も疲れちゃってとある星で休憩していたの。そしたら『人間』だちが船に乗って降りてきた。それが始まり」


「あ、景保さんから聞いたやつかなそれ。1000年前に開拓船に乗ってきた人々がリィム様と出会ったってやつ」


「そう! 私ってこのアカシャの海にアクセス出来るから知識はあるんだけどそれも望まないと手に入らないのよねー。訊けばなんでも答えてくれるパソコンを持ってるって感じかな。空は空、植物は植物、それまではそれしか思わなかった。でもあの子たちは空の動向を見て明日の天気を知り、植物を育て糧とする。私は驚かされたわ!」



 それってそんなにすごいことなんだろうか?

 いや誰にも教わっていなければそりゃ分からないか。

 知識があっても知恵が無いみたいなもの?



「その中でも私を虜にしたのは空想のお話! 人間って何にもないところから色っっっんなストーリーを作るのよ! 楽しいお話、悲しいお話、怖いお話。とりわけモンスターという異種族と戦うファンタジーというジャンルに心が踊らされたわ。私はもう仲間探しなんて興味が無くなるほどに人間という存在を愛したの! ――だからモンスターという生物も作ったわ」


「え? 今なんて?」


「あり得ない進化を遂げ多種多様で人を凌駕する特異生物たち。それをお話だけじゃなくって現実に作って放ったらどうなるんだろうってワクワクしちゃった!」


「いやそんな料理してる時に思い付きで適当な材料入れてみましたみたいなノリで言われても。それでどれだけの苦労や不幸が生まれてると思ってるの?」


「もちろん苦しみだけじゃないわよー? ちゃあんと魔石っていうあの子たちの作った機械を動かす動力源も核として埋め込んだわ。モンスターを倒して機械を動かして魔石を消費したらそれを元にまたモンスターが生まれるというサイクルを作り上げたのよ。偉いでしょ?


「いや全然」


「ちなみにあの子たちは私に気に入られようとして機械をファンタジーっぽく作り直したわ。それが魔導具。私もいくつか真似て作ったけどね、使用者の負担が大きいから途中でやめたわ」


「っていうか人間を愛したんじゃないの? そのモンスターのせいで人死にが出るんだよ。矛盾してない?」


「だから言ってるでしょ。私は人間の全てを愛しているの。愛する人との赤ん坊が生まれる喜びも、愛する人を惨殺され失意に沈む絶望も同じぐらい素晴らしい幸福感。あなたたちの一喜一憂する姿は可愛くて可愛くて表も裏も喜怒哀楽も全部を肯定し私は()()()()()()。」



 さっと今、血の気が引いた。

 赤ん坊程度しかないサイズで妖精みたいな見た目のくせしてやはりこいつは異質だ。

 私たちの常識とは違うベクトルにいて、私たちをペット……いや実験動物程度にしか思っていない。そう感じた。



「狂ってるわ」


「狂う? それはあなたの矮小な価値観ね。おかしいと思うことこそが偏見と差別によるものよ。葵ちゃんが生きて教わったルールやマナーなんてあっちの世界では通用しなかったことも多いでしょ? そんなものはただの自己満足よ」



 確かにあっちの世界じゃ常に命の危険と隣り合わせになっているから死生観とかはズレがあるかもしれない。

 でもだからって本質的なことは変わらないはずだ。

 誰もが人に優しくしてもらいたいし、してあげたい。ただその余裕が少ない。それだけの話だと思う。



「そんな考えだから反発されるのよ。聞いてるわよ、科学者さんたちと揉めたんだって」


「魔術のことね。数世代以上続くと無理やり魔術を使えるようにした反動と齟齬が遺伝子に生じることは分かってたわ。でもそれでもいいって言ってきたのはあの子たちよ? 負債を後回しにしても私の使う力に憧れ魔術という万能感に浸りたかったんでしょうね」


「他人事みたいに!」


「ふふ、だからね私はあの世界に管理者を作って別のところに行くことにしたの。新しくやり直したらどうなるんだろうって思ってね。そして辿り着いたのがあなたの世界」


「え?」



 どういうこと? 彼方さんの話では突然このリィムがいなくなったってことだったけど、その後に私たちの世界にやってきた?

 管理者ってリムのこと? どんどんと疑問が湧いてくる。



「あの子たちより文明レベルが低いからちょうど良かったのよ。まずモンスターを世界中に生み出して反応を見たわ。その後は魔術師になって剣を授け12人の騎士を抱く王にしたり、強さを求める騎士にゲッシュや魔術を教えたり、無二の親友を(そそのか)して裏切らせたり様々なことをしたわ。今でも本とかに残ってたりするんでしょ?」


「ちょ、それ本当!?」



 それが本当ならこいつ、マジで私たちの世界にも干渉しまくってんじゃないの?



「いくつものドラマを見させてもらったわ。悲劇も喜劇も全てが最高だった! でもねー、文明が進んでどんどんと私の作ったモンスターたちは駆逐されていっちゃった。そのうちにインターネットっていうのが出来て私の興味はさらにそっちに傾いたの。次々に新しいことが更新されるネットの海を泳ぐ。全く退屈しなかったわ」



 ここまで話してきて何となく分かった。こいつは子供だ。何千歳、ひょっとしたら何万歳かもしれないけど中身は成長しないままの子供でしかない。

 悪意はないのだろう。でもそれは善意の押し付けにしか過ぎず相手の気持ちを慮れない未熟な生き物。それがリィムなんだ。



「それでね、今度はゲーム作りに目を付けたの。オンラインゲームの中は私が理想としたファンタジー要素がぎゅっと詰まってる。ちょうど人間に追いやられたモンスターたちの荒ぶる魂も鎮めたかったしね」


「??? ……まさか!」


「そう、全部じゃないけど霙大夫のようなボスや玄武たちみたいな存在は私が生み出し過去に排除されたモンスターたち。あなたたちのご先祖様たちが頑張って倒したのよ。でも長く生きたり強力な力を持つと魂の在り方が変質しちゃってこのアカシャの海に来れなくなっちゃったの。だからゲームという媒体を使って戦わせ恨みや想いを昇華させていた。リムにはそれを利用されちゃったけどね」



 あいつらや玄武たちが本当に過去にいたって? 無茶苦茶だ。

 もう言ってることとやってることがもう次元が違い過ぎる。

 こいつは神様じゃないにしても腹が立つことに本当にそれクラスの能力があるんだ。



「私、あなたのこと好きになれないわ」


「かもねー! でも私は気にしない。私が楽しめればそれでいいの! アハハ!」



 リィムはくるりと翻り空中でダンスを踊る。



「私をあっちの世界に戻して」


「それは無理ね」


「なんで? あなたならそれぐらい出来るんじゃないの? きっと面白いものが見れるよ」



 こう言えばこいつの性格なら乗らざるを得ないはずだ。

 こんなやつに頼らないといけないのは嫌だけどそれしかないなら何だってやってやる。



「ふふ、本当に面白い。何度やり直しても同じことを言うのね」


「ん? どういうこと?」


「あなたがもう一度あの世界に戻りたいと言うのはこれで1()1()0()7()2()()()())」



 何を言っているんだ? 私はここに来たのは初めてだ。

 記憶が消されてたっていうのもあるけど1万とかはさすがにないでしょ。



「あなたの言っていることが分からないわ」


「さっきも教えたけどここは魂の終着点にして発着点。全ての宇宙と繋がっている場所。葵ちゃんたちがあっちの世界で死んだらここを通って魂が元の世界に戻るの。それを拒否して私に頼み込んで最初から()()()()()()()()


「そんな訳……」



 そんな訳ないと言い掛けた口が止まった。

 記憶を消せるやつだ。それぐらい出来るのかもしれない。



「リムと戦うところまで来れたのは実は今回が初めてだったのよ。八大災厄戦での奇跡的な勝利? 違うわ、何千回も殺されリトライしたおかげで魂に経験が蓄積し刻み込まれていったおかげ。でもそれには限度がある。葵ちゃんの魂は擦り切れ潰され搾られもうボロボロのスカスカなのよ。あとはこの海に消えて他の魂と同化して別人として生まれ変わるだけ」


「うっ……」



 急に頭痛と目まいがし出した。

 体中が熱にうなされたように熱く意識が保っていられない。

 膝はガクガクと力が入らずたった数秒で全身に汗が吹き出す。



「あらら、時間がきたようね。今回がラストチャンスだったの。だからね……()()()()()()()()


「あ……」



 すでに自分の感覚がない体が途端に水のように溶け出した。

 立つどころか自分という形も保てずそのまま崩れてそして地面の海へと吸収されていく。



「葵ちゃん、あなたの魂をしゃぶりつくせてとっても堪能したわ。でもね永遠の別れよ。バイバイ、楽しかったわ」



 そうして私という存在は全ての次元から消えてしまった。

プロローグで都市伝説みたいなので「妖精が~」って言ってたのがリィムです。

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