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16 愛を奏でるモノ

「な、なんなの……!?」



 突然ワープさせられたと思ったらオリビアさんがミーシャやクレアさんを襲ったとしか思えない状況を見せられ困惑するしかなかった。

 


「やっぱりこんな感じになっていましたか。あまり不要な殺生はしないで下さいよ『ハイディ』さん」


「大丈夫。ちょっと静かにしてもらってるだけよぉ」



 彼方さんが知り合いみたいにオリビアさんに話し掛ける。

 ん? ハイディ? どこかで聞き覚えが……。



「嘘!?」



 見ている間にオリビアさんの姿が別の女性のものへと変化していく。

 たわわな胸に紫の長い髪、それはカッシーラで少しだけ同道したハイディさんだった。



「改めてご挨拶するわぁ。『女神の使徒(リィムズアポストル)・序列第四位『人の横に潜むモノ』ハイディよ。この姿ではお久し振りね」



 ハイディさんはこの惨状を作ったにも関わらず日常会話のようににっこりを笑みを浮かべる。

 それがあまりにも異常で混乱に拍車が掛かっていく。



「この姿? どういうこと!?」


「彼女も天恵持ちです。能力は【変貌(メタモルフォーゼ)】。実は帝国領内に入ったあたりから本物のオリビアさんと入れ替わってあなたたちと一緒にいてもらいました」


「は!?」



 彼方さんの説明があってもすんなりと理解が及ばない。

 ずっと一緒にいた? え? え?



「なら本物のオリビアはどこ!? オリビアに何かしたのなら絶対に許さない!」



 私が呆気に取られている間に胸の位置にある傷を苦しそうに手で抑えているミーシャが叫んだ。

 そうだ。これが偽物なら本物のオリビアさんは……。



「安心なさい。特に何もしていないわぁ。まぁ領境い近くで軟禁状態ではあるけれどねぇ。教会としても元シスターを傷付けるのは本位ではないからぁそこは信用してもらっていいわよぉ」



 帝国領内から入れ替わっていたってことは半月ぐらい前からってこと!? いやでも思い起こすと違和感みたいなのはあったか? 



「あ、まさか?」


「そうよ、巨大蜂(ジャイアントビー)の卵の件やあなたたちが宿屋に泊まっているところを密告したのは私よぉ。教会としてはこの『玉奪の儀式』を起こさせるためにサミュ王子を引っ張り出したかったんだけど、侯爵様とそこのリグレット王子の手前協力するフリはしないといけなかったのよねぇ」



 てっきり騎士連中の誰かが勝手にやったと思っていたのに、まさかこの人の仕業だったのか。

 こっちは彼方さんの裏をかくつもりだったのに全てが手の平の上で踊っていたのではないかとすら感じてきた。



「なぜ? そこまでしてあなたたちは儀式を利用してここで何がしたいの?」


「まぁそれは全員が集まるまで待ちましょうか」



 彼方さんが言い終わった直後に次々と他のメンバーたちが転送されてくる。

 美歌ちゃんと何かでかい動物……なんだあれ?

 そしてボロボロになって片膝を突いている鈴鹿御前。


 ガルトとかいう大男とお腹に穴を空けてほぼ死に掛けているツォンとこれまた立っているのもやっとなアレン。

 ちょ、ツォンがガチでやばくない!?


 最後はいい感じにどちらも傷だらけのジロウさんとブリッツだ。



「な、なんやねんここは!?」


「美歌ちゃん、説明は後! クレアさんとかもろもろが死に掛けなの! 回復を!」


「え? わ、分かった! ―【降神術】少彦名命(すくなびこなのみこと) 薬泉の霧―」


 

 ひょっとしたら邪魔されるかもって思って彼方さんを警戒したが彼は無反応だった。

 すぐに回復の霧が辺り一面に漂いみんなの傷が塞がっていく。ただあっちのメンバーのブリッツと鈴鹿御前の怪我は治らないままだ。



「ちっ! もう少しだったのによぉ! タイミング悪すぎだぜ!」



 ガルトとかいうおっさんはむしゃくしゃして剣を床に叩きつけ始めた。

 なにあれ、キャラ変わってない? 前はもっと余裕面な感じだったと思うんだけど。



小娘畜生(こむすめちくしょう)! 小娘畜生(こむすめちくしょう)! 小娘畜生(こむすめちくしょう)! 小娘畜生(こむすめちくしょう)! 小娘畜生(こむすめちくしょう)! 小娘畜生(こむすめちくしょう)! 小娘畜生(こむすめちくしょう)! 小娘畜生(こむすめちくしょう)! わえによくもこんな傷を付けてくれたなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』



 鈴鹿御前はもっとひどかった。

 髪を逆立て目がすわっており、憎悪と憤怒の鬼と化していた。

 もはや会話が成立しそうになくぞっとする。



『ははん! ワイの超必殺技食らって死なんかったんはお前が初めてや! まぁ初めて撃ったんやけどな!』



 美歌ちゃんの傍らにいた四本足の獣がからかうように関西弁でしゃべる。

 ちょっと声が野太くなっているけどすごく聞いた声だった。あれってひょっとしてテン? めちゃくちゃ大きくなってるんだけど向こうで一体何があったんだろう。

 なんかもう場がカオスだ。


 

『殺す殺す殺すぅ! わちゃくちゃにすり潰してやるぞこの畜生ぉぉぉ!!』


「そこまでです。一旦、矛を収めて下さい」


『はぁ!? わえに意見すんな――うっ……』



 ピタリと彼方さんの長刀が鈴鹿御前の首筋に付けられ、さしもの彼女も黙るしかなかった。



「どうです? 頭は冷えましたか? まぁ怪我をしているから怒りっぽくなるのは無理ないですね。美歌さんは……さすがに頼めないか。おっと失礼」



 話している途中に彼方さんが虚空を操作して中断する。

 おそらく通信が入ったんだ。けど誰が? プレイヤーはこの場に全て揃っているはずだ。いないのは景保さんぐらい。でも彼が彼方さんとフレンド登録しているとは思えない。



「丁度良い。ハイディさん、()()が霊廟まで来たようです。こちらに転送してあげて下さい」


「仕方ないわねぇ。霊廟の前にいる人間をここに送ってもらえるかしらぁ?」


『了解しました。転送開始します』



 頷くガイドAIによってすぐに光の円が描かれそこに現れたのは金髪巨乳のお姉さんだった。

 しかし格好がおかしい。これは――プレイヤーか!?



「ス、ステファニー!?」



 その人物を見てジロウさんが仰天して声を出した。

 ステファニー? って景保さんたちと一緒に行動してた海外のお姉さんだよね。どうしてその人がここに来るの?



「さっそくですがステファニーさん。彼女らの傷を治してあげて下さい」


「分かりまシタ ―【舞楽術】詩歌管弦(しいかかんげん) 癒しの調べ―」



 ステファニーさんの持つギターから発せられる心地良い音色が室内に響渡り、徐々に鈴鹿御前やブリッツなどの傷が回復していく。

 ただなぜかガルトにだけは効いていないようだった。彼は布で自分の腹に無理やり巻くだけの処置をする。あんまり痛がってなさそうだから見かけよりは軽傷なんだろうか? それとも天恵?



「ステファニーお前まさか?」



 その音楽を聴いている間に呆然としていたジロウさんも少しずつ正常の意識が戻ってきたらしい。

 信じたくないような表情でステファニーさんに確かめる。

 聞かれた彼女は目を逸らし、代わりに彼方さんは口を開いた。



「お察しの通りステファニーさんは僕らの仲間ですよ。女神の使徒(リィムズアポストル)・序列第一位『愛を奏でるモノ』」


「嘘だろ!? お前までもか!!」



 これに即座に反応したのはやはり彼女と少しの間、一緒に旅をして過ごしたジロウさんだ。あまりのことに語気も荒い。

 対してステファニーさんは相当にばつが悪いのか聞いていた彼女の明るい性格とは真逆で、唇を噛んでジロウさんの糾弾に苦しんで耐えているかのようだった。

 そして彼女を庇うのは彼方さん。



「ステファニーさんをあまり責めないであげて下さい。序列一位とされていますが純粋な意味での教会の手先とは違うんですよ。単に教会の理念と彼女のやりたいことが合致して功績が大きいからそう付けられただけに過ぎないんです」


「どういうことだ?」


「ステファニーさんはこの数か月、たった一人で世界中を飛び回り傷付いた人を癒し、モンスターに苦しむ人々を守ってきました。彼女のおかげでこの世界の人は数百人どころかもっと多くの人が助かっています。その彼女が教会に籍を置くのは弱い人を助けるために教会の財源を利用したり支援を受けやすいから。ただそれだけです。その証拠にあなたたちの邪魔や妨害など一切しなかったでしょう?」


「それはそうだが……」


「だけど教会側もステファニーさんを自由にして出資する代わりに一つ条件を出しました」


「条件だと?」


「ええ、来るべき時が来たらその力を貸して欲しいと。それが今です」


「一体なんなんだそれは? ここに何があるというんだ!?」



 ジロウさんの問いに彼方さんは小さく頷く。

 


「ここはね、この世界の始祖が乗ってきた船だそうです」


「始祖?」


「そう。今から千年以上前に他の星からやって来た人間たち。それが今この星に暮らす人たちの祖先です。少し長い話になりますが聞いて頂きたい」



 ガイドAIが確かにそんなことを言っていた。

 ただそれを知っているのは私とかクレアさんたちだけで、ジロウさんや美歌ちゃんはその時にいなかったから純粋に驚いている。



「彼らはこの星に移住してきてある生命体と出会いました。それが『リィム』。彼女は明らかに私たちが知っている人間とは違う生物だったようです。いや生物と言うのも当てはまるのかどうかも怪しい。この船のコンピューターが言うには『超次元生命体』と呼称されているようです。彼女は本当に何でも奇跡を起こし、物資に乏しいやって来た人間たちの願いを叶えていったのだとか」


『ええ、そうです。リィムとはそういう存在でした。人間にとても友好的――いえ、溺愛していたと言っても過言ではありません』



 ガイドAIが彼方さんの話を肯定し信憑性が増していく。

 


「何がキッカケか何がしたかったのかは分かりませんが、人間が魔術を使えたりこの星にモンスターが現れたのも彼女の仕業らしいです。ちなみに天恵はリィムが与えた魔術という恩寵の突然変異だとか。そうして人間とリィムの蜜月はずっと続くかと思われた。しかしそうはならなかった」


『人間側の一部がリィムは自分たちを堕落させゆっくりと滅亡を望む悪魔だと言い出しました。彼らが言うには魔術が使えるように体を書き換えられた人間の遺伝子構造がおかしくなっていて、何世代も後に崩壊を起こす危険性があると示唆したのです。しかし万能の力をもらった多くの人間たちは貸す耳を持ちません。そこからリィムを信奉する者と排除しようとする科学者たちの間で水面下の大乱が幕を開けました』


「反乱側は地下などに施設を造りリィムの目を逃れて戦闘人形を大量生産していきました。そして信奉側はリィムから与えられた魔術の力を使いその人形と造り手を根絶する血で血で洗う悲惨な戦いです」


「お、おいそれって……俺が聞いた吟遊詩人の歌のやつに似てるぞ」



 話の途中でアレンが口を挟んだ。

 なんかそんな話もあった気がする。



「千年も前のことなのと、人間同士で争ったという恥部として消された過去。つまり黒歴史のようなものなので知っている人は教会の幹部以上を除けばごく一部でしょう。私もこの立場になってから明かされた秘密です」



 そう彼方さんが付け加えた。



『ただでさえ少ない人口がさらに減る中、科学者側は禁忌とも言える行動に出ました。それは科学者側が労働力として自分たちのクローンと獣の遺伝子を掛け合わせ強靭な素体を作り出したことです。それが『獣人』と言われている個体です』


「ば、馬鹿な!? だったらライラたちは人口生命体とでもいうのか?」



 これに黙っていられなかったのはジロウさんだ。

 彼が最も身近に獣人たちと接してきた。その彼らが科学でとは言え作られたものだとはショックだろう。



『元はそうです。中には人間と交わった者もいるでしょうし、さすがに何世代も重ねると一つの種族とも言えるでしょうが。ちなみに何を思ったのかリィムがそれに対抗して作ったのが『ペランカラン』という個体たちです。獣人を遥かに超える身体能力と目が赤く変貌するのが特徴です。ただしなぜか弱点も多くこれはどうやら人間たちの星に伝わっていた逸話を元に生み出したようですが』


「はぁ? ざけんな! 今度は俺らが作りものってか? ヨタ話はそこまでにしろやクソが!」



 傷が回復してとっくにピンピンしてたツォンが苛立たしげに露骨に噛み付く。

 気持ちは分かる。自分が純粋な生物ではなく誰かに生み出されたなんて信じたくない話だ。それが科学どころか今度は神様の魔法で生み出されただなんて納得しろという方が無理だ。

 というかここに来て本当に色々と暴露してきたな。どうなってんの異世界。


 周りを見渡すとこっちのメンバーはみんな新事実のオンパレードで何を信じていいのか困り果てている感じばっかりだった。



『信じるかどうかはお任せします。ただ私はこの船に残されたメモリーを読み上げみなさんに分かりやすいようお伝えしているだけに過ぎません』


「それで? 戦いは結局どうなったの?」



 話の流れで気になるのはそこだ。

 私の質問にガイドAIは語りを続ける。



『最終的には科学者側が敗走しました』


「敗走?」


『そうです。そのままではどちらかが息絶えてしまうリスクを避けたのだと思います。彼らは自分たちで作った船に乗ってこの大陸から出て行きました。それと同時に二つの異変が起こりました。一つはこの大陸を囲むようにワールド・エンド(断罪の壁)という出入り不可能な不可視のフィールドエネルギーが張られたこと』


「聞いたことありませんか? この大陸以外の大陸や島などが発見されたことがないという話を」


「それって遠くまで船で離れようとすると海のモンスターに襲われるやつじゃないの?」



 だいぶ前にアレンがそんなことを話していた。

 その時は船の上だとモンスターに襲われたら抵抗し辛いし無理もないのかなって思ってたけれど。



「確かにモンスターも関係ありますね。しかしモンスターを何とかしても出られません。そういう強固なものらしいです。これは二つ目の話にも関係してきますのでガイドさん二つ目をどうぞ」

 


 彼方さんに促されガイドAIが小さく頷く。



『二つ目の異変はリィムがいなくなったことです』


「いなくなった?」


『ええ、忽然と彼女はこの星から姿を消しました。理由もどこに行ったのかも不明です』



 目的とか意味が分からない。

 まさか人間が死にまくって自分のせいだと自暴自棄になって逃げ出したとか? それとも力を使い果たした?



「ただし、リィムの代わりに女神の代行者を名乗る者が現れました。彼か彼女か分かりませんがそいつは自分のことをリム・ファミリア(女神の下僕)と言い、どこからか()()()()()()しています」


「は? え? 監視?」


「えぇそうです。おそらくこうしているやり取りも全て聞かれているでしょう。だから表立ってあなた方に詳細を話すことができなかった。唯一の手段は天恵で直接伝えるケースですね。それを使って教会は私やステファニーさん。それにブリッツさんに真実が伝わり教会の手伝いをしようと思ったのです」


「そんなことしなくても私たちだけが使える機能は? 例えばメニューのメールとかあるじゃん。それで伝えられたでしょ?」



 彼方さんが言っていることは無茶苦茶だ。もしそうだとしてもメールとか何かあったはずだもの。

 フレンド登録しないと使えないけどこんな大掛かりなことする必要なんてない。



「それも危険でした。何せこの世界に着いて最初に送られてきたメール、それこそがリムのものですから。そして魔石奉納、これもリムが追加した機能です。だから大和伝の機能も掌握されていると考えた方がいいでしょう」


「え、マジ!?」


「マジです。そしてアイテム欄に入れられたポーションですが絶対に使ってはいけません。あれを使うことにより確かに帰還出来るようですが、その肉体が触媒となり代わりに大和伝のキャラクターを召喚することになります」


「大和伝のキャラクター?」


()()()()()()()です」


「なっ!?」

 


 途端に寒気がした。思考が追い付かないが本能が得体の知れない気持ち悪さを体中に走らせた。

 そして彼方さんはその目線を鈴鹿御前に向ける。



「彼女もその過程で呼び出された一人ですよ。さらに言うなればあなた方の戦った『土蜘蛛姫』『霙太夫』もそうです」


「は!?」


 

 私もそうだが美歌ちゃんやジロウさんもあんぐりとして口を開けて驚くしかなかった。

 だって、じゃあなに? 土蜘蛛姫は誰かがポーションを使ったせいで呼び出されてあの村の人たちが全滅したっていうの?

 そういえばギルド長が異変が起きる前に村に『変な格好の男がいた』という証言があったと話してたっけ……。あれってフードで顔を隠した怪しいやつって意味だと思ってたけど、大和伝の装備だったってこと!?



「え、じゃあ霙大夫は? あの場にプレイヤーが他にいたっていうの? そんなのあり得ないでしょ!」


「違ぇよ」



 横から私たちの会話を聞いていたブリッツが短く遮ってきた。

 その表情は少し暗く、そのまま続けて口を動かす。



「あれは――()()()だ」


「え……」



 もうダメだ。思考がストップ寸前。そろそろ脳がパンクするよ。



「後から霙大夫が出現した位置にいた生き残りの教会信者の証言があった。闘技場から出て行った名無しがそこでポーションを飲むところを見たんだよと。あの時は結界の外にいるからだと思っていたが、戦いが終わってからもずっとフレンドリストにあるあいつの名前は灰色のままなんだ。だから彼方の言っていることはおそらく正しい」



 ブリッツに元気がない理由が少し分かった気がする。

 喧嘩別れしてしまった名無しが起こしたあの騒動に対して自分に責任感を感じているからだろう。

 もしあの場で感情的にならずなだめていたら霙大夫は現れず、街に被害は出なかったかもしれない。

 でもそんなのあの時の私たちに分かるはずがないよ。



「プレイヤーと入れ替わったボスは他にも何体かいましたが話が通じた鈴鹿御前さん以外は私とステファニーさんで全て退治しました。まぁポーションを使ったプレイヤーのレベルに応じてや多少はランダムのようなので八大災厄ほどのボスが他にはいなかったのが救いでしたね。王国からの旅路の途中に村人が入れ替わった村を見ませんでしたか? あれは不用意にポーションを使って帰還したプレイヤーのせいで入れ替わりに現れたボスモンスターに村人が殺された村です。そんなことを公表する訳にはいかなかったので教会は代理の村人を住まわせて無理やり隠蔽しましたけどね」


「ちょっと待て。そんなことなぜ分かる? お前が勝手に言ってるだけじゃないのか?」


 

 ジロウさんが疑うように彼方さんを問い詰める。

 ここまで証拠はない。彼が都合の良い嘘を言っているだけの可能性もあるにはある。



「リムはリィムがいなくなった千年以上前から教会の指導者や幹部たちに啓示という形で指示を与えてきたからです。だから今でも多少のやり取りがあり私が確認しました。まぁ私が嘘を言ってるかどうかは信じてもらう他にはないですが」


「それはそうだな。まぁいい。まだ話したいことがあるんだろ? 話の腰を折ってすまなかったな」


「いえ。ここからが本題です。先の大戦で生き残った大陸の人間は散り散りとなって小さなコミュニティを築きやがて国にまで発展します。そしてリムは神を気取って国同士のいざこざを巧みに操り人口増加を防ぎ、時には大襲撃(モンスター・パレード)という形で数千匹のモンスターをけしかけ街を潰し、さらには発明家など暮らしの発展に寄与する者を暗殺させてきました。おそらくは人類の停滞が目的なのでしょう。大量のモンスターを操る能力があり、教会は人々を人質に取られたようなもので大を生かすために小を切り捨てる判断を長い年月強いられてきました。しかし、さすがにもう限界。教会の現最高責任者の教皇は突然この世界に現れたイレギュラーである私たちにリム討伐依頼を頼んできたのです」



 みんながざわざわとし出す。

 今まで敵だと思っていた教会が実はそうでもなかった? なんかもう訳が分からない。こんがらがり過ぎ。



「何をどうしたらいいのかさっぱり分からないわ」


「うちもや」



 美歌ちゃんもお手上げのポーズをするし他のみんなもそんな感じだった。



「待て、肝心の儀式はどうなる? 余は鍵を取られてしまったのだが?」



 サミュ王子の指摘に、あっ、と思い出した。

 そうだそうだ。ここには儀式のために来ているんだった。急にセンセーショナルな話が入ってきたからすっかり忘れていたわ。



「お好きにして下さい。本来、帝国の王様が就任した時や今回のような儀式で霊廟に訪れるのは今話したこの星の歴史を学ぶためのものです。そして自称代行とは言え神様が後ろ盾にいる教会との繋がりを明確にするだけもの。あなたのお父上あたりからなぜか教会に反発されたのですけどね。おかげでリムに目を付けられ教会に暗殺の指示が下りました」


「っ! やはり父上も兄もお前らが殺したのか!」


「ごめんなさいねぇ。リムに服従した振りをしないと大量のモンスターをけしかけられ町の一つや二つは簡単に蹂躙されるのぉ。今回の儀式も船の指揮権を奪い取るために単純な王位継承争いとその利権に絡む教会という図式に落とし込んでリムの目を眩ませなければならなかったのぉ」


「そんなのは体のいい言い訳だ! 兄上は本当に素晴らしい人だったのに! それを……!」


「もちろん許されるものではないことは承知しているわぁ。だから恨んでもらって結構よぉ」

 


 彼方さんに向く憤りを逸らすようにハイディさんが横から口を挟んできた。

 そりゃそうだ。いくら必要だったとか他を守るためだとか理屈を言われても自分の肉親を殺した組織を憎くなって当然だ。特にお兄さんのことはだいぶ慕っていたみたいだし。



「返す言葉はありません。私はそういうのには加担していませんがお叱りは戦いが終わった後に気の済むように責めて頂いて結構です」


「戦いだと? これ以上何を……」



 あれ? あれあれ? なんか引っかかる。あ、そうだ!



「ねぇ、目を眩ませって言ったけど昨日、私のところに神様からメールがきたの。内容は鍵を使ってここへの転送方法。ひょっとして彼方さんの、というか教会のその思惑ってバレてたんじゃない?」


 

 今まで何の反応もしなかった神様がいきなり昨日に限って転送方法なんてドンピシャな情報を私たちに送ってくるなんて自然じゃない。

 それはつまり彼方さんたちじゃなく、私たちに協力する意図があったということだ。

 今の話を聞いたらそれは彼方さんたちを勝たせたくなかったという意味があるんじゃないだろうか。



「なるほど。いきなり転送方法を知っていたので妙だとは思っていました。亡きアーティー王からミュリカ王妃経由で伝わっていたのかとも思ったのですが。ですが一応想定の範囲内です」


「本当に?」



 彼方さんは少しだけクスっと笑ってメガネを指で上げる。



「では見て頂きましょう。ハイディさん外の映像を出するように言って下さい」


「分かったわぁ。ねぇガイドさん、外の映像って出せるかしらぁ?」


 

 彼方さんが今度はハイディさんに話を振る。



『可能です』


「じゃあ大陸北部、大きいのが何体かいるからぁそれを映して頂戴」



 言った途端に目の前に大きな映像スクリーンが投影された。

 私たちは漫画とかアニメでこういうの知ってるからそこまでだけど、この世界の人たちには刺激が強いようで驚いて言葉も出ないみたいだった。



「あれを見て下さい。この数か月の間に掘り返して戦力としたものです」


「え? あれって!? 嘘!?」


 

 彼方さんがスクリーンに指を差し、そこに映っていたのはなんと私と美歌ちゃんで倒したあのカッシーラを襲った巨大ゴーレムたちだった。

 数は4体。それらが広々とした平原に列を作っていた。



「さぁそろそろこちらも動きましょう」


「そうねぇ。ガイドさん、あそこまで行けるかしらぁ?」


『了解しました。()()()()()()()()()()


長-い説明会です。


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