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2 届いた手紙の差出人は

「それで君が教会から派遣されてきたという戦力か……」


「そうですが何か?」



 サミュたちが城で大暴れし引き上げた後、城内の貴賓室に彼方ともう一人の大公であるパラミア・ミュズールとグラミスも引き上げていた。

 全ては筋書き通り。もちろん暗殺に成功してサミュが途中で野垂れ死ねばそれが最良ではあったが、唯一予想外だったのはあの屈強な近衛騎士すら子供のように扱い手玉に取る護衛()たちの存在。さすがに鎧を着たプロの戦闘家を子供が投げ飛ばすのは悪夢を見ているかのようだった。

 そんな人間と戦わないといけないのに裏で繋がっている教会から戦力として送られてきたのが思ったよりも優男だったことにグラミスは内心肩を落としていた。

 天恵など見た目では強さは計れないこともあるだろうが、やはり第一印象というのは大事らしい。特に下手をすれば数百年以上前から暗躍しているとされている女神の使徒(リィムズアポストル)という物騒な肩書であればもっと凶悪であったり、どこかまともな人間から逸脱した者だという印象があったのに服さえ着替えればそこら辺にいる一般人と大差なく見えてしまったのが原因だろう。



「いや、こう言っては失礼かもしれないが思ったよりも細い体をしているのだなと思ってね」


「あぁそれはよく言われます。でもそこは任せてもらって大丈夫ですよ。たぶん僕はこの世界で最低でも二番目ぐらいには強い人間でしょうから」



 彼方のその不思議な言い回しに益々グラミスは眉間に皺を寄せる。


 騎士団や荒っぽい連中の中には「自分こそ最強」「正々堂々と戦えば誰にも負けない」などとのたまう人間は多い。

 もちろん体を張る職業であればそれぐらいの意気が無くてはいけないとグラミスも思うのだが、得てしてそれは自分を鼓舞しているだけに過ぎずむしろ本当に強い人間ほどあまり誇張しない。事実のみを話すし、グラミス個人としても客観的に自分を見れている人間の方が好ましく感じる。

 けれど彼方の言い回しはどうも妙で真意を図りかねづらかった。


 当の彼方も特に驕ったふうにも見えず、さりとて気を悪くもしておらず余計に困惑する。

 そこにパラミアが髪を弄りながら口を挟む。



「大丈夫さね。卿は見ていないだろうが、大扉での立ち回りは私がしっかりと目撃した。この男は強いよ。むしろ私が欲しいぐらいさ。どうだい? 今のところよりも良い待遇を必ず約束する。うちへ来ないかい?」


「いやはや、その申し出はありがたいのですが、まだ入ったばかりですしさすがに不義理な真似は出来ないですね。申し訳ありません。まぁでもしばらくして一段落すればその時にまた検討させて下さい」


「ふぅん、断り方が上手いじゃないか。じゃあとっとと勝たないとねぇ」



 彼方の言い方には義理人情が含まれていた。報酬のみで動く者は簡単に寝返る。だから義理固い人間というのは上に立つ者としては貴重で欲しくなるものだし、そういう言い方をされれば無理やり引っ張ろうという気にもなれない。

 パラミアは胸の内でさらに彼方の評価を上げる。



「まぁ君が強いというのは承服しよう。しかし一人だけなのかね? さすがに精鋭の二、三小隊ほどはやって来ると思っていたのだが」



 事は王の椅子を懸けた決戦だ。しかもグラミスは隠しているが、玉奪の儀という誰もが忘れかけていた盤面をひっくり返す古いしきたりを彼に伝えたのは教会側だった。

 連絡員からそれを聞いた時に彼ですらはっとしたことは未だに覚えている。

 その事の発端で協力関係にある教会から送られてきたのが一人とあっては意図が見えなかった。



「いえ、後から合流する手筈になっていますよ。ただ今はまだ色々と準備中でして。儀式が始まるまでには到着すると思います」


「そうか……ならば構わないがこれは公の行事でもあり、国民からの注目度も高い。ルールとして参加できる人数も五十名までと決められている。元々が戦時中などを想定したものであるからあまり身内での消耗は好まれておらんのだ。だから可能であれば早く来てもらいたい。もちろんこちらでも選りすぐりは用意させてもらうが」



 自分で言いつつも元々、グラミスは近衛騎士の中から選ぶことを想定していた。

 しかしながらそれではいささか心もとないのはすでに理解させられている。だから教会側に頼りたくなる発言をしてしまっていた。



「駒に不自由しているのならアタシから出そうじゃないか。優秀な人材は冒険者問わず揃えているよ」



 先ほど彼方を誘った通り、パラミアは気に入った優秀な者をスカウトするきらいがある。それは冒険者など荒事用だけでなく、文官から屋敷の庭師までに及ぶ。

 貴族としての家の力はグラミスに一歩劣るが、個々としての能力の高さはむしろ自分の方に分があると彼女自身も自負しているほどだ。



「そうだな。十名ほど見繕っておいてくれ」



 とグラミスから託されパラミアは口角を上げた。


 今のところ彼女はグラミスの共犯者ではあるものの、やはり主犯格はグラミスなのだ。

 リグレット王子が王となれば傀儡政権としてやりたい放題できるうま味も、どうしてもグラミスより薄くなる。

 だからこそここで恩を売れるというのは彼女にとって非常にプラスになることだった。



「ところで僕はその玉奪の儀というのを初めて聞くのですが、勝算はどれほどで?」



 そんなやり取りを横目で見つつ、彼方が訊く。


 当然、彼方は教会からリグレット王子派が勝つために送られてきた刺客である。

 いざとなれば無双する気ではあるものの、陣営の事情や戦力は把握しておきたかった。

 彼方自身も以前は短期決戦だったので押し切ったものの、もし葵たちが持久戦の構えで粘られれば一人では敵わないかもしれないという危惧は抱いていたためだ。

 まぁそのために切り札としてブリッツを仲間に付けたのだが。



「勝算か。もちろん勝つつもりではあるよ。というかそもそも儀式が始まる前に不戦敗で終わるかもしれないがね」


「どういうことですか?」



 グラミスの語るその意図が読めず彼方はオウム返しに訊く。

 少なからず陰謀の匂いはした。



「ま、おいおい話そう。色々と布石は打ってあるのだよ」


□ ■ □ ■


「ん? メール? 誰からだろ? んーと、景保さんからだわ」


「あれ? うちも来たで。一斉送信かな?」



 果物を絞ったジュースを飲みながら宿屋のベッドの上に座ると同時にメールを受信。

 美歌ちゃんの方にも景保さんからのたぶん同じ内容のメールが送られてきたみたいだった。

 

 お城での大立ち回りから一日経ち、城下町の宿に部屋を借りた私たちは護衛を継続しつつ一旦の休憩をしていた。

 本当はお城に部屋があるにはあるらしいんだけど、さすがに敵の懐で休むというのも心が休まらないし外に出ることと相なったのだ。

 サミュ王子に付き添って牢屋に入れられていた騎士たちは解放されてものの、根回しをされたのかもう戻って来なかった。

 なので人数が足りず私たちとアレンたちで交代しながらの警戒態勢だ。まぁこの体は三日ぐらい徹夜したところでとうってことないぐらい頑強だから別にいいんだけど。

 

 ウィンドウをタップして受信ボックスを開いてメールを開く。



『ブリッツさん離反。洗脳の可能性アリ。彼方さん側に付いた』



 短くそれだけ書いてあった。



「ぶほぉっ!」



 思わずジュースが喉に詰まり吹き出してしまう。

 あー、飛び散っちゃって手がベトベトだ。



『小娘、汚いやっちゃな。もうちっとお上品に吐けんのか?』



 上手いこと飛沫を避けたテンが文句を言ってくる。



「急にむせたのにお上品も下品もないわよ! てかこれ、美歌ちゃん!」


「うん、うちも今見た。ちょっと信じられへんねんけど。何かあったんやろうか?」


「景保さんに直接訊いてみるわ!」



 すぐさまビデオチャットを景保さんに掛ける。

 しかし十コール以上しても出ない。おかげで強制的に切れた。

 システム上、戦闘中の場合もあるので呼び出しは十コールで切れるようになっている。

 少し待ったけど向こうから掛け直してもこない。

 あ、またメールが来た。



『少し考えたいことがある。連絡はメールのみでお願い』



 えぇ、どうなってんのこれ!?

 あぁもうだったら今度はブリッツよ。って、そういや私はフレンド登録してないんだった。


 ちょうどそんなことを考えていると、バタンと乱暴に部屋のドアが開く。

 入ってきたのは血相を変えたジロウさんだった。



「おい、嬢ちゃんたちメール見たか! どうなってんだ?」


「ちょちょちょ、見ました! 見ましたけど! 女子の部屋に入るのにノーノックはやめて下さいよ!」

 

「えー、孫と変わらん年の子供が何を言って……悪かった。儂が軽率だった。だからその構えている枕を置け。な?」



 美歌ちゃんとシンクロするようにベッドの枕を振りかぶって投げる寸前で止まる。

 そんな茶番している場合じゃなかったわ。



「ジロウさんブリッツと連絡していましたよね? 昨日とかどうでした?」


「いや特に何にも変わらん感じだったぞ。まぁ儂らの場合はいちいちビデオチャットって感じでもなかったからずっとメールのみだったが。しかも最近は同じ内容のばかりだから毎日じゃなくて数日置きではあるが」 

 

「ちょっとビデオチャット送って下さい」


「分かった」



 ジロウさんが虚空をウィンドウで操作するのをしばし待つ。

 十数秒しても変化が無い。ついにジロウさんが頭を横に振る。

 つまりそれは――



「本当なのかしら。ブリッツが裏切ったなんて」


「短い付き合いではあるがあいつはそういうやつじゃないと思ってるんだがなぁ。どっちかっていうと裏切られる方で、仲間がいるなら最後まで残るやつだろう」



 それは私も同意見だった。

 男気は通すタイプだと思う。特に自分たちよりも年下の私たちを置いていくどころか敵対するとは考えにくい。

 でも景保さんの言うことであれば信憑性もあるんだよなぁ。

 どっちを信じるべきなんだろう? どっちも顔見てしゃべれないし、あー、分かんない。



「景保兄ちゃんの勘違いってのを信じたいけどなぁ。メールのみってことは景保兄ちゃんも落ち込んでるんとちゃう? 質問責めにしたいけどうちは可哀そうな気がする。もどかしいなぁ」



 美歌ちゃんも浮かない顔をして何度もメールの文面を見直していた。



『あーちゃん、だいじょうぶ?』


「分からんない。でもありがとう豆太郎」


『あはは、もっとしてぇ!』



 私の手に頬を摺り寄せてくれる豆太郎の両前足を持って抱き上げ、私からも頬ずりで返してあげると途端に手足をバタバタさせて喜んでくれる。

 悩ましいことは全部放っておいて豆太郎の可愛さに忘却させてもらっていいかな?



「まぁ、ブリッツにはこっちからメールでも送ってみる。その反応を見てから対応しても遅くないだろう。とりあえず今は――」



 ジロウさんがしゃべっている途中で廊下から顔を出してきたのはクレアさんだった。

 彼女は今、サミュ王子の味方となってくれそうな人間を探しつつ、『玉奪の儀』とやらのルールも調べていた。

 それにアレンたちも付いていて、朝からみんなして走り回っているようで大変だ。

 でも私たち(プレイヤー)にはこの街の土地勘やコネもないし、役立てることと言えばサミュ王子の護衛しかない。



「今戻った。話があるから少ししたらサミュ様の部屋に集まってくれ」



 その表情はあまり良い報告ではなさそうなことを予感させていた。


 少ししてサミュ王子の部屋にみんなで集まる。

 手持ちのお金も潤沢でないため、普通のより少し大きい目の部屋だ。

 贅沢というよりかは、広い方が人が配置しやすく守りやすいため。まぁそれでも総勢八人とお供三体が集まるとかなり窮屈なことになっているんだけど。


 取り囲まれているクレアさんから説明が始まる。



「ではまず儀式についての報告から始める。概ねは既に伝えてある通りだが、二つかなり重要なことが追加で分かった」


「重要なこと?」


「うむ。まず一つ目は人数制限だ。最大五十名までらしい。これは内々で争って国内の戦力を疲弊させないための措置のようだ」



 なるほどね。一応ちゃんと考えられてるんだね。 

 それを聞かされアレンが手を上げ質問する。



「当然、向こうは五十人きっちり揃えてくるだろうが、こっちの補充の見込みは?」


「すまないがほとんど無い。金もあまり残っておらず冒険者たちを数名雇うぐらいは出来るかもしれないが、今から一般公募したとしてその中に刺客が紛れ込まされている可能性がある。そうなったら厄介だ。もし私が向こうの立場ならそれぐらいしているだろう。そしてその選別をしている暇がないのだ」


「騎士たちは? 一緒に付いてきたあいつらとか、他にも訓練時代の友人で城勤めしているやつとかそういうツテはいないのか?」


「まず城にいる騎士仲間についてだが、おそらくすでに手を回されているだろう。個人として手を貸したくても大公二人が相手では家として動けない。良くて静観を決め込んでくれるのが関の山。そして一緒に付いてきた騎士たちについてだがこちらも同様の結果であろう。それに言いにくいが密告の件もある。アレン殿らはこうしてサミュ様ために動いて頂いているので信用できるが彼らについてはもはや顔を出されても逆に困る」



 思い起こすと、旅の途中でのモンスター騒ぎや帝都に着いてから宿屋の居場所がバレたことなど、内通者がいたのは間違いがない。

 これも精査している時間が無いからそれなら最初から仲間に入れず期待しないというのは分かる。



「だな。了解。続けてくれ」



 納得したアレンは腕を組む。

 戦力が増えないというのに意外と焦ってないっぽい。まぁ部族連合では数十人の兵士相手に三人で倒してたし自信が付いたのかもね。



「そして二つ目だが。どうやら継承権があれば誰でもかれでも出られるということではないようだ」


「どういうこと? 条件があるんですか?」



 てっきり王子なら誰でも出られると思ってた。

 てか、それならもしかして最悪、参加することすらできないってこと? やばくない?


 クレアさんは軽く頷く。



「そういうことだ。そしてその条件とは一人以上の大公からの推薦が要ることらしい。裏を返すと三人いる大公全員からの推薦が一人に集まった場合はこの儀式は起こらない。つまり実はまだ始まってもいないのだ」


「えっ……それって……」



 他にいるメンバーたちも苦い顔をする。

 だってすでに大公二人が向こう側に付いてるんだもん。



「うむ、三日後の顔合わせまでに残る一人――『ヘクトール・チャード』からの協力を是が非でも取りつけねばならない。でなければ問答無用でこの街からも叩き出されてしまいこの国は好き放題されることになるだろう」



 なるほどねぇ。まだ一つやらなきゃいけないことがあるのか。



「ちなみにそのヘクトールって人どんな人なんです?」


「それは……私よりサミュ様の方がお詳しいだろう。サミュ様お願いできますか?」



 私の質問にクレアさんは横にいるサミュ王子に話を振った。

 彼も数年以上前に会ったきりの人物のことなので少し間を置いて記憶を辿りながら伝えてくれる。



「そうだな。歳はすでに六十を超えているはずだ。やる時は徹底的にやる御仁で父上……先々代の王ですら頭が上がらなかったと聞く。実は余の母上はチャード家の血筋なので親戚筋に当たると言えば当たるのだが」


「なんだ、だったら話は簡単じゃん。親戚なら頼みやすいでしょ?」



 私の言葉にサミュ王子は苦虫を潰したように顔をしかめる。

 あれ? 思ってたのと反応が違う?



「それがそうとも言えんのだ。詳しくは省くが先々代の王が母上を幽閉してな、ヘクトール卿は烈火のごとく憤慨し一時はクーデターでも起こすのではと恐れられたのだがそれが原因か体調を一気に崩された。それ以来、歳のせいもあったがすぐに息子に家督を譲り隠居した。つまり王家嫌いになったのだ。昨日のあの場に現れずリグレットという勝ち馬にすら乗っていないのはそういう理由だろう」


「ん? だったらそのお爺さんじゃなくて家督を譲られた人に頼むのが筋なんじゃないの?」


「いや、表向きは引退したと言っても実質の支配者はヘクトールで間違いないはずだ。あの爺さんはそれぐらいやってのける。はぁ……何気に余が一番会いたくない相手だ。実はあの御仁には初対面の折に雰囲気が怖くて挨拶が上手く出来なくてな、そうしたらいきなり尻を叩かれた」


「ぷぷっ! なにそれ」


「笑いごとではない。二日間痛みが引かなかったのだぞ!? 教育のための行動だとかなんとか抜かして悪びれもせん。それから余はヘクトールだけには二度と会わないよう努力したのだ。はぁ……」



 大きくため息を吐くサミュ王子は本当に嫌そうだ。トラウマってやつなのかな。

 その辺の人間関係はさすがに私には分からないのでフォローのしようもない。



「じゃあとりあえず次の目標はそのヘクトールって人に会いに行くってことなん?」


「それが……すでにクレアに面会を頼んでもらったのだが無視されている」


「え、それってやばくないん?」


「やばいな……」



 久し振りの美歌ちゃんとサミュ王子の会話は喜ばしいことにもう全部水に流した感じになっている。残念なのは置かれている状況が芳しくないので雰囲気は暗い。


 そこにトントン、とノックの音がする。

 一瞬、ピリっと全員が警戒ムードになったが「宿の者です」という聞き覚えのある声で弛緩した。

 ただし宿の人がわざわざ部屋に声を掛けてくるというのはやや不自然とも言えるので、クレアさんはまだ用心しながら扉越しにまで近付く。



「何か用ですか?」


「あの、さっきこちらにお届けするようにフロントでお手紙をお預かり致しまして」


「手紙ですか?」


「えぇ」


「分かりました。今開けますね」



 左手でノブを触りながら、右手で剣の柄に手を掛けて外開きのドアを開ける。


 そこにいたのは本当に宿の人だけだ。

 彼女は手紙をクレアさんに差し出す。



「こちらです」


「あ、あぁ、ありがとう。ちなみに誰が持ってきたのか分かりますか?」


「言葉遣いや身なりがきちんとしていた女性でした。おそらく貴族などにお仕えするメイドさんじゃないでしょうか。ただの印象ですけど」


「そうか。どうもありがとう」


「いえ、それでは」



 言って宿の従業員は一礼してフロントへと戻って行く。

 クレアさんは扉を閉めてその手紙を見てはっと小さく驚く顔をした。


 なんだ? まだ封を切ってないのにそんなにびっくりすることあるんだろうか?



「クレア、どうした?」



 見かねてサミュ王子が問いかける。



「サミュ様。この手紙の差出人は『ミュリカ』様です」



 少々言いにくそうなクレアさんからその名前を聞かされ、サミュ王子も寝耳に水といった感じでたまげたリアクションをした。

 それからすぐに難しい渋面を作る。

 


「いや、っていうか、誰? 二人だけで通じられても困るんですけど」



 私がこの場にいる他のみんなの心を代弁してあげた。



「あぁ悪かった。忘れていたわけではないのだが、まさかここでという名前だったので少々面食らってしまってな。ミュリカ殿――彼女は王妃だ。今は前王妃というのが正しいのだろうがな。つまり亡きアーティー兄上の妻であり、余の義姉にあたる女性だ」 




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