22 玉奪宣言
サミュ王子らしき人物の居所を掴んでジロウさんをジーナさんたちの護衛で首都に残し、私と美歌ちゃんとクレアさんの三人だけで奴隷が働かされているという山へと向かった。
美歌ちゃんに速度アップの術を掛けてもらい、いつぞやみたいにおんぶしての強硬手段を使ったがクレアさんは泣き言は言わなかった。それでも降ろしたらフラフラになってたけどね。
到着して豆太郎と隠れながら適当にサミュ王子を探していると私の高性能な耳に猛獣のような吠え声が届いてきたのでやって来たら間一髪という状態だったのが今。
私の方が驚いたっての。まぁでも無事で良かった。なんだかんだ私もほっとしたよ。
サミュ王子は鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してやっと言葉を紡ぐ。
「ア、アオイなのか?」
「そうよ。もう忘れちゃった?」
だいぶここで扱かれたんだろう。髪は油まみれで手足も砂に汚れているし顔はほっそりと痩せている。
でもどうしたことだろうか、生命力――いや自信かな? そういうのに満ち溢れている感じがする。『男子三日会わずば刮目して見よ』なんて言葉があるけどどことなく変わった気がした。
サミュ王子はわなわなと唇を小刻みに震わせ俯くと涙を流し、
「ば、馬鹿者! もっと早く来い!!」
泣きながら怒られてしまった。
「いやこれでもけっこう全力だったんだよ?」
「分かってる! 思わず言っただけだ! すまん! 助かった!」
「え?」
びっくりしてしまった。だってサミュ王子の口からすまないとか助かったとかそういう言葉が出て来るとは思わなかったもの。今までの彼なら絶対に謝罪は言わないはずだった。
やっぱり人生観が変わるほどの何かがあったみたいだ。
『ガアアアアアァァァァァ!!!』
その会話を遮るがごとくキマイラが咆哮し、恐ろしい声が洞窟内に反響しビリビリと憤怒の意志が空気の波を叩いて伝搬してくる。
爆砕符を受けた個所は焦げて肉が爛れ大焼けどをしているっていうのにまだ元気らしい。歯を剥き出し爪は地面を削り凄まじい圧力だ。
無視されて怒ってんのかしら。あんな大きな動物の構ってちゃんなんて全然可愛くないわ。
「アオイ、気を付けろ。お前が強いのは知っているがあれは手強いぞ!」
「問題ナッシング! 三人で後退してて。秒で片付けてやるわ!」
「た、頼んだ!」
軽そうな私の態度に完璧に信じているふうではなかったが、ここに来て頼るのが私しかいないので指示に従って離れて行く三人。
肩を貸し合いけっこう仲が良さそうだ。
「お、おいあれ誰だよ?」「心配いらん余の雇っている護衛だ」「いや、そういうことじゃなくてめっちゃ可愛いじゃん!」「「え?」」なんていうその会話が聞こえてきた。
一人、分かってるやついるじゃない。こりゃあ気合入ってきたわ。
「豆太郎は念のためその三人を守ってあげて!」
『あいさー!』
元気に返事して私の相棒は彼らの後を追ってくれた。
これで背後の心配はない。いつも一緒にいる信頼できる豆太郎に彼らを託したら私は前だけを見てればいいだけだ。
「さぁてうちの家のサミュ君を泣かしたやつに容赦しないわよ」
『グルルル!!』
忍刀を抜刀しながら腕を回しウォーミングアップする。
キマイラは歯の隙間から唾が垂れるほど強く噛み締め今にも飛び掛からんとこちらを睨みつけタイミングを計っているようだった。
このまま向こうの手を見てもいいけど、相手の良いようにさせてられないわよね。
「いくよ! これは痛めつけられたサミュ王子の分!」
先制攻撃をすることに決め腕を振り上げこちらから先に瞬発する。
キマイラも遅れて走り出すが遅い! すでに私の先行だ。
軽くジャンプして天井に足を付けた状態から思いっきり跳ねて頭上から襲い掛かる。
まさに雷のごとく刀の一閃が闇に迸り、キマイラの肩口から脇腹まで一直線に傷口が開く。
『ガアアアアアァァァ!?』
速過ぎて私の姿を捕え切れていないキマイラは神経の反射により痛みだけが走り大きくのけ反った。
「まだまだぁ!! 次は心配したクレアさんの分だ!」
洞窟の中だから大規模忍術は使えないけど、魔物相手なら物理的な全力を使うことに厭いはない。
その場からさらに小さく飛んで渾身のかかと落としを背中に直撃させる。
ボキっと骨が砕ける感触がして背骨を砕いてやった。
巨体が膝を折って無理やり地面に押し付けられたものだから、どすんと大きな音がして衝撃に砂混じりの風が盛大に舞う。
『ギ、ギガアァァァァ!!』
それでもまだ立ち上がろうとするキマイラ。
殺意の意思はまだ萎えず昂るばかり。
けれど背骨が折れて上手く力が体に伝わらないようで哀れにも爪が土を削るだけだ。
と思ったら唯一無事な個所である尻尾の蛇が噛み付こうと鎌首を上げる。
私ぐらいの大きさなら一飲みできそうな大きな顎が噴煙を貫き着地した私の隙を狙ってパックリと口を開け迫った。
「蛇五郎死ねぇぇぇぇぇ!!!」
どこぞの嫌味ばかり言うオカマ蛇の幻影が重なり、ついいけない掛け声が出てしまう。
下から掻い潜り刀を上に立てそのまま地を蹴って蛇を腹開きにして真っ二つに割いた。
『ギシャアアアアァァァァァァァ!!!』
蛇は断末魔の甲高い悲鳴だけを残し絶命するも、別々の個体扱いなのかキマイラ本体にはそれほどダメージが無い。
この数瞬で回復した力を絞り切りキマイラは振り返ってその大爪を頭上から振るってきた。
思ったよりしぶといな。でも次で決める!
「最後にこれは無駄に時間使わせてくれた私たちの恨みの分だぁぁぁぁ!!」
そこからキマイラの顔面の前に跳び、刀で切って切って斬りまくった。
相手の意識の追い付かない刹那の連撃。
ピピっと瞬時に亀裂が入り、合計八つの刀傷が醜悪な怪物の顔に生まれる。
『ガ……ガ……ァ……』
着地と同時にその傷が割れ綺麗な十六等分とはいかないまでも細切れになって崩れ、そして巨体も為すすべなく地面に倒れ伏した。
最後を見る必要はない。背中を向けて刀の血のりを振り払って鞘に納める。
完勝だ。まぁ二十秒も掛かってないだろう。ここんところストレスが溜まることばっかりだったから久々に動けて色々と発散できたかしら。
どやーって感じで三人に近寄って行くと、全員こっちを向いて固まっていた。
「余、余は完全にお前の強さを見誤っていたらしい……ここまでとは……」
パチパチと瞼だけが動いて呆けるサミュ王子。
「ふふん、見直した?」
「あぁもちろん。だが褒めるとすぐ調子に乗りそうだからここまでにしておく」
「なによそれ」
せっかく変わったと思ったのに女の子の扱いは変わってなくて失礼しちゃうわ。
「す、すげぇ! 可愛いのに強いって反則だぜ! お姉さん名前は?」
「え? 葵だけど」
「アオイさんか! 俺テッドって言います! 良かったら今度デートに――」
「「テッド、あいつはやめとけ!!」」
私より少し年下ぐらいのテッド少年がめちゃくちゃ褒めようとしてくれるているのを他の二人が止める。
てかサミュ王子はまだしももう一人の大男は初対面なんですけど!?
「まぁともかく無事で良かったわ。こんなところさっさとおさらばしよ。誘拐されて連れて来られたなら出て行っても文句言われないでしょ。それと外でクレアさんと美歌ちゃんも待ってるわよ」
「そうか、クレアとミカも来てくれたか。あぁ分かってる。だが出る前に一つやらないといけないことがあるのだ」
「やらないといけないこと?」
「まずはクレアを呼んで来てくれ。余の身分を証明する証を立てる」
私を覗き込むその瞳からは以前のようなただの生意気な子供ではなく、どこか未来を見据え覚悟を決めた‘漢’を感じた。
それから豆太郎に外にいるクレアさんを呼んで来てもらって入り口前で合流する。
「サミュ様!」
「クレア、久しいな」
「おいたわしい。傷だらけでこのようなボロ衣を着せられ……」
クレアさんはサミュ王子を見るなり顔をくしゃくしゃにして、そして――
「申し訳ありません! 御身をこのような危険な目に遭わせてしまい、あまつさえ私以外の騎士は全て捕らえられてしまいました!」
いきなり土下座謝罪した。
ただしそれはどちらかと言うと許しを請おうとする嘆願ではなく、自分たちの不甲斐なさに心底反省し処罰を望む受苦のようだった。
そんなクレアさんにサミュ王子は薄く笑い片膝を折ってしゃがみ込む。
「いやすべて余が悪い。余の独断でお前たちを困らせてしまった。むしろ謝らねばならぬのはこちらだ」
そのような優しい言葉が掛けられるとは思ってなかったのかきょとんとした顔でクレアさんが頭を上げる。
「サミュ様、少しお変わりになられましたか?」
「うむ、ここでの出来事は本当に苦しかったが学ぶこともあった。前はただ王になることについて深く考えたこともなかったのだと思い知らされたのだ。良い王とはなんだ? 悪い王とはなんだ? そのようなことすら具体性も無く、余はただ玉座に座れば自分なら何とかなると漠然と思っているだけのボンクラだった。そんな者が上に立つ国など早晩足元から腐って崩れるのがオチだろう。だがここで余はやりたいことを決めた」
「それは?」
「――奴隷制度の撤廃だ。重犯罪者による賦役としての労働は継続するがそれも環境や労働の改善など見直す。更生の余地すら無いなどもっての外だ!」
「しかし急な制度改革は反発を招きませんか?」
「人を誰かの物扱いするなぞ、する方もされる方もどちらも健全な人間としての精神を損ない国を病ます原因だ。余は帝国を永く繁栄させたい。そのためにこれは腐った国を根治させるための必須案件であると考える。それに嫌なものに蓋をして知らん顔なぞ先々代の王がしたことと変わらんではないか。した方は軽く考えていてもされた方は一生覚えているものだ。同じ轍など踏んでやるものか!」
熱く語るサミュ王子はそこですっと言葉を止め、再度クレアさんの目を見つめる。
「クレア、口で言うのは簡単だがおそらく道は険しい。こんな未熟で至らない余でもまだ支えてくれる気はあるか?」
「――は! 喜んで!」
これにクレアさんは瞼に涙を溜めて再び顔を下げた。
ただそれは形としては謝罪の土下座と全く同じなのに、相手を敬い自然と頭が垂れる尊い動作に見えた。
「さて、ここの責任者はどいつだ?」
サミュ王子はぐるっと自分たちを囲んでいる殺気だった男たちを眺める。
ただの子供の視線だというのに見られた者たちは半歩下がった。
当然、サミュ王子を連れて出口に至るまでに侵入者である私たちに監視役みたいな兵士たちが何人も襲い掛かってきたのだ。でもその全部を投げ飛ばしてやったから怯えて手を出せないでいる。だから今は警戒して距離を取って大人しいものだった。
兵士だけじゃなくかなりの大騒ぎになっていて奴隷の労働者たちも含んでかなりの人数に取り囲まれ固唾呑んで見守られている。おそらくここにこの鉱山にいる全員が集まっていることだろう。
困った彼らが一斉に向くのは細い体をした小悪党っぽい役人風の男だった。
その男は気が弱いのか怯えたふうにきょろきょろと汗を掻いてたじろぐ。
しかし誰も助けは出さない。
「ここに手違いで連れて来られた時も言ったが、余はノーリンガム帝国、王位継承者『サミュ・ノーリンガム』である! 即刻この場の労働を中止しろ! そして労働者たちに休息と十分な食事を与えよ!」
「ひぃぃ! し、しかしそのようなこと、私一人の権限では出来かねます。そんなことをすれば私の立場が……」
「一国の貴賓をこのような場所で働かさせたことを問題とするぞ?」
「で、ですがあなたが本当にサミュ様であるという保証もありません!」
男は必死の抵抗をしていた。
なんでそんなに弱腰かと言うと私たちが築いた気絶した兵士の山がすでにそこに出来上がっているからだ。
ざっと五十人ぐらいを美歌ちゃんたちとちょちょいっと作り上げ、そのせいで誰ももう近寄って来なくなっている。
自分があれに加わるのは嫌だろうからね。
「貴公は貴族か?」
「え、えぇそうです。しがない男爵家ではありますが……」
「ではこのアザを知っているな?」
サミュ王子が自分の服の下部分を捲り上げお腹を露わにする。
そこには拳大の大きなアザがあった。
奇妙なのはそれがただの変な形ではなく整った文様をしていることだろうか。
私の目には盾があってその左右を竜っぽいのが二対で足を置いているように見えた。ただのアザなのに意外と緻密だ。
「そ、それは……!!」
「ノーリンガム家の血筋には皆、体のどこかにこのような国紋のアザが生まれる。たいていは腹か背中だがな。あまり露見すると市政の間で真似をするものが出て来るので一般の民は知らないだろうが、貴公ならば承知しているはずだ」
「は、ははぁ!!!」
急にその男は地面に頭を擦り付けて平伏し始めた。
面食らったのはそれを見ていた私たちも含めた全ての人間だ。いやクレアさんのみ表情が動いていない。彼女だけはそんなものがあると知っていたのか。
そしてその場の一番偉い男がひれ伏したもんだからみんな空気を読んでか同じように膝を曲げていく。
なーんだこれ。そんなもんがあるなら教えておいてほしいよ。びっくりしちゃったじゃん。
「再度申し渡す。この鉱山での労働はしばし中止だ。追って指示は言い渡す。それまで一人の死亡者も出すな! これは命令だ!」
「か、畏まりました!」
今まで甘い汁を吸ってきた立場を守りたい意思はもはや無理だと砕け、責任者として男爵さんは唯々諾々と従うようだった。
「ならば良し! 急いで城に戻るぞ。このような悲劇を生む場所を止めねばならん」
「(なんかちょっと格好良くなったかもしれん?)」
『(あかんで美歌ちゃん、クソガキがガキんちょになっただけや! そんな簡単に絆されたらあかん!)』
この場をどんどんと仕切っていくサミュ王子を眺める美歌ちゃんとテンの小声での会話が漏れてくる。
ほうほう、あれだけ溝が深まっていたのにちょっとだけ脈アリかも? 苦労は買ってでもしろっていうのは本当だねぇ。
一段落したところで、サミュ王子と一緒にいたテッド君がお別れの挨拶を始める。
きっとここにいる間に助け合ってきたんだろうね。ひょっとしたらサミュ王子の初めての友達なのかもしれない。
「サミュ、お別れだな。寂しくなるが俺がしてやれるのはここまでだ。お前はお前のやれることをしてくれ」
「テッド、お前は……余の恩人で友人だ。お前の存在に余がどれだけ励まされたことか……。だがやはり兄ではない。その優しさはこれから本当の弟に向けてやってくれ。今すぐ金は無いが謝礼として城に帰ったらお前とペッゾの分の借金返済は建て替えるのでな」
「そうか? 悪いな、だったらありがたくもらっとくぜ。キーラの野郎、追い詰められると人様に迷惑なことをし出かしかねねぇからよ」
ん? あれ? なんだか聞いたことのある名前が出てきた。
「今、キーラって言った? それってワーズワースのキーラ君? お婆さんはジーナさん?」
「お、お姉さんキーラと婆ちゃんのこと知ってんの? いやぁこれやっぱり運命だよ! 結婚しよ――」
「やめておけ! 絶対後悔するぞ!!」
サミュ王子がまたもやテッド君の言葉を遮る。
そんな必死にならなくてもいいっての!
そんなに女子力低いと思われてるのかしら? 私だって料理の一つぐらい……まぁスクランブルエッグとか野菜をフライパンで炒めるぐらいならやれるわよ。
「キーラ君とお婆さんは今、帝都のグラレシアにいるわ。色々あって住んでたところを追い出されちゃったからなんだけど」
「マジで!? ふーん、分かった。じゃあここを出たらグラレシアに行くよ」
「って軽いわね。ずっと住んでた町から引っ越ししたのよ?」
「まぁあそこは辛気臭い町だったしな。それにキーラも婆ちゃんと一緒なら安心だし。ここを出してくれるのもそんなに時間は掛からないだろ?」
「あぁ任せろ。すぐに手続きはしてやる」
テッド君が目線を合わせると、サミュ王子が鷹揚に頷く。
そこにぬっと怖そうな大男が進み出て来る。
ペッゾと呼ばれた男だ。
「俺はお前を殴った。俺の分は……」
「構わん。あれはテッドを心配してのことだったのだろう? それに勝手な印象だが余はお前が悪い人物には思えん。外に出たらどうかその力を良いことに役立ててくれ。あとお節介だが、もう少し笑顔でコミュニケーションを取れ。誤解されやすいのは損だぞ」
「……すまん」
彼は瞼を手で隠し恥ずかしいのか後ろを向いて離れて行った。
ちょろっとだけ見えたけど泣いていたようだ。
どうやらサミュ王子が言うように本当に誤解されやすいタイプの人みたいね。
「さぁようやく帰るぞ。ただしこれは凱旋ではない。戦場への進軍だ。この国のために兄弟たちと腹を割って話をするためのな! 皆、余はまだ無力だ。だから手を貸して欲しい!」
「はっ! 全身全霊を懸けて!」
「いいわよ。乗り掛かった船だもの」
「しゃーない、手伝うで」
思い思いに応えていざ帝都グラレシアへと出発した。
□ ■ □
「お止まり下さい。許可が出ておりません! これ以上進まれると困ります!」
「自分の家に帰ってきただけだ。大体、誰の許可だ? 構わん押し通る!」
「お待ち下さ――」
ノーリンガム帝国、その首都であるグラレシアの白亜の城の奥深く――最も歴史と権威のある『王座の間』へ続く廊下にドタドタと喧騒が湧いていた。
おそらくここ数十年はこんな乱痴気騒ぎは無かったのではないだろうか。原因はお恥ずかしいながら私たちだ。
身なりを整え一度休息をした後すぐに私たちは殴り込みを掛けたのだ。
まぁもちろん相手が抵抗しなければ何もする気はなかったけれど、明らかにここにいる人間は迎えなければいけないはずのサミュ王子を厄介者扱いしたので、私たちの後ろには気絶した騎士や兵士たちの残骸が出来ていて少し強引になってしまっている。
戦力は私と美歌ちゃんとジロウさん、それにクレアさんとアレンたちもいる。ぶっちゃけここの兵士たちが数千人以上いたとしてもガチでやるなら戦って負ける気はしない。
ブリッツが言っていたけど、人の生死を気にせず戦うのなら三人もいれば確かに国と対等に渡り合えてしまうだろう。
締め切られた大扉を前に全員の足が止まる。
ここが聞いていた玉座の間で本陣だ。周りを見るとみんな少しだけ緊張をしているふうに見えた。
特にサミュ王子とクレアさんの表情は固い。まぁ自分の実家に無理やり帰ってきてこれだけ抵抗されているんだもんね。
そこにジロウさんが颯爽と槍を振り回して柄頭を地面に置く。
「さて儂はここで大事な話が水を差されないように壁となって見張ることにするとしよう」
『久し振りにジロウさんと会えたと思ったらまた鉄火場? お肌に悪いわねぇ。まぁこれも私たちの仲を燃えさせる障害かしら』
目立たないようにしばらく呼び出されなかった蛇五郎がようやく外に出られてとぼけたことを言いながらトグロを巻く。
そうしている間にもわらわらと通路から兵士たちが蟻のように湧いて出て来た。
休憩すらさせてもらえない。
「じゃ、後は頼みます!」
「おう、ここは儂らに任せて先に進め! ……っていう台詞を一度言ってみたかったんだよな。あ、念のために門は閉めておいてくれ」
『きゃー! ジロウさん格好良いわーーー! 惚れるぅぅー!!!』
前言撤回だ。まったく緊張感の無いのが一人と一匹いた。
そんな彼らを後ろに置いて大扉を開けるとその奥の檀上の立派な玉座にはサミュ王子よりもさらに小さな少年が怯えた目をして座っていた。
そこへ続く脇には数十人の近衛騎士たちが勢揃いしていて、こんな場面であっても取り乱すこともなく静かに整列しているのだから場慣れしているというか肝が据わっていて強さを感じさせる。
「! ほう、しばらく見ぬ内に大きくなったではないかリグレット?」
「あ、兄上こそ、お、お元気そうで……い、いや今頃何をしに戻って来られた!? 」
サミュ王子はその少年を記憶にあるもっと幼いリグレット王子と合致させるのに数秒ほど掛け、それから挑戦的に歯を見せて笑みを作った。
その子は確かに言われると目元や輪郭がサミュ王子に似ている気がしないでもない。おでこぐらいに揃えられた短いダークブラウンの髪の気弱そうな子。
でも雰囲気などが全然違う。同じ子供であったとしてもサミュ王子と一緒に並べばどちらが頼りになりそうかなどは一目瞭然だ。ハッキリと目的が出来て覇気があるサミュ王子に対してあれはただの子供。職業体験に遊びに来たようなものにしか見えない。
二人のことをほとんど知らない私でもどっちを選ぶって言われたらサミュ王子に国を託したくなるだろう。
「今頃? これでも急いで戻ってきたつもりなのだがな。まぁ多少の遠回りはさせてもらったが。……それよりお前はなぜそこに座っている?」
「は? いやだってこれは余が次期王であるので……」
「誰の許しがあってそこに座っているのかと聞いている!! 例え継承権があって王が不在であってもその玉座は王以外には不可侵のものだ!! 即刻、そこから立てぇ!!!」
「ひぃっ!」
広間を響かせる強烈な恫喝にリグレット王子の意気地は一瞬で粉々に崩れ、泣きそうになりながら横の絨毯が敷いてある地べたにへたり込んだ。
これは役者が違うってやつだろうか。っていうかサミュ王子覚醒し過ぎ……。
元々、子供らしからぬほど賢い子だとは思ってたけど、融通が利かないし世間知らずでこれが王様になるの? って正直私も不安があった。それが死の危険に直面し目的や目標を持てただけでここまで変わるものか。
私がこの年齢ぐらいの時って……ゲームしてるか男の子に混じって放課後にサッカーしている記憶しかないわ……。
「リグレット、お前には色々と訊きたいことも言いたいことも山ほどある。……が、まずは再会を喜ぼう。途中でカミール兄上がいなくなった話も聞いた。今残っている継承権がある兄弟はお前と余だけなのだからな」
サミュ王子が放つこの言葉は実は思っていることをストレートに伝えていた。道中で話し合ったけど彼は本当に許すつもりらしい。
けれど対するリグレット王子は後ろめたいことがあるのか言葉通りには捉えられなかったようで、曲解してその裏を読もうとし顔色が一層悪くなる。
「まさか兄上、余から王の座を奪おうというおつもりですか!?」
「奪うも何も、優先順位で言えば余の方が上だ。仮にこれまでお前が余に対して何か小細工をしていたとしても全て水に流す。『兄は弟を守るもの』、これは余の親友の言葉だ。我らの長兄であり亡き先王であるアーティー王に誓おう。悪いようにはせん」
それはサミュ王子なりに恨みはしないという優しい言葉を掛けたつもりだったのだろう。
だというのにリグレット王子は指で髪を掻きむしり駄々をこねだす。
「い、嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ! いきなり現れてそんな勝手なこと許さない!」
ただの子供の癇癪ならマシだった。けれどそこにいるのはなまじ大きな権力を持つ人間である。
それが一時のカっとなった衝動であっても次に出て来た言葉は冗談で許されるものではなかった。
「者ども、そこにいるのは兄上ではない! 兄を語る偽物だ! 討ち取った者には思いの褒美を取らす! やってしまえ!」
広間にいたハーフプレートの騎士たちざっと三十人ばかりが一斉に動き出す。
忘れかけていたがこの城にいる大半の人間はリグレット派だ。だからこの近衛騎士たちも彼の息が掛かっていて、明らかに無理があるその命令にも従う。もちろん近衛たちも自分勝手にサミュ王子を害することはできないのだろう。けれどこの命令があれば鎖を解き放たれた猟犬と化す。
整然とした玉座の間は一瞬で乱闘騒ぎの坩堝へと変化した。
「うちら止めたいんやったら矢でも鉄砲でも持って来ーい!」
『おらおらおらおら!! 金と権力に尻尾振ってる根性無しはお前らかー!』
美歌ちゃんが長刀の柄の部分で一気に三人の騎士の腹部へと叩き込みホームランを打ち、テンはその小柄な体躯を活かしてぴょんぴょんと飛び跳ね剣を掻い潜り顔面に蹴りなどをヒットさせていく。
「ここんところ見せ場が無かったから暴れるぜ! 覚えとけ! 俺は『飛剣』のアレンだ!」
「こんなところで名前売るのもどうかと思うんだけどね! もう勢い任せよ!」
「私もみーちゃんに賛成だけど、ここまで来ちゃったら仕方ないもんね!」
いつの間にか剣二本を操れるようになっていたアレンは一本を直接飛ばし、もう一本をミーシャの足場として空中から矢を放つコンビプレイを開発していた。
バランス感覚はアレンよりも達者なようでミーシャは剣をサーフボードのようにして乗り回し、弓を軋ませ上から矢を降らす。
オリビアさんは景保さんからもらった扇をまだ持っていてそれで分身を作ってかく乱していた。こちらも知らない間に分身の数が五体に増えている。
「豆太郎はサミュ王子とクレアさんを守ってあげて!」
『あいあい! あーちゃんのおねがいはぜったいまもるよー!』
私たちの中心は当然、サミュ王子だ。
彼が捕らえられたりしたらその場で私たちに大義は無くなる。絶対に守り抜かないといけない。
だから最も頼りにする豆太郎に彼を任して私は思い切って遊撃することにした。
身を低く前傾姿勢を取る。走る。その二工程でまず一つの仕事を遂げた。
すぐさま後ろで崩れ落ちる騎士。その腹部の金属プレートには私の強烈な拳の形をした刻印が施されている。
「ひゅっ!」
「うがっ!」
迫る別の騎士の剣を忍刀で払いその場で一回転し、柄頭で側頭部を殴打した。
これも兜の鉄越しだったため小さく痺れる手ごたえがした。
脳震盪を起こしたのだろう騎士が人形のように地面に倒れる。
それをぼーっと見ている気はない。
体を加速させ駆ける。
もはや周りは敵だらけ。選ばなくてもいい。どこに向かっても敵に当たって楽なもんだ。
赤い絨毯の上を私の黒髪の流線形が疾走する。
その後には野太い男たちのうめき声と金属がへしゃげる音が置き去りにされていく。
弾丸めいた速度は鉄鎧など紙細工のごとく圧搾し、内部の肉体へとダメージが浸透した。
「はぁ! っなに!? がっ……」
私のスピードが見切れず破れかぶれの大振りを躱し、その騎士の頭の上で片手逆立ちを披露し脱力して降りざまに膝を後頭部に直撃させる。
落ちる寸前の騎士が持っていた剣を奪って目に付いた他の騎士に投げ付け隙を見せたところに顔面キックを靴裏で叩き込む。
「貴様ぁっ! よくも!!」
同僚が目の前でやられたことに腹を立て別の騎士が激怒し剣で私の喉を狙って刺突してきた。
「遅いっ!」
「うわっ!」
膝を曲げ屈んだ状態からその足を足払いで巻き上げ転倒させる。
騎士は顎から絨毯に強かに打ってうつ伏せに転がり、そこに間髪入れず肩を踏みつけた。
「ぎゃああああああ!!!」
おそらくその容赦の無い追撃に脱臼か骨折したのだろう。
苦痛が響き渡る。
さぁ乗ってきた。血が沸き肉躍る。私の滾る興奮を終わらせるにはちょっと数が足りないかしら?
次の獲物を探そうと顔を上げた時だった。
「――やめろ! そこまでだ!!」
ふいに大声が玉座の間を駆け巡る。
その声がしたのはリグレット王子がいる玉座の傍だ。いつの間にか知らないおじさんが紛れ込んでいた。
その中止の命令に騎士たちが一斉に止まり、私たちも戦う意思が無い人間を一方的に倒す気にはなれなかったので一気に戦闘ムードがうやむやになった。
というか、王子様の命令よりも優先されるってなによ。
「な……」
だが奇妙なことにリグレット王子すらも青天の霹靂といった表情でそのおじさんを見て呆気に取られ二の句も告げないでいる。
「これは何の騒ぎですかな? サミュ様。城の兵士たちを引きずり倒す暴虐な振る舞いいささか度が過ぎております。看過できませんな。それに御身は未だ部族連合にいるはずでは?」
「ほう、三大公が一人、グラミス・オウンドゥール卿か。久しいな。余はただ戻るべき場所に戻って来ただけだ。無礼にも主の顔を見忘れた不埒物どもが余の歩みを止めようとするので追っ払っていたところなのだがな。それよりもたった数名に敗れる近衛の質の悪さを恥じるべきではないか?」
「これは無用な気遣い痛み入ります。確かに少年少女たちにやられる体たらくは恥ですな。まぁそのことは後で話をするとして――」
「グラミス! こ、この者は兄上ではない! 偽物だ!」
二人の会話を遮ってリグレット王子の癇癪はまだ続く。
「黙らっしゃい! そんなものはアザを見れば一目瞭然でしょう。苦しい言い訳ですぞ」
「ぐっ!……」
「力ずくでどうにかせず、最初から話し合いの席を設けておけばまだやりようはあったというのに、これだけ目立ってしまえばリグレット様に反発する勢力に格好の餌を与えるだけではありませんか。少し黙っていなさい」
「わ、分かった……」
が、まさに大人に叱られた子供のごとくリグレット王子は下を俯いて悔しそうに黙りこける。
あまり反省の色は見えないが、まぁそんなもんだろうか。
彼の代わりに話すのはグラミスと呼ばれたおじさん。あんなガキんちょよりはいくらも手強そうだ。
「ではサミュ様、帰還なされた目的を改めてお聞かせ願えますか?」
「いいだろう。――それは余が王になるためだ!」
サミュ王子が言い切るも、グラミスと呼ばれたおじさんの表情は変わらない。
聞いておきながら予想はついていたんだろう。
「やはりですか。私はリグレット様こそが最も相応しいと思っておりますが?」
「ふん、そこの腑抜けがか? しょせん貴公の都合の良い傀儡という意味であろう。本音を言うとな、余も自身が相応しいなどとは思っておらん。この国が正しく繁栄するのであれば砂を弄って静かに暮らすのも是とすら思っていた。だが見てはおれん。無理やり税を徴収される村を見たことがあるのか? 悪劣な環境で働く鉱山夫の元を訪れたことがあるか? 国への不満が溜まり民が憂いているのを知っているか? そこのリグレットに任せるよりは幾らかマシであろうよ」
グラミスはその思いを受けてやや思案顔になり顎を指で掻き顔を逸らす。
「ふむ、随分ご立派になられたことで。父王の後を追って泣いていた頃とは変わりましたな。しかし残念だ。あなたのその決意は無駄になります」
「は? 無駄だと? 継承権は兄である余の方が上だ。いくら大公と言えどもそれは覆せないぞ。まさかカミール兄上を説得でもして呼び戻したか?」
それはすでに打合せしていたことだった。
城に着いて仮に力ずくで襲われても、無かったことに出来なくなった時点で継承権の優先順の高いサミュ王子の勝利となる。その後で短期間ですぐにリグレット派の戦力を削ぐ。そうすればサミュ王子のとりあえずの権勢は安泰になるだろう。しかしもしリグレット王子からカミール王子に鞍替えされた場合、次善の策として厄介だけどサミュ王子が説得し直さなければならなかった。カミール王子は臆病なので意外と分があるらしいが。
なのにグラミスは余裕の笑みを崩さない。
「いえいえ、カミール様ではありませんよ。あの方とはもう連絡が取れない」
「? ではどういうことだ?」
サミュ王子が首を傾げた瞬間――
私たちの後ろにある大扉が、どぉん、という大きな音と共に破壊された。
高さ五メートルほどもあり、かなり厚みがある扉がだ。
そして同時にジロウさんが外から飛び出して来る。
「ちぃっ! すまん、一人じゃ防ぎきれんかった!」
防ぎきれない? は? ジロウさんを上回る戦力なんてこの城どころかこの世界にあるの?
「――こういうことさね」
散らばるガレキの上を跨いでさらに姿を現したのは赤い派手なドレスを身にまとったおばさん。
そしてその後ろにいたのは――彼方さんだった。
彼を見た瞬間に体が強張る。
この間の負け――あの無茶苦茶な強さを無理やり想起させられたからだ。
彼はこちらを見つけて黙ったまま小さく手を振り、そのまま悠々と私たちの横を通り過ぎてリグレット王子を挟んでグラミスとは反対側に立つ。
っていうか、ここにいるっていうことは教会はここの重鎮と通じてるってこと? ものすごくキナ臭い匂いがしてきたんですけど……。
「そなたは確か、パラミア・ミュズール卿。三大公が二人も揃ったか。して、それで? たとえ三人集まったところで定められた法を覆すことなぞ不可能だぞ。それは王が一存で大公を解任することも出来ないのと同じだ。法だけでなく、信用で結ばれている。無理やりそんなことをすれば国が割れ潰れる。そうなれば喜ぶのは王国と部族連合のみだからな」
「お久しゅうございますサミュ様。よくぞ覚えておいでになられました。そして賢くお育ちになられたようで。しかし、大公が二人以上集まればそれは可能なのですよ」
意図が読めずサミュ王子の眉間に皺が寄る。
ただ一人、こちら側で反応したのはクレアさんだった。
「!! まさか……!?」
なんだ? なにがある?
「そこの女騎士は気付いた様子だねぇ。王不在で継承権争いが起きた場合に限り、三大公の過半数の可決があれば特例事項が成立するのさ。さぁ――『玉奪の儀』を執り行うよ!」
「「「オオオオォォォォ!!!!」」」
突然、まだ倒されていない無事な騎士たちが声を上げその場で足踏みをし出した。
ザッザッザッ、とリズムは淀みなく続き私たちの小さな声は掻き消させるほどだ。
異常な熱の持ちよう。圧迫感。それまで押していた私たちのムードが一気に押し返された。
「玉奪の儀? 余はそんなもの知らんぞ」
サミュ王子は訝しげに辺りを見回す。
本当にそんなものがあるのかと言わんばかりだ。
「サミュ様は父王に嫌われていたからねぇ。それに長い帝国の歴史上でもこれが執り行われるのはたったの二度目さ。きちんと把握している者の方が少ないだろうね。そこの女騎士、説明して差し上げなさい」
「玉奪の儀とは継承権争いで国が内乱で割れないために定められた儀式です。言葉通り、玉座を奪うという意味もありますが、この国の玉璽は拳ほどもある大きな玉から出来ていて、それを手中に収めるという意味だとか。つまり継承権の順番が意味を為さなくなります。そして王子たちは国からの支援などを受けられません。自らの財力や力のみを行使することが許されます。ただし唯一の例外があり、大公のみ助力が可能です。しかしこれは……」
「それまで磨いてきたコネや資本、それにいかに大公という存在を味方に出来ているかが大きな要素を占めるということさ。自分の地位に胡坐をかいていたボンクラはお呼びでない。うまいこと出来ているだろう?」
パラミアおばさんの分かりやすい補足説明でクレアさんが苦しそうに言い淀む理由がなんとなく分かった。
これは明らかにサミュ王子の不利を表しているからだ。
人質として違う国に送られていた彼にここに味方もいなければ、自由に動かせる大金などあるはずがない。しかもリグレット王子の方は確実に二人の大公が付くことが確約されていた。
残った強力なアドバンテージは私たちの存在だったけれど、向こうに彼方さんがいるとなるとそれも相殺される。いやプラスマイナスゼロで済めばいいけど、私たちはまだ彼のすべてを見たわけでもなく実際はどうなるか未知数だろう。
「おおよそ言いたいことは分かった。だがそれはどうやって決めるのだ? まさか殺し合いではなかろうな? 余は弟と血なまぐさいことをしにわざわざ戻って来た訳ではないぞ」
「簡単に言うと、ここより離れた場所にある初代の王が眠る霊廟に向かいそこで洗礼を受けること、だったと思います」
クレアさんが記憶を思い出しつつサミュ王子の疑問に答える。
なんだそれ? レースってこと?
「霊廟の存在は知っている。即位した王が必ず向かう場所だ。そこにいち早く着いた者の勝利ということか?」
「申し訳ありません。何分、大昔に一度行われただけで詳細は分かりかねます」
申し訳なさそうに頭を下げるクレアさん。
視線は説明を求めて自然とおばさんに集まる。
「それも調べるのも含めて儀式の内ってことさ。お可哀そうに。誰にも望まれないサミュ様。しゃしゃり出て来たせいで帝国の歴史に名を刻む大恥を掻くことになってしまう。ですがこのパラミア、勝負事で手加減が出来ない女ですの。――さぁ勝負といきましょうか!」
「殺し合いではないのであれば構わん。それが必要と言うのであれば受けて立とう! お前たち、もうしばらく力を貸してくれ!」
大公という一癖ありそうな大人の前でもサミュ王子は負けていなかった。
彼は後ろの私たちを振り返り頼んでくる。
それを受けてみんな無言で頷く。
彼方さんまで絡んでくるんならここでやめるなんて出来ないよね。
壇上で勝ち誇ったかのように薄く笑う彼ら。
なんでもかんでも自分たちの思い通りになると思っている顔付きだ。気に入らない。そんなやつらの好きにさせてやるもんか!
それらをキッと睨んで宣言してやる。
「あんたたちの好き勝手になんて絶対にさせてやんない! 覚悟してなさい!!」
こうして帝国というこの世界の大国の行く末を巡る動乱、ひいてはこの世界を揺るがす選択に巻き込まれていくのだった。
想定よりもかなり長くなりそうなので一旦章を区切ります。
ここまでのが前編で次が後編みたいな感じです。
今回は休みなしでいきますが、どこかで1~2週間ほど休むかもしれません。
それと次が終章となる予定です。