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終章

 それから二年後────。


 十八となったアルフィナは、匂い立つような美しい娘へと成長した。

 身長も伸び、清廉さの中に優麗さと凛とした芯を宿すアルフィナを小娘と嘲る者はもういないだろう。

これまでの苦労と成果がアルフィナを内から輝かせる。

 彼女を目にした者は、だれであれ心を奪われずにはいられないだろう。

 今、アルフィナは、復讐を誓った街へと舞い戻っていた。

 明るい日差しの中見える宮殿は、なぜか八年前より小さく見えた。


「おかしなものね……あのときはあんなに壮麗で立派な城だったのに、今は…なぜかしら、色あせて見える」


 けれど、ようやく。

 ようやくここまでこれたのだ。

 様々な思いがこみ上げてきたが、歯を食いしばってそれに耐えた。

 感慨深げに過去の思い出に浸るアルフィナに、そっと声がかかった。


「アルフィナ様、───準備が整いました。各隊長はそれぞれ配置についております」


 壁の影となった場所に現れた男は、すっと地面に片足をつくと、そう告げた。


「そう、ありがとう。奇襲は、日が落ちてから。月姫が合図を出すわ。くれぐれも関係のない者に手にかけないよう伝えなさい。目的は王を捕らえるのであって、血なまぐさい戦いではないわ。あたしの望みは無血登城。無理かもしれないけれど、できる限り死人は出したくないの」

「御意」


 首肯(しゅこう)した男は、音もなく姿を消した。


「相も変わらず甘いな。復讐は決してきれい事ではすませられない」


 そう言ったのは、孤高の黒騎士だった。

 彼は、孤高の黒騎士と呼ばれる所以(ゆえん)となった漆黒のマントをまとい、アルフィナの横に立った。


「でも、あなたは争いごとを忌みながら、あたしに契約をしてくれた。そして、ここにいる」

「──見てみたいからだ。君が成し遂げるところを。たった数人の騎士しか持たなかった君が、今や大群を率いる指揮官だ。たった二年でここまでたどり着いた君の未来が──復讐を終えたその後の君が見てみたい」

「この戦いに勝つこと前提なのね。知っていて? この国には、最強とうたわれた守護騎士団がいるのよ。あの者たちは強い。あなたより強いかもしれない。それなのに勝つ自信があるの?」

「負け戦はしない主義だ。それに、君の騎士団はだれよりも結束力が強い。たとえ力は弱くとも、そのまとまりは強大な力となるだろう。君のために勝ちたいという彼らの想いそのものが力となる。私は運がいいのかもしれない。またとない戦いを間近で目にすることができて。今日の戦は、後世まで語り継げられることになるだろう」


 まるで予言者のようにそう言った孤高の黒騎士に、アルフィナは挑戦的に微笑んで見せた。


「えぇ、歴史的な瞬間にしてやるわ! 神様、見ていなさい! あたしは自分で運命を切り開いてみせた。これからも自分で道を創っていくわ。──勝利と栄光をこの手に!」


 頭上にかざした手をぐっと握りしめたアルフィナは、ラピス・ラズリの双眸を鮮やかに染め上げた。


 時はカーツェ暦四五七年の出来事であった。





 のちにカスターナ教の始祖となるアルフィナの物語は、ここで終わる。

 苦戦を強いられながらも戦いに勝利し、長い復讐の旅を終えたアルフィナがその後どんな人生を過ごすのかはまた別の話である。

 けれど、吟遊詩人の伝えによれば、天使と呼ばれ人々から愛された少女は、騎士とともに各地を旅し、その後、永住の地となるアルベルス領に身を置くことになる。

 死するそのときまで、アルフィナは緑に囲まれたその地に留まる。

 彼女の墓石の周りには、十二人の騎士団長の墓が建てられたという。

 永遠の眠りについてからでも彼女を守りたいという騎士道精神の表れだったのだろう。

 こうして一つの復讐劇は幕を閉じた。

 たった一人の少女によって────。


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