5話~物騒な話~
「これであとは大丈夫だ」
ルクスを医療所に預けると、クリードは俺を同じ建物内の別の場所へと連れて行った。
「空き部屋なので簡素だが、気にしないでくれ」
案内された部屋は殺風景な部屋だった。丸テーブルが一つ、椅子が三つほど置かれているだけのくすんだ灰色の部屋だった。
「色々聞かせて欲しいんだ。君の国のことや、この国へきた目的を」
クリードは椅子に座ると俺を見て言った。顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
「さて、いろいろ訊かせて貰おうか」
正直予想はしていた。
城壁で囲っているようなところだ。余所者には風当たりが強くとも不思議ではない。
「何を話せばいいですか?」
「全てだよ」
クリードが合図をすると、扉が開いて一人の男が入ってきた。
「エイク、君の出身、この国へ来たルート、目的について洗いざらい話してくれればこちらとしても手荒なまねはしない」
「それは構いませんが」
俺はちらりと男を見た。
「あまりに荒唐無稽な話なので、信じてもらえるかどうか、それだけが心配です」
「心配しなくていい。この男は読心魔法を使える。嘘をついているかどうかはすぐにわかる」
俺がくすりと笑うと、クリードは眉をしかめた。
「どうした?」
「いくら俺が魔法に疎いからってそんな嘘には騙されませんよ。五体系っていうんでしたっけ。人の心を読める魔法なんて存在しないでしょう。そこの人が王族というならわかりますけど」
とてもそうは見えない、という言葉は飲み込んだ。
クリードは少し目を見開いた。
「驚いたな。五体系を知っているとは。レベル六以上の魔術師しか知らないはずだというのに」
「レベル六?」
「魔術師には格付けがあるんだ。使える魔法の程度に依存する。レベル五までが初等魔術師、いわゆる庶民だ。そしてレベル六以上が軍人などの王国関係者」
「あなたはいくつなんですか?」
「私か? 私は三十五だよ」
……レベル分けしすぎだろう。最大はどこなんだ。まさか百なのか?
「彼、理解できていませんよ」
クリードの後ろに立っていた男はそう言うと、俺を見て言った。
「今のはクリードさんのジョークです。三十五というのはレベルではなく年齢ですよ」
「本当のレベルは八だ。まあ中等レベルだな。――まあそんなことはどうでもいい」
クリードは足を組み、高圧的な態度を醸し出した。
「こいつが嘘を見破れるのは本当だ。だから全て正直に話した方が身のためだ。君にとっても、かわいらしい友人にとっても」
「人質ですか?」
「それは受け取り方による」
クリードは眉一つ動かさず言った。
流石軍人といったところなのだろうか。もし俺が不可解な嘘や行動を取ったときには容赦をしないといった鋭さがある。
一寸の沈黙の後、俺は両手を挙げた。
「嘘はつきませんよ。意味がないですからね」
そして俺はことのあらましを全て話した。
クリードとその部下は黙って俺の話を聞いていたが、時折顔を見合わせる場面があった。
「……信じられませんが、嘘はついていませんね」
「荒唐無稽だな、これは」
クリードは苦笑して言った。
「そのカタナとかいう武器は君の世界では誰しもが使っているものなのか? 魔法がない代わりに」
「いえ。剣士はとっくの昔に滅びました。今はその術と伝統を受け継ぐ者が細々と生き残っているだけです」
「なるほど。それは残念だ……」
何が残念なのか、その真意は問わないことにした。
「しかし、君の疑いが晴れた以上、もう取り調べはおしまいだ。ここからは本題に入らせてもらう」
クリードは座り直すと、声を小さくした。
「実はこの街にミミックが一匹入り込んでいる。それを退治しなければいけないのだが、やりてらしくどうも尻尾を掴めずにいる。恥ずかしながら人手が足りなくてね、君の助力を頼みたい」
「ミミック?」
また変な動物のことだろうか。
「暗殺者のことです」
部下が呟いた。
「三日ほど前、警備兵が不審人物の存在を目撃している。ミミックは警備兵を三人殺害し、姿を消したそうだ。たまたまサボっていた警備兵だけがその一部始終を目撃していたというわけだ」
……暗殺者。
「――それはまた」
物騒な話だ。