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2話~月影式VS魔法~

その後も牧場を二人で探して回ったが、どこにも初代の刀は落ちていなかった。

 途中で離してしまったために、全然違う場所に落ちたのだろうか。

 何も根拠はないのだが、初代の刀を見つけないと何も始まらない気がする。このままではナゾの巨大生物と、ナゾの魔法に囲まれて異世界で往生してしまうかもしれない。

「魔法っていうのは他にもあるのか?」

「ありますよ。いっぱいありすぎて全部を説明するのは難しいですが――」

 そういいつつも女は、この世界の魔法について簡単に教えてくれた。

 魔法は主に五つの体系に別れている。生命系、自然系、身体系、付与系、そして王族系。

「基本的には名前からイメージ出来るもので問題ないです」

「王族系っていうのはなんだ?」

「王様の血族しか使えない特殊な魔法です。特別な魔法石と、特殊な血があって初めて使える魔法みたいで、普通の魔法とは比べものにならない力を持ってます。初代王様のロレンス様は山を砕いたそうですよ」

 詠草の雲斬りのエピソードを思い出した。どの世界でも初代というのは誇張して描かれるものなのだろう。

「王族系は本当に特殊なので、私たちみたいな庶民にはあってないものとして考えた方がいいですね」

「その中だと捜し物を見つける魔法っていうのは何系に入るんだ?」

 そもそもそんな都合の良い魔法が存在するのか怪しいが。

 女は言いにくそうな表情を見せた。

「――捜し物っていうのは、そのカタナとかいうものですか?」

 俺は頷いた。

「大事なものなんだ」

「物を見つけ出す魔法はたしかに存在します。しかし――」

「王族系の魔法なのか」

 女は頷いた。

「ここから北の街に、レミギウス様という領主様がいらっしゃいます。現国王様の又従兄弟です」

「そいつが使えるんだな?」

「しかし、レミギウス様は領主様ですし、王族というプライドもあって庶民の請願など一切受け付けません」

 もっともな話だろう。王族とは庶民とは別物なのだ。日本でも皇族と気軽に接触出来るかといえば、そうではないように、この世界でも一筋縄ではいかないのだろう。

「他にはいないのか?」

 女は首を振った。

「私の知る限りでは」

「――そうか」

 しかしそうだからといって簡単に諦めきれない。目の前に手がかりがあるのだ。どうにかして見つけたい。

 てっとり早い手は金だろう。こういう領主というものは貪欲なものと決まっている。大金を持って行けば魔法を使ってくれるかもしれない。

「金って持ってるか?」

「……貧乏なので」

「……悪い」

 ぼろぼろの小屋を見て俺は謝った。

「何か金策はないか?」

「私が知りたいですね……」

 沈黙が流れた。

 気まずい空気を打ち破ったのは、遠くから聞こえてきた地響きだった。

「なんだ?」

 扉の隙間から外を見て俺は驚愕した。

 巨大なウーパールーパーが車を引いて走っていたのだ。馬車ならぬウーパールパー車というところだろうか。またしても背中に珍妙な翼が生えている。この世界の生き物は全て背中に翼をはやさないといけないという決まりでもあるのだろうか?

「お前の背中見せてくれないか?」

「な、なんでですか!」

 女が顔を赤くしてそう叫んだ時、怒声が聞こえてきた。

「はよ出てこい!」

 関西弁?

「友達か?」

「いえ……」

 女は身をぎゅっと縮こませた。

「いつまでまたせんじゃこら!」

 今にも扉を蹴破って入ってきそうな勢いだ。この流れでいうとおそらく――。

「借金取りか?」

 女は弱々しく頷いた。

「この前の竜巻で小屋が飛んでいってしまって、それを立て直すのにお金が必要で――」

「はよせえ!」

「とりあえず出た方がいいな。俺も一緒についていってやるから」

 女を促し、小屋の外に出ると、そこには二人組の男が立っていた。二人ともいかつい顔をしていて、全身を黒のローブで覆っている。

「そろそろ金返してもらわなあかんねん。いつまで待てばええんかってうちのボスもぶち切れ寸前や」

 背の高い方が高圧的に言った。

「いくらなんだ?」

 女が怯えてしまって口を開こうとしないので、仕方なく代わりに聞いた。

「お前誰や。ルクスの男か?」

 なるほど、この女はルクスというらしい。そういえばまだ名前も聞いていなかった。

「ただの知り合いだ」

「じゃあでしゃばんなや。痛い目にあいとうないやろ?」

 男が一歩前に出たので、俺は両手を挙げた。

「待て待て。いくらか聞くくらいいいじゃないか」

「しめて五百万セレスや」

「高いのか?」

 耳打ちすると、ルクスは小さな声で「バクー一頭が五万セレスです」と言った。

 ということは百体売らなければいけないわけだ。日本での牛の値段がいくらかは知らないので金額換算は出来ないが、相当な金額であることはわかる。

 十万セレスが大体百万円くらいだろうか?

「このぼろい小屋がそんなに高いとは思えないんだが」

「素材が高いねん。ゴルダ川の一流の流木やさかい、それくらいしてもおかしないわ」

「流木がそんなに高いとは思えないが……」

「田舎者はだまっとれ! そもそもこの牧場もわしらのやつや! 月十万セレスっちゅう破格の値段で貸してやってんねん。払えへんならええよ。この牧場は返して貰う。んでそれでも足りへん分は身体で返してもらえばええ」

 男は舐め回すような視線でルクスを見た。

「貧相やけど、まあ顔は悪ないし、スキモノには高く売れるやろ」

 ルクスは激しく首を振った。

「貧相じゃないです」

 ……そっちか?

「今持ち金はいくらあるんだ?」

「一万セレスだけです」

 借金には全然届かない金額だ。

「それなら一緒に街に行かないか? この牧場も借り物なんだろう? 街で生活した方がよっぽど良い暮らしを出来ると思うんだが」

「でも私はアニマクトしか使えませんし」

「ここに残って破産するよりましじゃないか?」

「何をごたごた話してんねん! いい加減にせえよ!」

 男が懐から緑色の石を出した。実力行使ということか。

「緑色だと何魔法とか決まってるのか?」

「そういうことはないです」

 なるほど。俺は小屋に立てかけられている一本の木の棒をちらりと見た。

「ちなみに、この世界に銃っていうのは存在するか? ピストルだ」

 女は首を傾げた。

 よし、この世界には剣も銃も存在しない。

 木の棒を取ると、前に進み出た。思ったよりも軽いが、強度は問題ないだろう。剣の形をしていないと月影式の本領は発揮出来ないが、ないよりましだ。

「なんやお前やるんか?」

 左手に棒を持ち、だらりと下げる。

「その借金は明らかに不当だから無効だ。俺たちは街に行く。だが金がない。だから金を貸して貰う。無利子、無期限でだ」

 俺はにやりと笑った。不思議と気分が高揚していた。

「五百万セレスってとこかな?」

「なっなめとんのか!」

 男は石を掲げ何かを唱えようとした。だがそれより早く俺の剣撃が男の手首を襲った。折れたな。

 男の顔が苦痛に歪み、手から石が転げ落ちた。俺はそれを足で蹴っ飛ばした。

「魔法っていっても呪文を唱えないといけないんだろ? 俺の敵じゃないな」

 男は既に戦意喪失しており、手首を押さえながら後ろに下がっていった。

 もう一人、じっと様子を見守っていた男に向き合う。こっちは不気味な余裕がある。

「あんま若者をいたぶるのは好きやないんやが――」

 俺は男の胴を斬り付けた。話している途中だったが、勝負に情けは無用だ。

 しかし男は平然としていた。

「酷いな」

 馬鹿な。ただの木の棒だと言っても俺の剣撃をまともに食らって立っていられるはずがない。

「魔法発動前に叩く。賢い選択や。しかしな、一つ忘れてはる」

 男のローブから青く輝く光が漏れていた。

「そこの阿呆がやられたときには既に発動済みや。このローブは岩の硬さになってる。あんたの攻撃はきかへ――」

 鋭い突きを鳩尾に当てる。しかし、男は身動き一つしなかった。腕に鈍い痛みが走る。たしかに岩を相手にしているような気分だ。

 一旦俺は距離をとった。男とにらみ合う。

「だ、大丈夫ですか?」

 ルクスが心配そうな顔で俺を見ている。

「大丈夫だが、困ったな」

「怪我をしましたか?」

「いや、腹が減った」

 ルクスが呆気にとられた顔をしたが、冗談じゃなかった。どうにも力が出ないのだ。目が覚めてから既に四時間は立っている。腹が減っていてもおかしくない。

「今食料は切らしていて……」

「お前の魔法って人間相手にも使えるのか?」

「へ?」

「アニなんとかって魔法だよ。バクーに栄養を与えられるんだから俺にも出来るんじゃないのか?」

 ルクスは合点がいったという表情をした。ポケットから石を取り出すと、呪文を唱え始めた。

「させまへんで」

 男が突進してくる。何も手に持っていないが、石の硬度のローブで突っ込まれてはこちらとしてもたまったものではない。

「焦るなって!」

 棒で地面をえぐり、砂を男の目に向かって飛ばすと男は足を止めた。

「ほんな卑怯やな……」

「剣道家じゃなくて剣士なんでな」

 黄色い光が俺に吸い込まれると、全身に力が漲ってきた。握力が戻ってきたし、足でしっかり地面を掴めている。先ほどまでの空腹感がすっかり消えていた。

「サンキュー!」

 俺は男に向かって駆けだした。男は目を攻撃されることを怖れたのか、ローブで顔を覆い隠した。

「無駄なことを――」

「見ておけ」

 足から胴、胴から腕へと力を収束させていく。

 ――月影式 睦月!

 男の胴に棒を叩き付ける。先ほどと違って男の身体がくの字に折れ曲がった。

「ぐっ」

 男が吹き飛び、棒が折れた。

 背中から叩き付けられると、男は苦しそうに唸った。

 俺はそばにより、男の身体に手を当てる。

「……大丈夫。肋骨が折れてるだけだ。病院に行って――魔法で治して貰え」

「兄貴!」

 背の高い男が手首を押さえて駆け寄る。

 手加減したというのもあるが、所詮木の棒だ。致命傷に至ることはないだろう。いくら異世界だといっても人殺しはしたくないのでほっとした。

 まあ今から強盗はするんだが――。

 男のローブに手を突っ込み、ずっしりと重い巾着を取り出す。中を開けると大量の金貨が入っていた。

「じゃあこれは借りてくぜ」

 俺は巾着を振り回して言った。

 ルクスを見ると尻餅をついていた。

「な、何者なんですか? 魔法も使わずにただの木の棒で――」

 そこまで驚かれると反応に困るのだが、ここは一応格好つけることにしよう。

「月影詠句。――剣士だ」

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