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1話~魔法の世界~

「気がつきましたか?」

 ひょっこりと、俺を覗き込む顔が現れた。

 女だ。まだ若い。俺と同じかそれより年下だろうか。大きく黒い目が俺を興味深そうに見ている。

「驚きましたよ。朝牧場に行ったらあなたが倒れていたんですから」

「ここはどこなんだ?」

 記憶が確かならば、俺は祠の前にいたはずで、こんな月が二つある奇妙な場所にはいるはずがなかった。

 女は笑った。

「記憶喪失ですか? ここはナルボンヌです。王国の端っこの田舎町ですよ」

 ナルボンヌなんて聞いたこともない。王国というからにはここは日本ではないのだろう。

 俺は頬をつねってみた。古典的だったがこれくらいしか夢かどうかを確かめる術はなかった。

 当然頬は痛かった。夢ではない、というのはなんとなくだがわかっていた。夢を見ている時に感じるような妙な浮遊感がなかったからだ。

「王国ってここはタイとかなのか?」

「タイ? なんですかそれは」

 どうやら違うらしい。ほかに王国てあっただろうか。

「イギリス?」

 女は首を傾げた。

「カロリング王国ですよ。ここは」

 今度は俺が首を傾げる番だった。

「なんだそれは。聞いたこともない」

「……お兄さん、どこから来たんですか?」

「日本」

「ニホン? もしかして南の方から来た異民族ですか? 変な格好もしてるし、目も青いし……」

 俺が着ていたのは紺色の道着だ。ここがどこかの王国だと言うならば確かに俺は異民族だろう。

 俺はもう事実を受け入れることにしていた。全くわかっていないが、おそらく俺は初代の刀の呪いによってどこか遠い場所に飛ばされたのだ。そしておそらくここは俺が知っている世界ではない。

 すんなりと状況を受け入れることが出来たのには理由があった。初代の伝説的エピソードに、別の世界で修行を積んだ、というものがあったからだ。別の世界とは異国のことを指しているのだと思っていたが、どうやら本当に異世界だったらしい。

「目が青いのは今日が満月だからで普段は黒だ。ところで、俺を見つけた場所の近くに刀が落ちていなかったか?」

「カタナ? なんですかそれは」

「日本刀だよ。――日本刀じゃわからないか。剣だよ、ソードだ」

 俺は刀を振る素振りを見せたが、女は首を傾げるだけだった。

「すみません。私には何を言っているのかわからないです。でも牧場はすぐそこなので一緒に探しに行きましょうか?」


 女について牧場まで行く。言葉の通りすぐ近く、というか俺が寝かされていた小屋のすぐ裏から全て牧場だった。想像していたよりも広大で、地平線の先まで柵が続いていた。

「ここです」

 女は牧場隅の藁が積み重ねられた場所を指差したが、周囲には何も落ちていなかった。

 落胆したが、それよりも気になる光景が牧場には広がっていた。

「……なんだあれは」

 俺は広大な牧場をのそのそと歩く、巨大生物を指差して言った。奥の方にも何体かいる。

 牛に見えなくもない。基本形は牛なのだろう。しかし、明らかに俺の世界の牛とは違う点がいくつかあった。まずその巨大さだ。優に三メートルはあって、牛というより象のような大きさだ。次は角。何故か小さな角が頭から生えている。極めつけは背中に映えた翼だった。翼といっても空を飛べそうな大きさではない、その巨体にはあまりにも小さな、まるでどこかから取ってきて付けたような飾りのような純白の翼が背中から生えていた。

「バクーがそんなに珍しいですか?」

 女は不思議そうな顔をして言った。

「不思議だな。初めて見たよ」

「本当に異国の方なんですねえ。バクーなんてどの牧場にもいますよ」

「全部こんな大きさなのか?」

 女は首を振った。

「うちのは小さい方です。北東部のバクーはこれより一回り大きいですし、原種は二倍ほどあるそうです」

「二倍って、化け物じゃないか」

「バクーも元々はモンスターですからねえ。今では王国内で原種は絶滅しましたが、国外の、ロイセン地方の方に行けばまだ普通にいるみたいですよ。バクーを知らないってことはお兄さんはやっぱり南から来たんですかね」

 俺は曖昧な微笑みを浮かべて話を躱した。

 バクーはぬおおお、という腹に響く重低音の鳴き声を上げると、俺たちから離れていった。

「一人で世話をしているのか?」

 去って行くバクーの背中の上で翼が揺れている。あれほど大きな生物を世話するのはさぞかし重労働だろう。女の細腕では難しい。

「はい。私一人です」

「は?」

「ですから、私一人で世話しています。この牧場は私のなんですよ」

 女は薄い胸を張って、誇らしそうに言った。

「冗談だろう? こんなに広くて、あんなにでかい生き物を一人で? 魔法でも使えない限り無理だ!」

「そうですね。魔法なしだと流石に厳しいです」

「お前が魔法を使えるのか?」

「失礼ですね」

 女は不機嫌そうに頬を膨らませて言った。

「これでも私、アニマクトの達人なんですよ」

 女はそう言うと、ポケットから黄色に輝く宝石のようなものを取りだし、頭上に掲げた。

「ポルト テンパス アニマス!」

 宝石から眩いほどの光が放出され、バクーたちに向かって飛んでいく。

「何をしたんだ?」

「バクーに生命補給をしたんです。魔法がなかったら毎回ご飯をあげないといけないんですけど、魔法があるからあとは雑草を食べているだけでしっかり育つんですよ!」

 随分と乱暴な酪農だ。日本の酪農家たちが聞いたらその楽さを羨ましがり、杜撰さに怒るだろう。

「一体どういう原理なんだ?」

 何か呪文のようなものを唱えたら宝石から光線が出た。ふと、昔修学旅行のバスの中で見せられたアニメ映画を思い出した。あれは空を飛べるという宝石で、呪文で崩壊していたが。

「知らないです」

 女はさらりと言った。

「自分が使ってる魔法なのに知らないのか?」

「……しょうがないじゃないですか。私が教えて貰ったのはこれだけなんですから」

「それにしても何の原理も知らずに使うなんて乱暴じゃないか?」

「お兄さんだって今来てる服の作り方知ってますか? 知らないでしょ。同じ事です」

 随分と暴論な気もするが、言い争うつもりはなかったのでそれ以上突っ込むことはしなかった。

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