マスコット (3)一の方が生まれた頃のめんどくさいことになった話 後編
子猫は籠に入れられ、体は馬に似ているけれど少々ずんぐりしていて顔がバクとかアリクイとかに似ていて、鼻がブルンブルンと柔らかそうな生き物が曳く、馬車?に乗せられて、小さな神殿の様な祭壇のある建物に連れて行かれた。色々な供物の並んだ祭壇の真ん中に脚付きの台座があり、そこに高級そうなビロードのクッションを敷いてその上に恭しくあのケサランパサランが鎮座していた。
「クッション、金の房飾りが付いてたからね。鼻長馬初めて見て動揺した所に、こっちは床置きだからね」
「まあ、精霊神信仰の神殿なら当然というか」
「むしろ触れたりしてはならんはずじゃぞ」
「そうなの? でもその後何か小石投げつけられてた」
祭壇の足元に置かれた子猫がおろおろしていると、白髪混じりの男が現れ、続いて神妙なる顔で入室した屋敷の人々が祭壇から距離をとって静々と跪いた。皆が揃うと先頭の白髪混じりの男が静かな声で、おそらくケサランパサラン様に向かって手の中の小石を見せながらしゃべっていたが子猫には意味が分からない。
そしておもむろにその男がテーブルに背を向け小石を投げた。結構な勢いで投げられた二つの小石が磨かれた床をカン、カラカンカンと音を立てて転がる。
子猫はビクついて仰け反るが皆の目は小石に釘付けだ。きっと息はしていない。
二つとも同じ模様なことを確認した皆が息を吐く音がホールに響く。子猫は目の前で始まった謎儀式に落ち着かずその場をぐるぐる回って鳴いたが誰も見ていない。ケサランパサランも石を投げられると微かに反応してる気がする。石が当たりそうでも逃げられない事に子猫は同情の視線を送った。
人を変え同じことが繰り返され徐々に張り詰める空気に息苦しくなってきた頃、屋敷の主の投石を最後に緊張の糸が切れ、皆が脱力した。白髪まじりの男の言葉で締めくくられ、皆抱き合ったり、背中を叩いたり、握手をしたりと静かに労い合っている。涙を拭う者までおり子猫は益々落ち着かない。とりあえず小石が当たらなくて良かった。
子猫が見ている限り、5回投げられた小石は全部同じ模様に見えた。裏表で模様が違う石が二つなら四分の一の5乗。計算してみて皆の興奮ぶりに子猫も納得できた。
子猫はなんとなく雰囲気と拾える単語で綱渡り的な状況が悪い方には転ばなかった事だけはは理解できた。許してもらえたっぽいなと。
屋敷の主の壮年の男性が疲れた顔で子猫に歩み寄り籠を開けた。苦笑いで何か早口で言って撫でてくる。微妙な表情だが嬉しがっている気がした。
更にその後、ケサランパサランをどこで飼うかでここの者と屋敷の者で少々揉めた。
子猫はここまで来て空気清浄機を手放すのは癪だったのでビロードのクッションに乗ってケサランパサランの前で守りの構えを見せたが速やかに降ろされた。子猫はは既にケサランパサランにシロ丸と名前まで付けていたのだ。結局また石を投げて屋敷に連れ帰ることが決まった。
ケサランパサランは桐の箱にお粉を敷きつめて飼うものと子猫は思っていたが、ケサランパサラン様は屋敷の一室を貰う待遇だった。空気清浄機の意味が無いとがっかりしたが、いつの間にか屋敷の空気は綺麗になっていてわりと快適に過ごせるようになった。高性能ぶりに子猫は満足だった。
毛づくろいをしてやったり、好物の実を差し入れたりして子猫はシロ丸を可愛がった。ケサランパサラン様の部屋は厳重な管理がされて鍵がかかっているのだが、何故か子猫は開けられたのでさっと侵入してさっと中から閉めてしまってゆっくりシロ丸を構う。毛づくろしたり、半透明の美味しい実をシロ丸の毛の下にぎゅっと隠すように押し込んでやったりと、意外と面倒見の良さを発揮しつつも屋敷の者に見つからないようにコソコソ動いていた。
毛づくろいのおかげかシロ丸の毛艶はどんどん良くなっていった。そして生命力に充ち満ちて輝いているようだと満足していたら本当にうっすら光りだして子猫はは慌てた。
夜中にシロ丸の様子を見に行くと暗い部屋で朧気に光り、輪郭が浮き上がっている。神秘的だったが光っているのが毛玉なので有難味には欠けた。
昼間は判りにくいが夜がまずい。吉兆か凶兆かも分からず、子猫がクッションに乗り上げおろおろとシロ丸の周りをうろつく夜が数日続いた。
そしてある夜、こんもりと丸かった白丸が凹みだし子猫が焦りながらも途方に暮れている間にじわじわ時間をかけてシロ丸は分裂してしまった。
3対1程の配分だったので子猫は迷わず1の方を咥えて寝床に持ち帰った。
証拠は隠滅するに限る。
とりあえず寝床に隠して明日また考えようと小さな毛玉を抱き込んで眠った。そして翌朝は鼻がこしょこしょくすぐったくて起きた。小さな毛玉がもぞもぞ動いて鼻をかすめていく。本体より一回り小さい猫柳の新芽のような尻尾まで生えてぴょこぴょこ動かしている。
もうどうにでもなれと子猫は二度寝した。
「そういう訳で何も知らない初心な私のせいで一の方はできたんだよね」
「親近感を覚える話よな」
「……何と言っていいのか判らないが……流石だな」
「いくらビロードでふかふかでも動けないのは可哀想だから動ければいいのにって思いながらペロペロしたのがダメっだったっぽいよね?」
「屋敷の者らは大丈夫だったのか?」
「一の方が付いてくるの見ても笑ってたよ。森ねずみ拾ってきたと思ってたっぽい」
「……ん~? もりねずみ、ひろったろ?」
タイミングよくネイスが起き出した。
「やっと起きたな。一の方の話だ」
「よし、なら早速お宝を貰いに行こうかの」
老人は話の途中からネイスが起きるのを今か今かと待っていた。そそくさと片付けを始めている。
「あの景観を壊すのは忍びないな」
「そういう時の為の魔法じゃ。目立たんところのを綺麗に採ればよかろ?」
「それ僕できるよ。枯れないようにするやつ」
「虚弱な植物の葉を採取する時のアレか…。今回私はは遠慮しておこう」
草にも採取を悟らせぬように繊細な魔法で刈り取るのだ。傷まないよう同時に傷口も治す、割と高難易度なものだった。希少な素材と美しい景観を傷つけるのがメミドリーは嫌だった。
「失敗できん緊張感の中での魔法の行使もまた修行よ。やってみろ」
「がんばろ!」
寝起きに元気なネイスに苦笑いしながら横穴に戻った。
慎重に採取をしていると、黒猫があちこちうろちょろして毛玉の精霊に何やらしている。気が散ってしまったメミドリーは手を止めて話しかけた。
「何をしている?」
「夜露草の石果実じゃろ」
「ニー」
「アレ、黒猫のおやつだよ。僕は固くて食べられなかった」
「おやつ? 数珠に使う石が? お守りだろう」
「精霊が好むというのは本当みたいじゃぞ」
「……黒猫がさっき言っていた薄青い実か。ビーズのように使うほど硬いのに」
「ぷちゅってつぶれるんだよねー。ふしぎー」




