C1.2 魔王始めました ― 2 ― 謁見
騒々しかったその魔族は、謁見の間に入るなり直立不動となる。
明らかに怯えているのが伝わってくる。
「どうした、何か不服があるなら言って良いぞ?」
「はっはひっ!・・・はっいえっ・・・」
なおも直立不動を続ける彼の隣から、デスロードが私の前に一歩出てかしずく。
つれてこられた魔族も、慌ててそれにならいかしずく。
「こ、この度は、魔王様ご誕生、おめでとうごじゃっ・・・いまふ。す。」
「慌てなくて良い、粗相も許す、まずは落ち着け。」
「は・・・はひ・・・。」
やれやれ・・・。
デスロードの知己である彼らの一族は猫妖精の一族、いわゆるケットシーなどと呼ばれる者たちだ。
ケットシーの中には社交的なものも多く、そうした者達との広いネットワークが魅力の一族だ。
謁見に来た彼ら一族のベースは山猫らしいが、どう見ても大きめの二足歩行の猫・・・と言うと彼らに失礼になるかな?
元々はこの森一帯を縄張りにしている魔族で、余り他の魔族の影響を受けていなかったらしい。
しかしここ数年、とても強い力を持った魔族が二人、争うように暴れまわるようになったらしい。
「奴らはとても強く、我等も魔族ということもあり、強いマナをまとう者に逆らえず・・・。
それでも幾つかの部族はまだ抵抗を続けていますが、最近になって更にクーシーどもを引き連れてくるまでになり・・・。」
クーシー・・・猫に対し犬の妖精族か。
奴らは元々は番犬の意味合いが強い妖精族で、個体差はあるにしろ牛ほどもある巨大過ぎる犬だ。
飼い主がやつらを猟犬として用いれば数があればあるほど、そしてその飼い主が優秀であればあるほど危険な猟犬団と化す。
「いかがいたしましょう?
その者達を滅ぼすか、従属させるか・・・。」
「魔王様であれば、従属させることはできましょう。
しかしその場合、長く虐げられてきた我等の同胞は協力を拒否するやも知れません!」
巨大な戦力か、広い情報網か・・・。
まだ地固めも何もしていない時分から戦力の補強を気にすることもないだろう。
せっかく従順な猫妖精の一族の協力が得られると言うのだから、その話をふいにする必要は無い。
「その者達を駆逐してやろう。」
「ありがたきお言葉!」
喜びの余り、猫妖精は飛び上がり、慌ててかしずき直す。
「となれば主、私が不死者どもを作り上げ、一気に殲滅せしめましょうか?」
んー・・・それは偉く派手になりそうだな。
「いや、私自らが行こう。
お前も転生して間がないのだから、暴れるよりまずは体になれたほうが良い。」
「お心遣い感謝いたします。
ですが彼らは決して素人ではありませんぞ?」
「そうです!クーシーどもを駆る奴らの手腕は、人間の将軍にも引けをとりません!」
「まぁ任せろ。
最悪消し炭にしてやれば良い・・・。」
少し力をこめて魔導を練り上げるその私の姿に、二人が竦み上がるのが見える。
それ程に影響するのだな・・・魔王という存在は。
動けない二人を残し、暴れん坊二人組のところに向かう。