C1.1 魔王始めました ― 1 ― 最初の眷属
魔王になる・・・といっても私の場合、特段何かをするわけでも転生するわけでもない。
体の内外で入れ替わるマナの量を、意図して増やすかどうかだけなのだ。
普通の人間種では、余りに頻繁にマナがオド(自前のマナ)とが入れ替わると、人間種ではいられなくなる。
しかし、元々マナの影響をまともに受けている魔族や、マナの扱いに慣れた魔導師レベルであれば問題はない。
それどころか自らを介して流れ出たマナは、周りの魔族に対してある種の支配力を持つようになる。
これについて、マナの扱いが魔導師ほどではない魔術師や魔法使いレベルの者でも、相応の使い魔位は持つことができることで証明される。
ところで・・・私を魔王になること薦めたあの老魔術師は、小さな城をこっそり造っていたようだ。
自身がいずれ魔王になることを考えて造ったのだろうその小さな城は、意外に綺麗に保たれていた。
その城にて、最初の眷属として高位の不死者、デスロードを得た。
「デス・・・ロードか。」
「名を気にする必要はありません、主よ。
貴方はいずれ王の中の王を名乗ればよろしいのです。」
「そんなもんかね・・・というか、思い切ったな。」
「そうでしょうか?」
私の返しに首をかしげる我が最初の眷属は、元はあの老魔術師だ。
奥の手は二つあって、一つは長年じっくり編み上げてきた術式魔方陣による、不死者の大規模召喚術。
これは、私のとは別の書を持つ魔導師によって、陣ごと吹き飛ばされてしまった。
もう一つの奥の手というのが、イモータルズとして転生する魔術だったようだ。
元々魔術は非凡ならざる才があったのと、魔術の発動の際に私が可能な限りマナを注いだので、かなりの上位となれたようだ。
「不思議な物ですね、こうなってみると主の強さはあの時より遥かに大きく感じます。
魔族が大きなマナを扱える者にかしずきたくなる、という気持ちも良くわかるようになりました。」
「そんなものかね・・・。」
「まず手始めに、身の回りを世話する従者と、近衛の者を手に入れましょう。」
身の回りの世話か・・・不死者は少し嫌かなぁ。
この城が綺麗に保たれていたのは、不死者の従者達がやっていたのだろうからあり得るな。
そんな私の気持ちを察してか、
「私に魔王になることを促していた一族を呼んでおります。
彼らの一族から若い者を出すように言っております。
そろそろ到着する頃ですので、まずは私が出迎えましょう。」
「任せる。」
謁見の間にて待つよう言われたのでおとなしく待っていると、何やら外で騒がしい。
「どう言う事だ!・・・いや、ですか!
俺はあんたが魔王になるもんだとばかり思っていたんだぞ!・・・です!
それをどこの誰とも知れぬ輩に魔王になってもらう等と・・・。
何を考えてんだ!・・・ですか!」
「お前さんにはこの私でさえ脅威に映るのだな。
まぁ、会えば分かる。
粗相の無いようにな。」
「あんたのそれだって既に魔王を名乗れる代物じゃないか!・・・ですか!
まったく・・・どんな野郎が魔王になろうってんだ・・・ですか。」
まだ人の輪郭を残した我が眷属が、苦笑している様が目に浮かぶ。
この謁見、大丈夫か?
やれやれ・・・ご対面だ。