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序章

あとがきに用語説明(植生・地名・物質等)があります。

 農業。できることはそれしかなかった。

 かつて私達、ダウの地に住まう人間は、野に蔓延る鳥を追って、走り回ることだけで1日を過ごしていた。ある時偉大なる先祖が、蒔けば蒔くほど実る、加工してもそのままでも美味なる食物、ぺぺリーオリムを手に入れた。

 私達は極貧に耐えた。寒い風は吹き荒び、そうと思いきや雨は大量に降って、泥濘を背負い、もしくは溺れ、今ようやく、この地を平定することになった。


 さて、スィダラスの高い山並を越えて、向こう岸に突き当たったなら、なんという、温暖で、安定していて、使いやすい土地が広がっているのだろうか! これまでの私達の苦労が、揺れる空気の波のように途切れて消えてしまった。雨も降る時と降らない時がはっきりとしているおかげで過ごしやすいし、住まう人も温厚で、食物を分けてくれた。

 私達はお礼にと思って、耕すことを教えようとした。未だに狩りを続けている彼らに興味が湧いて、ただそれだけだったのだ。


 芽が生えて、彼らは手を出そうとした。しかし待てばより大きな実りが採れると言い包めた。枯れてしまった。

 水も欠かさず与えたのに、光にだって当てたのに、どうしても枯れてしまうのだ。なぜかと思って、元々の土を持って比較する。


 ロムフォスが足りない……


 ロムフォスとは、植物が育つために必要で、土に混ざってなければならず、空気中に分散しているわけではないものであって、体に流れてはいる。

 それがこの、カイケの地には足らなかった。私達の元いた場所のような、沢山耕して、沢山収穫できる、そのような体制に導くには、たった一つの芽ですら満足に育たない、痩せた土地ではあまりにも条件が足らなすぎた。


 さてここで、一つ昔話を紹介しようか。


 私達の元いた地、ダウ群地で不作に陥った際、苦渋の末に、一人の肥えた少女を埋めることにした。口減らしの意味もあるし、何よりも彼女自身が望んだからだ。

 埋めた地を耕して、育てるに、やけに前年よりも収穫が多くなった。彼女の肉体が大地と結びついて、彼女は地母神へと育ったのだと私達は悟った。

 つまり私達は、同族を大地に捧げる必要があったのだ。しかし選定というのは情に支配されてしまう。無慈悲に奪うことになってしまっても、心がそれを許さない。

 ならば知らない者を選び、何も感じないようにして、大地になってもらうしかないのだ。しかし彼らの中に農業というものはない。植物を自分で育てることができる、という概念の存在すらしていないのかもしれない。というほどに、当地に散らばっていた文字を集め、読ませるに、ほとんどの民が「読めない」と答えた。

 私は、彼らの中に取り入って、文化を学ぼうとした。それもあまり発展しておらず、散らばって、文化と言えないが。彼らは無邪気に私を受け入れた。裏切るであろうこの私を。私を。


 彼らは彼ら自身の子供に物語を話している。それはどうもこの世界の形成の過程であるようで、今でさえ耳を塞ぐような矛盾がありしも、彼らは気にしなかったのだ。

 一つ、気になったことと言えば、「地の男神が妻である水の女神と離された」ところであろうか。近くに大きな水の塊があって、そこでは波が生きているのだ。それに人格を当てはめて、何故、と考えたものらしい。

 水。体にも流れている。


 そうだ。改竄してしまえばいい。文字として残らないのならば、声という形のないかたちならば、幾らでも変えることができてしまう。できる。私は流した。

 肉体は土に還る。父なる大地へ。幸せなことだろう、糧となるのならば。

 今宵をもって、カイケの地は、私達の土地となる。異論は許さない。

スィダラス(山脈):カイケ群地とダウ群地の間にある。

ペペリーオリム:草本層に位置する植物。今のところは「小麦のような植物」という認識で構わない。

ロムフォス:俗に言う「リン(P)」のこと。

リンが不足した土地で農業を行うと、収穫が良くない。酷い場合には生長すらままならないこともある。

カイケ群地は扇状地なので、果樹が育ちやすいのだが、腹を満たすためというより娯楽のための食物としての面が大きかった。

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