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4、ヤンキー娘、油断ならない男と認識する

 支配人室を出た凛と志稀は久木に案内されて廊下を進んでいた。話しを聞いていた印象から、凛には大女将である鈴子とその孫であり若旦那という立場である昭彦の間には、大きな溝があるように感じた。単純に仲が悪いのではなく、そこに何か理由があるのだろうか。疑問に思った凛は、静かに先導する久木に尋ねることにした。


「大女将と若旦那って仲が悪いんすかね?」


「さっきのは意見が分かれただけで、普段はそんなことないわよ」


 仲居頭を務めるだけあり、綺麗な作り笑顔が振り返る。だが、ここで作り笑顔をするということは、答えは逆ということだろう。志稀もそれを察したのか、久木に近づいていく。


「久木さん、調査に必要な情報だ。教えてくれないか?」


「で、ですけど……」


 端正な顔立ちの志稀に頼まれて揺らいだのか、久木は頬を赤く染めて純情な乙女のようにうろたえる。凛は半眼になってそんな二人を眺めていた。この男、油断ならない。仕事の為なら自分の顔さえ利用する気なのだろうか。


「頼む。あんたの協力が必要なんだ」


 志稀が言葉を重ねてると、久木は周囲を見回してし足を止める。そして人気のない廊下の隅に二人を連れて行くと、ひっそりと囁く。


「私が言ったことは、内緒にしてくださいね?」


 そう言うと、久木はさっきの話には上らなかった依頼人と孫の思いもかけない内情を話し出した。


「あの二人の関係はとても複雑なんですよ。なにしろ、祖母と孫なのに血が繋がっていないのですから」


「えっ? そうなんすか?」


「えぇ。大女将の娘、真貴子まきこさんの旦那さんの連れ子なんです。当時、大女将は結婚には大反対していたそうですけど、真貴子さんがどうしてもその人でなくては嫌だと聞かなくて、認めてくれないのなら家を出るとまで言い出したものですから、大女将も反対しきれなかったそうです」


「なるほどな。それで、血の繋がらない孫にはあのとげとげしい態度か」


「へぇー、そんなこと現実でもあるんすね。まるでドラマみたい」


「ドラマならいいけど現実だから大変なのよ。それでも、昔は今ほど拗れてはいなかったそうですよ。血の繋がったお孫さん、たける君が生まれてからは、大女将もとても穏やかになられて、家族として上手くいっていたと聞いたことがあります」


「だが、その血縁者である唯一の孫が亡くなった。大女将はさぞ嘆いただろうな」


「実際にその通りなのでしょうね。武君の事故がきっかけで、大女将と若旦那の間はより一層ぎくしゃくしたものになっていったようですし。今では意見の対立が耐えなくて、古参の者はみんな二人の間に挟まれて苦労しているんですよ」


「ということは、この話は従業員も知っているんだな?」


「最近は従業員の前でも言い争いが絶えないので、ほとんどの者が知っていると思います」


「見るからに頑固そうな婆さんって感じがするし、無理ないかも」


「この旅館を守ってきたという矜持がそうさせるのかもしれないわね。実際、大旦那がお亡くなりになってから、大女将が切り盛りしてきだんですから。さぁ、今度こそお部屋にご案内しますね」


 苦笑気味に締めくくると、久木は再び案内に立つ。凛は黙り込んだ志稀の端正な横顔をちらりと見て、尋ねた。


「何考えてるんすか?」


「可能性だ。それより、さっきから気になっていたが、その不格好な敬語は止めろ。お前そんなガラじゃないだろ?」


「ま、そうだけど。あんたが一応雇い主らしいから使ってただけだよ」


 許可が出たのを幸いと、志稀に貶された不格好な敬語を、ここぞとばかりに投げ捨ててやる。皮肉を込めて口端を上げれば、男は目を眇めた一瞥をよこし、凛を追い越して行く。反論する気はないらしい。凛は喧嘩を売ったのに肩すかしを喰らった気分になる。


「読めない奴」


 凛は小さくぼやくと、そんな男の後を追いかけた。





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