16、ヤンキー娘、二人で一つの仮説を立てる 後編
「あぁ」
ぷつりと会話が途切れた。志稀を伺えば無表情に目を伏せている。厳しい言葉が目立つから誤解されることが多そうだ。その言葉の中に隠された優しさがあることに気づける人は少ないだろう。凛だって聞く努力をしていなければ誤解していただろう。
「あのさ、志稀さんのことを聞いていい?」
「なにが知りたいんだ?」
「じゃあまずは年齢から」
「二十二歳だ」
「大学生なの? あたしは十七歳で高校二年生だけど」
「大学には行っていない」
「兄弟は? 一人っ子? あたしは一人っ子。両親と三人暮らしだよ」
「どちらもいない。一人暮らしだ」
平然と答えられたけど、志稀の両親のことは気軽に聞くべきではなさそうだ。凛はそう思って次の話を振った。
「彼女はいる?」
「いいや。お前は別れたばかりだと言っていたな」
「そう。仲がいい奴が何人かいてよく遊んでるんだけど、あ、言っとくけど健全な遊びの方だよ? それで、彼氏がそいつ等と縁切れって迫ってきたから、それならお前と縁切るわってなったわけ」
「今時の女子高生は強いな」
からかうように薄く笑われて、凛は眉を寄せて反論する。
「だってさ、付き合い出した途端にそれって酷いだろ? せっかくの高校生活だし、友達だって大事にしたいじゃん」
「あぁ。次は友達ごと大事に出来る相手を探すんだな」
「まっ、彼氏は当分いいって感じかな。志稀さんはいつから見えてるの?」
「生まれつきだ。物心つく頃には遊び相手が霊だったからな」
「そうなんだ? あたしと一緒だね。と言っても、あたしは幽霊と遊んだりはしなかったか。どっちかって言うと怖がってた方だよ。じいちゃんがそういうのが見える人でさ、対処法を教えてもらってたんだよね」
「どんな方法だ?」
「弱いとこは見せないこと。『てめぇなんか怖かねぇぞ!』 って感じに霊の相手をするわけ。それから、見た目を派出にすること。あたしの髪とか化粧ってけっこう派手めでしょ? これも一応対処法の一つなんだ。派手にしとくと寄ってきにくいみたいで、ピアスも右耳だけ開けてんの」
右耳に横髪をひょいっとかけて見せる。全部寄りつけない為の方法だ。小学生の時はさすがに髪を染めたりは出来なかったので、金色のお守り袋を肌身離さず持っていた。
「今はこの恰好が気に入ってるからそれだけが理由じゃないんだけどさ。高校入学デビューで真っ赤な頭にしちゃったから、先生には目をつけられて、クラスの女の子には怖がられちゃった。その頃はなかなか友達が出来なくて大変だったけど、中身は普通だからってアピールして理解してもらったから、今は仲良くしてんの。だけど、生活指導の先生には顔を合わせるたびに頭染めろって注意されてる。聞く気はねぇけど」
「面白い方法だな。異国でも魔除けとして子供の内からピアスをさせるところがあるそうだ。昔からある良く知られた呪いの一つだ」
「へぇ? じゃあ、じいちゃんの言葉もあながち間違いじゃなかったんだ? 今度行った時にお礼言おうっと。志稀さんの金髪はそういう理由からじゃないの?」
「オレのはただの好みだ。祓い屋だからと言ってそれらしい恰好をすることもないだろう。実力があればどんな格好でも祓える」
「実際そうなんだろうけどさ、自信過剰にならないとこが逆に憎いわー。志稀さんはいらないとこで無駄に恨みを買ってそうだよな」
「恨みより僻みの方が多いだろ」
「あ、自覚あってその態度なわけ。あたしの意見としては、似合うし、いいんじゃないって感じだけど」
そんな話をしていたら、閉じていた襖越しに店員の声に呼びかけられた。注文していた料理が運ばれてきたようだ。
「お待たせしました。お寿司二人前に、焼き鳥と唐揚げとサラダの付け合わせです。ご注文は以上でよろしいですか?」
「あぁ」
「では、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
一礼して店員が下がっていく。凛は自分の前に置かれた握りずしと唐揚げに目を落とすと、しっかりと手を合わせる。
「わお、美味しそう! 志稀さんの奢りでいただきまーす」
「いただきます」
二人は手を合わせて腹ごしらえを始めた。




