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15、ヤンキー娘、二人で一つの仮説を立てる 前編

 それぞれに注文を済ませた二人は、出されたお冷で喉を潤しながらこれまでにえた情報を整理していくことにした。


「武の事故から時間列に並べていこう。まず、事件が起きた数時間前に、仲居の高木は被害者の武と会話した。彼女の証言によると、武は誰かと遊ぶ約束をしていたことになる」


「相手を言わなかったのは、口止めされていたんじゃないの? ってことはつまり、武と遊ぶことを内緒にしたい意志があった?」


「仮にそれが正しかったとすると、一番最初にその相手として浮上するのは色谷旅館の若旦那、昭彦だろう。あの日、この店の店長と遊んでいたのは証言通りに事実だろうが、さっき聞いた『宝隠し』をしたのなら、武と遊ぶことも可能だ」


 志稀の推測に頷いて、凛は自分の考えを伝える。


「確かに、あれなら若旦那が鬼役で宝物を隠して武に探させている間に店長のとこに行けば、その場に居ない状態でも同時に遊べるよね。その最中に武は転落してしまったってことか」


「だが、それが本当に事故なのか故意なのかは本人達にしかわらからないことだ。店長や奥方の証言を信じるのなら、純粋に事故とも取れるが、隠した宝がある場所を転落するような場所に隠したと言えばどうだ? 事故が起きる状況を作ることは可能だろう」


 実際にその場所には隠さずに言葉を与えただけならば、証拠も残らない。だけど、あまりに運任せな方法だ。故意に事故を起こすならもっと単純で簡単な方法がある。


「落としたいなら、実際に宝物を落ちそうな場所に設置した方が確率は高いんじゃないの? それにもっと確実なのは自分の手で押すことだろ。後さ、宝隠しの途中で死んじゃったなら、宝物を取られたって武が思ってるのはどうなんの?」


「自制が利く人間と違って霊は感情や本能がより強くなる。亡くなる直前に強く思ったことは鮮烈に残っているものだ。穢れが強いのは宝物を見つけたい、取り戻したいという執着の強さが原因とも考えられる。その穢れが本人の認識にも影響が出ていると考えれば説明はつく。そうやって仮定すると、話の筋は通るだろう」


「うーん。でも、あたしには若旦那が故意的にそれをしたって思えないんだ。大女将達のせいで素直に接することが出来なかっただけで、義理の弟にそこまで悪い気持ちは持ってなかったんじゃない? すげぇ嫌味を志稀さんに言ってはいたけど、全部直球だったし、質問にはちゃんと答えてたじゃん」


「不自然なほど霊の存在を否定してはいたがな。ああまで頑なに霊の存在を否定する人間は性質的に三パターンに分けられる。純粋に霊の存在を信じていない者。霊の存在を潜在的に信じ恐れている者。霊の死になんらかの関わりがある者。故意にしろ故意じゃないにしろ、オレ達の仮定が正しいのなら、彼は必ず行動を起こすはずだ」


「見つかっていない武の宝物をあたし達が探し出すことは、若旦那にとっては都合が悪いことだから?」


「そうだ。宝隠しの鬼だったことは、彼にとって隠しておきたいことだろう。だから、あの日のことを正しく証言しなかった。彼は武の宝物をきっとオレ達よりも先に取り出そうとする。あの日あったことを過去のままにしておくために」


 志稀の重い言葉に、真実を探すことに迷いが生じる。本当に真実を暴くことが正しいことなの? 誰だって知られたくない過去はあるはずだし、死ぬまで嘘をつかずに生きられる人間がいるとは思わない。凛だって小さな罪なら数えきれないほど犯しているはずだ。


「志稀さん、あたし達がしようとしてることは誰かを傷つけることにならないかな? 誰も傷つけない方法を探すことも──……」


「──生きている人間は傷を癒すことが出来る。だが、死んだ人間にはそれが出来ない。オレは必要な仕事をするだけだ」


 凛には志稀の突き離した言動の中に隠された意図が正しく伝わった。つい自分達の世界ばかりに目を向けがちだが、亡くなった武の為にはどうしても必要なことなのだ。


「ごめん、嫌なこと言わせた。そうだよな、解決するために必要なことはしないと。大女将が望んだことでもあるんだから。任された仕事はちゃんとするよ」





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