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1話:悪の華 (上)

 

 

 時は、一年前に遡る。



 最初の舞台は、日本。



 世界にはヴィランとヒーローが存在し、日夜戦いを繰り広げている。

 政府は、悪の手先を駆逐するためにヒーローを支援し、代わりに力を振るってもらう。

 その力は、もはや警察や自衛隊と同程度の規模になっていた。


 そんな戦いの一幕。


 

「ごふぅっ…!?」



 ビチャビチャと水音を響かせながら、男の口から体液が吹き出し、流れ落ちる。

 宿敵の一撃により、内側から破壊された肉体。

 そのダメージと衝撃に耐えきれず、足は地から離れ、後方に吹き飛ぶ。


 機材を巻き込み、転がる青年。


 齢にして二十代の前半といった所だろうか。黒髪を少し耳にかかる程度に揃えており、清潔感を感じさせる。

 その輪郭、顔のパーツは整っているように見え、おそらく色恋に不自由はないだろう。

 おそらく、という曖昧な表現の理由は、青年の目元が、鳥を模した仮面で隠されているからだ。


 服装は一張羅の紳士服。

 その上にマントを着込み、胸元には盤上に『王』と書かれた将棋駒が(えが)かれたエンブレム。


 彼こそが、悪の組織「棋兵団(きひょうだん)」が首領。

 階級は、王将。


「……お、お見事、の……ゴホッ、一言ですね……」


 首領はゆっくりと起き上がり、自分の目の前にいる人物に敬意を表する。


「貴様の配下も、見事な忠義だ。王将よ」


「ふふ、正義の味方、『音響戦士:ドドム』に配下を認めてもらうとは。我が身を褒められるよりも光栄なことです……」


 音響戦士、ドドム。

 あらゆる楽器を操り、それらから繰り出す音響、振動を武器に戦う、国家指定のヒーローである。

 首領が吹き飛んだのも、彼の発する超振動が原因だ。



 そんなドドムは、対棋兵団のために派遣されたヒーローである。

 首領と相対し、戦い続けること約2年。

 ついにその基地を見つけ出し、最終決戦が始まったのだった。



 その結果が……今、目の前に起こっている惨状である。

 秘密基地の内部は、音響攻撃により半壊。機材はほぼ大破し、怪人を作るための施設にもダメージを受けた。


 首領は正義の一撃の元に瀕死となり、もはや組織は壊滅寸前となっている。



 しかし、本来ならばドドムの一撃は、首領の命を断って余りある威力を秘めていた。

 それなのに、彼は生きている。

 その訳は……


「そこの人形が庇っていなければ、貴様は既にこの世にいない。その献身に敬意を表さずして、何がヒーローか」


 そう言って、ドドムは視線を足元に移す。

 そこには、バラバラに破壊された、パーツが散らばっていた。


 超震動により、ネジやボルトが弾け飛び、分解されたような箇所が見受けられ……その一つ一つに、どこか人間らしい質感が見られる。

 パーツの中心には、線の細い女性用のビジネススーツ。


 その横に転がるのは、長髪の女性の頭部だ。


 彼女こそ、『金将』。

 秘書型戦闘用人形(ひしょがたせんとうようオートマタ)、No.01。通称「カネコさん」である。


 彼女が、自分の体の損害を無視してドドムと首領の間に割って入った為に、首領は生き長らえた。

 その行動の結果、彼女は大破してしまったのだった。


 後を頼む、そう一言彼に託して。


 愛する部下を、己の不始末で失った首領の心痛は、いかばかりか。



「敬意を表す、が……貴様を野放しにしておくことは出来ない。王将よ、悪いがこのまま、首を取らせてもらうぞ」


 鉄屑に成り果てた彼女を跨ぎ、ドドムは首領に近づいていく。

 首領は、口の中の血液を床に吐き出し、宿敵を待ち受ける。


「惜しいことだ……貴様の人格、人間としての器は、この国にとって必要なものであった」


「良いのですか? 悪の組織の首領を誉めて」


「事実だ。だが、それ故にお前の野望は、今の世に認められなかったのだ」


 淡々と述べるドドムに、首領は「彼らしい」と微笑む。

 常に武人として、正々堂々と悪を打ち砕く彼のスタイルを、首領もまた、認めている。


「世界を統一し、我が物とする。それが我等『棋兵団』の目的。それ以上も以下もございません」


「よかろう、ならば俺も、それ以上は語るまい」


 ドドムは中腰に構え、音響を溜めていく。

 その手には、トライアングル。直に超震動を相手に叩き込める、彼の最強武器である。


「去らばだ、棋兵団首領」


「いいえ、私は……生きます。我等の、悲願の為に」


 微笑みながらも、確固たる信念を持って、首領は動く。

 ドドムの音響を少しでも押さえ込むべく、特別製のマントを盾にしながら反撃に出ようとする。


 ドドムもまた、その些細な抵抗をも打ち砕かんと、拳を振るう。


 両者が、激突しようとした、その瞬間。




 ガキィィィィィン!!




 甲高い音と共に、ドドムの拳が止められた。

 必殺の音響は、何故か発動しないまま………その先にある、サンダルを履いた足に受け止められている。



「いやぁ、首領? 危ないとこじゃったねぇ」



 なんともアンバランスな人物だった。

 美しい、日本人形のような黒髪を、腰まで伸ばしている推定美女。

 推定の理由は、彼女の目元は、漫画のような瓶底眼鏡で隠されているからである。

 しかし、その輪郭、鼻のライン……唇の艶やかさ。

 目元を隠してなお、男を惑わせるような色香がある。


 身長は高く、首領と同じかそれ以上。

 その身には白衣を纏っており、所々が(すす)けている。

 その下に着込んでいるのは、だらしなく伸びきったタンクトップとジャージズボンである。

 なんとも、ずぼらな性格が見てわかる女性であった。


 しかし、服装のだらしなさを補って余りある、そのボディライン。

 爆発しそうな程に豊満なバストは、タンクトップ故に見えるか見えないかを維持し、本来ゴムも伸びているであろうジャージも、そのヒップが魅惑的な大きさであるが故にずり下がる事はない。


 どこかの誰かの趣味を全力で詰め込んだような、だらしなさと美しさを兼ね備えた存在。



「博士!」


「『(ぎょく)』か!」



 その名は、博士。

 通称、『玉将』。

 首領とほぼ同等の階級を持つ、この組織のNo.2である。


 実力もまた、押して知るべし。

 彼女は、凡人では計り知れない力を持って、超震動の一撃を止めて見せたのだ。


「んはははぁ、ワタシだけじゃぁ、ないんじゃよなぁ」



 そして、場面はまだまだ流れ動く。



「「「イー!」」」



 基地の窓を叩き割りながら、突入してくる三人の人影。

 全身を漆黒のタイツで包み、顔すらも見える事はない。

 頭部には、白く、丸い瞳が二つのみ。


 (○ ○)←こんな感じである。


 その胴体にはたった一文字、『歩』と書かれている。

 そう、彼らこそ棋兵団が誇る戦闘員、通称『()』の面々である。


 本来ならば、50人規模の部隊で活動している彼らだったが、先程ドドムの広域音波攻撃により、数を3人までに減らされてしまった。


 しかし、壊滅的な被害を受けてなお、残った3人は逃げるでも待機するでもなく……首領の元にこうして馳せ参じたのだ。


 ちなみに、左から「A君」「B君」「C君」と呼ばれている。



 現在、棋兵団が保持する最高戦力。


 首領を中心にした敗残兵は、今ここに全て終結した。

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