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プロローグ

 

 空に浮かぶ白い太陽。清々しいまでの青空の下、俺達四人組のパーティーはゾムラの森という、モンスターが少ない、ゲームで言うと初心者用の森にいた。


 草むらを掻き分け、獲物を追い掛ける。ゾムラの森で狩りをすること数時間。ようやく見つけた獲物。逃がしてたまるか。


「パト! そっちに行ったぞ!」

「任せろ!」


 合図の声と同時に木の上から獲物目掛けて飛び降りたのは、パトと呼ばれた少年。赤毛色の不揃いなボサボサの髪型に、鼻には元気印のそばかす。以前、盗みを働いて自警団の人に殴られたおかげで、左八重歯が欠けている。

 ナイフを思いっきり突き刺し、獲物は悲鳴をあげ動かなくなった。パトは嬉しそうに獲物を掲げ誇らしげに笑う。


「ギルマスー、ポズー! 今日の夕飯は肉だぜ肉! 久しぶりの肉だー!」

「でかしたパト!」

「よくやったな」


 喜びでパトの背中を叩いているのはポズ。パトとは瓜二つの容姿で、髪の色は緑でボサボサだ。元気印のそばかすもあるこの二人は双子。違うとすれば髪の色と、欠けた歯が右の八重歯なところか。

 パトの手には、兎のようなモンスターが白目を向いている。……この世界の生活には慣れてきたが、やはりこれはまだ慣れないな。


「あれ? そういえばジェルミ姉さんは?」

「え、後ろについて……あれ?」


 もう一人の仲間、ジェルミルール。彼女の姿が何処にもなかった。


「助けるにゃー」


 すると少し離れた場所から、弱々しくも仲間の一人の声がした。視界に彼女の姿は見当たらないが声はする。まさかと思い、慎重に草むらを掻き分け探すと、


「あ」

「はやく助けるにゃー!」


 草むらに三十センチ程の小さな底なし沼。運悪くその沼に、左足の太股の付け根まではまってしまったジェルミルールがいた。必死に抜け出そうともがくも、沼のぬかるみが太股を放さない。


「……なんでそんな小さな沼にはまるかね」

「ジェルミ姉さん相変わらずドジだよねー」

「う、うるさいにゃー! はやくしろにゃー!」


 獲物を追い掛けていた俺達は一度も沼に足を取られていない。と言うより、そんな所に底なし沼があったんだと気付かなかったぐらいだ。広い草むらに三十センチ程の沼にはまるとは、なんて運が悪い。

 ドジだと言われ、毛を逆立てて怒るジェルミルールを、俺とポズが腕を引っ張りようやく抜け出す事が出来た。左足が泥まみれになってしまい、気持ち悪そうに顔を歪めるのはもう一人の仲間、ジェルミルール。彼女はキャットシーと呼ばれる猫の種族である。アニメや漫画などでよく見掛ける人間に猫耳が付いた姿ではない。ガチの猫だ。

 金色の瞳に全身が黒い毛並みで、尻尾の先っちょだけ白い。四つ足ではなく、二足歩行出来るので、身長は俺の肩ぐらいある。


「ジェルミ姉さんはキャットシーなのになんでそんなにドジなわけ?」

「この間も木から落ちて、ツタにぐるぐる巻きにされてたしな」

「うるさいにゃ! 昔の事を持ち出すにゃ!」


 毛を逆立て尻尾を膨らませ、爪を出して怒るジェルミルール。キャットシーとは本来、俊敏な動きで軽やかに戦う事が出来るらしい。ゴツい体型の奴もいるが、五感が鋭く罠などにも敏感で簡単には沼にはまったりはしないはずだ。

 しかしジェルミルールは少しドジというか、運が悪いというか……なにもない所で転んだり、ジャンプして降りた場所に穴があったりと、よくヘマをする。慣れている俺達はまたか、しょうがないなと思えるが、彼女のその運の悪さに苛立ち、仕事をくれる人があまりいなかったらしい。

 掃除をさせれば物を壊し、料理をさせれば火事になり、洗濯をさせれば爪で服を切り裂く。読み書きは出来るが、ジッと座っている事が出来ないので事務の仕事も出来ない。このドジさ加減じゃ、接客業なども全滅。それじゃ仕事もないわけで。


「お腹空いたにゃ、お風呂に入りたいにゃ」

「俺も腹減ったー」

「晩飯の肉も手に入ったし、帰ろうぜ」

「肉ぅ!? やったにゃ、久しぶりの肉にゃー!」


 パトが持っている兎のようなモンスターを見て、つり上がっていた目がキラキラと輝く。久しぶりの肉にありつけるとあってか、喜びのあまり尻尾をパタパタと振るジェルミルールを見て自然と笑みがこぼれた。

 三人は町へはやく帰ろうと歩き出し、俺はその後ろ姿を眺めていると、ポズが振り返り手を大きく振る。


「なにしてんだよギルマスー! はやく帰ろうぜー!」


 はやく帰ろう――

 その言葉が俺の心を強く揺さぶった。涙が出そうだった。そう、俺には帰る場所があるんだ。



 俺がこの世界に来てもうすぐ二年。右も左もわからず、知り合いもいない。それどころか俺が住んでいた世界でもなかった。

 どうすればいいのかわからず、ただがむしゃらに生きてきた。必死に自分の居場所を作ろうともがいていたんだ。最初は何処の誰かもわからない俺を怪しんでいた町の人も、次第に親しんでくれるようになり、仲間が出来て、居場所が出来た。

 何故俺がこの世界に来たのかはわからない。それでも俺は、この世界で生きていく。昔いた地球とは、日本とは何もかも違う世界で。平凡だった俺の人生は一変し、今はギルドマスターとして新たな人生を歩む。

 この二年、本当に辛くてキツかった。それでも、


「ギルマスー!」

「今行く」


 太陽の日射しで眩しく映る三人の仲間。俺を支えてくれる大切な仲間だ。こいつらの為にも、俺はもっと頑張らなきゃいけない。

 昔の事を思い出し、気付かれないよう目を擦り決意する。


 俺は必ず、この世界に大きな冒険者の為のギルドを作ってみせる。





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