詐欺はよくない!
俺は20代のニート。趣味は妄想だ。今日も今日とて、18禁的な妄想に勤しむ。これが俺にとっての勤労、というやつだ。
俺は人生に焦ってはいなかった。生きているだけで、まぁまぁ楽しい。不満といえば、無職の俺を働かせようとする周囲が鬱陶しいぐらいだ。
「人生をやり直しませんか?」
目の前の女はそう言った。アレ、目の前の女? 俺はエロいことを妄想しているだけのはず……。
「人生をやり直しませんか?」
「別にやり直さなくていいです。とりあえず、おっぱい触っていいですか?」
「人生をやり直しませんか?」
「おっぱい触っていいですか?」
「人生をやりなお……」
「おっぱい触っていいですか?!」
「人生を……」
「おっぱい触っていいですよね!!」
俺はおっぱいを触りたかった。どうせ、目の前の女は妄想だ。妄想の世界で遠慮をするほど、俺は控え目ではない。むしろドス黒いリビドーを6速に入れて、堤防は決壊寸前だ。
「あのぉ〜、実は私女神的な存在でして、人生にやり直しの機会を与えていまして……」
「あっそうだ、羽根、羽根を出せますよ! おっぱいの代わりに羽根を触る権利をあげます! その代わり、別世界で人生をやり直しませんか?」
「チャーシューラーメンを頼んで、チャーシューの代わりにゴムの塊が浮かんでいたらどう思う?」
「う〜ん、きっと怒ってしまいますねぇ」
「てめぇがやってることはそれだよ!! なんだよ羽根って。俺は鳥人間じゃねぇんだよ。なぁ、俺がそこらへんの羽根を見て興奮する、頭のオカシイ変態に見えるのか?! 鶏鳴が嬌声に聞こえるレベルの変態に見えるのか? おっぱいの代わりといえばケツだろうが!! 全くネゴシエーションのネの字も知らないのか? とりあえずおっぱいとケツを触らせてくれ!!」
「何要求を増やしてるんですか!! そんなこと言ったらどこも触らせてあげませんよ!!」
「じゃあ、死ぬわ。さようなら……」
妄想の世界でまで否定をされた。もう、俺は生きる気力を失った。崩れた積み木のように、俺を俺として構成していたものは無くなり、ただの断片になってしまった。なんだよ、おっぱいぐらい許せよ。
「あっ、脇でもいいよ」
「全然元気じゃないですか! 心配して損しました!」
「そんなことより、人生をやり直しませんか?」
「じゃあ、やり直すから、おっぱい触らせてよ」
「言いましたね?! やり直すと言いましたねー!! やったー!!」
金髪の自称女神はそのクリッとした目を輝かせてジャンプをして、喜びを全身で表現していた。エロい。
「はい、はい。やり直すから、早くそのデカイパイオツを揉ませろよ? ゲヘヘ」
三下みたいに笑ってみた。段々ゲスが極まってきたよ。おっぱいで押し通すつもり! むしろ、チャンスかも!
「それでは、異世界に転生していただきます〜」
「は? おっぱいは、おっぱいは?!」
「きっとあなたが選ばれた理由がすぐに分かかると思います」
「は?! えっ契約不履行? おかしくない? 神の癖に契約ブッチしちゃうタイプ? なんなの? いいからおっぱ……」
言い切る直前に視界が歪み、俺は森の中に移動していた。そして、手にはおっぱいキーホルダーが握られていた。
「ふざけんな、詐欺じゃねーか!!」
俺の叫びは空の青に呑まれ、手に握られたおっぱいキーホルダーの生暖かい感触だけが、生を実感させてくれた。