悪役「令嬢」ではない俺 2
短めです。以前投稿した「悪役「令嬢」ではない俺」の続きです。→http://ncode.syosetu.com/n3305cv/
「リオン様っ、お昼ご一緒しませんか?」
男受けのいい間延びした喋り方と、邪気なんてなさそうな(一見)可愛らしい笑み。
そして、俺の腕に押し付けられる、巨乳……いや、もはや凶乳。柔らかさは中々のものだが、アピールの仕方があまりに下品で、萌えはしない。マイナス5万点。
「リオン様?」
返事をしない俺に、態とらしく首をかしげて上目遣いに見上げてくるシュリアに、ため息をつきたくなる。だから萌えねえって。腹黒女め。
そんなわけで、元王子の婚約者、そして元女装男こと俺、リオン・フォルテリアは、ころっと態度を変えた王子の恋人(仮)のシュリアに付きまとわれていた。(仮)は未だに俺にしつこく付きまとうわ取り巻きともいちゃつくわ、ってことで付けてみた。
この鬱陶しい状態のはじまりは、あの婚約破棄の翌日からだ。久々のズボンと、周りを気にしなくても良いことにご機嫌で登校してきたら、さっそくコレで、俺のテンションは一気に下がった。
しかし本当に凄いな、シュリア。元ライバルで睨み合ってた女装男の俺すらも、この男好きの守備範囲なのか。残念ながら、シュリアは俺の守備範囲外だが。俺の守備範囲内はたった一人だからな。
俺が振りほどかないのを良いことに、手まで握ろうとするシュリアを、流石に許せんとパッと振り払う。
「いい加減にしろ。お前王子の婚約者だろうが」
「私、リオン様と仲良くしたくて……」
「何なの?男全員自分にお目目ハートじゃないと納得しない訳?」
一応はじめの方は王子の新婚約者だし、無下にも出来ないから優しく対応していたのだが、あまりにもしつこい上に放っておいたら調子にのるわで、最近ではタメ口で散々貶している。それでも折れないシュリア。お前は雑草かなんかか。逞しすぎるわ。
「……おかしいおかしいおかしい、何で?隠しキャラだよね?どうして私はヒロインなのに攻略できないの?美少年キャラとか他のキャラと被ってないし、絶対隠しキャラなのに、攻略できないなんておかしい。交流頻度から、好感度はもう十分のはずなのに……」
ぶつぶつ。シュリアが意味のわからないことを呟く。
またはじまった。俺に手酷く振られると、シュリアはすぐぶつぶつ独り言モードに入るのだ。しかも内容が意味がわからない。お前、腹黒以外に電波属性もあったの?これ以上宇宙人にならないで欲しい。これならまだ腹黒なだけだった以前のシュリアの方がマシな気がする。
「……あの、王子サマ?シュリア嬢を回収……こほん、そちらにお連れして頂けますか?私は王子の婚約者である彼女と昼食を取るだなんて、畏れ多くて出来ませんので」
流石に王子に乱暴な口は聞けないので、にこーと営業スマイルで王子の方にとんっとシュリアを押し出す。髪を振り乱してこちらに手を伸ばすシュリアはもはやホラー。
「畏れ多いなんて言わないで!私はリオン様とも仲良くしたいの!!」
「……シュリア、行こう?」
「リオン様っ!」
シュリアが王子に手を引かれているうちに、ささっと逃げだす。王子は最近少しシュリアに呆れているらしいが、俺が偽物の婚約者だったとはいえ、二回も直ぐに婚約破棄することは出来ないだろうから、ざまあ、暫くその腹黒電波のおもりをしてやがれ、って感じである。
「さて………」
ぱっと目の前に指で魔法陣を描く。暗部でばれないように魔法を展開するやり方を習ってはいるが、アレは低級のものしか再現できない。
展開する魔法は上級魔法の《クリエイト》。
この魔術は、とてつもなく魔力を持っていかれる為、宮廷魔術師ですら魔法石を追加で消費しなければならないほど、らしい。
この間、王子によって契約が解除されてから、なぜかとてつもなく魔力が増えた為、最近は無駄に上級魔法を使いまくっている。こんな目的のためだけに、上級魔術をつかう必要性は無いんだけど。
イメージを練って、魔力に込め、塊にする。それをだんだん目的のものに形を変えていく。
丸い粘土のようなものが、ぐにぐに広がって、人型になっていく。思ったより俺はイメージが得意らしい。
ついでに、ちょちょっと中級の幻影魔法もかけて、灰色のそれに色を与えておく。
「うん、中々いいんじゃないか」
「……」
目の前には、俺そっくりの人形が立っていた。心なしか無機質に見えるその目が、俺を見つめる。
「昼休みが終わるまでに、俺は学校を抜けて出ていく。今日一日俺のフリをしてくれ」
「………」
人形はこくりと頷いた。
今日は『彼女』の予定が空いて、完全に一人になる時間が昼過ぎから2時間あるんだ。
俺はポケットの中の、保護魔法を何重にもかけて、もはや俺本人ですら傷つけられない『それ』を、きゅ、と握る。
『それ』は、契約する時、王に無理に頼んで預かっていたもの。そして、いつか魔石を何万も使い、《クリエイト》で治そうと決めていたもの。
魔力がありえないほど増えたおかげで、全ての魔力を注ぎ込んで、予定より10年早く直すことができた。……あの日から溜め込んだ魔石の意味は無くなってしまったけど。
俺は、にやけ顏を抑えられないまま、ある場所に《テレポート》した。
「よっ、と」
俺は城のとある部屋の窓の外に掴まる。
そして、コンコン、と窓を軽くノックした。
すると、すぐにシャッ、とカーテンが開いて、綺麗な青色の瞳と目が合う。ふわふわ広がる長い金色の髪の毛が日に照らされてきらめく。
本当に美しいという言葉が似合うのは彼女だけだな、正直シュリアなんてめじゃないな、と思う。結婚できない王子たちがかわいそうだ。
かちゃ、と扉の鍵が開けられた音を聞いて、窓を開けるのに邪魔にならないように少しずれる。
「――リオン!来てくれたのですね」
花が咲くような彼女の笑顔に、今までのストレスとかシュリアのめんどくささとか、そんなものが全てぶっ飛んでしまう。やはり、彼女―――第二王女フィリアは、あの出会った日からずっと天使だ。
俺を部屋の中に招き入れて、椅子に座らせると、フィリアが口を開く。
「もうっ、なんで最近来てくれなかったのですか?」
ぷく、と口を膨らませる様子が本当に可愛い。シュリアとは違い、彼女のこれは天然物である。自然とこれをやって、似合ってしまう女の子なんてそうそういない。フィリアはやはり天使だ。
「すいません、姫様。最近、任務が忙しく……」
「……その喋り方、いやですわ」
ふいっ、と、拗ねたように顔をそらすフィリアに、俺は続ける。
「今日は大切な話をしに来ましたから」
「大切な話……?」
フィリアが不思議そうに、大きな目をまん丸にしてこちらを見つめる。
俺はすっと立ち上がると、彼女の後ろに回り、ポケットの中に入れていた『それ』を、彼女の首につけた。
「……っ!リオン、これ……これは……」
そう言って、フィリアは立ち上がって、それに触れながら、ほんの少しだけ背の高い俺を見上げた。
目が潤んでいるようだ。喜んでもらえたようで、俺まで嬉しくなる。
「わたくしの、お母様に頂いた、あのネックレス……!」
彼女の鎖骨のあたりで輝くそのネックレスは、やはりフィリアにぴったりで、なぜ当時の俺はあんなことをしてしまったのだろう、と改めて思う。
向かい合う彼女の手を、そっととる。
触れただけで、かぁ、と赤くなる彼女が愛おしい。
「直せたら、言おうと思ってたことがあるんだ」
「あ、え、り、リオン……?」
心臓が煩くなる。今まで暗殺されそうになっても、暴漢に囲まれても、呪いをかけられても、こんなに心臓が音を鳴らしたことはなかった。
すぅ、と息を吸って、長年言いたかった言葉を、やっとはいた。
「―――フィリア姫。私と、結婚してください」
俺の言葉に、フィリアがぽろ、と涙をこぼす。俺の触れている片手が震えている。
「っ、リオン……!おそいですっ……!」
普段、王族として育てられたフィリアは、あまり俺に触れてくることは無かったのだが、そのフィリアが俺に抱きついてきた。
ふに、と、ほんの少し感じる彼女の小さな胸の感触で、告白時よりさらに心臓が早く打つ。
―――改めて、思うことは。
やっぱり、好きな子のおっぱいが、一番です。
やっぱりおっぱいは好きな子のが一番だよね、ってだけのお話でした。
王様はチート兵器がお姫様とくっついてくれて安心したらしい。