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閻魔庁現世監査官  作者:
春 終わりと始まりの季節
2/30

第二審

 「ぎゃあああああああ!!」

 自分でも耳が痛くなる程の大絶叫を上げる。

 落下の衝撃に供えて身を固くするが、予想していた衝撃が真知子を襲う事は無かった。

 「ぐえっ!?」

 「ひぃっ!?」

 落ちた瞬間、痛みは無かったものの比喩では無く蛙を踏みつぶした様なうめき声が聞こえ、ウォーターベッドの様なものの上に落下した。

 暗くてそれが何なのかよく分からなかったが、それがあったお陰で傷一つ無い。落ちた先はふさふさと手触りが良くしかも妙に温かい。緩やかに上下している。なんとなく、どこかで嗅いだ事のある匂いがする。

 「何これ……」

 「何だはこっちのセリフだ」

 「ひぃっ!?」

 真知子の独り言に返事があった。

 「ああ、じたばたすんな。腹がいてぇ……何だ、人間のこむす、おあふ!!?」

 「ぎゃあああ!!?」

 どすっ、と背後で何かが落ちて来た音がする。その衝撃で真知子も跳ね上がって謎の物体の上で転げる。

 「おお、思った以上に柔らかいね。田中さんダイエットした方が良いんじゃない?」

 「ぐおおおお……っ征将ゆきまさ!人間の嬢ちゃんはともかく、てめぇは重量オーバーだろうが!」

 後ろに落ちて来たのは先程の美形らしく、どうやら「征将」というらしい。征将の声が後ろから近付き、何故か彼が一歩近付くごとに真知子の下も沈む。

 「ごめんね、手荒な事しちゃって。怪我してない?」

 「は、はぁ」

 征将の声がすぐ側に聞こえ、真知子の腕を引っ張って起こす。

 征将が真知子の腕に触れた瞬間、また先程と同じ様に視界が開けた。

 「お、おい嬢ちゃん!靴脱げ靴!踵が刺さってんだよ!」

 「はいいいい!すみ、ま、せ……うわああああああああ!!!」

 「うわっ!!?」

 言われた通り靴を脱ごうとした途中、視界に入ったものに驚いて再び腰を抜かす。

 真知子の前に現れたのは猫だった。しかし、ただの猫では無い。とにかくでかい。真知子が落ちたのはどうやら仰向けに寝ていた猫の腹の上の様で、真知子と征将が乗ってもまだスペースが有り余っている程だ。

 「何この猫!でかっ!」

 「大丈夫大丈夫。田中さんはさっきの連中と違って人間取って食いはしないから」

 征将の言う通り、田中さんという大猫は真知子に襲いかかるどころか真知子がいくら暴れても二人が落ちない様にじっとしてくれている。

 真知子が取り乱しても征将が落ち着いた対応を取ってくれていることもあり、なんとか落ち着きを取り戻して地面に降りることができた。

 二人が降りたのを確認して田中さんはぼふん、と白い煙と共に小さくなった。ちょっと大きい普通の茶トラの猫くらいだ。しかし普通の猫とは違い、尾が二本ある。

 「田中さんは御年四百三十二歳の猫又っていう妖怪なんだよ」

 「よっ、」

 ひっ、と息を呑んだ真知子に征将が慌てて否定する。

 「ああ、妖怪って言っても人間と一緒で悪い奴も良い奴もいるんだ。ちなみに田中さんは良い奴」

 「ったく、井戸の下で本性で寝てろとか言うから胡散臭いと思ってたが、たまったもんじゃねぇ」

 「ごめんごめん。でもお陰で小野さんも無事だったしさ。ありがとう」

 田中さんが大きい時は見えなかったが、小さな洞穴の様な出口がすぐそこにあった。

 月明かりが洞穴から差し込んでいる。

 ふと上を見上げると、頭上の遙か上に紺色の四角がぽつんと浮かんでいる。恐らく落とされた井戸の井桁だろう。

 あの高さから落ちたのだと再認識するとぞっとした。田中さんがいなかったら怪我だけでは済まなかっただろう。

 「俺の自己紹介がまだだったね。俺は滝征将たきゆきまさ。よろしくね」

 「あ、小野真知子です。よ、よろしくお願いします?」

 差し出された右手に反応して真知子も右手を差し出して握手を交わす。

 しかし通りすがりの征将に助けられただけでこれからよろしくすることなんて無いと思った。

 「じゃあ行こうか。」

 鞄をぎゅう、と胸に抱きしめながら征将に手を引かれて穴を出ると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。

 井戸の底の筈なのに紺碧の空が広がり、目を見張る程豪奢な屋敷が堂々と構えている。屋敷の向こう側の空は何故か秋の夕焼けの様に赤く空を焦がしている。夕焼けとはまた違った色で、その禍々しい色に背筋が震える。

 重厚な木材を惜しげも無く使用した立派なお屋敷。しかし木材は本来の色で無く、神社仏閣の様に目が覚める様な真っ赤な朱色で一分の隙もなく塗られ、金具は全て金色。門柱には金色の竜虎が睨み合っている。夜だと言うのに目立って仕方無い。

 屋敷を見た途端石の様に動きを止めてしまった真知子に征将が苦笑を浮かべた。

 「大丈夫。小野さんにとって怖い所じゃないから」

 美形という生き物は一般庶民にとってそこにいるだけで抜群の効果を発揮する。笑顔なんて向けられた日には連れて行かれる先が例え消費者金融だとしてもほいほいついて行ってしまう。現に真知子はその笑顔にやられてほいほいとついて行ってしまっている。

 「嬢ちゃん、あんたすぐ騙されるタチだろ」

 先を歩いていた田中さんが振り返ってぼそりと言う。

 「言っておくが若い女子にとっては俺なんかより征将の方がよっぽど有害だぞ。そのちゃらちゃらしたツラでどれだけの女が泣かされてきたことか」

 「えっ」

 「その避け方はちょっと傷付くなぁ」

 田中さんの助言を聞いた真知子はさっ、と音も無く征将から距離を取る。傷付くとは口ではいいながらも征将はそこまで堪えていない様に見える。

 「否定しない所がお前らしいわ」

 「まぁ、嘘じゃないからね」

 「………」

 怖い。美形怖い。

 更に真知子が征将から距離を取ったのは言うまでもない。

 「あの……ここ、どこなんでしょうか」

 真知子はそのまま立ち止まり、二人に問いかける。

 お屋敷の門前までやってきて後少しで征将が門を開ける、というところまで来た。得体の知れない場所に足を踏み入れる前に、それだけははっきりさせて欲しかった。

 「あ、ごめん。状況説明するの忘れてたね」

 「おい、お前説明しに行ったんじゃなかったのか」

 門前で田中さんが胡乱な目つきで征将を見上げる。

 「妖怪に襲われてそれどころじゃなかったんだよ」

 「何だそりゃ。妖術使いが聞いて呆れる。ここで手短に説明してやれよ。じゃなきゃこんな所入りにくいだろ」

 いや、例え説明されてもここは入りにくいと思います……と真知子は心の中でつぶやいた。

 二人が真知子の方に体を向ける。

 「ここは死んだ人間に裁きを下す場所だよ。地獄を統べる閻魔大王の直轄、閻魔庁と呼ばれている所」

 征将がエレベーターガールの様に門柱に掛けられた看板を示す。

 今まで建物のインパクトが凄くて目に入らなかったが、分厚い木の板に太く逞しい筆跡で「閻魔庁」と書かれていた。

 しかし、征将の説明を聞いて真知子の顔は一気に青ざめた。

 「私死んだんですか……!!?」

 体中の毛穴という毛穴が一気に開いて、全身からぶわりと冷や汗が吹き出た。心臓がどくどくと嫌な音を立てている。 「死んでない死んでない。俺も小野さんもちゃんと生きてる。生きながらにして地獄に降りれたのは小野さんが閻魔大王直属の部下に任命されたから。詳しい説明は閻魔大王がしてくれるからとりあえず大王に会いに行こうか」

 重厚な門がぎぎぎぎ、と不穏な音を立てながら開く。

 門の向こうはある意味予想通りの光景が広がっていた。玄関まで真っ直ぐ石畳が伸びていて左手には観光地にありそうな立派な滝が真っ白い水しぶきを上げながら流れている。滝の下の池には色とりどりの錦鯉が優雅に尾を翻しながら泳いでおり、右手には羽根をたたんだ孔雀の後ろ姿の様に枝を広く広げた松が鎮座している。

 石畳の先は勿論お屋敷なのだが普通の玄関ではない。果てしなく玄関が横に広がっており、一段上がったその先は延々と畳が敷かれている。まるで大きなお寺の本堂や柔道場の様になっている。何十人、否、何百人が一斉に押し寄せて上がろうとしても大丈夫そうだ。

 「誰かー濡れタオル持って来てくれませんかー」

 誰もいない広間に向かって征将が声を張りながら框に腰掛けて田中さんを抱きかかえた。

 抱きかかえると田中さんの大きさがより一層顕著だ。

 「あ、上がって上がって。靴はそのままにしておいて大丈夫だよ」

 「お待たせ致しました滝様」

 「ありがとう」

 どこからともなく現れたスーツ姿の女性が後ろから征将に濡れタオルを渡す。用意してもらった濡れタオルで征将は田中さんの前足後ろ足を拭いてやる。

 初めて灯りの下で征将の姿を見たが、なかなかのセンスだった。

 流行りの細身のシルエットのスーツはシックな黒で、シャツは上品なグレーにストライプ。ネクタイは紺色で革靴は深みのある茶色。上品だが無難になり過ぎていないのも良い。

 そんな一分の隙もない完璧な男がちょっとおデブな猫を抱えて器用に足を拭いてやっている姿は些かシュールだ。

 足を拭き終えると征将は体を捻って田中さんを畳の上に降ろしてやり、革靴を脱いで框に上がる。

 「閻魔大王は執務室かな?」

 「はい」

 女性からの返事を聞くと、征将は広間の奥へと足を進める。広間の突き当たりはそこだけが一段高くなっており、真ん中に朱塗りの机が置かれている。部屋の左右には扉があり、征将は左の扉に向かって歩いて行く。

 扉の先は高級料亭の回廊の様になっており、緑豊かな壷庭を取り囲んでいる。表の滝から遣り水を引いているのか屋敷の下から水が引かれて流れを作っている。今はツツジが盛りの様でこんもりとした木にピンクや白の花が隙間無く咲いている。

 庭を眺めながら進んでいると征将は突き当たりの階段を上り、真知子もそれに続く。

 二階からは廊下は板張りでなく深い赤の絨毯が敷かれていた。階段を上った先を進み、白い鳳凰と金の鳳凰が描かれた二枚の襖の前で歩みを止める。

 美術館や神社仏閣で襖絵をいくつも見て来たが、これほどの迫力の襖絵をこんな間近で見られるなんてなかった。今だけは緊張も忘れて感動に心を震わせていた。

 「閻魔大王、滝です。小野真知子さんを連れて来ました」

 今までの甘い声は形を潜め、硬質な声音でハキハキと襖の向こうへ言葉を発する。

 成る程、これで世の中の女子はこの男に嵌ってしまう訳だ。

 残念ながら真知子は美形は観賞用と割り切っているタイプなのでドキドキはしても恋愛対象にはならない。

 「おお、来たか。入れ入れ」

 襖の向こう側からは野太い男の声がする。生来声が低い、とはまた種類が違っていて、酒焼けしたようなハスキーな声だ。

 「失礼します」

 「失礼します……っ、すっごい……!」

 豪奢な襖を開けると、思わず真知子は感嘆の声を漏らした。

 入り口の襖絵で何となく予想していたが、室内の装飾も素晴らしかった。左右の襖絵は四季の花々で埋め尽くされ、その中を鳳凰や獅子、龍など様々な瑞獣が戯れている。天井は寺院建築で見られる木材を格子状に組んだ格天井だ。格子の中には一つ一つ円形にデザインされた様々な花が描かれている。室内の釘隠しは政権者が使用する五七の桐の紋。奥の障子は今が夜なので閉められているが、障子の桟は普通の直線ではなく、波状になっている。

細部まで凝らされた意匠の数々に溜め息が零れる。

 真知子が室内の装飾に目を奪われていると奥からくすくすと笑い声が聞こえて来た。

 「若いお嬢さんにしては珍しい」

 奥の執務机には光沢のあるグレーのスーツに黒のシャツを合わせ、オールバックで色付きの眼鏡を掛けた壮年の男性が笑い声の主だった。街ですれ違っていたら絶対に避けて通る様な様相である。

 予想通り見た目は凄く怖そうだ。しかし、真知子が予想していた閻魔大王の姿とは違っていた。

 「ようこそ閻魔庁へ、小野真知子さん。どうぞそちらへお掛け下さい」

 執務机の前にある応接用らしいソファへ促される。対のソファの間にはローテーブルが置かれ、紙が二枚伏せられた状態で置かれていた。

 真知子と征将が同じソファに座り、閻魔大王が真知子の前に座る。ちなみに田中さんは征将の隣に丸くなっている。

 初めて見る実際の閻魔大王は今まで見たことのある絵のイメージとは違い、至って普通のおじさんだ。共通点は怖そう、と言う所くらいである。

 「はじめまして。日本の死後裁判を取り仕切っている閻魔と申します。いきなりの事でさぞ驚いたことでしょう」

 「は、はぁ」

 しかし怖そうなのは外見だけで物腰は征将と並ぶくらい穏やかだ。真知子の顔をじっと見つめてにこりと微笑む。

 「篁君と目元がそっくりだ」

 「?」

 閻魔大王の言うご先祖様とは一体誰の事だろうかと真知子は首を傾げた。真知子の反応に閻魔大王と征将は目を丸くさせる。

 「篁君のこと知らないかな?小野篁。君のご先祖様だよ。平安時代の公卿で夜になると六道珍皇寺の井戸から地獄に降りて私の手伝いをしてもらっていたんだが」

 「そ、そんなびっくり人間が私のご先祖様なんですか……!?」

 日本史のテストはお世辞にも良く無かったので小野篁という偉人について真知子は知らなかった。小野妹子か小野小町が精々だ。ちなみに小学校の時のあだ名は妹子だった。クラスの男の子から「お前が小野小町は無理だろー!」と言われたことが発端である。

 「ああ。篁君の血を引く君だから今回の役職にぴったりだと思ったんだ。人柄も申し分ないし」

 そう言いながら閻魔大王はローテーブルに置かれていた紙を表に返す。

 「君に就いて欲しい役職は現世監査官という役職だ」

 向かって左の紙には雇用契約書、向かって右の紙には労働条件が書かれた紙を差し出される。

 「死後裁判に必要な証言が生者だった場合、生者に聞き込みを行ったり現世で成仏できずにいる霊魂の誘導など冥界の管轄で現世に赴かなければならない仕事を担当してもらっている」

 書類にざっと目を通すと書かれた内容は真知子が今の会社に勤めることが決まった時にもらったものと大差ないものだった。寧ろこちらの方が細部までしっかりと条件等が書かれており、なぜかしょっぱい気分になった。

 「君が仕事を持っていることは承知しているし、この仕事が大変だということも重々承知している。現世の仕事を優先してもらえるよう出来る限り配慮するつもりだ。決して無理強いはしないが、君の人となりを見て是非君と仕事がしたいと思った。どうかな。」

 生来、真知子は人に頼られると真知子は断れない質だ。

 外面をとても気にしていて人に善い人と思われたいというのもあるが、誰かに必要とされることが純粋に嬉しい。

 それに折角ここで生まれた縁を終わらせてしまうのが惜しいと感じてしまった。

 この話を断れば二度とこの地に来る事はできないだろう。誰にでも経験できることじゃないその特別感が真知子の心をくすぐった。

 今の仕事と両立できるかどうかは確かに不安であったし、こんな到底信じることのできない不思議な世界で自分の様な平々凡々な人間に務まるのかとも思ったが、単純にこの人達と働いてみたいと思わされた。

 あまり頭は良く無いがこの手の直感は外した事が無い。

 まだ迷う真知子に閻魔大王は最後の切り札を切った。

 「もちろんそれ相応の給与も支払わせて頂くよ」

 「やります」

 彼氏も失い、最悪女一人で生きて行くことも有り得る。お金を蓄えておく事は今現在の最優先かつ最重要事項である。

 真知子の返事は想定内だったようで、閻魔大王は満足そうに笑みを浮かべた。

 「ありがとう。これからよろしく」

 「こちらこそっ、よろしくお願いします!」

 差し出されたごつごつとした大きい手と握手を交わす。

 「もう自己紹介は済んでるかもしれないけれど、隣の滝は監査官の補佐をする監査事務官だ。分からないことがあれば滝を頼ると良い」

 隣に目を向けるとにっこりと笑った征将がひらひらと手を振っていた。

 ただ笑みをうかべるだけで女子の心を鷲掴みにしてしまうのだから罪な男である。

 「彼は平将門の娘、妖術使いの滝夜叉姫の末裔だ。こう見えて荒事にも長けているし、妖術を駆使して君の身辺警護と仕事の補佐をしてくれる」

 美形をずっと眺めていられるのはこれ以上もない眼福だが、できるなら関わりのない第三者として楽しみたい派である。こんな美形に関わった日にはどんなとばっちりが飛んで来るか分かったものじゃない。嬉しいような哀しい様な複雑な気持ちがマーブル模様の様に渦巻いている。

 「閻魔大王様ー三郎ですー。お茶をお持ちしましたー」

 各人の挨拶が終わったちょうど良い頃合いに入り口の襖の向こうから声が掛かった。

 「ありがとう。入ってくれ」

 「失礼しますー」

 襖を開けて入って来た人物を見て真知子は引いた筈の汗が再び全身の毛穴から吹き出した。

 「ぎゃあああああ!?」

 「うおっ!?」

 真知子の絶叫にうつらうつらと舟を漕いでいた田中さんが飛び起きた。先程までの警戒心をどこかへ投げ飛ばして真知子は征将にしがみつく。

 襖を開けて現れたのは見事な骨格標本だ。

 「ああ、人間のお嬢様がいらっしゃったんですか。驚かせてすみません」

 「ひいいいいいいっ!!!しゃべったあああああ!!」

 右手に湯のみとお茶請けを載せたお盆を持って骨格標本が呑気に謝る。

 「ごめん、驚かせちゃったね。彼は三郎。田中さんと同じで俺の使い魔。怖く無いから大丈夫だよ」

 「無理無理無理無理!!!」

 征将の後ろで激しく左右に首を振る。彼のスーツの背中が皺になりそうなくらい強く握りしめているが真知子にそれを気にする余裕は全くない。

 「そこまで嫌われるとさすがに傷付きますねー……」

 骨格標本もとい三郎が肩を落とす。かちゃ、と軽い音と一緒に肩の骨が下がる。

 働くと決めて五分と経っていないが先行きがとても不安になってきた真知子であった。

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