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閻魔庁現世監査官  作者:
秋 鬼になった女
16/30

第十六審

 分かりやすく行き詰まってしまい、帰りの車の中で真知子は遠い目をしていた。

 「どうしましょう……誰に掛けたかすら分かりませんでしたし……」

 「呪いを掛けた相手は分からなかったけど、ちゃんとヒントはくれたから大丈夫だよ。どちらかというと今回はそっちの方が知りたかったし」

 征将の言葉に真知子は愕然とする。

 「ほっ、他の人になすりつけちゃうんですか!?」

 もし自分がなすりつけられる側の人間ならたまった物じゃない。こういった状況になると必ず貧乏くじを引いてしまう真知子としてはどうしてもとばっちりを食らう人の立場を考えてしまう。

 縋りつく様に征将の答えを待つ真知子に、征将は苦笑を浮かべた。

 「なすりつけても良いんだけど、それじゃあ意味が無いからしないよ」

 征将の言葉に真知子はほっと胸を撫で下ろす。しかし、意味があったらするのだろうか……という疑問も残ったが世の中知らない方が幸せな事もあるので真知子は追求することを止めた。

 確かに誰かになすりつけたとしてもその影響は現世の人間が受けるわけであ

って、なんら根本的な解決になっていない。

 「なすりつける相手を人間だと錯覚させればいい。それが人形でも、術で人間に見せちゃえばいいんだよ」

 「はぁ……」

 理屈は分かるが真知子にはその方法が実現可能なのかどうかなど皆目見当もつかない。

 半年近く征将と仕事をしてきたが彼の見立てが間違っていた事は無いのでとりあえず頷いておく。

 ちなみに真知子の数少ない得意技はよく分からない話しにはとりあえず頷いておく、である。

 よく周りの人に「さっきの話し、あの説明でよく分かったね。」と言われ、よってたかって詳細を聞かれるが聞いてくる人より話を聞いていないので結局最後は立場が逆転している。

 「その為には本人に代わる身代わりが必要だから呪詛を掛けた対象者を突き止めないとね。まぁ呪詛を掛けられたのは十中八九柏木冬子の情夫だろうけど」

 「あ」

 言われてみれば一番怪しい人物がいたではないか。目先の問題に囚われる余り簡単な図式を忘れていた。

 サスペンスドラマなら一番最初に容疑者として怪しまれる人物である。

 「ドラマなら定石過ぎて大体カモフラージュに使われますけどねぇ」

 後部座席で三郎がもっともなことを言う。そのカモフラージュにまんまと引っかかった真知子は黙って乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


 冬子の相手は今田実という市内の大病院に勤める医師だった。

 今田は十五年前に結婚しており、妻との間に子供はできなかったらしいが、最近養子を迎えたと記載されている。

 浄玻璃の鏡によってまとめられた書類は読み手によって解釈が異なる様な事は書かれていない。つまり学歴や実際に行った行動のみが記されている為、本人の人となりや感情が伴う判断は監査官に委ねられる。

 ようやく仕事が落ち着き、休日出勤した分の代休を貰えた真知子は平日に相手の男が勤める病院にやって来た。

 真知子の休みに合わせて征将も有給を取ってくれた。

 一人でも大丈夫だと言ったのだが、征将はにこにこ笑いながら「仕事だから気にしないで」の一点張り。

 田中さん曰く「お前一人じゃはじめてのおつかい状態で仕事どころじゃねぇんだろ。」だそうだ。二十もとうに過ぎたというのにこの信用の無さはどうなのか。

 「情報によると整形外科の先生らしいんですが……」

 対象者が勤める病院は三棟に分かれており、診療科を探すのにも苦労しそうだ。

 「田中さんと三郎は院内を回って今田実を探して来てもらえる?真知子ちゃんは俺と整形外科の病棟に行こう」

 人ごみに紛れて行く田中さんと三郎の背中を見つめながら病院に彼らが視える人がいない事を切に願った。

 あらかじめ百貨店で購入した菓子折りを持って真知子と征将は整形外科病棟へ向かう。

 整形外科病棟に来る道すがら、征将はいつも通り女性達の視線を独占した。白衣の天使はもちろん、入院患者のおばあちゃんまでと年齢層も幅広い。

 「あの、すみません」

 「は、はい!?」

 征将は近くにいた看護士に声を掛けると看護士は裏返った声で返事をする。

 「以前今田先生にお世話になった佐藤と申します。今田先生は診察中でしょうか?」

 「いっ、今田先生はオペ中で……先程オペに入ったばかりなので大分時間が掛かると思いますが……」

 結局ここまで来て本人には会えないのか。と真知子は一気に脱力した。

 「そうですか。待つのは少し無理そうですね……。申し訳ないんですがこれを先生に渡して頂けますか?」

 持っていた菓子折りの紙袋を看護士に渡すと、看護士はより一層頬を赤らめる。

 「今田先生、お変わりありませんか?」

 何気ない世間話を振る征将。しかし、これが本題なのだろう。

 問われた看護士は、あー……と言葉を選ぶ様に目を泳がせる。

 「最近奥さんの体調が優れないみたいで大変そうです。お子さんのお世話も先生がされているようで、最近医局では眠っている所しか見ていませんね」

 普通なら初対面の人間に他人とはいえ職場の人間の個人情報を話さないだろうが、聞いた看護士がお喋り好きなのか、声を掛けてくれたイケメンに協力したい一心なのだろう。

 看護士の話しを聞くかぎり恐らく呪詛を受けているのは今田の妻。今田の体調不良は看病と育児疲れか呪詛によるものなのかは分からないが、やはり呪詛を掛けた相手は今田に関係する人物だった様だ。

 「そうだったんですか……どうかお大事になさって下さいと先生にお伝え下さい」

 哀しそうに眉を下げて心配そうな表情を浮かべる征将に真知子は心の底から尊敬した。

 思っていることがすぐに顔と声に出てしまう真知子には到底出来ない芸当である。

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