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美少女(攻略対象)まみれのハーレム・スターウォーズ!!  作者: 呑竜
「第3部第2章:最果ての地より君を思う!!」

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「桜の花のスープ」

 ~~~新堂助しんどうたすく~~~




 冒険者の修行といったって、特別たいしたことをするわけじゃない。 

 水、食料、体温。サバイバルにおける重要事項3つに加え、応急処置、野生動物と遭遇した時の対処法と空気浮揚艇ホバーの運転を徹底的に教え込む。ただそれだけ。


 それだけなんだけど、ジーンは決して物覚えがいいほうではない。

 すぐに他人に甘える癖もあって、だからなかなか身につかない。


 そうこうするうちに3日が過ぎた。

 その日の修行を終えると、ジーンはぐるぐる目を回しながらへたりこんだ。


「ううー……もうへとへとだよおー……」


「お疲れ、頑張ったなジーン」


 労いの言葉を投げかけると、ジーンはちらちらと探るような目で俺を見た。


「……ねえタスク? もうボク、けっこうマシになったんじゃない? 空気浮揚艇の運転も出来るし、他のもだいたいその……大枠的にはさ。だからさ、そろそろタスク教官の特別授業は終わりにしてさ……」


「だーめ。運転出来るったって同じ高さを普通に走るだけじゃねえか。バックも浮上も降下もズタボロだろ? 大枠を覚えたっつっても、それは言葉を覚えただけの話だろ? 実技はボロボロ、それぞれの行動の意味もわかってねえんだろ?」


「うううぅ……っ」


「とにかく、マシになったかどうかは俺が判断する。おまえは黙って俺のいうことに従ってればいいんだ」


「厳しいぃー……」


 ジーンはぼやくと、仰向けに地面に倒れ込んだ。

 駄々っ子のようにぱたぱたと足を動かし、「わーわーわー、疲れたよーう。教官が横暴だよーう」と不満を述べ立てた。


「もうやーだー。遊びたーい。せっかくジャンゴまで来たのにお勉強ばっかりで、全然つまんなーいっ」


「ちぇっ、しょうがねえなあ……」


 ストレスが溜まっているらしいジーンのために何かないかと考えて……ふと気づいた。


「……そうだ。あれがあったはずだ」


 地球から持参していた登山バッグの中を探ると……あった、小袋に詰まった粉末スープ、最後のひと袋。


「待ってろジーン」


 マグカップに小袋の中身を空け、そこへ沸かしたお湯を注いだ。


「……なぁにそれ?」


 芳醇ほうじゅんなスープの香りに、ジーンはがばりと体を起こした。


「旅する俺にって持たせてくれた、お袋のとっておきだ。粉末スープ。味は飲んでのお楽しみ」


「へえ……タスクのママの?」


 マグカップを受け取ると、ジーンは興味津々で覗きこんだ。

 桜の花の塩漬けに卵白と片栗粉。それらを乾燥させたのをお湯で戻しただけのものなんだけど……。


「ふわあ……凄い花の香り……。これは地球の花? それに味が……」


「濃いだろ? 塩分」


「うん……ちょっとこれは……。でもなんだろう……すごく……」


「疲れがとれる」


 ジーンはこくこくとうなずいた。

 びっくりした顔で俺を見た。


「花の名前は桜。俺の世界の俺の国の国花。料理に使うと香りがすごくてリラクゼーション効果がある。卵白は栄養価。塩分は、単純に疲れに効く」


「……うん、うん。ホント、その通りの飲み物だね。これを考えた人はすごくわかってるよ。体が疲れた時に飲むと、体の内側からほっくり温まるような気がするよ」


 はふはふしながら、嬉しそうにジーンは飲んだ。

 飲み干すまで、俺はじっと待っていた。


「ありがとうタスク。なんだかすごく疲れがとれた」


「そりゃよかった」


「あれ? でもタスクは飲まないの?」


「それで最後」


「え」


「最後のひと袋だ。もう無い。終わり打ち止め」


「え、え? だって……」


 ジーンは急に動揺し出した。


「おまえへのご褒美であげたんだ。気にするな。おまえはそれだけ頑張ったってことだ」


「だ……だけどさあ……」


 いくら言っても俺が微塵も気にしてないのを見てとると、ジーンはハアと大きなため息をついた。


「……けっこう大掛かりな荷物だけど、タスクはいつもこういうの持ち歩いてるの?」


 他の話題を探そうとしたのか、ジーンは俺の傍らにある大容量の登山バッグに目をやった。

 地球から持参したもので、中にはいつも山籠もりに行く時の装備が詰まってる。

 こちらでは役に立たないものも少々あるけれど、だいたいが幅広く応用の利く便利なアイテムだ。


「そうだな。山籠もりに行く時はいつも一緒だ」


「山籠もりかあ……。じゃあ、タスクはいつもこんなことやってたんだねえ……」


 ジーンは感心したようにつぶやき、空を見上げた。

 俺も一緒になって空を見上げた。


 遮るもののない大きな夜空に、宝石みたいに星々が輝いていた。

 遥か地平線の向こうから、微かな風が吹いてきた。

 湿気の少ない、乾いた風だった。

 いままで嗅いだことのない土の匂いがした。


「ねえ……タスク?」


 ジーンはぽつりとつぶやくように聞いてきた。

 よく光る眼で俺を見た。


「タスクはいつからこんなことしてるの? 自分で火を起こして、水を探して、食べられる植物を探して」


「昔からだ。もっとずっと小さな頃から」


「夜はひとりで寝て、朝もひとりで起きて?」


「俺について来れるやつなんていなかったからな」


「それってすごく……怖くない?」

  

 気温は決して低くない。だけどジーンは、寒気に耐えるように自らの肩をかき抱いた。


「周りに民家のひとつもないようなところで、下手すると野生動物に襲われるかもしれない危険を冒してまで……怪我したらどうするの? 最悪、死んじゃったらどうするの?」


「怪我したら応急処置。死んだらそれまでだな」


「そういうことじゃ……」


「部屋の机の中には遺書が入ってる。もし俺が戻って来なかったら開けるように言ってある」


「そういうことじゃなくてさ……」


 冒険者になるのが夢だから──というのでは、たぶん答えにならない。

 それを言うならジーンだってそうだからだ。

 ジーンが知りたいのは、俺との熱量差のことだろう。

 俺がどうしてそこまでするのか、してきたのか。

 自分との違いはなんなのか。


「夢だから……最初はただそれだけだった。単純に憧れに近づくために、山籠もりや川歩きをしてた。実際楽しかった。ドキドキした。ワクワクした。でも途中から変わった。探さなきゃならないものが出来た。探すためには力が必要だった。戦う力、生き抜く力、知恵と勇気、そして経験……」


 きゅっと、わずかに胸が痛んだ。


「いなくなったんだ。お袋と、ついでに親父」


「……っ」


 ジーンが小さく息を飲んだ。


「俺たちが小さい頃さ、世界中でたくさんのゲートが開いたろ? あれさ、地球じゃけっこう大変な騒ぎになったんだ。色んなところで色んな事件が起きた。たくさんの人が死んだ。たくさんの人が行方不明になった。その中に、お袋と親父もいた」


「タスク……じゃあさっきの、最後のひと袋って……! なんで……!」


 ジーンががばりと立ち上がった。珍しく表情を険しくしていた。


「ケジメだよ」


「ケジメってなんのだよ……っ?」


「俺が不完全性変容体……ITだって説明はしたっけな? 地球における多元世界人の……古き者と外なる者のダブル先祖返りだって。そういうレアな人間だからさ、俺は昔から、いろんな奴らに狙われてたんだ。研究機関? どこぞの軍隊? よくわかんねえけどさ、よくわかんねえ連中のほうは俺のことをよく知ってるみたいでさ。だから何度も襲われた。そしてその都度、お袋が退治してくれた。お袋はなんせ強い人だったからな……」


 だけどある時──


「……そのお袋でもどうにもならないような敵が来た。お袋は敵の攻撃から俺を逃がそうとして、俺を突き飛ばして前に出た。親父は弱っちいくせに、よせばいいのに俺の前に立ちはだかった。そして闇が──」


 光すら呑み込まれてしまいそうな闇が、俺たちを襲った。

 そいつにふたりは巻き込まれ、共に消えた。

 あとには俺だけが残された。


 泣くことも出来なかった。

 ただショックで、呆然と座り込んでた。


 遥か東北の山奥。

 ひなびた温泉郷のほど近くで、それは起こった。


「……かろうじて思い出せるのはそれだけだ。その程度のことすら、最近まで忘れてた」


「タスク……」


「自己防衛本能の一種……だと思う。弱い心を守るため、本能的に俺は忘れようとしたんだ。俺のせいで(・ ・ ・ ・ ・)ふたりがい( ・ ・ ・ ・ ・)なくなった( ・ ・ ・ ・ ・)んだってことを」


「──タスク……っ」


 泣きそうな顔になりながら、ジーンが抱き付いてきた。


 俺は黙ってジーンの抱擁を受け入れた。

 形の良い頭をそっと撫でた。


「無数の多元世界のどこにいるかもわからないふたりを探すためにはさ、強くならなけりゃならないんだ。誰よりも強い体と、くじけない心が必要なんだ。ケジメってのはそういう意味だ。いつまでも親の庇護下にゃいられない。お袋のスープが味わいたけりゃ、自力で探し出すしかないってさ、自分を追い込みたかったんだ」


「ボク……っ」


 ジーンは嗚咽で喉を詰まらせた。


「ボクになにかっ、出来ることないっ? タスクのために出来るようなこと、何かないっ?」


「へっ……」


 ジーンの頬に頬を当てた。

 薄い皮膚を通して、ジーンの体の熱が伝わってきた。


「強くなるんだ、ジーン。たとえば俺がいなくなってもひとりでなんとかなるように。自力で街を発見して、ガドックに連絡をとれるように。そしたら俺は、もっと安心できるからさ。それが一番の、俺にとって助けになることだよ」


「いなくなるなんて言わないでよっ」


 ジーンが悲鳴のような声を出した。


「やだよそんなのっ、タスクはずっとボクと一緒でしょっ? ボクらは仲間で親友で恋人で……っ。だからずっと……っ、この先も……っ」


「ジーン……」


 ……どんなにそばにいたくてもさ、ジーン。

 いられなくなることってあるんだよ。

 例えばお袋と親父がそうだったように。


 だけどそこまでは言わなかった。

 ジーンにはまだ過酷すぎるかと思ったのだ。


「……そうだな。変なこと言って悪かった」


 俺は謝り、ジーンの頬をボロボロと涙れ落ちる涙を手で拭った。


「絶対いなくなったりしねえよ。だからさ、ジーン……」


 ジーンは弱い。身も心も脆すぎる。

 だからもう少し……もうちょいこいつが強くなるまでは、俺が傍にいてやらなきゃならねえな。

 そんなことを思った。


「頼むよ、泣かないでくれよ」


 俺はジーンの背中をさすり、声をかけた。

 辛抱強くあやし続けた。

 遥か昔に、たぶんお袋が俺にそうしてくれたように。


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