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美少女(攻略対象)まみれのハーレム・スターウォーズ!!  作者: 呑竜
「第1部第7章:ケルンピアへ!!」

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Interlude:Super Heroine.

 ~~~タバサ~~~




 クレーターの底部で、メリーさんと黒虎のトーラが睨み合っている。

 縁の部分では人間たちがごちゃごちゃと群れ集い、2匹の巨大生物の戦いを固唾かたずを飲んで見守っている。


 それらをさらに見下ろすのがタバサだ。

 彼女は上空高く浮かんでいた。月の化身のように佇んでいた。


「人間が……いっぱい……」


 タバサはつぶやいた。

 なんの感情もこもっていない平坦な口調で。

 交通標識を読み上げるかのようにつぶやいた。


 人間たち──ゆずりは旗下きかの50名、プラスで古城と奈々、田上たがみ。 

 どの顔にも覚えはなかった。

 いや、正確には覚えていなかった。

 古城たちはともかくとして、楪や城戸きどとは何度も戦場で顔を合わせているタバサだが、覚える気がないので覚えていなかった。


「貴様! おい貴様! 呆けていないで、さっさとわたしの質問に答えよ!」


 花芯部分に仁王立ちしているメリーさんの本体がタバサを見上げ、苛立ったように指をつきつけてきた。

 

「……質問?」


 タバサはコキリと首を傾げた。


「……されたか?」


 煽りでもなんでもなく純粋に疑問に思って口にしたのだが、メリーさんは悪くとったらしい。

「むぎいぃぃぃ! バカにして!」と、地団駄踏んで悔しがった。


「さっきから言ってるだろうが! どうしてわたしによくしてくれる人たちを殺したのか! そもそもなぜわたしの邪魔をするのかと!」


「どうして……? なぜ……?」


 タバサはコキリコキリと、からくり仕掛けの人形のように左右に首をかしげた。


「まさか理由がないわけじゃないだろう!? あれだけの人を殺しておいて、ただの気まぐれで済ますつもりじゃなかろう!?」


「理由……は……?」


 タバサは首を傾げながら考えた。

 どうしてこんな辺鄙な土地を訪れたのか。

 どうしてこんな連中と戦い始めたのか。


「どうして……だったかな……?」


 なかなか答えが出せずにいると……。


 横合いから、ビョウと強い風が吹きつけた。

 銀髪がなびき、マフラーがなびいた。

 赤い繊維が、視界の片隅で踊った。


「──あ」


 ようやく、答えを見つけた。


「正義の味方、だから」


「……は?」とメリーさんは眉をひそめたが、タバサは構わず続けた。


「正義の味方をすると、タスクが喜んでくれるから。お姉ちゃんかっこいいよって、タスクが褒めてくれるから」


「待て、さっぱり意味が……」


「ふひっ……」


 表情を変えないまま、口元だけをわずかに緩めた。 


「ふひっ、ふひひ……っ」


 乱れた呼吸音のようなものを喉から漏らした。

 実にわかりづらいが、それがタバサの笑い方だ。


「タスクは言ってた。悪党を倒してみんなを危機から救う。それが正義の味方だって。この赤いマフラーは熱き血潮の証であり、これを巻いている者は、必ず正義を行わなければならないんだって」


 そっとマフラーを撫でてから、メリーさんに目をやった。


「……おまえは、悪そうだな(・ ・ ・ ・ ・)


「──ひぃっ……?」


 メリーさんが、何かに怯えたように背筋を震わせた。


「な、な、な……なんだ貴様は……っ? その目は……!?」


 後ずさり、声を上ずらせた。


 タバサの目の、特別何かが変わったというわけではなかった。

 変わらぬ銀色。永久凍土のような、不変の静寂。

 しかし人は、そこに恐れを見る。

 自分自身の恐れを反射し、竦み上がる。


 その現象をタバサは、こう解釈している。 


「その顔……やっぱり……」


 口元を緩めた。


悪いやつは(・ ・ ・ ・ ・)みんな同(・ ・ ・ ・)じ顔をする(・ ・ ・ ・ ・)


「バカな……! 誰か……っ!」


 メリーさんは助けを求めるように辺りを見回した。

 だがすぐに、その行為に意味がないことに気がついた。

 みんな死んだ、殺された。 

 目の前の化け物たち(・ ・ ・ ・ ・)に。


「トーラ……」


 タバサがトーラに呼びかけた。


 それが戦いの合図だと気づいたメリーさんは、「やるしかない……っ!」と自分自身に言い聞かせた。


「戦い抜くしか道はない……っ!」


 抗い突破する、決意を固めた。

 花弁で本体を覆うと、長い根を3本、鞭のようにしならせた。


 ほぼ同時に──


「トーラ、切り裂け(・ ・ ・ ・)


 タバサの命令コマンドに従い、トーラが身を低くして走った。


「防御が甘い!」


 根っこの1本がしゅるしゅるとトーラを迂回し、タバサに向かう。

 狙いはむき出しの飼い主──


 ガチィィィンッ。


 鋭く尖った根の先端は、タバサの体まであと1メートルというところで、何かにぶつかって弾かれた。

 一辺10センチ程度の六角形の金属板の集合体だった。それは根を弾くとすぐ消えた。


「……物理障壁シールドたぐいか!?」


 驚くメリーさんに、今度はトーラが迫る。


 1本目の根をかいくぐり、2本目の根を飛び越えた。

 小刻みにステップを踏んで再び跳び上がると、十分に勢いをつけた爪を振り下ろした。

 防壁となる花弁の数枚を、真っ二つに切り裂いた。

 直接本体までは届かなかったが、相当なダメージ。しかし──


「ふん、ぬるい攻撃だ!」


 メリーさんは鼻で笑った。


「なんだ、この程度か。びび……いや、警戒して損したぞ!」


 白い煙を噴き上げながら、傷口はみるみるうちに修復されていく。

 

「……治ってる?」


 タバサはこきりと首を傾げた。


 煙がおさまった時には、傷はすべてふさがっていた。

 ピンクホワイトのバラの花弁は、最初と同じような優美さで咲き誇っていた。


「驚いたか! どうだ、わたしに立ち向かうことの愚を悟っただろう!」


「ふむ……」


 首をかしげるタバサに、根が三本、同時に襲い掛かった。

 上から一本、左右から二本。

 先ほどと同じく、上の一本は金属板に弾かれた。

 左右の二本もまた弾かれたが、こちらはそれだけでは終わらず、大蛇が獲物を締め上げるように巻き付いた。

 金属板が、タバサの周囲を一周するように展開して防御した。


 ミシミシギシギシ、力が拮抗する音が辺りに響く。


「どうだ! 一撃で破れぬなら、徐々に徐々に締めつけて、防壁ごと圧潰してくれるわ!」


「ふむ……」


 根に囲まれても、しかしタバサに動揺の気配はない。

 コキリコキリと首を傾げ続け、考え続けた。


「驚いて声も出ないか! そうだろうそうだろう! どうだ、降参するなら見逃してやるぞ!? このまま争い続けてあたら命を落とすよりは、五体満足で生を全うする道を……!」


「……そうか、盾を封じればいいのか」


「こら、人の話を聞け! 今なら──」


「トーラ、吼えろ(・ ・ ・)

 

 ──ふぅるるるるぅぅぅぅあぁぁぁーっ!


 四肢を踏ん張り、トーラが吼えた。

 木管楽器を数千本束ねて吹き鳴らしたかのような甲高い咆哮が、超音波となってメリーさんを襲った。


「う、あ、あ、ああぁ……!?」


 強力な振動がメリーさんの体内の水分に干渉し、気泡崩壊キャビテーションを引き起こした。

 細かな気泡が絶え間なく発生し、崩壊する現象。それは超高温超高圧の極限反応場を生み出した。

 根、茎、葉、花弁に花芯にと、連鎖的に拡がった。


「あ、あ、あぁ……!?」


 メリーさん本体も、音の波を逃れることは出来なかった。

 皮膚が内臓が筋肉が、無数に泡立つ。弾けて崩れる。

 ついに再生機能までも停止した。


「トーラ、かっさばけ」


 がるると一声唸ると、トーラは再び花弁に跳びついた。

 本体を防御するために折り重なった花びらを、一枚一枚、左右の爪で削ぎ取っていく。


「ひっ……ひぃあっ!?」


 瞬く間に、本体が外気に晒された。

 タバサと同じ目を持つ獣と、目が合った。


「あ……あ……あ……!?」

 

 タバサには預かり知らぬことだが、メリーさんはその時、シロとの戦いを思い出していた。

 自分が捕食される側の存在であることを思い出していた。


「やだ……また(・ ・)……食べられちゃう……っ! やだ……もうやだ……助けて!」


 ガタガタと恐怖に震え、涙ながらに助命を願うが……。


「トーラ、欠片も余すな」


 タバサは一切の容赦なく、命令を下した。


 トーラはメリーさんに頭からかぶりついた。

 切り裂き、噛み砕いた。

 悲鳴はすぐにやんだ。

 四肢が力なく垂れさがり、やがてすべて、トーラの腹の中に消えた。

  

 残された外装部分は力なく崩れ落ち、地響きを立ててクレーターの底に横たわった。





 タバサが地面に降り立つと、トーラはメリーさんの外装部分を平らげ始めた。


 手持ち無沙汰にトーラの食事風景を眺めるタバサの耳に、彼女の名を呼ぶ声が届いた。

 声のほうを振り向くと、楪を先頭に古城と奈々、田上らが駆けて来ていた。


「……誰?」


 タバサはコキリと首を傾げた。

 どの顔にも覚えはなかった。

 いや、正確には覚えていなかった。

 古城たちはともかくとして、楪には何度も会っているはずのタバサだが、覚える気がないので覚えていなかった。


 なぜ覚えようとしないのか?


 意味がないからだ。

 人間は弱く脆い。

 たまに強い個体もいるが、タバサとトーラを脅かすほどの者はいない。

 そもそも寿命が短く、覚えてもすぐに死ぬ。


 だから彼女はいつも、こう思っていた。


 ──どうでも、いい。


 アリの行軍を眺める気持ちで、タバサは楪たちの到着を待っていた。


 そしてふと、思い出した。

 

「ああ、そうだ……」


 マフラーを頬に当てた。

 カシミヤの細かな毛が、彼女の心の中の何かをくすぐった。


「もうすぐだった。約束の日……」


 タスクの母、つまりはタバサの義母と交わした約束の刻限が間近に迫っていた。 


「オカアサンは言ってた……。タスクが、タバサを、幸せにしてくれるって……」


 10年と少し前。

 カラミティが起こるよりももっと前。 

 タバサは初めてタスクと出会った。

 その時タスクの母は、タバサにある約束をした


「タスクが、タバサに、『愛』を教えてくれるって……」


 だからお願い、今はあのコを食べないで(・ ・ ・ ・ ・)って──








 

 ──その時、凄まじい爆音が轟いた。

 地を揺るがし、空気を震わせた。

 結界内に反響した。


『………………!?』


 みんな一瞬、動きを止めた。

 タバサですら、その場に釘付けになった。

 同じ方向を見上げた。


 炎の尾を引いて、何かが天へ向かって昇っていく。

 

 その日、地球上の多くの人間が見た光。

 凄まじい勢いで上昇する、流星のような何か。


 それが次元破砕船であり、中にタスクが乗っているだなんて、タバサはまだ、想像もしていなかった。



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