「想定外の事態」
~~~ギャラガー・マクシミリアン~~~
ギャラガーはその部屋に、覚悟を持って入室した。
なぜなら彼は、機動総覧武会決勝ラウンドにおいて完敗を喫したから。
必勝とは言わないまもで、最後の数人に残ることすら出来なかったから。
ジエイのしていたであろう賭けは当然ハズレ。面目も丸潰れ。
だからまったく、希望は抱いていなかった。
自分は死に、妹も死ぬだろう。
想像以上のむごたらしい死に方で。
そう覚悟していたのに……。
「おいおい……冗談だろ……っ?」
そうつぶやくのが精いっぱい。
絶対安静状態で運ばれてきた移動車両の上で顔だけを動かしながら、ギャラガーは改めて状況を確認し、絶句した。
そこにはギャラガーの想定していたものの、何も無かった。
最新装備で身を固めた傭兵たちも、金属光沢禍々しい機械兵たちも。
誰ひとり、何一つ。
──おい見ろよ、これ……こんなの信じられるか?
──やあー……良かった。ジエイ一派の緊急通報なんてのに反応しなくて……。きっとあれだろ? 抗争かなんかだろ? 試合に夢中なとこをいきなり襲われたんだ。
──バカ、油断するなっ。まだ何が潜んでるかわかんねえんだぞっ?
わざと遅れて駆け付けたのだろう。
機動総覧武会の会場警備隊数名が、SMGを小脇にして周囲を警戒している。
生命維持装置に繋がりかろうじて生きているギャラガーには目もくれず、無数の機械兵の死骸や傭兵たちの亡骸──ジエイの護衛チームの残骸──をおっかなびっくりひっくり返したりして、そのつど「わっ!?」とか「ひゃあっ!?」とか悲鳴を上げている。
「……抗争、か」
一方ギャラガーは、変に冷めた気持ちで部屋を眺め渡した。
部屋中の壁という壁を穿った弾痕。
随所に残る、切れ味鋭い刃物の跡。
超強酸によるものだろう、溶解した金属の臭い。
いったいどんな手練れによるものか、護衛チームはたしかに全滅している。
無数の亡骸の中には、悪魔の双子と称されていた機械兵の手足もあって──
「……ああ、そうか。僕らは……」
反重力推進ユニットを搭載した円形の台座の上にジエイの首が載せられているのを発見した瞬間、ギャラガーはため息をついた。
体中の酸素を絞り出すように吐き出すと、瞑目しながらつぶやいた。
「──助かったのか」




