「ハーレムコントロール!!」
~~~新堂助~~~
階下からの悲鳴を聞いた俺たちは、慌てて階段を駆け下りた。
「みぎゃあああああああああ!」
はたして悲鳴の主は、多元世界のネコ耳少女だった。
カヤさんの掌から放たれた電撃を浴びて、七転八倒のたうち回ってた。
「えぇー……?」
「なんじゃこれ……?」
意味不明な状況に、俺とシロは思わず足を止めた。
「おのれ……敵か!?」
御子神はすちゃっと竹刀を構えた。
いかん。
ただでさえわけのわからん状況に御子神まで突撃したら、もう手に負えない。
猛然と突っ込もうとする御子神を、「落ち着け野蛮人」と妙子が手で制した。
「なんだと!? 誰が野蛮人か!」
御子神は、突っ込むかわりに妙子に食ってかかった。
竹刀を握って詰め寄る様は、まさに鬼神の如し。
普通の女の子なら泣いてお漏らしぐらいはするかもしれん。
……まあでも、妙子は普通の女の子じゃないからな。
「てめえだてめえ! 人をぶっ叩くことしか考えてねえ脳筋が! 闇雲に突っ込もうとしてるんじゃねえよ! ったく、てめえみてえなやつに人の字つけてやってるだけでもありがたいと思えってんだ!」
妙子の容赦のない口撃に、御子神は激怒した。顔を真っ赤にしてぷるぷると打ち震えた。
「き、き、き……貴様! 言わせておけば……!」
「おーおーおー? なんだよその動きは? その振り上げた竹刀で何をする気だ? この役立たずが、エロ暴走するだけじゃ飽き足らず、今度は身内に手まで上げる気か?」
「う、うう……? え、エロ暴走……?」
痛いところをつかれた御子神の勢いが、急速に落ちる。
妙子は一転、優しい顔をした。御子神の肩を組み、柔らかく囁いた。
「ほら、こっち見てるぜ? 愛しの旦那様が、おまえの暴走を心配してるんだぜ?」
「ううううう……? し、心配……?」
ちらりとこちらを窺う御子神。
「そうだよ。心配してるんだ。未来の花嫁であるおまえが、無闇に他人を傷つけやしないかと心配してんだ」
「み、未来の……っ?」
「そうだ。な? 心配されたくないだろ? 軽蔑されたくないだろ?」
「心配されるのやだ……。軽蔑は……もっとやだ……」
御子神はしゅんとした。
「そうだよ。そのとおりだ。な、わかったか? わかったら大人しくしてるんだ。さ、その竹刀をしまいな。この場はカヤさんがコントロールしてくれてる。あんたの出番はない。OKか?」
「ううう……お、お、おーけー。了解した」
おお……妙子すげえ……。
あの状態の御子神を口だけで止めたぞ……。
俺にだけ見えるように親指を立てた妙子に、俺も小さく親指を立て返した。
……さて、それはまあいいとしてだ。
状況自体はまったく理解できてない。
本気でさっぱりわからん。
とりあえずわかるのは、自分と同い年ぐらいのネコ耳少女が「助けてにゃ!」とか「死んじゃうにゃ!」とか連呼してるってことだけ。
「……な、なあカヤさん。さすがにそのへんにしといてあげたほうが……」
とりあえず仲裁しようと歩み寄ると、カヤさんは目の笑っていない笑顔を俺に向けた。
その間も、電撃は止めない。
「……あら、なぜです?」
「え、その……」
「フェミニズムですか? 博愛主義ですか? それともまたぞろ、ハーレムメンバーを増やすおつもりですか? 助けて恩を着せて、後宮へ召し上げる? 英雄色を好むとは申しますが、なんともまあ、お盛んなことですねえ」
「や、そんなつもりは……」
「たしかにあなたはそういうのに向いてるみたいですけどね。わずか3か月にしてハーレム3人。しかもメンバー同士で協調関係を結ばせて、ぎすぎすしがちな女の園を自分たちで制御するように仕向ける。自浄化機能付きとでも申しましょうか。いずれにしても見事なお手並みです」
「ねえちょっと……カヤさん……?」
「でも聞いて下さいな。勘違いしちゃいけませんよ。これはですね、お痛をしたネコを躾てるんです。二度と消えない記憶として、痛みと恐れをその身に焼き付けてあげてるんです。本人がこの先似たような事件を起こして、不運にも容赦のない相手に当たってぶち殺されたりしないように、今のうちに、死なない程度に躾てあげてるんです。ねえタスクさん。それでもなお──やめなくちゃ、いけませんか?」
にっこり。
「ひっ……」
俺は思わず後退った。
怖い!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い、マジ怖い!
何なんなの!?
この人なんでそんなに怒ってんの!?
いったい何をされたら、人はそこまで怒れるもんなの!?
「タスク……触らぬ神に祟りなしじゃぞ?」
カヤさんとはつき合いの長いシロが、青い顔してズボンを引っ張ってきた。
「あれは……すんごく痛いからのう……」
声が微かに震えている。
いや何されたんだよ。おまえはおまえで。
聞こうと思ったけど、シロが尋常じゃなく怯えてるのでやめた。
ついでに制止の言葉も呑みこんだ。
「じゃあしょうがないか……」
「──しょうがないわけないにゃー!」
ネコ耳少女は絶叫した。
必死の形相で俺に掴みかかってきた。
「そこは男気を見せるところなんじゃないかにゃ!? すっと手を広げて立ちはだかって、『もうやめるにゃ、お嬢さん……』って言うとこなんじゃないかにゃ!? なんですんなり引き下がってるにゃ! 聞き分けいいにもほどがあるにゃ! 草食系か!? 草食系なのかにゃ!?」
「え、や、ちょっ……」
突然のことで、避けられなかった。
俺はネコ耳少女に掴まった。
カヤさんの電撃放射は絶賛継続中。
当然、電荷は俺へも余さず伝えられるわけで……。
「うおわああああああああああ!?」
壮絶な痛みに悲鳴を上げる俺に、ネコ耳少女はより強く抱き付いてきた。
「離せこらあああああああああ!」
「死なばもろともにゃああああ!」
全身の血管を焼き尽くすような電撃に、俺とネコ耳少女は、揃って悲鳴をあげたのだった。




