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「様々な因縁」

前話の引き部分を少し訂正しています(=゜ω゜)ノジエイの登場シーンを足しただけですが、一応

 ~~~新堂助しんどうたすく~~~




 反重力推進ユニットを搭載した円形の台座のようなものが浮揚していた。

 金ぴかに飾られた台座の上にはこれまたきらびやかな座布団が敷かれていて、その上にひとりの男がどっかと偉そうにあぐらをかいて座っていた。


 歳の頃なら50後半といったところだろうか、肌は褐色で、残りわずかな髪の毛は染めた緑色。

 贅沢三昧に暮らしているのだろうでっぷりと太っていて、頬には無数の吹き出物が浮き出ていた。

 まあそれだけならただの醜悪なオヤジ、の一言で済んだのだが……。


「あいつ……あいつだけは許せねえ……っ」


「え、え、どしたの急に怒り出して? タスク? あの人知り合いか何かなの?」


「いやあー、どうせろくなことじゃないぞ? だってタスクじゃし」


 こめかみに青筋を浮かべる俺に驚くジーンと、いかにも疑わしげな半眼になるシロ。


「何言ってんだおまえら、あれを見ろ。そしてよぉぉぉっく考えてみろっ」


「あれを……?」


「見る、のう……?」


 俺、ジーン、シロ、合わせて3対の瞳には、その嘆かわしい、唾棄すべき光景が映っていた。

 すなわち──塵海スカラードの顔役ジエイの両側に、ふたりの美幼女がはべっている光景が。


 そのふたりは、双子のように見えた。

 年齢は十歳ぐらい。

 背丈も同じくらいのちんちくりんで、胸も尻も平坦そのもの。

 金色の長髪が背中まで垂れ、前髪が片目を隠している。

 瞳の色は引き込まれそうなヘイゼル。

 顔の作りは神の造形物と見紛みまがうばかりの美しさ。


 そんな美幼女ふたりが、かたやジエイの右腕に、かたやジエイの左太ももに身を預けているのだ。

 白い布切れ一枚を羽織っただけのあられも無い姿で、死んだような無表情で。


「あれを、あんな暴挙を許せるかっ? あんな油ギッシュなおっさんが、金にものを言わせて、事もあろうにあれほどの美幼女を、しかもふたり同時にっ。なぁぁぁんとうらやま……許せねえっ!」


「ああー……そういうことね」


「私的感情満杯で草がぼーぼーじゃ」


 俺が放ったリンカーンばりの名演説を、しかしふたりは疲れ切ったように右から左へと受け流した。


「な、なんでそんなつれない態度なんだよ。おまえらには人の情がねえのかよ、血の色は赤くないのかっ?」


「いや全然赤いけどね。ボクらのは」


「でもあれらは(・ ・ ・ ・)、赤いようには見えぬがな……」


「……ん?」


 ふたりの指摘に我に返った俺は、美幼女ふたりの姿を注意深く観察した。


 かっちり定まり、動かない髪型。

 つるつると滑らかすぎるボディ。

 表情は硬く、まばたきひとつしない。


「……もしかして、あれって自動人形オートマトン?」


「恐ろしく精妙な、だけどね」


「今頃気づいたのか。やれやれ、女狂いもそこまでいくとあっぱれじゃの」


 俺たちがそんなやり取りをしている間にも、場の状況は動いていた。





「ひさしぶりだな、カイ。意外と元気そうだ。ウルガー無しでは二日ともたずに泣きついてくるかと思っていたが、なんとかやっていけているようだな」


「ジエイさんもね、案外元気じゃん。いいお医者さんでも雇った?」


 バチバチと見えない火花を散らすふたり。

 ウルガーはたしかカイの親父さんの名前で、ということはふたりの間にはけっこう長い因縁のようなものがあるのだろうか?


「まあどんな名医がいても無意味だろうけどね。ジエイさんに必要なのは栄養管理のきっちり出来る料理人で……てっ──」


 ジエイに対して嫌みをぶつけていたカイの表情に、ぱっと赤みが差した。

 その視線はジエイの後方で女性ファンに囲まれサイン攻めにされている、ひとりの選手に向けられていた。


 男だった。

 身長は190ぐらいだろうか、ほどよく筋肉のついた、いかにもアスリートといった体を黒いメタリックなスーツに包んでいる。

 歳の頃なら三十半ば、表情には野性味があり、編み込んだ金の長髪がよく似合っている。


 たしか大会のパンフレットに載っていた選手だ。

 今回の優勝候補のひとりで、名前は……。


「ギャラガー……!」


 カイはギリと奥歯を噛み締めて憎しみを露わにし、チコもまた警戒の鳴き声を上げた。

 

「おや、そこにいるのは……」


 カイの存在に気づいたギャラガーが、ファンをかき分けかき分けこちらにやって来た。

 カイを見下ろすように立つと、白い歯をキラリと光らせて笑いかけた。


「やあカイ、チコも。元気そうで何よりだ」


「……ふん、よくオイラの前で笑えるもんだな。あんなひどい裏切り方をしておいて」 


 差し出された握手を完全に無視すると、カイは下からギャラガーをにらみ上げた。


「裏切りとは心外だな。君らとの契約はあの大会で終了。ジエイ氏とはその次の大会からだ。契約上はなんの問題もないはずだが?」


「オイラたちとの契約中に敵側の選手をアシストしておいてもか? この八百長野郎」


「言いがかりはよしてくれないか。そんなことをして僕になんの得がある?」


「いくらでもあるだろ。裏金、新しいコーディネーターとの優位な契約……」


 ギャラガーへの疑惑を指折り数えていくカイ。


「おい、いいかげんにしろ。うちの選手への誹謗中傷は許さんぞ」


 さすがに我慢しきれなくなったのか、ジエイが部下に命じてカイを黙らせようとした。

 掴みかかってくる男たちに対してチコは猛然と吠えかかり、そして──


「──オッサンら、こんなか弱い女の子相手にそれは、さすがに大人げないんじゃないの?」

「──我の雇い主に手を掛けてみろ。貴様らの体中の骨という骨をバラバラにしてやるぞ?」


 俺とフウが並び立つようにカイの前に壁を作った。


「……へえ、君らがカイのところの新しい選手か」


 ギャラガーは俺と風の顔を興味深げに眺めた後……。


「少年、君はなかなかいい選手のようだ。特に野生の獣のような足の運びが素晴らしいね。その若さでそれとは、将来が楽しみだよ。そしてレディ。君はどうしてそんな無粋な覆面で、美しい素顔を隠してしまうんだい? どうだろう、今度僕と一緒に優雅なディナーでも……」


 いきなり風をナンパし始めるギャラガー。

 悲鳴を上げるギャラガーのファン。

 怒りで顔を真っ赤にしているカイ、身を低くして唸りを発するチコ。

 ジエイもまた怒りが収まらず、部下たちに当たり散らしている。

  

「ふうーん……ずいぶんと面白くなってきたみたいだな。なあ、風? あんたも色男にお誘い受けてハッピーだろ?」

「知るか」


 俺の煽りを、しかし風は完全に無視。

 皆を促し、その場を後にした。


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