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美少女(攻略対象)まみれのハーレム・スターウォーズ!!  作者: 呑竜
「第5部第1章:Cologne-Pia,BattleRumble!!」
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「Slap」

 宇宙港の管制塔であるモデストタワーへと続く道は、一連の生物災害の影響で通行規制がかけられているため、車一台人っ子ひとりいなかった。

 もともと物資の輸送路を兼ねた道であるため幅員ふくいんも広く、全力滑走(・ ・ ・ ・)には誠に都合のいい状況が整っていた。


「……ふん。おあつらえ向きというやつか」


 キルステンは金属製のフェイスガードを頭にかぶると、ぐっと体勢を低くした。

 エンジン付きのローラーブレードを活かすため、スキージャンプの選手のような両脚揃えの姿勢になった。 

 

 ギャッギャッ……!


 エンジンが唸りを上げる。

 ブレードが激しく路面を噛む。

 空気を割るように、彼女の体を前へ前へと押し出していく。


 ギャギャギャギャギャッ……!


 速度はぐんぐんと上昇し、瞬く間に音の壁を超えた。


 超音速流体と化した彼女の発した衝撃波が、路上で炸裂した。

 宇宙港管理地の金網をひしゃげさせ、物資倉庫の窓ガラスを割り、シャッターをグシャグシャに変形させた。  


「テロリストめ……。この世で最も価値の低いクズどもめ……」


 身に着けていた戦闘服は弾け飛び、メタリックなボディが露わになったが、キルステンは気にも止めない。

 フェイスガードの下でぶつぶつと、怨嗟えんさの念をつぶやいた。


「万物の中で最も醜き蟲どもめ……。貴様らは滅びねばならぬ……」


 彼女の故郷である機甲世界ガンドールは、独裁国家の恐怖政治下にある。

 忠誠心に溢れた彼女は極めて優秀な猟兵として、国家に仇なす者どもの命を狩ってきた。


 その志は熱く、鋼のように固い。

 敵の重囲に遭い、四肢すべてを失うほどの傷を負ってもなお失われなかった。

 むしろ戦闘を重ねるごとにいや増していった。

 強固に、偏執的になっていった。


「滅びよ……滅びよ……」


 その心は恨みで煮えている。

 その目は憎しみで濁っている。

 もはや正常な判断など出来る状態ではない。


「滅びよ……滅びよ……」


 だから気づかなかったのだ。

 タバサとトーラの実力と、自分のそれとの間に遥かに隔たりがあることに。


「滅びよ!」


 彼女は跳んだ。

 宇宙港のゲートを飛び越え、モデストタワーに接近した。


 円錐状の傾斜の最下部に取りつくと、中腹まで全力で駆け上がった。

 いよいよブレードが噛まなくなると、ひらり宙へ身を踊らせた。


 そこから先はロケット推進だ。

 バックパックに収められている個体燃料が燃え、二基のバーニヤが火を噴いた。


 六百メートル……七百メートル……八百メートル……。

 人間ロケットのようになった彼女は、モデストタワー上空から地上を眺め下ろしているタバサに向けて、真っ直ぐに飛んだ。


「ほ・ろ・び・よおおおおおおおおおおおお!」 


 両掌を結着させた。

 体ごとドリルのように回転しながら突っ込んだ。


 巨大戦艦の複合装甲だろうと紙のように切り裂く一撃だが、しかしタバサの身には届かなかった。

 直前2メートルのところで何かに当たって弾かれた。


「──なんだと……!? 何に当たった……!?」

 

 キルステンの攻撃を弾いたのは、ヘキサ・クレイパーだ。

 一辺十センチ程度の六角形の金属板の集合体により成るそれは、ある種の反応障壁リアクティブ・シールドである。 

 敵の攻撃を察知すると瞬時に展開し、しかも極めて硬い。


「タスクは……どこかな……?」


 タバサはキルステンの攻撃を脅威とすら感じていないようで、なおも平然とした顔で人探しを続行している。

  

「こいつっ……!?」


 衝突の勢いできりもみ状に回転する体を、キルステンは無理やり制御した。 

 バーニヤの出力調整と超人的な空中感覚で立て直し、タバサの後ろに回り込んだ。


「舐めるなぁぁぁー!」


 両掌の結着を解除すると、そのまま前方に突き出した。

 掌底の開口部分から超高温の熱線を射出した。


 摂氏六千度にも及ぶ熱線の直撃、しかしタバサは小動こゆるぎもしない。


「ぐっ……ぐっ……ぐぅ……っ!?」


 憤るキルステンは、さらなる攻撃に打って出た。

 全身の至るところに仕込んでいた武装の一斉射撃を行ったのだ。


 右腕前腕に仕込まれたフレイムスローアー、左腕前腕に仕込まれたガトリング砲、両太腿(ふともも)から近距離ミサイル、バックパックから投擲用のEMP弾──これは効いたのだろうか──タバサがピクリと反応し、こちらを見た。


「……これか(・ ・ ・)っ!」


 キルステンはにやり笑うと、彼女の体を動かすエネルギー源──超小型のエーテルトロンエンジン──に命令を与えた。


 オーバーロードだ。

 限界を超えてエネルギーを供給せよと。

 

 エンジンは即座に応えた。 

 バチバチと、キルステンの全身が強烈な電荷を帯びた。 

 

 一番最初の仕掛けの時と同じように両掌を結着させ、体ごとドリル状に回転した。

 双眸を狂気に血走らせ、タバサを睨みつけた。


「滅びよ! 滅びよ! 滅びよ!」


 真っ直ぐに飛んだ。

 さながら一本の、雷の槍のように。

  

 

 

 しかし──




「……トーラ、叩け」


 タバサの命令コマンドに従い、トーラは速やかに動いた。

 十五メートルにも及ぶ巨体からは考えられぬ動きで旋回すると、前足を振り上げ、振り下ろした。

 分厚い肉球の真下に、特攻してきたキルステンの体があった。


 ──バヂィィィンッ。


 殴打音と放電音。

 ふたつが入り混じったような音と共に、キルステンは叩き落とされた。

 千メート近い高さから地上へと、まっしぐらに。


「……邪魔だ」  


 EMP攻撃が効いた、というよりはたんにうるさかっただけなのだろうか。

 タバサは清々した、とでも言いたげに首をコキコキ鳴らした。


「……あ」


 そして、少ししてから気が付いた。


「……タスクの居場所、訊けばよかった」


 わずかな後悔と共に、地上で四散しているキルステンの体を見下ろした。


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