「"交叉する銃"の軍旗!!」
~~~新堂助~~~
ガリオン号の燃料資材を求めて俺とジーンが訪れたのは「ハグワッツ商会」だ。その手のものの取り扱いではメフィオ一と評判の店だった。
スイングドアを開けて入店してみると、コンビニを2倍にした程度の面積に、スチールラックがズラリと並んでいた。ラックには様々な工具や資材の見本が置かれていた。
値札には2種類の値段が書かれていた。1個単位で購入した場合と複数で購入した場合で値段が違うのだろう。
文書ファイルだけを置いてあるラックもあった。
手にとってぱらぱらめくると、宇宙船や重機など、様々な用途に使われる資材の写真が貼りつけられていた。
壁にはガソリンや重油、エーテルペレットの名前が書かれ、重量に応じた値段が併記されていた。
「なぁんか……意外と狭いんだねえ……」
きょろきょろと、借りてきた猫みたいに落ち着かなげなジーン。
「ここにあるのは展示見本だろ? きっと裏手にでっかい倉庫とかがあって、実際に売る時はそこでやり取りするんだよ」
「そっか……よかったぁ。ボク、お店を間違えたのかと思ってたよ」
「おいおい、誰がここを見つけたと思ってるんだ? 間違えて入ったりするもんかっての」
「ごっめーん」
ジーンは「えへへ」笑うと、改めて店内を探検し出した。
ハンドドリルで「……先に抜きな」と早撃ちガンマンの真似事みたいなのをしたり、レーザートーチを振り回して「ブォン……ブォン!」とジェダイの騎士ごっこ(ケルンピアにも似たようなのがあるのだろうか?)をしたり、目いっぱい楽しんでいた。
「やれやれ……遊ぶのはいいけど、目的を忘れんなよ?」
俺もジェダイの騎士ごっこしたい、と思ったけどさすがにやめておいた。
アデルが寝てる以上、俺がジーンの保護者なんだしな。
保護者が一緒になって遊ぶわけにはいかないよな? うずうず。
「……なんだボウヤたち。冷やかしならお断りだぜ?」
カウンターに座っていた50年配の男性が、俺たちをにらむように見ていた。
目が細くて、首が太い。ずんぐり固太りで、猪みたいな印象だった。
「えっと……店主さん?」
「ハグワッツだ。ボウヤ、遊ぶなら表で遊びな」
「遊びでも冷やかしでもないですよ。俺ら、宇宙船の補修資材が欲しくて来たんです」
「宇宙船ん?」
ハグワッツは店内を見渡し、俺とジーン以外に誰もいないのを確認すると、疑わしげに目を細めた。
「親はどうした。まさかふたりだけじゃないんだろ?」
「親はいません、俺らだけです。船で鷲頭人のおっさんがひとりで留守番してますけど」
「そいつが船長か。だったらそいつを連れて来な。悪いがボウヤたちじゃ話にならねえ」
「ここからけっこう離れたとこにいるんで……というかぶっちゃけ、不時着した船の処置に困ってるんですよ。ガドック……そのおっさんはそっちに掛かり切りなんで、俺たちが代わりに買い物に……」
「不時着ぅ?」
ハグワッツは細い目を精いっぱい大きく見開いた。
「……どこに」
「ここから330キロぐらい東……かな?」
「……どこから来た?」
「ケルンピアから」
ハグワッツは大きなため息をついた。
「バカも休み休み言えよボウヤ。あのな、ケルンピアからここまでいったいどれぐらいの距離があると思ってんだ? 超高速航法で少なくとも5年以上……放浪する隕石群や電波バーストの状況次第じゃ、下手すると10年はかかろうかって距離だぞ? ボウヤたちが今10代半ばだとして、10にも満たない子供と鷲頭人が3人でそんだけの距離を旅してきたってのか?」
「そこはほら、次元を渡って一瞬で……」
言ってしまってから、はたと気がついた。
ここは銀河外縁。ハグワッツが言ったように、超光速航行ですら数年かかろうって距離だ。
ガリオン号のことなんて、こっちの人は誰も知らないんだ。
次元渡りなんてガキの夢物語にしか聞こえないし、ケルンピアから来たってことすら信じてもらえるわけがない。
「次元を渡るだぁ? 寝言は寝てからいいな」
俺の言葉を完全に戯言認定したハグワッツが、吐き捨てるように言った。
「や、ちょっと今のなしで……」
「うるせえ、いいからとっと出て行きな。商売の邪魔だ。こちとら子供のごっこ遊びにつき合ってる暇はねえんだよ」
「これには事情があってですね……」
「ちょ……ちょっと! そんな言い方ないだろ!?」
これに怒ったのはジーンだ。
俺を押しのけ、ハグワッツと真っ向から向き合った。
「寝言でもないしごっこ遊びでもないよ! ボクらは本当にケルンピアから来たんだから!」
「出来るわけねえって言ってんだろうが」
「出来るんだよガリオン号なら! 次元渡りが出来る船なんだから! ケルンピアからここまでだって、ほんの一瞬だったんだから!」
「あのな、ジーン……」
止めようとしたが、一度勢いのついたジーンは止まらなかった。
ガリオン号の能力を怒涛の如く説明し出した。
「ちっ……、めんどくせえガキめらが……」
ハグワッツは興味なさげにジーンの話を聞き流すと、入店して来た男性に目を向けた。
70歳近い小柄な老人だった。
アンティークな杖を突き、上質な背広を着、中折れ帽を被っている。真っ白な髪の毛や口髭は綺麗に手入れされている。物腰も穏やかそのもので、いかにも上客といった風情だ。
「おおっ、こいつはファラッドさん」
ハグワッツは慌てて立ち上がった。
「あ、こいつらですか? 大丈夫です。客じゃねえ、ただの子供の冷やかしで」
わかりやすい愛想笑いを浮かべている。
「ちょっと! なんだよ! ボクらは客だよ客!」
「ああああっ、うるせえんだよてめえらは! ジョーンズの親父にでも言われたか!? オレの商売の邪魔をしろってよ!」
「そんなことするわけないだろ!? なんで信用してくれないんだよ!」
「信用に値するものが何もねえだろうが! 初対面のガキめらの戯言のどこをどう信じろってんだよ!」
「初対面の……っ、ガキ……っ」
ジーンは悔し気に唇を噛んだ。
一瞬悩んだ後、意を決したように拳を握った。
「……おい、やめろジーン」
制止の声は間に合わなかった。
俺が口を開いた時には、すでにジーンはポッケから、自分のIDパスを取り出していた。
そこに記されているのは彼女の身分だ。顔写真、生年月日、本籍住所、人種、そして名前──
「ガキはガキでもただのガキじゃないよ! ボクの名はジーン! ジーン・ソーンクロフトだ! 知ってるだろ!? ケルンピアの現大統領、彗星ソニアの娘だよ!」
ババーン、と効果音でもつけたくなるぐらいの勢いで堂々と、ジーンは名乗りを上げた。
「ソニア……だと……?」
ハグワッツの表情が変わった。
俺たちを邪険に取り扱っていた時のそれともまた違う。
どす黒い怒りの色に染まっていた。
「てめえ……ここでその名を出すことの意味がわかってやってんだろうな?」
「へ……? な、なんだよ……そんな怖い顔して……」
ハグワッツの剣幕にびびったジーンが、思わず一歩後ずさった。
俺はジーンを庇って前に出た。
「そのIDが本物だろうが偽物だろうが知ったことじゃねえ。だがその名はダメだ。その名前だけは許せねえ。そいつを出した時点で決裂だ」
ぎゅううっと、ハグワッツは拳を握りしめた。
「彗星ソニア。悪魔砲の砲手にして、北天軍に勝利をもたらした英雄……」
ぶつぶつと、呪詛のようにつぶやいた。
「南天軍の怨敵──」
ジーンがはっと息を呑んだ。
目線を追うと、ハグワッツの立つカウンターの後ろ、店の鑑札や各種機材のポスターに紛れて、一枚の旗がピン留めされているのが見えた。
「交叉する銃の軍旗……!」
「そうだ、てめえぐらいのガキでもわかるだろ? こいつがオレたちの旗印だ。敗れはしてもな、その魂までは失っちゃいねえ。敵に振る尻尾なんざ持ち合わせちゃいねえんだよ。つまりこういうことだ、ボウヤたち」
ハグワッツは、カウンターの下に置いていたのだろう散弾銃を両手で構えた。
銃口を俺たちに向けながら、静かに告げた。
「殺される前に出て行きな──」




