「精霊の眠る星!!」
~~~新堂助~~~
惑星ジャンゴの名が初めて世に出たのは、今から50年も昔のことになる。
冒険者ロキ・マグナスが発見し、地下に眠る希少資源の存在と共に銀河中に発信した。
希少資源──その名を精晶石という。
長く生きた精霊が、石に形を変え眠りについた姿だ。
眠る精霊は外界からの働きかけに反応し、エネルギーを発する。
つまり精晶石の価値とは、動力源としての価値なのだ。
当然だが、力が強ければ強いほど精晶石の価値は上がる。
ジーンの精霊銃に嵌っている古き嵐の精霊クラスになると、それこそ天文学的数字になるのだとか。
貴重な精晶石を大量に産出する星があるという情報が流れてすぐに──
狩猟や採集で細々と暮らす原生住民がわずかにいるだけだった惑星ジャンゴに、大変革の時が訪れた。
銀河中から船が人がやって来た。
宇宙港が整備された。
多くの採掘場が設けられ、各所に鉱山の街が作られた。
まさにゴールドラッシュだ。
かつてアメリカ大陸で起こったそれのように、一攫千金を狙って山師が集って来た。山師をターゲットにして、様々な商売人がやって来た。
ジャンゴの人口は、瞬く間に何十倍にも膨れ上がった。
メフィオもそんな鉱山街のひとつだ。
宿をとって空気浮揚艇を駐車した俺たちは、情報集めがてら街の散策を始めた。
赤茶けた鉱山を間近に望む、人口約3万人の街並みは、予想以上に質素なものだった。
ほとんどの建物は吹けば飛ぶような木製のバラックで、地面は未舗装だった。
時折見かける山師たちの服は垢と砂にまみれていた。伸び放題の髭や髪の毛含め、お世辞にも清潔とは言い難いものだった。
「精晶石で荒稼ぎ……してるわりにはなんというか、意外な感じだね……」
ジーンは野卑な男たちを警戒しているのか、俺の腕を掴んで離さない。
「地面もむき出しだし……」
まさか街中にサンドイーターがいるわけもないだろうが、なんとなくむき出しの地面には恐れを感じてしまう俺たちだ。
「むしろ建材のほうが希少なのかもな。輸入頼みなんだろうし。雨が少ないってのはそういうことだよな」
「……ああー、そういうことか」
「山師の街ってせいもあるのかもな。ここはあくまで金を稼ぐための場所であり、贅沢すんのは故郷に帰ってからと決めてるんじゃないか? だから今現在の服にも身だしなみにも興味がない。採掘作業のせいで毎日汚れるものだって諦めもあるのかもな」
「なるほどねえー」
ジーンはふむふむと感心したようにうなずいた。
そのぶん飲み食いや男性向けの歓楽施設は充実してそうだな……なんてことはさすがに口には出さない。
「……ぬしよ、なにをにやにやしておるのだ?」
にょきっと、俺の胸からアデルが顔だけ出した。
「ひょおおおっ!?」
「ひゃあああっ!?」
突然のアデルの、しかもとんでもない登場のし方に、俺とジーンは変な声を出した。
「おま、おま、おまえっ、なんてとこから顔出してんだよ! どこのぴょん吉さんだよ! あと俺は全然にやにやしてませんから! なんにもやましいことなんて考えてませんから!」
「お師匠様! 怖い怖い! 顔だけ出してにやにやすんのやめて!? 怖いから! 想像以上にえぐいから! ……え、タスクはなに言ってるの!? 思いっきりやましいこと考えてたようなリアクションだけど!? どーゆーこと!? ボクというものがありながら、なに考えてたの!?」
「……んふ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺たちを慈愛に満ちた目で見るアデル。
なんだかおばーちゃんみたいだなって思ったけど、考えてみりゃジーンの家の守護精霊を何百年もやってるわけで……そういう意味ではおばーちゃんには違いないんだよな。見た目は若いお姉さんだけども。
「……ホント? ホントに考えてない? ホントーに、ボクだけを見てくれてる?」
「ホントホント、神に誓ってジーンだけを見てる」
「なぁんか……嘘くさいんだよねえ~……」
ジーンの追求をなんとか受け流したところへおばーちゃんが……もといアデルが話しかけてきた。
「それよりもだ、ぬしよ」
「なんすか、こっちはあんたのせいでけっこう大変だったんですけど……」
ジーンにポコスカ殴られた背中が地味に痛い。
「まあ聞け。さすがに街中でこの姿を晒すわけにはいかんから、我はしばらくぬしの中から出んぞ? とだけ言っておこうと思ってな」
「おお……そう言われてみればそうだな」
派手なパイロットスーツ着た子供ふたり組ってことでただでさえ目立ってるのに、具現化した精霊なんて連れて歩いたら、それこそとんでもない騒ぎになっちまう。
ガリオン号の補修資材が手に入るまで面倒な事態になるのは避けたいし、かといって「出てくんな」ってのも失礼な話だし、そういう意味でありがたい申し出だった。
「ま、一応俺を介してジーンと話すことは出来るしな」
「いや、我は寝る。しばらく起こすな」
「え、眠いの? 昨夜からずっと寝たおしといて、まだ寝るの?」
「さすがに具現化状態は初めての経験だからな。勝手が違うのだ」
「……変に疲れるってことか?」
「言うなればそうだな」
「あふ……」とあくびをするアデル。
「ええ~、寝るのぉ~? せっかくなんだし、お師匠様も一緒に起きて街を回ろうよぉ~」
「まあまあジーン、お師匠様は俺らへの指導で疲れてるんだろうしさ」
「ええ~? だってさぁ~」
「この姿でいるのも疲れるって言ってるだろ? だからちょっと休ませてやろうぜ?」
ごねるジーンをなだめているうちに、アデルは「あ……ふぁ~……」と特大のあくびをしながら俺の中に戻っていった。
「ああ~……寝ちゃったぁ~……」
残念そうなジーン。
「まあまあ、いつでも街並みは見られるからさ。今はいいじゃんか、ジーン」
「うう~……そうかなぁ~……?」
「そうそう、だから行こうぜ? ジーン。俺たちにはやるべきことがまだまだあるだろ?」
「そうだけどぉ~……」
渋るジーンの背中を押した。
その時の俺は、ジャンゴへ来てから初めての人里を歩くことで興奮していた。
鉱山街で生きる人たちの生活を観察することで、頭がいっぱいだった。
だから気づけなかったんだ。
アデルの体の変調に。




