「最果ての地より君を思う!!」
~~~新堂助~~~
「おーいジーン、もう寝るぞ?」
テントの真ん中に置いたカンテラ型ライトのスイッチに手を伸ばしながら、隣に身を横たえているジーンに訊ねた。
「んー……」
ジーンは足をぱたぱたさせながら生返事を返してきた。
まったく寝ようという気配がない。
「眠くないのか?」
「……いや、いい感じにまぶたは重い」
「なら寝るぞ?」
「……」
俺の再度の声かけに、ジーンはため息で答えた。
「ねえ、タスク?」
「なんだよ」
「明日には街に着くんだよね?」
「順調に行けば、昼前にはな」
「そっか……」
ジーンは名残り惜しそうな目で天井を見上げた。
「……終わっちゃうんだね」
「なんだよ、センチになるのはまだ早いぜ? 街へ着いてようやく折り返し地点なんだからな? 帰り道だってあるんだから。ガリオン号に着いたら着いたでやることあるだろうし、まだまだこれからなんだぜ?」
「うん……」
「そもそもおまえにはロキのことだってあるだろうが。お楽しみはまさにこれからだろ?」
旅に出る前、ロキは自分の所在をジーンにだけは告げていた。
ロキがジャンゴで初めて発見した街メフィオ。
とくに問題なければ、彼はそこにいるはずだ。
「楽しみだよ。楽しみだけどさ……。ロキ爺ぃに会えるのはそりゃあ嬉しいことなんだけどさ……。──ねえ、タスク?」
ジーンはよく光る目で俺を見た。
「お願いだからさ……ボクを置いてかないでよね?」
「はあ? 置いてく? こんな辺境星に? おまえを?」
「そうじゃなくてさ……。星とかどうとかじゃなくて……」
ジーンは深いため息をついた。
「……ケルンピアに戻ったらさ、たぶんけっこうな騒ぎになると思うんだ。政府関係軍関係マスコミ関係……とにかくすんごい騒ぎになると思う。ボクもキミもきっと色んな人に捕まってもみくちゃにされて、自由なんてなくなると思う。離れ離れになって、きっと気軽に会うことすら出来なくなる」
「まあ……な」
亡霊部隊との激闘、遥か銀河辺境への大漂流、大統領の娘とのランデブー……。
誰もがきっと、俺たちをほうっておいてはくれまい。
生活はさらに忙しさを増し、こんな風にふたりで旅することなんか出来なくなる。
「こんな風に話すことすら出来なくなる」
「……かもな」
ジーンは冷静だ。
現大統領であるソニアさんの生活を知っているからか、今後の俺たちに降りかかる出来事を正確に予想している。
多元世界の『嫁』の『夫』と、ケルンピアの大統領の『娘』にして『嫁』候補者──俺たちの間にどれほどの難関が立ちはだかるのかを知っている。
「手……貸して? タスク」
「おう」
ジーンの願いに答えて、俺は手を伸ばした。
「ありがと……」
俺の手を握ると、ジーンははにかむように微笑んだ。
口元を緩め、そっと目を閉じた。
「一応言っとくけどさ、タスク? ボクらの修行は終わってないんだからね?」
「知ってるよ」
「キミは転を修得したかもしれないけど、ボクはまだまだで──」
「最終的に毒液をなんとかしてやったのも俺だしな?」
食い気味につっこむと、ジーンは「うう……っ?」と呻いた。
「し、仕方ないだろ? 人には向き不向きがあるんだからっ」
アドリブ能力に欠けるジーンには向かないからと、アデルは早々に転の修行を打ち切った。
代わりに『召』──精霊や悪魔などの高次元的存在にアクセスし、力を引き出す術──を教えた。
高等技術だが、修行を積み重ねることで確実に上達する術だからと。
グズでノロマなジーンでも、いつかは極めることが出来るはずだからと。
「と、ともかく今後も、継続的に修行を受ける必要があるんだからね? ボクが『召』をものにするまで一緒にいてよね?」
「わかってるっての。おまえを置いてきゃしないよ。俺とおまえとお師匠様と3人、ずっと一緒だ。ケルンピアに戻ってからも、ずっとだ」
「……っ」
俺の返答にジーンはわずかに唇を震わせると、
「ありがと、タスク。もう寝るよ」
儚げな表情で微笑んで、そのまま目を閉じた。
ジーンはほどなく眠りに落ちた。
安らかに寝息をたて始めた。
「……」
俺は座ったまま、ジーンは横になっている。
手は握られたままだ。ジーンの柔らかい掌の内にある──
病人と付添人みたいなその構図は、俺にある回想を強制した。
ハリョの病に倒れたシロ。
命の危機を脱したシロが、一番最初に求めたのが俺の手だった。
ホッカイロ代わりだなんて照れ隠しをしていたけど、たぶん本当に欲しかったのは安心だったはずだ。
人肌のぬくもり、手を握られているという安堵感。
男である俺にはわかんないけど、女の子はそういうのが欲しいものなんだろう。
「そうか、俺はあいつを……」
ジーンの手を握りながら、ジーンには悪いと思いながら──だけど俺は、シロのことを考えてた。
俺の『嫁』。
クロスアリアの未来を背負う少女。
命の、そして自我の危機に瀕しながらも決して逃げず、合一化の術を行使する少女。
俺みたいなどうしようもない男を好きにさせられている少女。
「置いて……来ちまったんだ……」
胸がざわつく。
シロはいま、どんな気持ちでいるのだろう。
ケルンピアに残されて。
不安だろうか、孤独だろうか。
周りの連中がいるので存外平気……だったらいいな。
「早く戻ってやんなきゃな……」
ため息とともにひとりごちながら、俺は明かりを消した。
ジーンの手を握ったまま、隣に身を横たえた。
もっとたくさん手が欲しいな、なんてことを思った。
大きくて、強くて、温かい手。
自分の大切な人たちを余すところなく守れるような、そんな手が欲しい。
切に願った。




