社長の呼び出しはプレッシャーかかりますって
仰々しい飾りの付いた扉を、男はノックした
「…失礼いたします」
「入りたまえ」
いくら経験しても慣れることはないこの重圧。1代で会社を大きくした老人の眼は力強さと気概に溢れている。今まで何を見て、何を乗り越えてきたのか、そんなことは若輩者には知る由もない。男、新発田秀成27歳、社長室に呼び出しを食らってしまいました。
「わざわざ呼び出してすまなかったね。電話で伝えてもよかったんだが、どうしても私の口から言いたくてね」
「いえ、私のような一介の社員に対し社長自らお声がけを頂き、大変恐縮です!」
縮み上がるわ!そう叫びたかった。芸能事務所「ストーンテンプルヴァライエティズ」、略称でSTV。今秀成の目の前にいる男、鵜浦晴臣が10年前に創り上げ、あっという間に芸能界でも有数の事務所にしてしまった。剛腕の鵜浦と呼ばれるだけあって、様々な手法で会社を発展させてきた。そんな百戦錬磨の男に食らった身に覚えのない呼び出し、秀成は覚悟していた。オレ、クビになる。
自分にも芸能界の頂点を目指した時期があった。17の時にスカウトされモデルデビュー。お世話になったのがSTVだった。若い頃はその端正なルックスで人気も出たが、それだけで渡っていけるほど甘い業界ではない。次々生まれる新しいスター。自身の才能の無さに気づかされるだけだった。
引退を決意した24歳の春、しかしSTVは設立当初から所属していた秀成を見捨てる事はしなかった。正社員で働かないかと持ちかけられた。好意に深く感激した秀成は粉骨砕身で三年間STVの為に働いてきた。
そのタイミングでの呼び出し。
俺なんかやったっけ?!?モデルのときも数える程しか会ったことのない社長がわざわざ俺を呼び出したからには何かある!まさか出世じゃないしな…
様々な勘ぐりをしたが、鵜浦社長から出た言葉は全く予想と違っていた。
「新発田くん、君にはアイドルのマネージャーをやってもらう」