第九話 ダンジョン Ⅰ
薄暗い森の中に隠れるようにその城はあった。
古びた石造りの城は蔦に覆われ、不気味な雰囲気に包まれている。
「うわぁ~、はじめて来たけど、結構不気味っすね」
「アイ、何か出そう」
「ちょっと、やめてよね…」
「なんだ、怖いのか?」
「…スズは怖がりなんだ、あんまり虐めるなよ。あ、スズの後ろにに白い影が」
「キャァ~~~!!……もう!脅かさないでよ、姉さん!」
「スズ…お前も俺を姉と呼ぶのをやめような」
そんなこんなで、少し騒がしいメンバーで攻略をすることに。
このダンジョンは一つのTPしか入れない。一つのPTが入ったらそのメンバーが出てくるまで、次のPTが入ることは出来ない。
ダンジョン内では体感時間が引き伸ばされ、通常の60倍になる。その関係か、ダンジョンに入れる回数は一日一回だけだ。
城の正面の大きな扉に触れると『入場制限 残り時間一分未満』とウインドウに出ている。
どうやら先客が居たようだ。雑談しながら待つことに。
数秒すると、六人組が扉の前にワープしてくる。
顔つきから、どうやら駄目だったようだ。
「よう、どうだった?」
「ん?あぁ、駄目だったよ。これはかなり時間かかるぞ」
「そうですか。どこら辺まで行きましたか?」
「確か…五階まで行けたね。でも、そこで時間切れだったわよ」
「そうか。まぁ、お疲れさん」
「…お前らもこれから行くんだろ?どうだ、マッピング買うか?」
リーダー格の男が、メモ用紙を持ってそんな事を言って来る。
たかがマッピングを売り買いするのか…分からんな。
「あぁ、マッピングは間に合ってるよ。そうだろ?」
「…あ、俺か。ああ、問題ないぞ」
「だそうだ。他の奴にでも売ってやればいいさ」
「そうか…まぁ、お互い頑張ろうぜ」
「あぁ」
そう言って、転移呪符を使って町に転移していった。
転移の後に、扉に触れるとゆっくりと開いた。
ガラガラと、鈍い金属の擦れる音をたてながら開く扉。
真っ暗な通路の脇には、等間隔に申し訳程度の松明があり、辛うじて足元が照らされている。
薄暗い通路を、コウを先頭にゆっくりと歩いていく。
このダンジョンは、通路には魔物が居ないので、罠にだけ注意すればいい。その罠も、通路には古典的な物しかないので大丈夫だろう。
「ん?このボタンなんだろ?」
「あ、それは…」
「ポチっとな」
通路をしばらく進むと、シュリが何かを発見したようだ。
俺が言う前に、如何にも怪しい壁にある赤いボタンを押すシュリ。
皆が身構えるが、数秒経っても何も起きない。
微かに通路の奥から何かの音が聞こえる。次第にその音が大きくなり、その音が水の流れる音だとわかった。
「そのボタン…水流トラップの発動ボタンだから、逃げた方がいいぞ?」
「それ、早く言おうぜ…皆走れ!!」
「アオちゃん、お姫様抱っこ…」
「はいはい、しっかり掴まってくださいよお姫様」
アリスをお姫様抱っこして走り出すと、後ろから水が押し寄せて来るのが見えた。
水は通路を完全に飲み込むぐらいの水量で、速度もかなり早いのでこのまま逃げるのは難しいだろう。
コウが適当なドアを開けようとする。
「なっ!!開かないぞ!?」
「あぁ、無駄だぞ。全部のドアが開かない仕組みになってるんだ」
「それ早く言えよ!!」
ドアを無視して通路を何回か曲がると、目の前に通路に上から壁が下がっていくところだった。
この距離でアリスを抱っこしたままだと間に合わないな。
「な、しまっちゃうっすよ!?」
「滑り込め!」
「アリス、投げるぞ」
「え?ちょ、ちょとタンマ!冗談でしょ!?」
アリス…素が出てるぞ。まぁ、他の連中には聞こえてないようだけど。
問答無用で、若干引きつった笑みのアリスを、ボウリングのボウルのようにアンダースローで隙間に投げ込む。
「キャァァァ~~~」
「ぐほぉっ」
「ちょっと、二人とも大丈夫!?」
「アオ姉も早く!」
ちょうどコウの腹にアリスの頭がめり込むように、ちょうど鎧の無い腹にクリーンヒットした、ドンマイ!
地面を蹴って僅かな隙間にスライディングで滑り込む。
「ふぅ、セーフ」
「シィ、セーフじゃない、怖かった!」
アリスがポカポカと俺の頭を叩く。まぁ、昔の事があるから分からないでもないんだけど。でも、全く痛くないから問題はない。
コウの方も、フラフラと立ち上がる。
「おま…いきなり、アリスを…投げるなよ」
「まぁ良いじゃんか、皆無事だったんだから」
「そう言う問題じゃねえけどな…」
ゴタゴタ言っているコウは放っておくとして、問題はこれからのルートなんだが。
確か、ここら辺に…あった。僅かに石壁から飛び出ている石を押す。
すると、石の擦れる音と共に、その石のあった壁に大きな穴ができた。
「ここ行くのか?」
穴の中からは、肌寒い空気が吐き出されている。
中は真っ暗で、かなり部意味だ。
「まぁ、ここからでも行けるんだけど…」
ポーチにしまっておいた腕盾を装備して、降りてきた壁に近づく。
腰を少し落として体を捻りながら腕を引いて、壁を思いっきり殴る。
殴った壁に殴った場所を中心に、蜘蛛の巣のようにヒビが走りガラガラと音をたてて崩れた。
壁の向こうには、さっきまでは無かった石階段が現れていた。
「…普通壁殴るかよ」
「あの、この壁って破壊不能オブジェクトじゃなかったんですか?」
「アイ、さっき見た。確かに、壊せない物だった」
「あぁ、さっきの穴が開くと壊せるようになるんだ。んで、この階段がベリーハードモード。先の穴がハードモードだ。どっち行く?」
四人が顔を見合わせて、お互いに頷く。
「「「「もちろん、ベリーハードで!」」」」
「はぁ、だよな…しゃあない、行くか」
コウとスズを先頭に俺が殿になって、長い石の階段をゆっくり進んでいく。
この先に待っている面倒な事々を考えながら、俺は殿でマッピングのメモを再確認するのだった。